告白
読んで戴けたら嬉しいです。
瑞基はいつもの様に、隆一朗のベッドに腰掛け話した。
「この次の休みは来れないんだ
森さんと約束したから、どうしても時間空けなくちゃなんなくて
ごめんね
でも、隆一朗はきっと、ボクの事はいいからなーんて言うんだろうな」
隆一朗は相変わらず壁を見詰めたままだった。
その日は朝から快晴で、瑞基は学校で森詩織と目が合う度に、心の何処かがくすぐったきなるのを感じていた。
放課後、校門前で待っていると、森詩織は手を振りながら笑顔で駆け寄って来る。
鈍い瑞基もさすがに、このシチュエーションに森詩織を意識せずにはいられなかった。
校舎の二階の窓から、森詩織の友人、美裕と愛衣が森詩織に向かって声援を送っている。
森詩織は校舎を振り返って二階に手を振った。
瑞基の前に来ると、息を切らせて、今日が掃除当番で待たせた事を謝った。
二人は歩き出した。
女顔から美少年になった長身の瑞基は街を歩いていると、よく目立つ。
その隣に森詩織の様な美少女が寄り添っていれば、更に目立った。
行き交う人が、振り返って二人に目を奪われたとしても仕方ないだろう。
アパートに着くと瑞基はドアを開けて森詩織を招き入れた。
ドアを開けると森詩織は黒いグランドピアノに驚いた。
「凄い!
瑞基君ピアノ弾けちゃうんだ! 」
「違う、違う
それ、隆一朗のお兄さんの形見分けで貰ったんだ」
瑞基は冷蔵庫から缶ジュースを取り出すと森詩織に渡した。
「有り難う」
森詩織は笑顔を瑞基に向けた。
「今更だけど、ほんとに良かったのかなあ
一応オレ、男の一人暮らしだけど」
森詩織はその問いには無視して、制服のブレザーを脱ぐとブラウスの袖を捲りながら言った。
「わーっ、やり応えありそー」
森詩織はバッグから、いかにも女の子が好みそうなクリーム色の可愛らしいキャラクターが付いたエプロンを取り出して着けた。
確かに部屋は酷い状態だった。
空いているスペースに教科書やら着替えやらが散乱し、特にベッドの周りはお菓子の袋やペットボトルが散らばって、半ばゴミ屋敷の様になっていた。
「ジュース、後で貰うね」
そう言って冷蔵庫を開けた森詩織は絶句して冷蔵庫の戸を閉めた。
「み、瑞基君? 」
「ん、どうかした? 」
瑞基は森詩織の居るキッチンへ行った。
「これ冷蔵庫だよね」
「多分、間違い無いと思うけど」
「あの、怖いけど確認しよう
この中の食材っていつの? 」
「隆一朗が入院してからだから、一年前」
「一年前!」
森詩織は眩暈を起こしそうになった。
慌ててバッグがある処へ飛んで行った。
「森さん? 」
森詩織はバッグの中からビニール手袋とゴミ袋を取り出すと瑞基にゴミ袋の一枚を開いて持たせた。
瑞基は何事が始まるのか解らず、渡されたゴミ袋を持っていた。
「瑞基君、行くよ」
「は? 」
森詩織は畏を決して冷蔵庫を再び開けた。
「わー、あり得ない物体になってるーぅ」
森詩織は手袋を着けているのにも拘わらず、つまむ様にして冷蔵庫の中にあった、かつて食材であったであろう物体を取り出して瑞基に持たせたゴミ袋に入れ始めた。
「わわっ、なんかゲロいね」
「うん、全部液状化した後カビて乾燥したみたい」
「へーえ、食べ物って一年置くとこんななっちゃうんだあ」
瑞基はゴミ袋の中を覗き込んで感心した。
森詩織はその台詞に頭を抱え込んだ。
「瑞基君、冷蔵庫開けた時変な匂いしなかった? 」
「んー、あまり気にならなかったけど」
瑞基があまりに無関心なので、森詩織は深い溜め息をついた。
野菜室を開けると森詩織は、この世の絶望の総てを見た気がした。
「腐海になってるーう! 」
「おおっ、すげえ!
カビの密集地帯! 」
瑞基はある種、感動さえ憶えた。
「瑞基君、冷蔵庫がこんな状態で、よく身体なんでも無かったね」
「うん、オレ妙に丈夫だから」
とにかく冷蔵庫の中をキレイにした後、部屋の掃除に取り掛かった。
森詩織は心が折れそうになると呪文の様に心の中で繰り返していた。
『恋する乙女は強い、恋する乙女は強い』
瑞基は、カビだらけの野菜室を、悲鳴を上げながら洗ったり、文句一つ言う事無く一生懸命自分の部屋を掃除してくれる森詩織の存在が愛おしいと思い始める様になっていた。
森詩織が掃除機をかけている間、瑞基は邪魔にならない様にベッドの上で高みの見物をしていた。
「終わったあ! 」
森詩織は腰に手を当て、見違える様にキレイになった部屋を満足気に見渡した。
瑞基はベッドから飛び下りるとキッチンに行って、キレイになった冷蔵庫から缶ジュースを取り出した。
「お疲れ様、もう暗いけど少しゆっくりして行ける? 」
「大丈夫」
森詩織は微笑んだ。
二人は缶ジュースで乾杯して、暫く食卓で雑談した。
時計を見ると八時半を回っていたので。
「今日は本当に有り難う
そろそろ帰らないとね、送って行くよ」
瑞基が立ち上がって言うと森詩織も立ち上がって真剣な顔をした。
「瑞基君! 」
「どうしたの? 」
瑞基は森詩織に向き直った。
森詩織は何か言おうとするが、踏ん切りがつかず口をパクパクさせている。
「あの…………瑞基君……が………す……………き………です」
森詩織はやっとの思いで、想いを言葉にした。
「え? 」
瑞基は思いも依らない告白に戸惑った。
「ずっと前から好きでした」
逆に言ってしまうと勢いがついた森詩織は後の言葉が言い易くなったが、俯いて固く目を閉じ、全く余裕は無かった。
瑞基は内心、混乱を極めていたが、必死に想いを伝えようとしている森詩織がいじらしく、心から可愛いとも感じていた。
かつて隆一朗がそうしてくれた様に瑞基は、そっと森詩織を抱き寄せた。
森詩織は瑞基の予想外の行動に驚いたが、緊張と混乱でどうしていいか解らず、手を胸に硬く結んで瑞基の胸にしがみついていた。
瑞基は自分の胸の中で身を硬くしている森詩織の頭を撫でた。
撫でられる度に森詩織の身体はほどけて行く。
森詩織は顔を上げて、その大きな瞳で瑞基を見上げた。
瑞基は優しく森詩織を見詰めていた。
瑞基は森詩織の大きな瞳に吸い込まれそうな気がして身体を離した。
「これ以上遅くなったら家族が心配するよ
送るよ」
そう言って瑞基は、椅子に掛けてあった上着に手を伸ばした。
森詩織は瑞基が自分の事をどう思っているのか言葉が欲しかったが、瑞基のこの様子では、その答えは期待できそうも無い事を悟った。
帰り道、瑞基はどう言えば森詩織に対して誠実でいられるか、考えあぐねていた。
実際、自分が森詩織に対してどう思っているのか冷静に考える事が出来なくて、自分に対して苛ついてもいた。
黙々と歩く瑞基に森詩織は不安で、呼吸が止まりそうになっていた。
そんな状態に耐え切れなくなって森詩織は思わず叫んだ。
「瑞基君!
言葉、下さい……………
このままじゃワタシ、家に帰れない………………」
瑞基はその言葉で我に返った。
やっと宙ぶらりんの森詩織の状態に気付いたのだ。
「ごめんね
自分でいっぱいになってた」
瑞基は歩調を森詩織に合わせた。
「本当にごめん
森さんの気持ちすんげえ嬉しいんだけど、自分の気持ちがよく解らなくて苛ついてた」
瑞基は正直に言った。
「少し時間貰えないかな
ちゃんと真剣に考えるから」
森詩織はやっと深呼吸した。
「うん、待ってる
凄く不安だから、早くお願いします
でないとワタシ、押し掛けちゃうかも」
瑞基は笑った。
「森さんて、時々言動が大胆だよね」
「あのね、美裕ちゃん達に言われてるの
あんまり呑気に構えてると瑞基君、他の誰かに取られちゃうよって
それは嫌だから、自分に鞭打って積極的になろうって頑張ってるんです、これでも」
森詩織は笑った。
「そうなんだ
本当にごめん、直ぐに返事できなくて」
「そう言う瑞基君も大好きです」
森詩織にっこり微笑んだ。
読んで戴き有り難うございます❗
月の恋人-人形-を一部、編集し直しました。
大分前にしたのですが、二ヶ所くらいしか直してないので、活動報告するのもなあ、と。
あと、新作。
やっとめどが立ってきました。(TT)
もう少しで、お届けできると思います。
結局、簡単な心理学は何処に活かされたのか解らないです。笑
何か、参考になったのかなあ❔
と、言う感じであまり役には立ちませんでした。
読んだ内容も、要らなくなったら、即効忘れました。笑
脳のキャパ無さすぎなんです。
要するに頭悪いだけ。(TT)
自分、よく小説かいてるなあ、っていつも思います。
コロナ、なかなか終息しませんが、皆様お気を付けて。
店とかで、アルコール除菌設置してあるから、なんかあれ、いっぱい使っちゃいますね。
それでは、また明日。




