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チケット

 読んで戴けましたら、嬉しいです。

 今週の金曜日にニキータ十周年ライヴが行われる。


 地元近郊の八組のアマチュアバンドが招かれ、バートリーも参加するのだが、チケットのノルマがあった。


 隆一朗にも例外無く、八枚のノルマが課せられていた。


「瑞基、今日午後から付き合ってくれないかな」


「え、なに?

 オレに頼み事って珍しいね」


 朝食のトーストをパクついていた瑞基のテンションは上がった。


「今日、午後から休み貰ったからチケット(さば)くの手伝って欲しいんだ」


「なんだ、そりゃ? 」


「はい、キミのノルマね」


 瑞基は三枚のチケットと何枚かのフライヤーを渡された。


「はあ」


 瑞基は渡されたチケットをじっと見詰めた。


「キミ可愛いから、愛想良くすれば直ぐ売れるよ」



 洋品店やCDショップ、クレープショップなどが建ち並ぶ、若い子達に人気の通りに陣取り、瑞基と隆一朗は若い子達に片っ端から声を掛けチケットを勧めた。


 瑞基は隆一朗の愛想の良さに驚いた。


 エリザベータで仕事している時ですら、あんな爽やかな笑顔は見せやしない。


 なんなら写真に一緒に写るなど、日頃の隆一朗を知っている瑞基には信じられないサービス精神の旺盛さだった。


 結局、隆一朗の営業スマイルに圧倒された瑞基は、隆一朗が売り切っても一枚も売る事ができなかった。


「一枚も売れなかった」


 瑞基は半ば放心状態だった。


 隆一朗は笑った。


「仕方ないね」


「待って、オレちゃんと売るから

 少し待ってて」


 通り過ぎようとした女の子三人組に、瑞基は意を決して声を掛けた。


 隆一朗は心配気にそれを見守った。


「ねえ、待って! 」


 女の子達は振り返った。


「あ…………」


 セミロングの髪を丁寧に切り揃えた清楚な感じの一人が瑞基を見て声を漏らした。


「池旗君? 」


 瑞基も気付いた。


「森さん?

 お化粧してるから解らなかったよ」


 瑞基と同じクラスの女の子だったが、あまり話した事が無い、どちらかと言えば印象が薄い存在の森詩織(もりしおり)だった。


 瑞基は苦手意識が働いたが、全く知らない相手よりは頼み(やす)いだろうと、腹を決めた。


「森さん、よくこの辺に来るの? 」


「うん、友達と時々…………」


「あのさ、クラスメイトのよしみで頼みがあるんだ」


「え………? 」


「こんなの頼める義理じゃ無いのは解ってるんだけど、こっちも切羽詰まっててさ

 実はさ、買って貰いたい物あるんだ」


 瑞基は持っていたフライヤーとポケットからチケットを取り出して森詩織に見せた。


「駅の近くにあるニキータってライヴハウスで、今週の金曜日の昼からアマチュアバンドのライヴがあるんだ

 そのチケットなんだけど」


 森詩織は少し考えてから遠慮がちに言った。


「池旗君も行くの? 」


「行くよ」


 森詩織は茶髪の()に向かって言った。


美裕(みゆ)ちゃん、一緒に行ける? 」


「いいよー」


 茶髪の美裕は意味ありげな笑みを瑞基に向けた。


 森詩織はもう一人のロン毛の女の子にも声を掛けた。


愛衣(あい)ちゃん、金曜日は塾あるもんね」


「ごめんねー

 塾休むと、うちの親(うるさ)いから」


 森詩織は瑞基に向き直った。


「うん

 チケット二枚下さい」


「なんかホントにごめん、この埋め合わせは必ずするから」


 瑞基はチケットを二枚渡して、お金を受け取った。


「ホント有り難う」


「いいえ、どういたしまして」


 美裕が応えた。


 森詩織はその時、初めて笑顔を見せた。


「じゃ、明日学校で」


 瑞基は手を振りながら隆一朗の処へ駆け寄った。


 三人の女の子達も手を振るが、他の女の子が顔の横で手を振るのに対して、森詩織は胸の前で小さく手を振っていた。


 隆一朗は三人の女の子達が歩き始めるのを見ていた。 


 森詩織だけが最後まで瑞基を目で追っている。


 どや顔の瑞基が戻ると隆一朗は訊いた。


「知り合い? 」


「うん、クラスメイトの森さんて娘だよ」


「そう、瑞基モテるんだね」


「は?

 彼女いない歴十六年のオレに、その台詞言っちゃう? 」


「そうなの? 」


「一枚残っちゃったけど、これはオレが買うから」


「悪いね」


 二人はどちらとも無く歩き始めた。


「隆一朗さあ、若い振りできるんだね」


「何その、若い振りって? 」


「だってそうじゃん

 普段の隆一朗って、すんげー年寄りくさい

 見た目は若いんだけどねー」


 隆一朗はムッとして言った。


「そうゆうキミは小学生並みに子供っぽいよ」


「あれ、怒った?

 ねえ、今夜の晩御飯何? 」


「多分、ハンバーグ」


「うぉっ、楽しみー

 ピーマン入れないでくれたら、もっと楽しみなんだけどなー」


 瑞基は腕を後頭部に回し、期待を籠めて隆一朗を見た。


 隆一朗は冷たく瑞基の視線を無視した。


「好き嫌いするから、チビなんだよ」


「ほらほら、そう云う事言うから年寄りくさいんだって」


『そんなに年寄りくさいかな』


 隆一朗は内心、ショックを受けた。






 読んで戴き有り難うございました。

 思い返してみると、この頃は本当に書くのが楽しくて仕方無かったです。

 今も楽しいのですが、最近は止めればいいのに、自分の実力以上の事をやろうとするので、結構厳しいです。笑

 なんでこうなるかな、と自分でも解らないのですが、ちょっとやそっとじゃ、自分で納得できないみたいです。笑

 この頃から変わらないのは、いいもの書きたいと言う欲求です。

 これが、原因ですね。笑

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― 新着の感想 ―
[一言] おおっ! ついにヒロイン登場ですね!? 想像する瑞基の容姿からみると、可愛い彼女が出てきて当然と言えば当然ですよね♡ これからの展開が楽しみです(⋈◍>◡<◍)。✧♡
[一言] 年齢気にするくらいの年齢になると、歳をバカにされるとカチンときますよね。 それにしてもチケットをばら撒く実力とコミュ力、すごいですね…!
2023/01/01 22:40 退会済み
管理
[良い点] 楽しい展開ですが、別の恋愛の流れも見えてきましたか。 [一言] 楓海様は今がステップアップへの準備期なのだと思います。
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