お風呂
読んで戴けましたら嬉しいです。
「ただいまー」
瑞基が帰ると隆一朗が晩御飯の支度をしていた。
「あれ、今日は早いんだね」
「お帰り
お客さん混んでたんだけど、魁威が帰れって煩いんだ」
「へー、何で? 」
「さあ…………………」
隆一朗は首を傾げた。
「ねえ、何作ってんの? 」
瑞基は鞄を置くと隆一朗の肩越しに、グツグツ煮立った鍋の中を覗き込んだ。
「ねえ、これ何作ってんの?
凄い毒々しいんだけど」
「んー、紫と赤を混ぜるとこう云う色になるの忘れてた」
「何いれたのーっ!! 」
瑞基は狼狽した。
「紫玉ねぎとホールトマトとケチャップと挽き肉」
隆一朗は平然と答えた。
「何の儀式に使うの?! 」
瑞基の不安は頂点に達した。
「取り敢えずボクは悪魔崇拝はしてないよ」
「オレ、生け贄になるなんてごめんだからね」
「ちゃんとピーマンが生け贄に入ってる
完璧」
隆一朗はにっこり微笑んだ。
「いや、そこ笑うとこじゃ無いから」
瑞基は諦めて、項垂れながら制服を着替え始めた。
テーブルに置かれた皿には、パスタに毒々しいミートソースがこんもり注がれていた。
瑞基は最低と最悪と最後を覚悟して口に入れたが、不味くも無かったが美味しくも無かった。
極限の空腹に、瑞基は毒々しいミートソースパスタを潔くたいらげた。
無事食べ終わると、瑞基はスマホのアプリゲームをしながら眠り込んでしまった。
隆一朗は食器を洗い終わると、風呂に入った後洗濯機を回しながらギターを爪弾いた。
暫くして、時計を見て瑞基に、風呂に入るように促した。
「ええっ、もうそんな時間?
今日、部活でめっちゃしごかれたんだよね
駄目、めっちゃ眠いし無理」
「部活で汗かいただろ?
汗臭いと女の子に嫌われるよ
そんな身体でベッドに寝られたらベッドまで汗臭くなっちゃうし」
「そんな事言うなら、隆一朗洗ってよ」
と、言ったが、呂律が回っていなかった。
隆一朗はクスッと笑って瑞基のTシャツを脱がせ始めた。
「わっ、何してんの?! 」
「キミが言ったんだよ、洗ってって」
瑞基は慌てて捲れ上がったTシャツを下ろした。
「自分で脱ぐってば」
とは言ったものの、瑞基は可なり眠いらしくTシャツの裾を握ったまま、また居眠りをしていた。
「やれやれ」
隆一朗は溜め息をついた。
嫌がる瑞基を何とか風呂場まで誘導して服を脱がせた。
瑞基は風呂場に入ると胡座をかいて座り込んだ。
隆一朗はスポンジにボディーソープを垂らすと瑞基の背中をごしごし洗い始めた。
「はい、後は自分で洗ってね」
瑞基の顔を覗き込むと、瑞基はぐうぐう寝ていた。
隆一朗は悪戯っぽい笑みを浮かべると桶に冷水を溜め、それを瑞基の頭上から掛けた。
瑞基は悲鳴を上げて立ち上がった。
「何すんだよ!! 」
隆一朗は腹を抱え、声を上げて笑った。
「隆一朗………………」
ゆっくりと振り返った瑞基は、邪悪な笑みを浮かべ、桶を握り締め風呂のお湯をすくった。
可なり焦って、隆一朗は壁に張り付いた。
「瑞基、ボクは服を着たまま水浴びする趣味は無いからね」
「問答無用っ!! 」
瑞基は次々お湯をくんでは隆一朗目掛けてぶっかけた。
隆一朗はみるみる水浸しになった。
隆一朗は反撃にシャワーを掴むと瑞基目掛けて噴射した。
二人はへろへろになるまで、お湯を掛け合った。
「ファーブシッ! 」
ベッドに入ると瑞基がくしゃみをした。
隆一朗が隣でクスクス笑った。
「誰のせいだと思ってるんだよ」
「キミが人に身体洗わせて寝てるからだろ」
「しょうがないだろ、疲れてたんだから」
瑞基が起き上がって抗議した。
「だいたい水ぶっかけるってどうよ?
可愛い瑞基様が風邪ひいたらどうすんだよ! 」
隆一朗も起き上がった。
「キミだって散々掛けただろ、お互い様だよ」
「いや、お互い様じゃ無い
隆一朗が先に掛けたんだからさあ」
「じゃあ、この次からはボクに隙をみせないんだね」
「無理言うなよ
オレ、隆一朗に警戒心ゼロなんだから! 」
「ボクに警戒心持てないのは、ボクのせいじゃ無いからね」
「いつか仕返ししてやる」
「どうぞご自由に
せいぜいキミに背中を見せないようにするよ」
「だいたい、何で事あるごとにオレの嫌いなピーマン食わすんだよ
今日の毒々しいミートソースにもごっそり入っててさあ」
「好き嫌いは良く無いだろ
それに一個しか入って無い」
「一個も入ってたら立派なもんだって」
「ちゃんと食べ易いように、みじん切りにしただろ」
「でも、オレはピーマン嫌いなの!
あの、緑色の光沢は目立つんだよ」
「男の癖にピーマンごときに神経質になり過ぎだよ」
「オレよか神経質な隆一朗に言われたく無い」
「ボクの何処が神経質なの」
「充分神経質じゃん
トイレとか洗面台の横のタオル、前と後ろの長さが同じじゃ無いって怒ったばっかじゃん」
「あれは、ズレてるとみっとも無いだろ」
「わっ、自覚無いんだ!
タオルなんて、オレと隆一朗しか使わないんだから、どうでもいいよ」
「どうでも良く無い
見た目は肝心だよ」
「今日のミートソースにもそれくらい見た目気にして欲しかったよ」
「あれは、だから普通の玉ねぎが切れてたんだってば」
「切れてたら、普通そこで諦めるよね」
「パスタ茹でた後だったんだよ」
「じゃあ、ナポリタンにするって選択肢は無かったの? 」
「挽き肉の消費期限が今日までだったんだよ」
「ナポリタンに挽き肉入れればいいじゃん」
「ナポリタンに挽き肉入れるって邪道だよ」
「ミートソースがああゆう色してるのは邪道じゃ無いんだ」
「あれは、ああゆう色になるって気付かなかったって言ったろ」
「オレ、覚悟決めて食べたんだからね
覚悟のいるミートソースなんて、びっくりだよ」
「生きてれば色々あるだろ
確かに色は毒々しかったけど、食べられない物入れてた訳じゃ無いだろ」
「隆一朗の料理は色々あり過ぎだってば
だいたいメニュー決める理由がいつも安直なんだよ」
「いつも安直なキミに言われたく無いよ」
「オレの何処が安直なんだよ」
この後も二人は一歩も引く事無く平行線を辿った。
彼らの夜明けは遠い。
読んで戴き有り難うございました。
このシーンは、とてもお気に入りで、書いててとても楽しかったです。
今日は色々と用事があって出掛けたのですが、雪がもっさもっさ降ってまして。
それがとてもキレイで、番なのか二羽のトンビが泣きながら西の白い空に飛んで行くのが、なんだか穏やかな気持ちにさせてくれました。
その後、暫く歩いていると空がぱーっと晴れて、白く降る雪と濡れたアスファルトの地面がずっと遠くまでプラチナ色に輝いて、とっても綺麗でしたよ。
色彩が綺麗な季節がもう少しで訪れますね。
雪国は白一色な時間が長いので、庭があるお家は春になるとみんなガーデニングを楽しみます。
そんな中を歩いていると、本当に目が倖せでございます。
ゆっくりと、人様のお庭の花を眺めながら歩くのはとても楽しいです。
雑草を眺めてても、本当に気付かないくらい小さなピンクの花や、白い花がひっそり咲いているんです。
思わず声を掛けてあげたくなります。




