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 時間はウィルムの落とされる8時間程前に遡る。

 まだ日は出ておらず人々は寝静まっている時間帯に一つの事件が起こっていた。


「〜〜〜!!?」


 口には猿ぐつわ、手足は縄で縛られて椅子に座らされている一年生の少女とそれを囲んで男女10人が立っている。


 少女に怪我はない。

 もうずっとこうして座らされているだけである。


 明日は休みだと寮でのんびりしていた所を多勢に襲われて意識を失った。

 その間に場所を移動したらしくこの場所がいったいどこなのかは分からない。


 捕まってから襲われる訳でも何か要求された訳でもなく相手が何故自分を誘拐なんてしたのか分からない。

 そもそもまだこの街に訪れて1年経っていない自分に恨みを持つ者に心当たりなどなかった。


 そう。

 本当に私とは関係なかったのだ。


 なぜなら私はただの釣り餌。

 その餌に喰いついた獲物が既にここに来ている。


 圧倒的な存在感を放っている私達のリーダーであるマユキ様が。


 私を囲む集団とお一人で対峙しているが見た感じは獲物というよりも捕食者に見えてしまう。

 普段のご令嬢としての顔完全に剥がれ本来の姿を見せていた。


「それで私をこんなところに呼び出して何の用よ」


 瞬間、その見た目からは想像できない殺気が周囲に飛び散った。


 こわい

 自分に向けられたものでないと分かっっていても危うくちびるところだった。


「……は、ハハ、本当に1年かよ」

「さっさと用件を言えって言ってんだよ!」

「ひ、ひぃ」


 ……マユキ様の殺気に当てられて私の隣にいた小太りの男が腰を抜かした。


 完璧完全に怒ってらっしゃる。

 ここ最近はウィレム様関係以外で怒ってらっしゃらなかったから知らなかったけれど明らかに領地にいた頃よりも殺気が強くなってる。


「ま、待ちなさい。こっちには人質がいるのよ。まずはその殺気を控えなさい」


 そう言って私の首元を掴んで立ち上がらせられる。


 手には刃物。

 言う事を聞かなければどうなるのか言わなくても分かってしまう。


「……フンッ」


 それを理解してかマユキ様の殺気が弱まった気がした。

 私を掴んでいる人からホッとした感じが伝わってくる。

 殺気が弱まったことで周りの連中も自分達が優位だと余裕が出来ている。


 このままでは私のせいでマユキ様が。


 そう思ったが、


「じゃああなたが突き刺す前に助ければ問題ないってことだな」

「は?」

「動いたら死ぬぞ」

「ヒェッ、…ッゴァッ!」


 一瞬何が起こったのか分からなかったけど私を掴んでいた生徒は吹き飛ばされて私はマユキ様の腕の中に納まっていた。

 飛ばされた生徒は顔面から血を流して意識を失っていたが動かなかったおかげかピクピクと痙攣しているので生きていた。


「大丈夫か?」

「は、はい」


 腕から離されて解放される。


「でだ、そっちにはもう人質がいない訳だが……無事に済むとは思ってないよな?」


 マユキ様の視線はもう私ではなくその他大勢へと向いていた。


 再び殺気が甦り残っている全員が怯んだのが伝わった。


「来ないのか?ならこっちからいくぞ!」


『ちょっと待った!!』


「「「ぎゃああーーー!!」」」


「…………」


 えぇ……―――状況が一瞬で飛んだので説明すると、


 マユキ様が攻撃を開始する。

 突然第三者が待ったをかけて入って来た。

 マユキ様が止まらずに誘拐犯を殴り飛ばしてしまう。

 場の空気が悪くなり呆然とする私。


 といった感じ。


 そして今も出てきた人達はなんでって顔をしてるし、マユキ様もタイミングの悪さに困った感じで入った連中を睨んでいる。

 どちらも相手が悪いって思っているので一向に口を開かない。

 仕方なく私が切り出した。


「マユキ様」

「……分かってる。それであんたたちは何?こいつらの仲間」

「……違うな。そいつらはただの駒に過ぎない」

「つまり黒幕と……じゃあ変わんねえな」

「だから待てという、我々は貴様と戦いに来たわけではない」

「そう。提案をしに来たのだ」

「はぁ、提案?」


 提案?

 この状況で何を言っているのでしょうか。


 彼らの雰囲気から負けているから命乞いって感じでもありませんし。


「貴様には三つの選択肢が用意されている」

「一つはこの場での”全面降伏”。今すぐに派閥共々我らの傘下に加わってもらう」

「お前ら自分の立場を理解してんのか」

「理解しているさ。もう一つは”拒絶”」

「ここで我々を倒し仲間を危険にさらすか」

「っ!?」


 先程までの余裕があった表情が険しくなった。


 私にはよく分からないんですが?

 仲間って私よね?もう助けてるじゃん!

 しかし当のマユキ様が顔色を変えてるって事は違うの?


「我々を黒幕だと言ったが所詮我々も主の駒に過ぎないのだよ」

「我々が報告をしなければその瞬間に選択肢は二つ目になる様に言われている」

「そして我らが同胞達が今回の様に貴様がいないところで貴様の仲間を襲う」

「分かっているだろうが今回の件そこの女が五体満足でいるのはこちらで手荒な事をするなと指示を出していたからに過ぎん。次からは表を歩ける身体になった仲間を見ることになるかもな」


 やっとわかった。

 つまりここで拒絶すると私だけでなく私以外の派閥の子にも危害を加えるって事ね。

 それも犯人が前にいる連中以外にもいるから以外私みたいにマユキ様のいないところを狙われるかもしれないんだ。

 ……大変じゃん!!?


 私は慌ててマユキ様の様子を窺う。

 マユキ様は何も言わない。

 でも周囲の殺気は鋭さを増しているのに連中に向かっていない。

 マユキ様が追い詰められてる?!


「そして三つ目の提案だが無謀を覚悟で”戦う”」

「貴様の派閥とこちらの指定した派閥とで”天冥決戦”を行ってもらう」


 一人がマユキ様に向かって紙を放った。

 マユキ様がそれを広げたので私も盗み見たがそこには予想よりも遥かにビックネームな派閥の名が書かれていた。


「確か貴様の派閥は50にも満たなかったな」

「10倍もの相手に対して戦う気概はあるか」

「戦えば負けは必須」

「さりとて逃げても仲間は襲われ」

「最悪かと思われた投降のみ唯一仲間を傷つけない選択である」

「「「「さあ選べ。貴様はどの道を進む」」」」


 連中はマユキ様を追い詰めているこの状況を楽しみながら問いかけてくる。


 マユキ様の返答はない。

 険しい表情で振り返ったと思ったら私の腕を掴んでそのままその場を後にした。


 私は訳も分からず何も言わずにただ引っ張られるままについて行く。


「場所は天の大橋。4時からだ」


 マユキ様は離れてからしばらく経ってからも一言も発さず、私は次第に気まずくなっていく。


「あ、あのマユキ様」

「……」

「ごめんなさい。私のせいですよね。私が捕まんなければこんな事には」

「違えよ」


 頭を下げるとマユキ様がようやく私の謝罪を否定する形で口を開いた。


「お、……イーサはこの紙の中身を見たな?」

「はい。どれも私達の派閥よりも規模の大きいものばかりでしたね」

「そしてどこも一度勧誘を行ってきたところばかりだ」

「え?」


 マユキ様が例の紙を私に差し向ける。

 それを受け取って改めて見てみると確かにここ半年で派閥に接触してきたところばかりであった。


「この規模の派閥が態々私達の派閥を協力してまで取り込もうと思わない。つまりこれは連中よりもさらに上の派閥の圧力がかかってるっていう事」

「でもこの規模が従うって……」

「思っている通り派閥のトップ、王族が関わってる」


 王族が?!


「元々勧誘してきている派閥が多かったからいつか強硬手段に出るとは思っていたけど1年間は先だと甘く見ていた私の問題だわ」

「でも私が捕まらなければ」

「あなたが捕まらなくてもこの状況になるまで派閥の誰かが狙われた。運が悪かったとだけ思っておけばいい。それよりもすぐに団員を徴集をかけなさい」


 マユキ様はそう言って笑った。

 この危機的状況化で身の震えるような攻撃的なその笑みを私は一生忘れることがないだろう。


 そして父親がマユキ様には絶対に逆らうなと念を押すように私に言い聞かせていた本当の理由が理解できたのであった。



 

  ◆




「…………以上が現在マユキさんの派閥で起こっているだろう事です」


 話し終えたアリッサに対し僕らはどう反応していいか分からなかった。


 話始めるはアリッサが何故ここに落とされたかを話すはずだったのにどうしてマユキが窮地に立たされている事を聞かされることになった。


「あの~、その戦うって選択肢は確定なんですか?そんな勝ち目のない戦いなら投降する事もあるんじゃあ」

「それもない事もないでしょうけどどうなの?」

「ありえない」

「ないです」

「無理ですね」

「寧ろ嬉々して飛び込んでいきそうだな」


 質問を振られた全員が他の選択を否定した。


「なんか凄い子ね。そのマユキって子」


 お姉さんは苦笑した。


「マユキとその派閥には本当に何も関係がないので何とか止めようとしましたが逆に反逆者扱いされてここに落とされました」


 目障りなうえに密告される可能性もあり派閥も末端でいなくても問題ないと思われたんだろうな。


「それでマユキが危機的状況なのは伝わったけどそれとアリッサがどう関わっているんだ?」

「……そのきっかけを作ったのは私なんです」

「きっかけ?」


 話を聞く限りアリッサが関わる事ではなさそうだが。


「……そうです。今回の件は私が……私が報告したから始まったんです」


 まったく分かってない僕に対してアリッサは訴える。


「今回の件なぜウィレム様が標的になったと思いますか?私が貴方の監視役だったからです。それでそこの女性は一昨日急に私達末端派閥にまで似顔絵が行き渡って捜索願が出されていた人物で何も知らず取り敢えず報告したら上は貴方の家に刺客を放つは、ナタリアと同格の派閥を集めてマユキを討つ計画を速めるはで訳分からない状況になって行って、でも貴方達は偶々会っただけなのは知ってるから無関係だって主張したけどもう聞いてもらえなくて、最後には私の派閥にもマユキの派閥の討伐要請が届いて……断ったら裏切り者だってここに落とされたんですよ。

 分かったでしょ。私なの私が最初に貴方達のことを報告したからこんなことになったのよ」


 アリッサは一気に言い切った。

 要はすべての起因は自分だと言いたいようだ。


 まさかそんな事か?

 そんなのあの事件の売人である方がよっぽど怒りが沸くんだが。

 そもそもアリッサに罪があるかすら怪しい。


 そう思っていたのだがふと隣を見るとユリが獲物を構えていた。

 その目はアリッサを捉えて完全に殺す目になっている。


「ちょっとユリ何してるの!?」

「はい?彼女の報告がすべての発端ならその責任として腕の一本ぐらいは斬るべきかと」

「なんで!?」


 今の話になんでそんな要素が、


「え!?しないんですか」


 おかしいのはユリだけではなかった。

 リアも序にリエラまでユリに賛成の意思を示したのだ。


「アリッサは何も知らなかったんだから仕方ないじゃないか」

「仕方なくありません」

「そうです重罪です」

「庇ってくれるのは嬉しいですが罪は罪として償わないと」


 二人に強く否定されてしまった。

 しかも当の本人は罪を受ける気なんだが。


 僕の方が間違っているのだろうか?

 1対4の状況で僕の方が認識がズレているのだろうと考えてみるがどこが間違っているのかが理解できない。


 そうしていると見かねたのかお姉さんが助け舟を出してくれた。


「一度考えるのを止めて頭をリセットして」


 言われた通り一旦考えるのを止めた。


「次に最初に私にあった時アリッサのしたことは?」

「それは僕らのことを報告したって」

「ウィレムはなんで自分達が狙われたと思ったの?」

「それは……お姉さんと遭遇したから」

「そう。今まで貴方は私の事を衛兵(・・)に(・)報告(・・)したから(・・・・)見つかったと思っていた。でもそれだと普通無関係を疑うはずなのになんで貴方たちまで巻き込まれているの?」


 それはお姉さんを受け渡す取引が上手くいかなかったから……だからといって偶々会っただけなのにこんな所へ落とすことまでするか?


「それは相手が認識したのがここにいるアリッサちゃんの報告の方が早かったから。まず私とあなた達が接触したという報告を受けた。たぶんだけどその報告には私が今記憶喪失だって事は含まれてなかったのよね?」

「そうです」

「だからあなたのお兄さんはその報告を聞いてこう思ったはずよ。弟と私が繋がっていると」

「でもその後衛兵に」

「だから最初は穏便に回収しようとしていたでしょう。それも二回も。私にとっては助かったことになるんでしょうけど貴方達にとっては敵認定されてしまった。その後もっと手を出しにくい相手に私を引き渡そうと目論んだからその前に最終手段としてここへ落としたのよ」


 でもそれって相手の勘違いって事だよね。


「それは運が悪かっただけでアリッサを責めるべきでは……」

「……確かにあなたの言う通り運が悪かったというしかないわ。でもね、この国の刑で捌けば十年単位の懲役から最悪死刑にもできる出来事なのよ」

「そんなに重いのか」


 信じられずに他の物にも確認を取るが皆首を縦に振って肯定した。


 マジか。


 ようやく僕の中で合点がいった。

 この国は民主主義国家ではないのだ。

 当然同じ罪でも相手によって重さは変わるし状況によっては罪でない事も罪になる。

 その辺を前世のみな平等で考えたのがいけなかったのか。


「それじゃあ腕一本」

「それは駄目だユリ」

「……なんで?」

「僕は嫌だからだ」


 理解したが認める気はない。

 ユリはムスッとしながら下がり僕はアリッサの前に歩み寄る。


「僕は君の今回の罪をすべて許す」

「ですが!」

「それでも君が罰を望むならここを無事に出てからだ。いいね?」

「はい」


 反論しない様に強い口調で言うとアリッサは素直に承諾した。


 それで一件落着。


「それじゃあそろそろ脱出を開始しよ(ぐううぅぅ~~~)」


 景気よく誰かのお腹が鳴った。

 どうやら出発はもう少し時間が掛かりそうです。



現状は活動報告に乗せたのでそちらを見て下さい。


マユキ男優モードがでました。

令嬢モードと素のマユキの合わせて三面です。

マユキを強くして欲しくなかった人ごめんなさい。

でもこのマユキはベヒモス同行時から決めていたので。

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