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足場が無くなって無重力状態で落下したのは最初だけだった。それから徐々に穴が狭くなっていって最終的には滑り台の様に側面を滑る形で穴の奥へといった。
「へぶっ!?」
「キャッ!?」
「あうっ!?」
「いたっ!?」
「……(スタッ)」
訂正、最後の最後でまた垂直に落下した。
前から僕→お姉さん→リエラ→リアと着地地点に置かれたマットにダイブし、最後にユリが華麗に僕らを躱して着地した。
結構なスピードだったがマットはそれを想定して分厚いものが置かれていたので着地時の痛みなどはない。
別の痛みで感じなかっただけかもしれないが。
「いつつっ……ここはどこですか?」
「私達さっきまで学園の教室に居ましたよね?夢じゃないですよね?」
落ちた先は開いた空間なのかリアとリエラの声が響いている。
日の光は全く無いがあちらこちらに小玉クラスの魔灯が設置されているので全く見えないという訳ではなく薄暗いと言った感じだ。
でも今はそんな事より、
「……その、二人ともそろそろ降りてもらえないかしら。私は兎も角下にいる貴方達の王子様が限界そうなんだけど?」
「「っ!!?」」
女性とはいえ3人も上に乗られたらきつい。
肋骨辺りが圧迫骨折して内臓が潰れてしまいそうだ。
お姉さんの御蔭で気がついた二人はすぐに退いてくれてお姉さんも離れると解放された。
「大丈夫ですか!?」
「お怪我は!?」
「大丈夫、大丈夫。思ったよりも軽かったから」
立ち上がると服を整えて冷静を装った。
内心は圧迫された箇所を擦りたくてたまらない。
特に膝が関節部分にもろ体重が乗っていたからまだ凹んでいるんじゃないかって感触が残っていたりする。
無性に屈伸がしたい。
しかしここで限界だったって動作をしたら上に乗ってしまった罪悪感と女性としてのプライドを傷つけかねない。
その位の配慮をする余裕はまだ残っている。
やせ我慢のお蔭で二人とも安心した顔になった。
「ふふ、王子様は男の子なのね」
お姉さんにはやせ我慢が見抜かれた。
お姉さんの微笑ましい物を見る生暖かい視線が嫌で視線を逸らした。
「それよりもここは……」
僕は改めて部屋の中を一望する。
もうこの暗さにも大分慣れた。
部屋は思った通り広い空間であった。
教室と同じぐらいの広さかな?
しかしそんな広い空間なのに何もない。
机や棚といった家具すらなく生活感がまる感じられない。
空の倉庫って感じだ。
唯一、僕らとは反対側にこの部屋から出る為の扉があるぐらいだ。
まぁ、下に落ちたって段階で薄々気づいていたがまさかな。
「地下の隠し部屋か」
十中八九、誰がどう考えてもここは地下だとしか考えられない。
しかし信じられなかった。
この世界の技術でこんな地下空間を作り上げられるとは想像できなかった。
精々防空壕くらいが限界かと思っていたのだ。
しかしこの空間がそんな僕の考えを否定している。
僕はまだまだこの世界の技術を理解できていない様だ。
しかし、しかしだ。
今、僕が言いたいのはそんな事ではない。
リア達がいるから声には出せないから心の中で叫んでやる。
(なんで学園の地下にこんな空間があるんだよ!?)
(しかも扉から出ればもう出口って雰囲気皆無なんですけど!?どう考えても広大な地下空間が広がってる感満載なんだけど!?)
(何よりそれが敵側の物って相手は秘密結社かなんかですか!?)
敵がどんどん大きな存在になっていくから不安でたまらなくなっている。
次の悪夢はとんでもないものが来そうとは思ってたけどこれ僕が想定してた以上に闇が深すぎじゃないかな?!
「ウィレム様下がってください」
「どうしたユリ?」
「誰かいます」
ユリの言葉に反応してリエラが僕の、リアがお姉さんの前に立ちふさがる様に移動した。
部屋には誰もいないと思ったがもう一度部屋の中をじっくり見回した。
先程同様何もない……いや、いた。
ユリの言う通り確かに人がいた。
部屋の隅に座り込んでいる。
なんか空気になっていて言われなければ気がつかなかった。
「敵でしょうか」
「たぶんな」
この状況は完全に敵に嵌められたとみて間違いないのだからここで待ち構えているのは十中八九敵しかいない。
なんで動かないのかは分からないけど。
「私が行きます。リアとリエラはそのままでいて下さい」
「「分かった(了解です)」」
ここの出口は敵のいる側の扉のみ。
逃げることができない以上戦うしかない。
僕もユリの特攻を認めるとユリは懐から獲物を取り出して走り出した。
何度見てもユリの身体能力は圧巻だ。
とても同い年とは思えない。
あっという間に相手との距離を詰めると持っている獲物で敵を仕留めようとしてーーー止まった。
相手に止められたわけではない。
ユリの意思で攻撃を止めた様だ。
僕らは血飛沫が舞うのを覚悟していたので急停止したユリの思惑に追いつかずにいるとユリは此方に振り向いてちょっと困った顔をした。
あれは想定外の事態が起こった時の顔だ。
そして僕を見たと言うことは僕なら解決できるって事だろう。
「僕達も行った方が良さそうだな」
「あっ、ちょっ、待って下さい」
僕がユリの方へと向かうとリエラが慌てて付いてくる。そんな僕らに連れられてリアとお姉さんも一緒に向かい結局全員がユリの元に集まった。
「どうしたんだユリ?」
「その……まず彼女を見た方が早いですね」
彼女ってこの相手だよな。
座り込んでいるし顔も俯いていて見えないから性別まで確認できなかったがこうして前まで来ると確かに女性だった。
それも僕らと同じ低学年の生徒だった。
……というかこのシルエットどこかで、
「寝てますね」
「熟睡してます。寝たふりという事はないです。ウィレム様、起こしますか?」
「あぁ頼む。ユリは暴れた時に押さえておいてくれ」
リアが少女の肩を持って揺らす。
それを何回か繰り返すと少女に反応が出た。
「……んん?ここ、部屋じゃない……あっ、そうだった」
まだ寝ぼけているのか僕らには気づいていない。
部屋を見て落胆して僅かに上がっていた顔がまた下がってしまった。
しかしその僅かな間で彼女が誰なのか判明した。
そして僕は驚いていた。
なぜ彼女がこんな所にいるんだ!?
リアとリエラも驚いた顔で彼女を見ている。
ユリは知っていたようで、お姉さんは面識がないから反応はない。
そして少女もまた僕達に気づいて驚愕している。
「アリッサ・エクスライズ」
「…………ウィレム王子?」
◆
意識を取り戻したアリッサはちょっと抜けた感じの反応であった。
学校では優等生だけど家では抜けている女子高生を想像してくれれば分かりやすいと思う。
それから意識が覚醒したらしたで羞恥で塞ぎ込んでしまったがようやくまともに話せる様になった。
「まずなんでここにいるんだ?」
「落とされたのよ」
もう何度目かになる質問に返って来たのは僕達と同じ理由であった。
「貴方の意思で来たんじゃないんですか?」
「こんなところに自分の意思で来ようなんて思わないわよ。私はあの穴に通じている教室から落ちて来たの!」
こんなところ?
「アリッサ、君はここがどこだか分かっているのか?」
「……貴方達よりは」
「それは僕達には言えない事か?」
さっきまでの様にすぐに返答は返ってこなかった。
どう返答するか迷っている様だ。
アリッサの表情からは失言をした感じではない。
慌てた素振りの一つも見られなかったからという曖昧な結論だがたぶん間違っていないと思う。
それよりは言うべき言葉が見つからずに返答できずにいる様に感じられた。
既にユリは懐に手を入れて武器に手をかけていたので目で待つように訴える。
ユリは手を懐に入れたままだがコクリと頷いてくれた。
ついでにリエラも伝わったようで周囲の警戒に意識を移していた。
その間僅か十数秒の事であるがアリッサがようやく口を開いた。
その表情は少し緊張している。
「これから私の言う事を最後まで怒らないで聞いてくれますか」
「分かった。これから君がこちらに危害を加えないのならこちらからアリッサへの危害を加える事はしないと誓うよ」
敢えてこれからとつけたお蔭かアリッサの表情に少し余裕が感じられる様になった。
つまり既に危害を加えているという事でもあるが。
「最初に私達のいるここについてですが”学園の地下施設”です」
それはもう分かっている。
そうでなければあり得ないことだがあの穴を通過している間に転移して別の場所にいることになってしまう。
「私もすべてを知っている訳ではありませんがこの学園にはここと同じような部屋と抜け道が存在します」
それも予想で来ている。
あの扉の先が出口でなければこの部屋の大きさと比較してかなり広い地下空間が広がっているのを想像できる。
そうなれば出入口が複数あってもおかしくない。
「じゃあこの辺りの道は知らないんですね」
「勘違いしてるようだけど私、ここから地上への戻る帰り道は知っているわよ」
やっと僕らの知らない情報が出てきた。
そして何故自慢げに言ってるんだ。そんなこと言ったら、
「だったらなんでここに留まっているんですか?」
「そんなの帰れないからに決まっているでしょう」
「だから何でですか?」
「…………」
あ~言わんこっちゃない。
アリッサは固まっちゃったよ。
リアに察しろは通用しないんだぞ。
アリッサが答える気がないので仕方なくリエラがリアに耳打ちする。
「リア、さっき落とされたって言っていたでしょう」
「うん」
「つまりこの先には落とした相手が待ち構えているから出るに出られないのよ」
「あぁ、そっか。アリッサ様、大変だったね」
流石リアだ。
本人は心の底から心配しているだけなのにアリッサのHPがどんどん削られているのがわかる。
アリッサの表情は少し崩れているだけだけど手足は震えちゃってる。
リエラ、声を殺しても身体の震えで笑っているのがわかるぞ。
お姉さんは叔母さんが訪問先の子供の行動を微笑ましく見ている感じで、ユリは自業自得だと蔑んだ目をしてくだらないと言った感じだ。
流石にもう助けるべきだろうな。
「リアそこまでにしろ。アリッサも赤くなってないで続きを話してくれ」
「あ、赤くなんてなってないわよ」
顔どころか若干目元に涙が溜まっているが言わないでおこう。
貴族が平民に慰められるだけでなく泣かされたとあってはアリッサは立ち直れなくなってしまいそうだ。
「っ……、それじゃあもうここからの脱出経路は知っているけど敵が待ち伏せている可能性が高いっていうのはいい?」
「あぁ」
「それで次は……何がいいかしら?」
「それならその敵とやらを教えてくれないか。知ってるんだろ?」
相手が未だに誰なのか分からないのは不安だ。
どんどん自分の中での相手像がデカくなっているからな。
アリッサを落とした者達とお姉さんを狙っている者達が同じとは限らないがこの施設を使用している事とアリッサの言動から同じ可能性は非常に高い。
これから会う人間の判別にもなるからさっさと教えてもらいたい。
しかしそんな軽い気持ちで聞いた答えに僕は目を丸くすることとなる。
「私を落とした相手は私の派閥の先輩派閥の人間です」
「先輩派閥……ナタリアの派閥か?」
「いいえ、ナタリアとは別の派閥の先輩よ」
「それが今回の敵か」
「それも違うわ。私の落としたのはただの下っ端。ただ指示されただけよ。黒幕は別にいるわ」
アリッサはそこで一旦言葉を区切ると5人いる中で僕だけを見つめた。
「私を落とすように指示したのは私の所属している派閥の頂点である……アレク・ローグレイ。つまりウィレム様のお兄様です」
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