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遂に来た。
目覚めて早々に起こる身体の脱力感に僕はまた”夢”を見たのだと実感する。
今回はユリと同じケースだ。
何かされる前に意識を駆られたため吐き気も無ければだるさも感じない。
これで夢の後の身体の異常は能力行使によるものではなく夢の内容によるものだと断言できるようになったわけだ。
ただ今回のケースでまた違うパターンが出てきた。
"自分自身が夢に登場している"
一見、今回の視点となっているのがお姉さんなのだから一緒にいる僕らが登場しても何の問題もないように思える。
でも、
「夢の僕が夢を見ていたとしたらこれは回避不能の夢になるんだよな」
今までの夢は夢と関係ない第三者の介入がないと変わらなかった。
その第三者だった僕が当事者の一人となったら僕の行動に意味が無くなってしまうのではという不安だ。
ない、と思いたいがそうやって楽観視してまた前回のような失敗を繰り返すわけにはいかない。
それに今回の夢は今までの様にその場を解決して終わるものではない。
受け取りを断ったからといってお姉さんを狙っている連中が簡単に諦めてくれるとは思えなかった。
お姉さんの記憶が無くなる前に何があったかは分からないが夢に出た連中は下っ端のくせにあの執着っぷり、少なくとも一貴族は相手にいると見た方がいい。
そうなるとこちらも数を揃えないといけなくなる。
「…………ユリ」
「はい」
「二人を呼んできてくれ」
ユリは頷くこともなく無言だったが部屋を出て言ったから二人を呼びには行ってくれているだろう。
こちらも覚悟を決めないとな。
◆
「私はガスマ・スクダと申します」
「ようこそ、第七王子のウィレムです」
朝の忙しさの去った昼前の余裕が出来た時間帯にまるで待っていたかのように来客がやって来た。
来客は当然の様に夢で見た特になんの特徴のないおじさんである。
こうして改まって見ても農家をしていて気前よく作物をくれたりする近隣住民並みに悪い人のようには見えない。
玄関からリビングまでの移動の間も腰が低く妙にペコペコしていてへりくだった態度が多く苦労人気質なんだなという印象を強く持たせる。
これがすべて擬態なのだから怖い者だ。
リビングにつくと椅子に座り対面の椅子に座るように促してガスマを座らせる。
シルバを含む使用人達には僕の後ろに控えてもらった。
もうこの一見近所のオヤジがお姉さんの知人ではないのは分かっている。
だからまず夢の内容回避はこの場でガスマが赤の他人だと言って追い返す。
その為の準備はした。
後はガスマが悪魔の手が掴んできているのに気づくかどうかの勝負だ。
「まず確認ですがあなたは昨日街で出会った女性の知り合いだそうですね?」
「えぇ、私共の同僚で御座います」
「同僚ですか……名前は?」
「ルールーフィーで御座います」
「そのルールーフィーさんは現在記憶を失っています。見つけた当初ボロボロの格好で道の端で倒れていました。普通の行方不明ではないと思うんですがなんでそんなことになったんですか?」
「私は後から聞いたので詳しくは申せませんがどうも彼女がミスで主が癇癪を起こして運悪く川へ落ちてしまったと。落ちた後主が我々に助けを求めましたが駆けつけた時にはもう大分流されてしまっていたようで見つからなかったというのが発端なのでボロボロであったのはその所為ではないかと推察します」
用意したにしては話の内容とお姉さんの状態の辻褄が合う。
特に彼女が川に落ちたというのは川から上がったか、落ちたの現場に居なければ分からない内容を知っている事から川に落ちた理由がこいつらだというのは本当な気がする。
仲間と敵とで大きく違うけどね。
しかし何も知らない者からしたらお姉さんの知人に思える説明だろう。
「なるほど、それじゃあ彼女の職業は」
「傍付きの侍女で御座います」
「女性の傍付きですか」
「彼女ああ見えて腕が立つんですよ」
またも知り合いだと思える発言だ。
そしてあのナイフ投げを見ているので信憑性も高い回答。
その後も何度も質問するがおかしな所は見られない。
どれも彼とお姉さんが知人だと思ってしまうような回答だ。
まさかここまで完璧に答えられるとは思わなかった。
「そろそろいいですかな?」
流石にこれ以上は付き合う気はないとガスマは話を終わらせてくれないかとこちらに催促してきた。
(そろそろ潮時か)
「そうですね。ではどうぞお帰り下さい」
ウィレムは椅子から立ち上がるとガスマはより一層の笑みを浮かべて同じく席を立つ。
もう完全に終わったと内心はやっと一仕事終わったとでも思ってそうだ。
「そうですか。ではルールーフィーを」
「可笑しなことを既にいるのですから呼んで連れていけばよいでしょう?」
「……っ」
瞬間、先程まで余裕でウィレムの質問に答えていたガスマの顔が初めて歪んだ。
すぐに元の笑みに戻ったがほんの僅かな歪みをウィレムは見逃さなかった。
「どうしました?」
「いや、何も。ではルールフィー行こうか」
ガスマは迷いなくルールーフィーと呼んでお姉さんの腕を掴んだ。
お姉さんは驚きながらガスマに引っ張られていく。
その光景にシルバがクツクツと笑い出した。
「シルバ。流石に笑うの早すぎないか」
「失礼。ウィレム様の成長とその男の劣等ぶりに笑いが堪え切れませんでした」
もう少しで出ていくという所で自分の事を劣等と言われたガスマがこちらに振り返った。
まだその顔には笑みがある。
「すみませんね。今、私の事を劣等と言いましたか?」
「ええ言いました。それが何か?」
「……王子の執事とは思えない発言ですね」
しかしこれはもう完全に切れてる。
温和かな態度とは裏腹にまさかの短気である!?
笑みを絶やさないから懐が深いと思ったのにそれさえ擬態だった様だ。
「では貴方、いったいどなたの手を取っているんです」
そしてシルバに僕のセリフを取られた?!
シルバ!主のセリフ取るなよ!!
「誰だと……?!」
あぁ、ガスマも気づいたらしい。
悔しそうにシルバを睨み付けシルバはそれを受けて不敵に笑う。
……というかなんで最後の最後で僕がカヤの外になっているんでしょうか!?
本当はシルバのポジション僕だからね!?
ガスマももう僕の事見ていない。
これでは今更僕が前に行けないじゃないか……。
……今回僕がとった行動は替え玉だ。
ガスマに手を掴まれているのは使用人の一人で背丈、スタイルの変わらない使用人にお姉さんの衣装を着させて控えさせていたのだ。
もし使用人を連れていけば言動よりも明白に他人だと確定。
それで質問は彼の失言よりもむしろより具体的な発言を言わせて顔を知らないのがおかしい状況を作ったわけだ。
ここまで見事に騙されてくれるとは思わなかったが。
そしてこの作戦にはもう一つ利点がある。
お姉さんをリビングに入れないといいという点だ。
僕の中で一番怖いのは夢と同じ状況。
だったらそもそもお姉さんを立ち会わせなければいいんじゃないですか、という意見を採用したのだ。
本物のお姉さんは今もリアとリエラと一緒に別室で遊んでいる。
お姉さんは最初は自分も立ち会うと言ってきたがリアとリエラともう少し居たかったという気持ちもあってか説得すると素直に従ってくれた。
お蔭で夢に自分が出ていても変えられることも分かり万々歳である。
「ぐハッ?!」
そんなこと言っている間にいつの間にかガスマがシルバに倒されていた。
ポジション取られて現実逃避してたけどそこまで時間が立っている感じはしなかったのだが。
そしてなぜか使用人たちが震えている。
若い者で泣いてる奴までいるんだが!?
「ではそいつと、庭で待っているやつも捕まえて地下牢へ入れておいてください」
「「はい」」
何が何だか分からない。
分からないが……分からないが一つだけ理解した。
僕が完全に空気だという事に……。
僕、主人なのに……。




