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今月ラストです。

それに少ないです。

 私には記憶がない。


 気がついたら街の中で倒れていた所を子供四人に助けられていた。


 一人は最初だけ男の子と一緒にいたけど、その後は姿を現さなくなったのでよく分からなかった。他の三人はとてもいい子で記憶の無い私の為に親身になって私の知り合いを探してくれた。

 でも私はこの辺りに住んでいないのかなかなか知っている人に会う事はできなかった。

 結局子供達との街中での捜索では私の知り合いを見つけることは叶わずに終わった。


 けど子供の中で一番偉い上級貴族と思わしき男の子が野宿になる私を家に一泊させてもらうよう掛け合ってくれることになり、家へ招かれると私の知り合いと名乗る者が屋敷に来たと彼の執事に聞かされて知り合い捜索は無事解決した。


 ただその日はもうその人は帰ってしまったらしく当初の予定通り昨夜は一日泊まらせてもらう事になった。

 流石は貴族というべきか部屋はピカピカでベッドはふかふか、出てくる料理はどれも美味しくって高級宿屋に泊まっている感じだった。



 そして翌日の昼前、再び私の知り合いの人がやって来て私は引き取られる。



 現在、その受取が丁度行われている。


 訪れたのは中年男の使用人であった。

 男は私を一瞥した後何の感情を見せる間もなく受取交渉を始めた。男の相手は私の代わりに執事の人と私の状態や見つけた時の経緯を知っている男の子が説明してくれている。


「それではよろしくお願いします」


 一通りいい終えた様で男の子がそう言って私の背を押して私を大人の男の前に出した。


 この男が記憶を持った私を知っている人?


 見た目はパッとせず使用人としては割と普通な感じ。

 近所のおじさんのような雰囲気の人だ。

 話している間も終始笑顔を絶やさなかった。


 なのになぜだろう。


 私はこの男を子供達やここの使用人の様に信用できずにいた。


 目の前に来た私を男は全身舐める様に見てくる。


―――怖い。


 表情は変わらないのに睨まれている気がする。


 本当に私はこの男と知り合いなのか?


 この男からは笑顔とは逆の嫌悪感しか感じ取れない。

 とても一緒に働いていた気がしない。


 けどこれだけ拒絶反応がするという事は逆に記憶と関係があるのではとも思ってしまう。

 ただ使いの者が丁度私の記憶に刻まれるくらい超絶嫌な奴だっただけかもしれない。


「まったく、本当に探しましたよ」

「っ!?」


 ゾッとしてしまった。


 男の言葉も態度も変な所は無いのに悪寒が走り全身鳥肌が立った。


 咄嗟に一歩下がってしまう。


「どうしたんですか?」


 そんな私に男の子は疑問に思って問いかける。


「いいえ、何でもないわ」

「そう。知り合いに会えてよかったね」


 屈託のない笑顔。


 同じ笑顔なのにこちらには嫌悪感を感じない。


「それでは行きましょう。いつまでもこちらに厄介になる訳にもいきませんからね」


 男はこれ以上ここにいる必要はないと私を連れて帰ろうと促す。


 外には馬車が待機している。


「あの、もう少しゆっくりしていっても」

「すみませんがこの後我々も仕事が控えてますので早急に戻りたいのですよ」

「そうですか」


 男の子が制ししたが聞き入れられる事はなくさっさと屋敷から出て馬車に乗りに行ってしまった。


 こうなってはもう私はついて行くしかない。


 一歩踏み出す私に後ろからリアちゃんに手を掴まれた。


「お姉さん」


 後ろを振り向くとリアちゃんは心配と寂しそうな表情をしている。


―――可愛い。


 この子は出会った当初から私の事を慕ってくれていてまるで妹のように可愛い。

 私に妹がいるかどうかは分からないけどこの子にこんな顔させて別れるなんてできない。


「大丈夫。また来るから」

「ほんと?」

「暇になったら遊びにくるから」

「や、約束だよ」


 本当にこの子は、


 堪らず私はリアちゃんの頭を撫でてしまった。

 髪の毛がサラサラでつっかえる事なくリアちゃんは気持ち良さそうに私に頭を委ねてくれる。 


 この子も連れていかせてくれないかと本気で思っちゃう。


 それが無理な事は昨日だけで十分理解してるから言わないけど今だけは出来るだけこうして撫でていたい。


「おい、さっさと乗れ!」


 折角人が感傷に浸っているというのに無粋にも馬車に乗った男は馬車の窓から顔を出して怒鳴って急かしてくる。


 やっぱり私はこの男が嫌いだ。

 ほんの少しの別れの挨拶も待てないのか。


 私は仕方なく撫でるのを止めるとリアちゃんにまたねと言って馬車に向かった。


 馬車に乗る間も乗って見えなくなるまで三人は手を振って昨日会ったばかりの私を見送ってくれた。


 本当に最後までいい子達だ。


 あの子達と別れるともう私の傍にはこの嫌な中年男だけになる。


 空気の重い沈黙が続くが話す気はない。

 目的地に着くまで黙っていよう。


 だが何の嫌味か中年男の方から話しかけられた。


「まさか記憶喪失とはな」


 私は無視する。


「随分と探したんだ。このまま逃げられでもしたら大変だったからな。しかし意外と綺麗な顔をしてるじゃないか」

「?」


 この男は何を言っているんだ。

 記憶を失う前の私?

 でも逃げるって……。


 それではまるでこの男はてき……


「っ!?」

「おっ、やっと効いてきましたか」

「な、にを」


 突然の身体の異常に私は咄嗟に馬車の取っ手に捕まったが身体は支えられずに膝をつく形で前のめりに倒れ込む。


 この匂いはベンアゼン。

 どうして種類までわかるのか自分でも謎だけど私の記憶の失くす前の知識がこの匂いの正体は睡眠薬だと告げていた。


 酷い睡魔だ。

 ベンアゼンは効くまで時間が掛かると記憶している睡眠薬らしいが気づくのが遅すぎた。

 症状に出るまでずっと吸っていたからもう相当身体に回ってしまっているはずだ。


 こんなにも悪臭を漂わせているのに今の今まで気づけなかったなんて。


 だけど不可解だ。

 なんでこの男は平気なのかが分からない。


 この男もこの空気を吸い続けていたはずだ。

 それも私よりも早くから、なのになぜ


「それでは暫くお休みください。起きたらもう死ぬまで苦しみますので」

「……くっ」


 リアちゃんごめん。

 お姉ちゃんもう行けそうに……な……い。

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