37.リエラのデビュー/リアの見学
季節は冬の入り始め。
学園行事としては冬季休み前。
制服が夏服の半袖から冬服の長袖に変わっただけではなくは織物まで支給されているのに驚いたのも記憶に新しい頃。
リエラは自分の衣装棚の前で項垂れていた。
自分のというのだから当然そこから出した服は自分のものである。
「これは薄汚れてる……これは冒険者用……これは綺麗だけど男性の衣装……」
だけど真面な物がない……。
事は前日に遡る。
「頼む!どっちでもいいから明日のダンスのパートナーになってくれ」
私の主、ウィレム様が手を合わせて頭を下げた事で始まった。
「ええ、私達ですか!?無理です、それってあれですよね。一般参加OKの冬王祭の後にある王族の方々や上級貴族、他国の王子様といった高貴な方しか参加できないパーティーの事ですよね?無理です無理です、絶対無理です」
「よし採用!」
「なんでですか!?」
既に涙目になっているリアではないけどこれには私も賛成。
私達みたいな平民が王族の相手なんて務まる訳がない。
「パートナーにならマユキ様を誘えばいいのではないですか?なぜ態々私達を相手にするんです」
「いや……マユキにはもう断られたんだ」
既に誘っていたとは驚きです。
てっきり誘えなかったのかと思っていましたが。
「舞踏祭の時もそうだったがどうもマユキはダンスが苦手らしい。本人が言ったわけじゃないけど断る言い訳がマユキにしては酷かったからなぁ~」
「ではクラスメイトに誘うのは……」
「リエラ分かっていて言っているだろう」
そうでした。ウィレム様、クラスから敬遠されてましたね。
私達が学園に来てから結構経ったのに未だにウィレム様の交友関係はマユキ様とその派閥の人、後は極稀にアリッサ様がウィレム様に会いにクラスに訪れる事があるだけでまったく進展していませんね。
特に男子生徒のご友人が0なのには正直心配になってきます。
「申し訳ありません」
「気にしてないから頭を下げないでいい。それで二人のどっちかに頼みたいんだけど」
「ユリは?」
「リア、無理なの分かっているのに聞かない」
ユリはウィレム様の護衛だということを周囲に隠しているのだから絶対に反対しますね。
それに自分が獣人である事がコンプレックスにしているから表舞台を怖がっている傾向が見られます。
実際、私から見たら可愛い女の子なのですが高貴な方達の中には獣人を毛嫌いしている輩が多くいるので無理に参加させるのは私も良くないと思うようになりました。
みんなウィレム様みたいならユリも気にしなくなるのになぁ。
兎に角ユリが駄目となるとやっぱりウィレム様の選べる女性は思いつかない。
となると回避するには……。
「それじゃあリエラで決定ですよ。リエラ器用だし要領いいからすぐ溶け込めると思いますよ」
「それをいうならリアだって輪の中に入るの得意じゃない」
「そんな事ないよ。周り全部貴族のパーティーなんて場違い過ぎて固まっちゃうよ」
「それは私も同じだよ」
パートナーは一人だけでいいのだからリアを売って自分は逃れようとリアを褒めようとしたのにリアに先手を取らせた。
リアと目が合う。
その目はいつもの優しくのんびりした物ではなく真剣で鋭い。
完全に私に押し付ける気ね。
あなたがその気なら受けて立つよ。
「冒険者の時大人の人達の中でも物怖じせずに話せてたじゃん」
「それとこれとは別だよ。寧ろ歳の近い友達がいなかったから話せない可能性のが高いよ。リアのが向いてるって」
お互いに相手を褒めて自分は謙遜する。
勝ち方が分からない戦いで勝敗などつくはずもなく不毛な争いがしばらく続いた。
最後は呆れたウィレム様がジャンケンで決めてくれといい。
ジャンケンの結果は現状を見れば察してもらえますよね。
「リエラちゃんドレスを持ってきましたよ」
「えっ!?あっ、はいっ!今開けます」
ドアを開けるとマルカさんがドレスを持って部屋に入って来た。
(ドレス用意されてたんだ)
慌てて出していた私服を纏めてクローゼットの中へと投げ込んだ。
後ろを振り返る。
大丈夫バレていない。
「何をしてるんですか。時間もないのでこっちに来て」
「は、はいっ!」
リアはマルカさんのサポートをする為横に控えている。
リアがチョキ、私はパーを出して希望をバッサリと切られて負けました。
それがこの立ち位置の差。
リアは随分と余裕そうで羨ましい。
「ほら、ちゃんと立って!背筋がまっすぐじゃないとドレスが乱れるんだから」
「す、すいません」
ドレスなんて着たことないからどうやって着たらいいかなんてわからないのでマルカさんにすべて任せる形でどんどん着付けがされていく。
「うっ」
「少しきつかった?」
「いえ、平気です」
最後に腰のリボンを固定されて着付けが終わった。
普段はズボンが多く、制服はスカートだけどこんなに長くなかったからなんだか着慣れない。
動くとスカートが邪魔をして何とも動きづらい。
気を付けないと裾を踏んで転んでしまいそう。
(貴族っていつもこんな動き辛い服を着ているの!?)
これでは満足に動けないではないか。
「初めてのドレスに戸惑っているのは分かるけどまだ髪を纏めるからじっとしていて」
マルカの手にはドレスと同じ色合いのリボンを持っていた。
「あの、お願いがあるんですが……」
暫くして私は部屋を出てウィレム様の待つリビングへと赴いた。
やっぱり動きづらい。
このヒールっていう踵が高くなっている靴が余計に動き辛さを促進している。
階段を下りるのも一苦労だ。
リビングには既にウィレム様とリアが待っていた。
ウィレム様は……普通だ。
着慣れているからか違和感がない。
実に自然体だった。
これが服を着こなすというのでしょう。
服に着させられている自分とは大違いです。
更に自分のドレスに自信がなくなっていきます。
「……どうでしょうか」
歩くのにも苦戦しながら精一杯の礼をして皆の反応を疑う。
最初に反応したのはリアだった。
「リエラ、可愛いよっ!いつもより女の子って気がする」
「ちょっと、それじゃあいつも私が女の子じゃないみたいじゃない!」
「そんな事ないよ。ねぇ、ウィレム様?」
リアがウィレム様に投げかけた。
心臓がドクンと高鳴る。
ウィレム様の方を向くのがちょっと怖い。
どんな反応をするのだろう。
似合ってるって言ってくれる?
それとも似合ってない?
馬子にも衣裳って言われるんならまだいいけど子鬼の正装とか言われたら立ち直れない。
いくら綺麗な正装服であったとしても子鬼が着ればボロ布と変わらないって貴族がよく市民に使う言葉だ。
しかしいくら待っても返事はなかった。
何も言われない。
我慢できずに顔を向けてしまう。
ウィレム様は固まってしまっていた。
もしかして絶句してる!?
私そんなに似合わなかった!?
「ウィレム様!何固まってるんですか!?」
リアが慌ててウィレム様の身体を揺さぶって再起動させた。
「……あの、どうですか?」
「えっと、あの……」
「やっぱり似合ってませんか」
当然よね。私は元冒険者の一市民なんだから……。
「そんな事はないっ!」
ウィレム様顔っ!顔近いです!
「少しいつもとイメージが違ってて。でも凄く可愛いし似合ってる。それについては命を賭けてもいい」
「ですよね、ですよね!リエラ可愛いですよねっ!」
ウィレム様そんなことに命かけないでください。
それからリアも落ち着いて、
「それにその頭の」
「あっ、それいつもの簪!」
ボッと顔が熱くなった。
「えっ、あの、駄目でしたか?」
「構わないよ。良く似合ってる」
「…………(カァ~ッ…)」
ここで頭撫でるとかウィレム様ずるいですっ!!?
「ウィレム様そろそろお時間です」
見かねたマルカさんが助け舟を出してくれた。
ウィレム様の顔が離れる。
びっくりした。
……でも似合ってるって言って貰えた。
お世辞でもなんでも嬉しい。
何より簪の事を気づいてくれると思いませんでした。
「リエラも喜んでないで早く馬車に乗りなさい」
「すいません」
私は急いで馬車へと向かった。
(やばい顔がにやけちゃう。引き締めないと)
そしてパーティー会場に到着。
周りには私なんかより綺麗にドレスを着こなすご令嬢やウィレム様と同じようにスーツ姿のご令息が其処彼処にいて緊張で上手く体が動かない。
いつも一緒にいるリアも、頼りになる先輩のマルカさんも、無敵超人のシルバ様もここにはいない。
馬車を下りてすぐに別々になってしまったから今は一人だ。
「リエラ緊張し過ぎだよ。
リラックス、リラックス。
別にただの学園のお祭りと変わらないから大丈夫だよ」
尻込みする私の肩をそっと掴んで引き寄せられるとそのままウィレム様にエスコートされる形で会場入りする。
その手がとても頼りになると感じたのは一瞬だった。
視線視線視線視線視線視線視線視線視線視線視線視線視線視線視線視線視線
これまでの人生で味わった事のないような見られているという感覚が濃厚に襲ってきた。
正確には私ではなく私の隣を歩くウィレム様への視線ですがウィレム様を見た後に値踏みする様に私にも視線が飛んできている。
気持ちが悪い。
見られているというだけなのに精神がすり減っていく。
ウィレム様はいつもこんな視線を受けているの。
「おい、あれって第七王子だろ」
「隣にいるのは誰だ?」
「見ない顔だな」
このパーティーの出席者は限られているので顔見知りの方は多いのだろう。
だから私を見て首を傾げている。
仰る通りこんな立派なパーティーに出席なんてできないような一般市民です。
だからそんなに見ないで!
場違いです。場違いすぎます!
穴があったら入りたい気分です。
こんな中で踊るんですか!?
「リエラこっち来て」
「ううう~~何ですか?」
「なんでもう死にそうになってるの!?」
慣れてる人には分からないですよ!
私が雰囲気酔いしてる間に何人も相手にしているウィレム様には分からないですよ!
それも普段よりいい顔じゃないですかっ!
あっ、待って置いていかないで下さい一人にしないで!
「飲み物いる?それともなんか食べる?」
「いえ、今は食欲が湧きませんので遠慮します」
「ならついて来て」
腕を繋いで引っ張られるままに連れていかれる。
移動するとその分見られてる気がして出来ればダンスの時まで隅っこで大人しく待っていたいなぁ。
しかし目的地についてウィレム様に感謝した。
「あっ、リエラさん」
「リエラも来ていたの!」
「ウィレム様のパートナーね。そのドレス似合ってるわよ」
そこにはマユキの派閥に所属してる貴族の子達が集まっていた。
マユキ様はいないみたいだけど副長のミーナ様はいらっしゃる。
「マユキ様は欠席よ。それから男爵と子爵の子達は来てないからこれで全員よ」
え?これで全員ってここにいるの8人で派閥の総数は50だったから2割未満しか呼ばれてないの!?
「驚くことではないでしょ?昼間ここにいる何百倍って生徒で行った冬王祭を見たでしょ?他の派閥と比較して考えれば50人しかいない私達のような派閥はこんなものよ」
「そうなんですね」
周りを見渡すと10~30人ぐらいの集団は結構いるのでマユキ様の派閥もその位はいるのだと思ってしまっていた。
「それじゃあリエラをよろしく頼む」
「はい。頑張ってきてください」
知り合いに会って緊張感が取れたのを確認したのかウィレム様はミーナ様に私を預けてどこかへ行ってしまった。
しかもちょっと乾いた笑いだ。
「あの……ウィレム様はどこへ?」
「ストレス畑ね」
意味が分かりません。
「ウィレム様は王族だからこれからこの中でも更に高貴な方々の集まりの場へ行かれるのよ」
「ウィレム様のご兄弟?」
「それに他国から留学している王族やマユキ様と同じ公爵の方達もね」
マユキ様以上の方しかいない集まり……駄目、想像がつかない。
「お相手がマユキ様ならともかくあなたを連れていく訳にはいかないから私達に預けていったのよ」
「頭を下げられたのには驚いたけどね」
「だから時間が来るまでここで食事でもしていましょ」
そうだったんだ。
ウィレム様しっかり私のこと考えてくれてたんだ。
うぅ、ありがとうございます~~。
「それから忠告しとくけど無暗にここから離れないようにね」
「一人でいると囲まれてそのまま連れてかれたりするから」
なんですかその人攫いみたいなの!?
「あそこにいる大きな団体分かる?」
え~と、あの50人以上の規模のグループですね。
「あれは第一王子のファンクラブよ」
「ファンクラブ?」
それってなんですか?
「次にあっちの集団」
え――――、スルー!?
そして指さした方には確かにもう一つ集団が見える。
「あれは第二王子のファンユニオンね」
今度はユニオン!?
「一人だとあの集団に勧誘させられるわ」
「(ファンやユニオンは分かりませんが兎に角ヤバい集団のようですし)こ、断ったら?」
「承諾するまで会員メンバーに取り囲まれて逃がしてもらえなくなります」
何が怖いのか今一ピンとこない。
それが伝わったのか他の子が補足してくれた。
「宗教勧誘のしつこいのって考えると分かりやすいかな」
分かりやすい!
そして怖くなりました。
絶対に離れません。
街で宗教の勧誘を見たことがありますが普通で大人しそうな人が凶変していました。
背筋が冷えてすぐに立ち去りましたが勧誘を受けていた人は青ざめてましたね。
つまりあの方々は王子の崇拝者って事ですか。
「ご忠告ありがとうございます」
「いいわよ。私達はこういった席には慣れてるから分からない事は聞いてね」
「他にもいろいろとマナーがあるから」
「それならある程度はウィレム様から」
「男は知らない女性だけのマナーもあるのよ」
それからはマユキ様の派閥メンバープロジュースのパーティーのマナー講座”初心者編”が開催された。
皆さんは私とずっと話していて大丈夫かと聞いたらこのパーティーは自分達も立場的に低い。そういった立場の低い者はあまり自分の方からは話し掛けず相手が話しかけてきた時のみ対応するらしい。
ただし私は貴族について何も知らないのでもしも話しかけられても私達からは離れないでと言われた。
私としてもそれで問題を起こしてウィレム様に恥をかける訳にはいかないので素直に従った。
そうはいっても私なんかが声を掛けられるわけがないですけど。
・
・
・
・
そして緊張していたパーティーは彼女たちの御蔭で恙無く進行して遂に本命であるダンスの時間がやって来た。
音楽が鳴り会場は中央を開ける様に移動を始めた。
そして二組の男女がその開いた空間に出てきた。
「あれってクーデリア様ですよね?」
「クーデリア様と面識があるの?」
「はい、喋ったことはありませんが紹介はされました」
「やっぱりウィレム様の従者ってすごいのね」
なんか皆様から感心されました。
凄いのはウィレム様で私ではないのですが。
「他の人は踊らないんですか?」
「ダンスにも流れってものがあるのよ」
「まず一曲目が始まったらそのパーティーの招待客の中で最も地位の高い男性とそのパートナーの女性が踊りを始めて徐々に人数も増えていくの」
「今回の場合は主催者は学園で最高位は”最後の審判ジャッジメント”の代表がすることになってるわ」
そう言えばウィレム様からも説明されてましたね。
それにしてもクーデリア様堂々としています。
会場全員の視線がその二人に集まっているのにまるで動じていない。
当たり前のことなのだが今の私にはそれすら凄いと感じた。
「ってリエラのんびり見てる暇ないよ」
「そうですわね。すぐに準備した方がいいわ」
そうだったっ!
地位の高い人からというならウィレム様はもういつ出ることになってもおかしくない。
「リエラ」
タイミングよく人込みを掻き分けながらウィレム様がやって来た。
「遅れてごめん。厄介なのに掴まっちゃって」
ウィレム様が来るとさっきまで私を囲んでいたミーナさん達は一歩引いている。
小さなスペースができていた。
私の前に立つ。
「改めて僕と踊ってくれますか?」
差し出された手。
私の鼓動が再び早くなる。
でも自然と言葉は出た。
「喜んで」
私はその手を取るとウィレム様は一瞬笑みを浮かべてそのまま手を繋いで中央へと歩み始める。
集団から出ると会場入りした時以上の視線が私達に集まるのを感じる。
また緊張して来た。
「笑って」
「えっ…」
私にしか聞こえないような小さい声でそう囁いた。
「自身のなさそうな態度だと余計に視線を集めるよ。大丈夫。これは貴族の宴ではあっても貴族の子どもしか参加しない学園の行事だから」
「でもそれではウィレム様に恥を」
「ダンスは男性がリードするもの。
だからリエラは僕に任せて導かれるままに動けばいいから」
そう言って振り返ったウィレム様に私は見惚れてしまった。
私は全く自信が持てない。
だからこそ私はウィレム様の言葉を信じ私のすべてを委ねる事にした。
全神経をウィレム様に集中させる。
いつしか周りの視線は感じられない物となっていた。
「僕の肩の手をやって」
私が手を置いてすぐダンスは始まった。
◆
季節は冬。
この日はとても意外な日でした。
私の通っているイシュガル天冥学園は今、長期休みで王都へ戻ってきています。
王都に戻ってきて休暇を満喫する。
私の認識では休みの貴族というのはそれが当たり前だと思いましたが違います。
答えは連日に告ぐ連日のパーティーでした。
一つの家が何回もではなく何家かが日を跨いで行い、それが何グループもあると連日続きのパーティーになるんです。
ビックリですよね!
平民では一回やるだけで借金奴隷行きになるようなパーティーが毎日行われるんですよ!
いったいこの数日間だけでどれだけのお金が動いたのか分かりません。
少なくとも私の一生分は余裕でありますね。
そして真に凄いのはそんなパーティーの招待をバッサリと断ってしまう私のご主人様ですが。
豪華な招待状を破り捨てたのには焦りました。
あんな豪華な招待状、私なら恐縮しちゃうのに何の迷いもなく破るんですもん。
もちろん断るのにも意味があるそうです。
細かい理由は聞きましたがあまりよくわかりませんでした。
派閥間の問題だそうですがマユキ様の派閥と何が違うんだろう?
あとマユキ様の派閥のパーティーから私も招待状を貰いました。
ウィレム様の招待状と比べると簡易な物ですが初めての招待状に貰った時に思わず飛び上がってしまうほど喜んですぐにウィレム様に休みを貰う許可を貰いに行きました。
ウィレム様から参加の許可をもらってリエラと揃って参加。
規模は小さいものだったけどお菓子が凄く美味しくって沢山食べちゃった。
リエラがなんか言いたそうな顔を何度もしていたけどリエラも食べたかったのかな?
そんな感じでここ最近は王都で過ごしていたんだけど今日はパーティーではありません。
どちらかと言えば休みの日ですね。
珍しくウィレム様はサランダ先生の授業も剣の鍛錬も何もなくただの暇な日でした。
行事はない、パーティーもない、来客も来ない。
何もなさ過ぎて暇だったのでしょう。
「よし教会に行こう!」
そんな事をウィレム様が突然言い出しました。
何故教会に?お祈りにいくの?、と一瞬思いましたがどうやら違うようです。
……教会……教会……あっ!
結果報告だけだった上に学園に入学する前の事でついつい忘れてしまっていました。
教会にはアルマーレ院があります。
つまりアルマーレ院に入学させたシオちゃん達に会いに行くという事だったようです。
「あの、すみません。これからシルバ様の手伝いを頼まれてまして」
「そうか、ならリエラはそちらに行ってくれ。僕の方はリアとユリだけで大丈夫だから」
「ありがとうございます」
どうやらリエラは来れないらしいです。
私の方には来ていないけどシルバ様の手伝いって何だろう?
分からないけど兎に角私はウィレム様とユリと一緒に教会に行くことになりました。
……ユリはいるけど陰から出てこないし実質二人っきりというものですか!?
教会は街の住宅街と貴族街との間に建っているでっかい建物です。
流石に王城やイシュガル天冥学園よりは小さいですがあれは規格外なので今まで見た建物の中でダントツに大きいです。
「いらっしゃいませ」
「見学いいかな」
「はい。構いませんよ」
ウィレム様は教会から出てきたシスターと挨拶しています。
シスターさん綺麗な人ですね。
目がキラキラしています。
ウィレム様はお金を渡しています。
なるほど。
チップですか。
やっぱりウィレム様も男の子なんですね。
えっ、違う?
献金?チップじゃないの?
違うらしい。
お金を受け取ったシスターが扉を開いて中へ案内してくれる。
圧巻です。
まず目に留まったのは真正面の巨大な十字架。
私の背の倍以上の大きさです。
そして均一に並べられている木製の椅子に彫刻の掘られた壁。
何より凄いのは十字架の後ろにある巨大な女神像。
結晶石で作られている綺麗な女神様です。
私なんかでもなんか神々しい感じがします。
感動ですぅ~。
「凄いな」
ウィレム様も目が離せないようです。
姿を見せませんがユリもきっと感動してますね。
暫く女神像を鑑賞するとようやく本題のアルマーレ院に向かいました。
アルマーレ院は教会だけど教会の一部というだけでここじゃないみたい。
ここが本館だとするとアルマーレ院は別館。
それでも凄く大きな建物みたいだけど。
「今は授業中みたいだな」
窓から教室の中の生徒達が勉強しているのが見えます。
イシュガル天冥学園と違って先生が授業をしてるって感じじゃありませんね。
「自習中か?」
「いえ、アルマーレ院は見ての通りクラスと言っても年齢層はバラバラですから教師が授業を進めるとレベルが合わないんですよ」
「なら年齢別にすればいいだけじゃないんですか?」
「そうすると教室も教師も足りなくなりますよ。ここはイシュガル天冥学園程人材がそろっている訳ではありませんから」
どうやらアルマーレ院はクラス二部屋、全て自習制で教師は分からない事の相談役としているそうです。
自習の問題はアルマーレ院が用意していて学力に合わせて配られる。
それで学力が向上したら次のステップに進み規定した学力が身についたら卒業ってなるそうです。
これもイシュガル天冥学園と違って卒業は学年ではなく成績で学力さへ規定を越えれば年齢に問わず卒業でき、逆に学力が身につかなければ卒業とはならない。
稀に凄く早く卒業する者もいるそうだが基本2~3年は掛かるそうだ。
教会の鐘が鳴った。
「丁度授業が終わりましたね。それでは話を通していきますのでここで待っていてください」
そう言ってアルマーレ院に入っていったシスター。
シスターが戻って来るまでぼ~っとしていると教室から生徒がこちらに気づいた。
「ウィレム様!?なんでここに!?」
声を掛けてきた生徒は私の知らない人でした。
そもそもシオちゃん以外知りませんが。
私より少し年上って感じです。
「学園が休みでな、王都に帰って来たから暇つぶしも兼ねて様子を見に来た」
ウィレム様は知っているようです。
意外とフレンドリー?
「こっちが俺の従者でリアだ。リア、ギルド取締の際の会議で出てきたランさんだ」
ランさん……あぁ、一番最初にウィレム様の意見に賛同した!
「ウィレム様の従者のリアです。よろしくお願いしますランさん」
「え、ウィレム様の従者って事は……貴族様?」
「いえいえっ、平民ですよ。私もウィレム様に拾われた身です」
「あっ、そうですか」
なんでしょう?
なんか昔の私を見てるようです。年上ですけど。
貴族と聞けば雲の上の人、王族は別の世界の住人というのが平民の感覚で恐れ多い存在でもあります。
最近は貴族の友人までできてその認識が少し麻痺していました。
「勉強の方はどうだ?」
「はいっ、だいぶ文字が読める様になりました。これもウィレム様のおかげです」
それは凄いです。
このご時世貴族でなければ文字はある程度単語さえ覚えておけば何とかなってしまう。
だから読めるというのは大きなアドバンテージになります。
私はサランダ先生に力ず、強せ、無理や……手取り足取り丁寧に教えてもらいました。
なぜでしょう。
あの時の事を思い出すと手が震えます。
「しっかり励んでるんだな」
「みんな家族から期待を受けてますから」
ランさんは……両親が城の下人をしてるんでしたね。
下人の仕事は仕事環境が酷いと聞きます。
その代わりに子供をここに通わせているんですから親の期待も当然ですね。
「王子!?」
「王子様だ!」
教室から他の生徒達も姿を現した。
ウィレム様が子供たちに囲まれていく。
「ウィレムさまあそぼ―!」
「あそぼ―!あそぼ―!」
「おいおい、落ち着け服は引っ張らなくてもついて行くから」
なぜでしょう。
子供達というが年齢はウィレム様と変わらないはずなのにやたらとウィレム様だけ年上に見えます。
……というか子供達王子相手に失礼でしょ!
常識知らな過ぎ!?
周りの年長組の顔が真っ青になっちゃってますよ!
「よし!それじゃあドロ……盗騎士トウキシやるか!」
「トウキシ?なにそれ」
『なにそれ何それ!』
私も知らないんですが?
………(ルール説明中)。
なるほど。
盗賊役と騎士役に分かれての追いかけっこですか。
ルールも簡単で年齢の低い子でもできますね。
ただその名前はどうなのでしょう?
ウィレム様のネーミングセンスにちょっと不安を感じますね。
「よしそれじゃあジャンケンして負けた奴は30秒数えたらスタートな。盗族隊、逃げろ――!」
『わあぁぁ!』
流れで私やランさん、その他の子供たちまで参加することになりました。
そして意外ときつい。
なんか私狙われてません!?ずっと追いかけられてるんですが!?
それから結構な時間が経過した。
みんな汗をかき息を上げているがその顔は楽し気である。
実際、私は楽しかったです。
「それじゃあ俺は帰るけどみんなしっかり勉強して卒業するんだぞ」
『は――――い!』
ウィレム様が手を挙げると子供たちがみんな手を挙げて返事をする。
もうしっかり子供たちの人気者だった。
年長者の人達もまだ少し緊張はあっても最初の様に萎縮している者はいない。
そして教会に挨拶して城に帰った。
城に着くと服が汚れててシルバ様に酷く怒られました。
えっ?これで終わりですよ?
何が意外だったのか分からない?
意外だったじゃないですか!
王族が平民と遊んでるんですよ!
誰かに言っても信じてもらえないような事じゃないですか!
次の日に昨日は家の手伝いで休んでいたシオちゃんに話したら笑って納得されました。
ウィレム様と関わると常識が麻痺していくのではないでしょうか?




