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36.男爵の実/魅惑のたれ

 私の名前はシーリーン・ミュウミュウ


 ローグレイ王国の王都で小さな雑貨屋をやっているお父さんの一人娘です。


 お母さんの職業はなんと女冒険者。


 普通逆ですよね。


 お母さんは家に一日中いる時もあれば何日も家に帰ってこない時もある風来坊でお父さんが言うにはお母さんの受けている依頼は隣町への護衛が主だからだそうです。

 それなりに稼ぎはしているみたいだけど最近冒険者は問題を起こしたと聞きます。私としてはそろそろ冒険者を引退して危ない事から足を洗ってもらいたいと思っています。

 それについてはお父さんも思っている様で前々から何度か話をしているみたいだけど押しが弱いからなんだかんだ言ってお母さんに逃げられてしまっている。

 今回の事件を出して何とか説得して欲しいけど……お父さんがお母さんに勝てる気がしないなぁ。


 親の話はもういいや。


 それよりも大事なのは街で噂の美味しい話です。

 私のお店と同様この王都で店を構えている小さなお店がここ最近になって急激に売り上げを伸ばしているというものです。


 お店は三軒。


 どこも半年前までは特に噂にも立たない地味な普通のお店だったのですがあの夏の騒動後心機一転して今では連日行列も出来ているそうだ。


 お父さんが言うには私はその内の一軒だけ行った事があるらしい。

 でも生憎と行ったのは4年ぐらい前で印象に残っていない。


 お父さんは覚えていたのでどんな感じか聞いてみたが私の店と変わらない感じだったと言っている。


 そもそも4年前では参考にならないか……。


 どうやってお店を進化させたのかは誰も知らない。

 王族が関わっているって噂が有力らしいんだけど一介のお店に王族が関わるって有り得ない与太話でしょ。


 兎に角確かめねばならない。


 ただ食べに行くのではない。大事なのは私の店にもいいところを取り入れてその流れを引き込むことだ。


 相手は飲食店。


 雑貨屋の家とはそもそもジャンルが違うのだけれどここは王都。


 美味しいだけで噂が立つほど甘い場所ではない。


 きっと何か秘密があるはず。


 ……


 噂に上がる程なので覚悟していましたが凄い客足でした。


(半分ぐらい私の店にくれないかなぁ。ここの十分の一でもうちの店に来てくれたら、助かるのに)


 お店は私の家と同じぐらいで見た目は普通。

 ここも噂通りでした。というより予想通り過ぎるほど普通です。

 こういった噂ではライバル店が嫌味で店の評判を下げようとして小さい店だと言ってるのかと思いましたが噂に違わぬ店構えです。


 そんな店の前まで続く行列。


 私行列は高級店の専売特許だと思っていました。


 キュルキュル

 ~~~!!


 時間は昼時。

 私のお腹が空腹を訴えてきました。


 ……私の財布には三か月分のお小遣いが入っています。

 普通なら余裕で足りると思うんだけどこの行列を見てちょっと不安になります。


 ……並びましょう。


 私は意を決して人生初の行列に足を運びました。




 やっと私の番が来ました。


 行列には初めて並んだけど本当にやる事なくって暇でした。

 そして暇なのに季節は冬で動かないで待っていたから手足が寒い。

 他の人達は並んでる間が暇なのを知ってか二人以上や暇潰しになる物を持っていたりと準備をしていてとても羨ましい。

 でも今更列から離れる訳にもいかないし我慢するしかない。


 こんなになってまで待たされて不味かったら訴えてやる、とできもしない事を思いながら少しずつ進んでいきます。

 何故そうしたのか分かりませんがなんとなく私は必要以上に強気で来店しました。


「いらっしゃいませ」


 ……うん、負けた。


 初っ端から完全敗北。


 さっきの意気込みなんて何の意味もなかった。

 寧ろこの敗北感を何とか持ちこたえる為に強気でいたのかもしれないとさえ思う。


 何この従業員!!。

 服が凄く可愛い。


 それも後ろの二人の従業員も同じ服着てる。


 制服?

 この店の従業員はこの服着れるの?!

 何それ羨ましい。


 どう見ても私の服より可愛いもん。

 反則だよ。


 席に案内されてる間、私はずっと制服に視線を奪われてしまった。



 キュルキュル

 ~~~っ!


 分かってるから鳴らないですぐに注文するから。


 従業員に圧倒されたけど店の内装は外見通り普通だ。

 机も椅子もメニュー表も他のお店となんら変わらない。


 これはあれかな?

 あの従業員見たさにお客さんが来てるのかな?


 有り得る。


 ここって飲食店だけど甘味物が美味しいってお父さんが言っていた。


 なのに来ている客層は女性も多いが男性の団体も結構いる。


 くっ、男の純情を狙った戦略だったのね。


 でも飲食関係ないなら取り入れられるかも。

 あの制服と同レベルとなると高そうだけどお父さんに無理して頼めば……。


「あの、ご注文は決まりましたか?」

「えっ」


 私が思考に耽っていたら従業員さんに声を掛けられてしまった。


 そうでした注文しないと、


 どうしよう。

 昼食取りに来たから甘い物ではなくお腹に溜まるものがいい。

 でもガッツリ食べるとまたお腹が……。


 注文票を見てもどれがいいのか余りよく分からない。


「あの、軽い物でなんかオススメないですか」

「そうですね。お客様は初めてですよね?」

「は、はい」

「ではこのダンシャクバターでしょうか。このお店の新作ですよ」

「じゃあそれで」


 注文を終えた従業員はにこやかに席から離れていく。


 それより私の注文したダンシャクバター。

 つい言われるがままに注文しちゃったけど。


 うーん、ダンシャクというとあの地獄男爵の実でしょうか?


 あれって作物としてはどこへでも生えるから有能だけど食あたりを起こす事もある。

 生活が苦しい時や食糧難の時に食べる代表格で貧相なイメージが強く飲食店にはまず使われない食材。


 子供の頃、経営難の時に食あたりにあって一晩腹痛と高熱にうなされて大変な目に遭った。


 地獄男爵の実は正式名称は男爵の実だったのにその食あたりの酷さから地獄も加えられたんでしたっけ?


 そんな食材を使うなんて。


 やっぱり従業員重視の店で料理は二の次なのかも。


 今更取り消すわけにもいかないけどちょっと不安になって来た。


 どうか食あたりにだけはなりませんように。




 暫くして従業員さんが再びやって来た。その手にはお皿が遂に注文した品が来た。


「お待ちどうさま。ダンシャクバターです」


 出てきたのは確かに私の良く知る男爵の実でした。


 でも出されたダンシャクバターからは今まで嗅いだことのないとてもいい匂いがしてきます。


 湯気が立ち込めてとても美味しそう。


「ご注文は以上ですね。会計の際はこちらの札を私達にお渡して札に書いてある金額をお支払いください」


 渡されたのは木の札で文字と3と書いてある。

 つまり銀貨三枚。


 予想より全然安い。


 これなら週一で食べに来れる値段だ。


「でもいくら安くてもやっぱり男爵の実は」


 私はフォークを持ってダンシャクバターに突き刺した。


 ッ!?


 なにこれ!?スッと刺さった。

 あの男爵の実の抵抗感がない。


 横にスライドさせると私の思った通りの形で切る事ができた。


 切った先からまた新たに湯気が立ち込める。


 家で食べる男爵の実は中まで火を通そうとすると中に火が通る前に外が焦げてしまう。

 でもこの男爵の実は外に焦げた感じは無いのに中までしっかり火が通っている。


 普通に焼いてもこうはならない。

 一体どうやってこんな中までホクホクにしたのか、私には見当もつかなかった。


 しかし問題は味だ。

 取り敢えず一口サイズに切った男爵の実を口へと持っていく。


「ハフッ!?」


 熱い。

 凄く熱い。


 熱くて口が閉じられない。


 ハフハフと口から湯気が出ていく。


 ―――でも、


「美味しい」


 食べ終わった私は自然とそう口にしていた。


 本当に男爵の実?

 この口の中で溶けるみたいに崩れる柔らかさと私の知る男爵の実の固さが釣り合わない。


 ……でも、


「美味しいけど物足りない……」


 味が口に残って次が進まない。


 何かが足りないと私の味覚が訴えていた。


 ?


 そこで私はある事に気がついた。


 さっきまで男爵の実にばかり気にしていたがこの品には男爵の実以外にも食材があった。


 この男爵の実の真ん中に置かれているコレ。

 名称からこれはバターだろう。


 あのパンに塗る事のある乳の塊。


 ……男爵の実の上にかけているってことは男爵の実と一緒に食べてって事よね?


「……(ゴクッ)」


 私は改めてフォークを取って今度はバターの着いた男爵の実を食した。


「!?……んんん~~~っ!!」


 さっきまでも美味しかったけどバターにつけた男爵の実は数段旨味が増した。


 男爵の実の癖のある味を抑えて程よい甘さを与えてくる。


 駄目だ。


 これは駄目だ。


 もう止められない。


 湯気で開いた口を塞げずハフハフ言いながらどんどん口の中に入れてしまう。

 もうフォークが止まらない。


 こんなの人気が出ないはずがない!!


 従業員なんて関係なかったのだ。



 ……もう終わってしまった。

 もう掬う物がない器を眺め固まったままになった。


 もっと食べたい……。


「あの」


 横からの声。

 そこにはさっき注文を取ってくれた従業員さんがいた。


 さっきと変わらない優しい笑顔の営業スマイルだ。


 だが今は印象が違って見える。


 この笑顔はただの優しい笑顔なんかではない。

 何もかも見透かされているからこその笑顔だった。


「御代わりはいかがですか?」


 まさに悪魔の囁き。


 私の財布のひもが緩まった瞬間を狙った攻撃。


 にっこりと笑う顔の裏で確信を持っているのを感じる。


 ……お店の事はもう分かった。

 これ以上いても店の取り入れの参考になる事はない。だからここからはもうただの私腹を肥やすだけだ。


 分かっている。

 だから屈するものかと私の善がここで席を立とうと促しているのだが、


「お願いします」


 私にこれを我慢するなど出来ません。


 悪魔の囁く一言で私の天使の百回の囁きは脆く崩れました。


『銀貨三枚ならまだ余裕がある』


 その思考がもう私の紐を緩めに緩めた。


 その後三杯もお代わりしてしまった。


 結局想定していた分だけお小遣い切っちゃいました。



 でも後悔はない。


 ……いいえ、待って下さい。

 もしかして男爵の実であれだけ美味しかったのだから他のも頼めばよかった!?


 注文にはまだ私の知らないメニューが何個かあった。

 それはダンシャクバターより美味しいのかもしれない。


「これは……また来ないとですね」


 こうして私はリピーターになりました。



 この日、私の中で男爵の実の評価が著しく上がったのは言うまでもありません。





 ◆





 私の名前はセーラン・ミュウミュウ。


 アファネを拠点に活動している冒険者だよ。


 ランクはAランク。

 それなりに冒険者歴は長いと自負しているわ。


 家族は夫が王都でお店を開いていて娘との三人暮らし。


 夫の収入はお世辞にも稼いでいるという訳ではないね。

 小さいお店だからかお客さんが少なくって収入は生活費と維持費でほとんど使われてしまい、手元には僅かな金銭しか残らない。

 それでは貯金もできないからちょっとのことで倒産してしまう。


 そこを私の稼ぎで何とかしないと。


 それなのに最近夫がやけに私に引退しないかと持ち掛けてくる。


 夫としては私に危険な仕事をして欲しくないんだろうけどその後の生活の事は考えているのかね。


 まぁ、大抵は夫婦喧嘩になっても最後にお店の収入の少なさを言ってやれば押し黙らせれる。


 問題なのは娘の方だ。


 娘も最近夫の味方をするようになった。


 そしてこっちは完全にその後の生活の事は頭になく、ただ純粋に私を心配して言っているので何とも断り辛いのだ。


 夫に似て優しい子に育ってくれたのはいいけどもう少し世間を知らないと駄目だね。



 家族の話はこの辺で止めましょう。


 私は今ギルドの護衛依頼を終えて久し振りにアファネに帰って来た。


 夏のべヒモス騒動の時、私は丁度依頼で隣町に行っている間に起きていて関わる事はなかった。


 だけど私もアファネの冒険者という事で適正テストを受けることになり、その後に起こった盗賊団の襲撃でアファネに帰れず満足に依頼を受けられず夏の収入は例年より少なかった。


 その後も何とか収入を上げようギルドに通ったがギルドの腐敗で依頼が激減。


 冬になってようやく仕事が戻ってきたところである。


「依頼は終わったけどお腹も減ったし食べてから帰ろうか」


 ギルドに依頼終了の報告をして後はもう家に向かうだけだったが時間は昼時。


 どうせ家に帰っても私の飯は用意されていないだろうから何かお腹に入れてから帰らないとね。


 私は商店街に足を運ぶことにした。


 ……


 私、店を間違えただろうか?


 私の前には人だかりができていた。


 前に来た時と人の流れが変わっている。

 この辺の人通りは多くなかったはずだが……。


 私が目指しているのは焼き鳥屋”グリルバード”というお店だ。


 夫婦で経営している飲食店で開店当時からこうして街に帰ってきた時によく立ち寄っている。


 もうすっかり顔馴染みの店だ。


 そこの店主は元冒険者で当時まだ幼い新米冒険者だった私に冒険者のイロハを教えてくれた師匠みたいな関係だ。

 向こうはどう思っているか知らないがね。


 急に冒険者を止めて店を開くっていった時は驚いたが気にも留めなかった。

 妻子持ちになって身を固める冒険者は多い。

 あいつももういい歳だったし不思議な事ではなかった。

 だからまさかドブラの野郎が騙して借金を作らしていたとは夢にも思わなかったよ。


 もう捕まっちまった後だが一発殴りたかったね。


 おっと話が逸れちまった。


 店のメニューは店名の通りグリルバードの肉を使った焼き鳥。


 鳥類にお肉は数が少なく、また捕獲も難しい為他の種類のお肉よりも少々高い。


 でもオークの肉のような脂っこさはなく食べやすい。


 ギルド時代の付き合いで結構常連さんもできている良いお店だと認識していた。



 だがこれはどういうこと?!


 店の佇まいは夏明けに訪れた時と変わらない。


 だけど店に訪れている客の数が異常だ。


 この店は常連はいるが客はいても精々満席になるのがやっとだったはず!


 なのに……なのに……待ち時間だって!?


 すぐに食えないのかい!?

 もう私のお腹はすぐに焼き鳥を食べたいと騒いでいるというのにっ!!



 私の目の前にはまだ席が空かずに待っている客と無常とも言うべき半刻待ちを知らせるグリル君(12歳の長男)だった。


「どうにかなんない?」

「皆さんも並んでいます。我慢して並んでください」


 私の必死の願いはあえなく切り捨てられた。


 そして差し出される順番札。


 半刻……半刻かぁ……。


 これから別の店探してもいいけど、もうお腹は焼き鳥モード。

 でも他の焼き鳥屋はこの辺にはなかったはず。


 結局他の焼き鳥屋を探している間に半刻経ちそうよね。


「……本当に半刻よね」

「はい」


 私はグリル君から札を貰って席に……席も空いてない。


 こっちは依頼終わりの腹ごしらえに来たっていうのにこれで半刻過ぎたら訴えてやる!




 待つ事半刻。


「セーランさん席が空きましたのでどうぞ!」


 やっと私の番が来た。


 分かっていた事だけど本当に半刻待つとわね。


 もうお腹が限界に近いから早く案内して。


 席に着く。


 店内は辺り一面にお肉の焼けた匂いが充満し私のお腹に金を鳴らす。


「セーランさんは確か初めてですよね?」

「はぁ?私は何度もここに来てるじゃない」


 グリルったらもうこの歳で物忘れぇ?


「そうではなくて、うちの店メニューを新しくしまして」

「あの店主が新しいメニューを?まさか肉を変えたんじゃないでしょうね」


 私は鳥肉を食いに来たのだ。

 これでただの焼き肉にしたと言ったら店の中で暴れてやるわよ。


「いえ、お肉は前のままですよ」

「?」

「まぁ、言うより見た方が早いですね。こちらがメニュー表です。この中から好きな物をお選びください」


 いまいちよく分からないが取り敢えずメニュー表を受け取る。


 そのタイミングで他のお客さんの呼ぶ声がしてグラン君はそちらに行ってしまった。


 いても役に立たないから別に構わないが、さて、


 メニュー表を開いた私は今日二度目の驚愕をした。


「なにこれ!?」


 メニュー表には少なくとも片手で数えられる数を確実に超えたメニューの数々が書かれていた。


 今までメニューは一つだけで新作など出したことなかったのに……。


 増えたと言っても二つ三つがいいとこだと思っていた。


 料理に目覚めた!?


「いや、ないない」


 あのウッドロックよ。

 店を焼き鳥にしたのも焼くだけならできるから。でも普通の肉ではライバル店が多いから鳥肉を選ぶような男が料理なんてする訳ない!


 妻のシェヘルは料理が壊滅的に駄目だし。


 料理人を雇った?


 それこそない。有り得ない。


 ってことは……明日槍でも降るか!?


「注文決まりました?」

「え?あっ!じゃあこれとこれとこれを」

「了解。


 ……しまった。

 あんなに急かしといて注文決まっていなかったから適当に選んでしまった。


 もしゲテモノとか来たらどうしよう。


 頼むぅ~~食えるやつ来てくれ~~





 そんな祈りを捧げながら待つ事数分、注文品を持って来たのはグリル君ではなくウッドロックであった。


「お待ちどう」


 私の前に注文した品が置かれる。


 見た目は完全に焼き鳥だ。


 しかしどれも見た目が違う。


 一つ目は普通の焼き鳥の様に見える。

 肉を焼いた時の色で一番安全そうな感じだ。


 二つ目は何かがかかっている。

 ソースだろうか?

 こいつは怖いね。


 最後は肉だけではなく野菜のマキビソウが挟まっている。

 こちらにも謎のソースがかかっていて一番危険そうだ。


 どれから手を付ける?


 一番安全そうなのから?

 いや、それを行ったらもう他二つが食えなくなる。


 しかしこの一番危なそうなマキビソウの挟んだのは避けたい。


 ここはまずこの謎のソースのかかっているやつから行こう。


 私は恐る恐るソース付き焼き鳥の串を持つ。


 口元に近づけるとお肉の香りが私の食欲を刺激してきた。


 いける、


「っ!」


 意を決して口の中に焼き鳥を入れる。


「んんんんんん~~~っ!!」


 私の中で何かが壊れた。


 まずは本体である鳥肉ね。


 今までにない位美味しい。

 本当に同じ肉名のコレ!?

 全然別物なんだけど!


 何がどう変わったのかって言われるとちょっと困るけど中はホカホカなのに表面は硬くなく焦げもない。

 今までで一番の焼き加減なのだ。


 でもそんな事を気にしてはいられないっ!


 問題はこっちソースだ。


 甘い。


 この謎のソースは見た目とは裏腹に甘いのだ!


 だがスイーツやデザートのような甘さではない。


 今までの焼き鳥は美味しいが何度も食べると胃がもたれて食べるのを中断してしまっていた。


 だがこのソースは打ち消し……いいえ、中和ね。中和している!


 美味しい!

 なにこれ!?止まんない!


 気づくと私の食べていた櫛にお肉が無くなっていた。


 え!?もう一本食べたの!?


「どうだい。うちの新メニュー」


 私が一本目を食べ終わるとウッドロックが勝ち誇ったように(私視点)感想を聞いてきた。


 完全に勝ち誇ったドヤ顔だ(私視点で)。


 認めたくない、認めたくないが……。

 その判定はどう考えても覆らない。


 私は渋々ながら感想を言ってやった。


「美味しい」

「そりゃあ良かった」


 さも美味しいというのが当然の様に返してきた(私視点)。

 美味しいけど……美味しいけどなんか悔しいね。



 それより次だ。


 残っているのは何もかかっていない焼き鳥とソースがかかっているけどマキビソウの挟んである焼き鳥。


 ゴクッ


 私は迷いながらもマキビソウ付きに手を伸ばす。


 あのソースをまた味わいたいという欲求がマキビソウの存在を打ち消した。


「んんん~~~っ!!んんん~~~っ!!?」


 本日二度目の衝撃。


 まさか……まさかマキビソウがお肉の旨味を増した!?


 触感も味もまったく違う二つなのに反発しない!


 逆に常に硬さのある肉の間に野菜が入る事で食べ飽きない。


 ……二本目もあっという間に終わってしまった。


「どうだいうちの自慢のタレは反則だろ?」

「タレ?」

「お前の食った焼き鳥に掛かっていたソースの事だ」

「タレ……えぇ、反則だわ。こんなの食べたらもう他の焼き肉は食べられなくなるわよ」


 もう取り繕っても意味がないと私は正直に感想を言った。


 これはもう焼き鳥の完成形だろう。


 だがウッドロックの顔は険しい。


「そうだよな。俺もこのタレを食った時はそう思った。だがどうもこれでは未完成なんだそうだ」


 今ウッドロックは耳を疑う事を言わなかったか?


 これが未完成?


 こんなに美味しいのに?


 そいつの味覚が可笑しいだけじゃない?


「なんでもタレの調味料がなくて妥協したタレだそうだ。マキビソウも別の食材を探していたが見つからなくって妥協したと」


 なんてことだ。


 これで妥協?

 つまりこれよりも美味しい焼き鳥が存在すると。


「それで何でその事を私に?態々未完成とか製作に第三者が関わっているとかいう必要はないでしょう」

「あぁ、お前よく護衛依頼で街や村を行き来してるから珍しい調味料や野菜の情報を集めてくれないか」

「私に未完成の品を探せって事ね」


 そんなの答えは決まっているではないか。


「分かった。探してあげる。その代わりできた焼き鳥は必ず私にも食べさせなさい」


 究極の焼き鳥。

 食さず置くべきか。


「そうか、ありがとよ。そんじゃあ俺は厨房戻るから最後の一本味わって食って帰んな」


 どうやらここに来たのは自慢ではなくこの事を言う為だったらしいね。


 ウッドロックは振り返ることなく店の奥に入っていった。


「それじゃあ言われた通り最後の一本食べますか」


 しかしあれだ。


 あのソースを味わった後だと今まで通りのこの焼き鳥は劣って見える。


 一番安全だと残したのに食べる気が無くなってしまうなんて予想外だった。


「でも残すわけにもいかないからね」


 最後の一本を持って口に運ぶ。


「んんん~~~っ!!」


 本日三度目の衝撃。


 もう言葉なんて浮かばない。

 ただ無心で食べるのみ。


 後で聞いた話だと最後に食べた焼き鳥には塩ダレなる物がついていたらしい。


 グリルバードはただの顔見知りの店としての常連ではなく味の虜の常連客となった。




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