34.VS生徒
ご愛読ありがとうございます。
中校舎に入ってまず一階は捜索をするのを後回しにした。
一階には教室はなく保健室や準備室と言った教師の為の部屋が多く、またそういった部屋には必ず鍵が掛かっている。それに職員室がある為まだ先生方が残っている可能性のある一階で人気を避けている人達がいるとは考えにくいからだ。
という訳で2階から探し始めた。
しかし前世の様に廊下が一本二本で一直線で見ればいいような広さではない。
グランドの広さが5倍だったのだから校舎の広さもそれ以上なのは当然だろう。
最初は焦って我武者羅に探して回ったが二本目の廊下を走りきったところで息も絶え絶えになってしまう有り様だ。
このままではあまりにも時間が掛かり過ぎる。
上の階も調べなければならないとなると尚更だ。
夢の出来事をもう一度思い出してもう少し絞れないかと考え直した。
風景からの特定は無理だ。
見知らぬ場所では細かい違いの差など分からずどこも同じにしか見えない。
教室の場所が廊下から直接じゃなく角を曲がって突き当たった場所だったのもそういった教室は少ないようで意外とある為短縮にはあまり繋がっていない。
教室のクラスは思い出せない。
こんなことなら夢の主の素性をさっさと調べるべきだった。
ユーリと会ったのは廊下だがこれといって目印はなかった。、
……いや、待てよ。
廊下を歩くときまだの外から太陽が廊下の中に入っていた。
この世界の太陽の昇り降りは変わらない。
つまり西側か!
もしかしたら西と東で逆かもしれないがそんなこと別にいいだろう。
分からない事を考えても無駄だ。
西側なら既に二階は見て回っていた。
もうここには用はない。
廊下を引き返して三階に上がれる階段まで戻って三階に登っていく。
三階の西側に着いたが太陽の光は入ってこない。
校舎に入った頃から既に日は沈み終えている。
逃げている時にはもう太陽は沈んでいただろうが沈んでからそこまで時間が掛かっていたとは思えない。
つまり夢の時間を過ぎていて、今夢の主に何が起こっているのかは分からない状態だ。
初夢で味わった助けられなかったという絶望感。
その絶望感がフラッシュバックしてきてウィレムを襲っていた。
「いや。まだ間に合う。焦るな、落ち着け」
心臓の鼓動が高く木霊していて自分がどれだけ不安なのか隠しようがなかったがそれでも沈んでいく思考を何とか振り払おうと胸を押さえながら首を振って前を見る。
夢の続きに入ったからと言ってそれがすぐに死に直結するという訳ではない。
特に今回は貴族の令嬢だ。そう簡単に殺したりはしないはずだ。
……そう自分に言い聞かせる。
それよりもまず現場を見つけなければ。
もしこの校舎から離れて雲隠れされればそれこそ打つ手が無くなってしまう。
「ウィレム様明かりです!あの部屋は明かりがついています!」
「!?」
見える範囲で分かれ道の確認を行っていたリエラが遂に人がいると思われる部屋を発見して知らせてきた。
僕はすぐにそちらに向かう。
確かに部屋に明かりがついている。
それに廊下から教室までの風景が夢と同じだ。
間違いないだろう。
「リア、上に行ってユリを呼んできてくれ」
「分かりました」
ほぼ間違いないとリアにユリを呼びに行って貰うように指示すると二つ返事で階段を上がっていった。
ユリはともかくリア達には事情を話していないのに何も聞かずに協力してくれることに感謝した。
「よし」
自分自身を奮い立たせて教室へと歩みを進める。
「リエラ武器の用意を。すぐに突入する」
リエラは驚きながらも無言で懐の武器を取り出した。
………………。
…………。
……。
そして遂に教室の扉へと手を掛けた。
「いくぞ」
ガラッ、と教室の扉特有の音が鳴り響く。
僕自身も持ってきていた鍛錬用の木刀を構えながら教室内に入る。
教室内には予想通り黒服の男達がいた。
だが、
パシンッ、という甲高い音が鳴り響く。
「………あっ………あがっ…………」
それに続いて女性の苦悶の声にもならないもだえが聞こえてきた。
僕は思考が停止した。
後ろにいたリエラも同様だろう。
僕らはその光景が理解できず……いや、理解したくなくフリーズしてしまったのだ。
「おいおい、ここは今日人払いしたんじゃねえのかよ。次から次へと来てんじゃねえか。まったく、雑な仕事しやがって」
その間に逃走の際に指示だけで追う事をしなかったリーダーと思わしき男が僕らを見て頭を掻きながら愚痴を漏らした。
それに呼応する様に他の男達も呆れたような仕草をしている。
だがそんなもの今は無視だ。
黒服の男達の一番後ろにいるリーダーの男の更に後ろに二人。
息を切らして狂ったように笑いながら鞭を握っているユーリと、
身体を吊るされて既にボロボロの血塗れになっている夢の主、女子生徒の姿だった。
「…………………」
既に意識がないのか、それとも意識があっても反応すらできないのか。
外見からではどちらでもあり得るほど痛めつけられている。
そしてそれをしたのは間違いなく鞭を持っているユーリだろう事は容易に想像できた。
あの野郎自分の彼女だった女を傷付けてたってのか!?
状況は分かっていてもその行動に移る精神が分からなかった。
「ウィレム様!」
「っ!?」
状況の整理がつかなかったウィレムにリエラが一喝した。
普段では絶対に出さないような声にビックリしたがおかげで我に返った。
振り返ったリエラは完全に臨戦態勢に入っていた。
いつ戦闘になってもおかしくないのを分かっていて余所事を考える余裕など僕には無いのにな。
幸いにも男達はすぐに僕らを捕まえようとはしなかった。
僕らの見た目からか、それとも逃げようとしていないからか、少なくとも舐めているというのは僕らを見る男達の表情に出ていた。
「その格好、お前ら小校舎の低学年だろ?」
リーダーの男がこちらに向かいながら声を掛けてきた。
「下級生が何でこんなとこに居るのかは知らないが、武器を持って構えているのは後ろの奴を助けようって思っているからか?」
「…………」
僕は何も答えないが男はそれを肯定と受け取ったようだ。
「大した正義感だ。だが覚えときなチビッ子。そう言う正義感は死期を速める。まあ、覚えるのはもう遅いんだがな」
『やああぁあぁあっ!』
言い終わると同時に前にいた二人が襲い掛かって来た。
そこまで速くはない。
大振りだし何のフェイントもない真正面からの攻撃は避けてくれって言っているようなものだ。
避けたところでカウンター。
それだけで相手は倒れ込んでしまった。
――――なんかデジャブ。
そんなに強くない?
相手の体格と集団だという事、それにリーダーの男はそれなりに強い感じだから周りの連中も強いと勝手に思ったがそんな事はなかったのかもしれない。
立ち上がって再度襲い掛かってきたところをもう一度床にひれ伏させて戦闘不能にする。
やっぱり強くない。
ゲリオリキ君よりも速いし力もあるのだろうが最近リエラに相手してもらうようになった僕にはさして変わったように感じなかった。
隣ではリエラに迫った男はもっと悲惨に戦闘不能になっている。
「アニキこいつら結構やりますよ」
周りの一人が今のを見て焦ったように声を上げた。
その声はまだ幼さが残った声でよく見ると顔立ちもまだ子供っぽかった。
リーダーの奴は分からないがその他は15~6歳といった感じだ。
夢の主視点ではもっと怖くて大人っぽい印象だったがもしかしてこいつら生徒か?
制服じゃないから部外者だと思っていた。
「慌てるな!人数ではこっちのが有利なんだ、同時に掛かれ」
リーダーの男がそう言うと慌てていた連中は落ち着きを取り戻した。
突っ込んできた二人を見て素手では不味いと得物も取り出している。
もうさっきの様に簡単にはいかなさそうだ。
『うおおおぉっ!』
そして纏めて、……纏めて、僕の方へと襲ってきた!?
「ちょっ、4人がかり!?」
誰一人としてリエラの方に行かない。
同時に掛かれって言ってたけどみんなしてこっちに来る事ないじゃん!
この人数の斬撃は躱しきれないし受けきれない。
キ――――ン
刃物同士のぶつかる音が部屋の中に響いた。
何人もの驚いた声が聞こえ出す。
刃は僕の元まで届いていない。
4人の攻撃はすべてリエラによって止められていた。
持っていた短刀だけでは止められないと長刀も抜刀して二刀流になり二本で四本を抑えきっていた。
男達が何とか押し切ろうとしているのに全く微動だにしない。
「す、すげえ」
リエラが凄いのは分かっていたが4本を一人で止めているリエラの姿が純粋に凄い格好いいのだ。
『ぐぅう』
「静かにしなさい。斬りますよ」
『ひいぃっ!こえぇ!』
4人もリエラの力量を感じたのだろう。
襲っているはずの4人の方が震えてしまっている。
そんな4人を余所にリエラが僕の方を向き直った。
その眼光はいつもより鋭く感じるのは僕の気のせいではないと思う。
「ウィレム様が何故ここに来たのかは詮索しません。貴方の好きな時に打ち明けて下さい。でも一つだけ言っておきますが私もリアももうあなたの従者です。その事をお忘れなく」
「あぁ、分かった」
「この人達は私が押さえときますのであの高みの見物を決め込んでいる方の相手はウィレム様自身でお願いします」
リエラ一人でも十分に制圧できるところをリエラは敢えて僕に戦うように言っている。
そこにどんな考えがあるのかはリエラにしか分からないが自分の力でアイツに一発入れなければ気が済まなかったのだ。
願ってもない。
木刀を持つ手に力を入れる。
4人を止めるリエラの横を通って僕はリーダーの男と対峙した。
「チッ、結局俺が出ないといけねぇのか」
男も得物を抜いた。
その剣は他の男達と同じで今気づいたが学園から支給される物だ。
つまりこいつも学生なのだ。
見えない……老けすぎだろ!
男は僕が相手と聞いて余裕そうだ。
すぐには戦闘態勢には入らずにお前から仕掛けて来いよ、と挑発してくる。
――――上等だ。
ウィレムの初手は振り回さずに胸元に向かっての突き。
大口叩くだけあってこの突きを身体を逸らして避けるとそのまま剣を振るってカウンターをしてきた。
初撃で体勢を崩されて負けたリエラとの摸擬戦でそれを痛いほど痛感している。
だから、
――――ガキィンッ!!
十分に剣を戻して追いつけるように配慮はしている。
お互いの得物が押し合う音が響く。
男の顔は受け止められたことに驚いているようだ。
数秒そのままお互いの得物がぶつかり合う体勢で止まっていたが不意に男の重心が下がった。
このまま押し切ろうとせずにいったん離れようとしている。
「っ!?」
そう思い力を抜くタイミングを見計らって前に出た。
すると予想通り相手は後ろに下がり、僕はそれに合わせる形で相手の懐について行った。
相手もこれには驚いたようで若干動きが鈍くなる。
呆気にとられた表情の男の鳩尾に向かって蹴りを叩きつけた。
「っがぁっ……!?」
目を白黒させながら地面を擦り舐め、膝をついた形で止まった。
ダメージはそこまで無い筈だ。木刀には呆気に取られていても意識は言っているようだったので蹴りを放ったがスピードを重視したから体重が乗っていなく威力はごく僅かだ。
「な、俺がこんなクソガキに……!?」
「クソガキじゃない。ウィレムだ」
威力はないが鳩尾にクリーンヒットしたようでまだ腹を抑えている。
男は起き上がりながら僕を睨み付ける。
その目はさっきまでの余裕のある物ではなく真剣だ。
もうさっきのような不意は付けないだろう。
そして男は構えを取った。
得物を片手で顔の横の位置まで持ち上げる。
これがこの男の本来の構えか。
今度は男の方から仕掛けてきた。
最初に倒した男より当然だが早い。
「いくぞっ!”牙突”」
先程とは真逆、今度は男の方が突きの構えで突っ込んできた。
刹那にして僕の中を悪寒が走り抜け、突きが僕の首を狙っているのだと気づく。
こいつ、僕を殺す気か!
咄嗟に身体を横に飛ばして避けるが――――避ける前に通った剣から予想以上の圧を感じた。
ただの突きじゃない。
木刀で受けていたら止めきれなかった。
「ちっ。避けられたか」
追撃はない。
あの突きをした後は動きが止まるようで突きを放った体勢から動いていない。
僕は先程よりも距離を取る。
さっき感じた悪寒はもう感じられないがあの突きは相当危険だ。
明らかに男が放った突きとしては威力が高かったように感じる。
男がこちらが怯んだとみてもう一度しかけてきたがあの突き以外突出した物は見られない。
それから数合打ち合ったが先程のような事はなく次第に男との対峙にも慣れてきて剣筋が見切れるようになる。
その度に男は冷静さを失っていった。
「くそっ……ふざけやがって、クソチビの分際でぇえぇええっ!」
「そんな単調な攻撃が当たるか!」
どうも僕のような年下にいいように避けられていることにイライラしているようだ。
つい言い返してしまったらさらに顔が赤くなっていく。
これで冷静を取り戻したらどうするんだと言った後に後悔したが幸い相手は僕の言葉など聞く耳持たずで怒りのままに突っ込んできた。
「死ねやっ!”牙突”」
男が特攻してくる。
やはり他と違っている。
だがもう一度見ている技で体勢が崩れている訳でもない。
――――見える。
悪寒が再び走ったが避ければなんの問題ないのは先程ので分かっている。
十分に惹きつけるとその突きを躱して身体が前に傾いて無防備になったままの胴に木刀を叩き込む。
「ごぼええぇええっ!?」
さっきの鳩尾への蹴りとは比べ物にならない奇声を上げる。
木刀とはいえ防具も無しにもろに当たったのだ。
肋骨が数本は折れていても不思議ではない。
相当の苦痛が襲っているのだろう。得物を手放して膝を折って腹を抱えたまま立てずにいた。
まだ意識はあるがもう満足には動くことは出来ないだろう。
万全でなければ立ったところでもう相手ではない。
「勝負ありですね」
「リエラ」
振り向くと相手をしていた4人に最初に襲ってきた2人の計6人が縄で縛られて既に捕縛されていた。
一体どこからあの縄は出したんだ?
「お見事でした。特にあの牙突という技を見切っての胴への一撃への流れは日頃の鍛錬が実を結んだいい動きだったです」
「そうか、ありがとう」
「でも私の見立てではもう少し相手の方は格上だと思ったんですが見込み違いでしたね」
格上ってだけでもあまり相手にしたくないんですが……。
最初の牙突は危なかったよ?
……冗談抜きで少し強くても僕に任せてそうだな。
その時が来ない事を祈ろう。
でもまあ、これでやる事はあと一つか。
「……ま、待てっ!」
その声はリーダーの男のものである。
もう立ち上がったのだと向き直る。
まだやる気が合うのかと思ったがその光景を見て目を見張る。
「てめえら動くなよっ!動けばこの女が死ぬぞ」
僕もリエラも完全に油断した。
男はあろう事か吊るされ身動きの取れない夢の主の女生徒の首元に刃を突き付けていたのだ。
「まず武器を捨てろ」
男の目は血走り興奮していて本気で斬ってもおかしくない状態だ。
人質になった女子生徒の反応は全く無い。
無闇に突っ込んだところでこの距離ではどう考えても人質を傷つける方が速い。
「聞こえねえのか!さっさと武器を捨てろっ!」
僕はリエラの方を向く。
リエラは申し訳なさそうに首を横に振る。
リエラでもどうしようもないらしい。
完全にこちらの油断が招いたミスだ。
こんなことなら確実に意識を失わせておけばよかった。
だが後悔した所で状況が変わる訳ではない。
これ以上興奮させる訳にもいかず僕は木刀を床に捨てた。
「よしいいぞ。それじゃあ、ユーリ!てめえが俺の部下の縄を解けっ!いいな聞こえてんのかっ!」
「は、はいっ!」
僕らが武器を捨てて得意げな顔をしてユーリを呼んだ。
ユーリは部屋の隅に隠れていたようで男が怒鳴ると慌てて出てきた。
姿が消えたと思ったらこいつ僕らが部屋に入ってからずっと隠れてやがったな。
腰を低くしながら男にもう一度縄を解くように言われてユーリは僕ら(の後ろの人達)の方に向かって歩き出した。
そこに人質の心配など全く見られない。
自身の保身のためにしか動いていない。
このままこいつが縄を解いて男達を開放すればそのまま僕らに報復するだろう。
そうなれば命の保証はない。
確かに人質は大事だ。
だがそれ以上に大事なものがある。
「……悪いな」
手に力を籠める。
お前だけは一発入れたかったんだ。
標的はリーダーの男……ではなく、
「歯ぁ、食いしばれよ」
突然の僕の行動に誰一人反応できてはいない。
ユーリはキョトンとした顔で呆然としている。
その顔に向かって僕は渾身の一発を叩きこんでやった。
「ぐべばごぎばべっ!」
身体が吹っ飛び床に頭から激突して滑っていく。
結構な距離を飛ばせた。
止まったユーリは倒れたままピクピクと痙攣している。
「がはっ」
と同時に別で倒れる音がする。
吊るされている女子生徒ではない。リエラではない。縛られている男達でもない。
勿論僕ではない。
倒れたのは刃を向けていたはずの男でその後ろにはユリがいた。
「ユリ、ナイス」
「恐縮です、ご主人様」
何がどうなったか分からないが取り敢えず男を仕留めてくれたユリを褒める。
倒れた男は意識をきっちり奪っている、もう起き上がる事はない。
「リエラ、油断し過ぎ。私が来てなかったらどうするつもりだった」
「ごめんなさい、私も人質取られるとは思わなくって」
「これだから魔物しか相手してない冒険者は……」
「ちょっとそれはひどいでしょ」
抗議するリエラだったがユリは冷めた目で尚も見てリエラはそれ以上強く言えなかった。
「大丈夫ですか」
「あぁ、リアも来てたのか」
「はい、でも入っても邪魔だと思ったんで部屋には入らないようにしていました」
リエラとユリはまだ口論を続けている。
「リア、またで悪いけど教員にこの事を伝えてきてくれないか」
「分かりました」
なんか走らせてばっかで悪いと思いながらリアは部屋から出て行く。
「取り敢えず二人ともその辺にしとけ。いつまでも吊るしたままでいる訳にもいかないしユリは下ろすのを手伝ってくれ。リエラはそこに転がっている二人にも縄で縛っといて」
「「分かりました(了解です)」」
すると二人は口論をぴたりと止めて指示通りに行動し始めた。
結局お互い本気ではなかったという事だ。
動き出した二人は素晴らしかった。
リエラは懐から縄を取り出して瞬く間に二人を縛り上げ、ユリは吊るしている縄を綺麗に切って重力落下する女子生徒をキャッチした。
凄い、かっこいい。
そして僕、何もやる隙が無い。
ユリの見事な手腕に惚れ惚れしながらユリがキャッチして下した女子生徒の安否が気になり確認する。
まず呼吸はしている。
命に別状はない様だ。
だが身体の怪我が酷い。
身体のあちこちを鞭で打たれたようで痛々しいぐらい赤く腫れあがり、更には女性の顔にまで行っていたらしく右頬が膨れたようになってしまっている。
「この顔の腫れ、酷いですね。跡が残らなければいいのですが」
心配しながらそういうリエラに僕は同感だと頷く。
これならもう4,5発殴っとくんだった。
改めて周囲を見渡すとその中に見覚えのある箱が部屋の隅に並べられていた。
僕はそれに近づくと男達が焦ったように声を上げて止めに入るが知ったこっちゃない。
中身は予想通り札束ではなくただの草の入った袋だった。
それも箱一杯にびっしりとかなりの量だ。
ただこの草どこかで……。
「ウィレム様、女性の意識が戻りそうです」
「ああ、そうかすぐ行く」
思考を止めてすぐに女子生徒の元へと向かった。
丁度女子生徒の元までついたところで完全に目を開き、
「あ、あ……あう……あっ……」
それは言葉ではなかった。
焦点は合わずまるで僕らを見ていない。
否そもそもまともではない。
まるで、そう現実逃避をしている様な。
そしてこの時初めて僕は遅れたのだと気づいた。
ご感想よろしくお願いします




