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32.協力者

 ここまで知られた状況で話さないという選択肢を選ぶ自信は僕にはなかった。


 秘密を『話す』、『話さない』の選択肢が目の前に出たら迷わず『話す』を押すだろう。


 そして多くの人は話さないのは愚策だと理解してくれると信じている。


 そもそもここまでやらかした後に隠せると思う人間がいるだろうか?普通ここで隠し通すを選択して話さない奴なんていないんじゃないか。

 いや、いるか……なんでそこまで突き止めてて誤魔化し切れるの?!ってよくアニメの感想で叩いてたわ。


 秘密主義者ってなんでそこで黙秘するのって言うくらい頑なで聞き手はなぜか追求しないで折れるからな。

 あれだけは転生した今もまったく意味が分からない。


 少なくとも僕はそんな秘密主義者を除いた一般人である。


 ユリが隣にいたのにはびっくりしたが肝心なことは別にある。

 今日僕は悪夢を見たのだ。


 つまり近日中に夢と同じ状況になるのは決定事項。

 もし僕が動かなかったら視点となった女生徒はほぼ100%良くない事、からの(・・・)更に良くない事(後半)に直行する。


 そして僕はまた夢を見せられる。

 後半の夢は前半の夢よりも重い。

 それもユリの言っていることが本当なら自分の意志は無視して無理矢理見せられるだけでなく外部から起こしてもらって夢から覚ましてもらう事もできないという事だ。


 選択肢などもはやないに等しく助けるしか回避することはできないのだ。

 僕の安眠の為に!!


 ……でそうなると助けるために行動を起こす必要がある。


 これまでもべヒモスがいるのを知っていたり、盗賊のアジトに言ったりと何故?と思われる行動をしてきたが何の問題にもならなかった。

 元々我儘な悪ガキだと認識されているから夢の事を知らない者からしたらその行動はすべてただの奇行として終わった。

 大変不本意ながらもはや多少の意味不明な行動では誰も気にも留めない。


 だがユリはこれから僕の行動に何か意味があるのではと疑う。

 起きる事に対してこの件と無理矢理結び付けて考え、毎回トラブルに巻き込まれていけば少なくとも当たらずとも遠からずくらいには予想がつく。

 ここで話さなくてもいずれ真相に気づいてしまうだろう。


 そうなると今度はその遠からずが今後どのような影響を及ぼすか分からない。

 神託や予知の様な良い物ではないからな。

 良い方に運べばいいがその所為で悪夢行きになったら目も当てられない。


 ついでにユリには秘密を喋ってくれなかった事への僕からの信頼への不安を与えてしまい壁のようなものを感じてしまうだろう。


 折角信頼し合える関係を築けたのに一気に壊れかねない。


 それならいっその事僕の口で喋った方が問題は少ないと判断した。


 こんな時主人公なんかはそれでも巻き込みたくないからと隠し通しながら人知れず解決しちゃうんだろうけど僕にはチートな能力も知略もないので無理だ!


 自信が無い事を自信満々に言っているが本当の事なのでもう一回はっきり言っておく。


 僕には絶対無理だ!!



 主人公達がどうしていつも自信満々に行動できるのか理解ができない。

 危険があるならより安全な方に進むのが普通だろう!











 ……という随分長ったらしくユリへの告白の雄弁性について説いたが全て建前でただ単純にこの悩みをぶつけられるようになる相手ができる事に喜んでいます。


 しょうがないだろ

 一人で背負っているのは疲れるんだ!

 僕の発泡スチロールのような精神では今までのでも十分きつかったんだぞ!!

 それを共有できないまでも話せる相手ができると思えば一歩、いや五歩は前進したと言ってもいい!


 ユリには僕の共犯兼相談者になってもらおう。……共犯者じゃなくて協力者だったな。



 だから僕は悪夢についてを話した。


 その間ユリは無言で聞いてくれる。

 無駄に小さな疑問に一々突っ込まないでくれるのは助かる。

 僕自身分からないことだらけで正直言われても答えられないからな。


 一つ一つを考えて話した。



 まず王族特有の異能の出現。

 これは話す必要がある。

 言わないと悪夢もオカルト話と笑われそうだ。


 説明は僕がお父様から話してもらった内容をそのまま伝えた。


 話していて改めて自分の能力が残念なものだと再確認した。僕の能力ゲームなら確実に誰からも取られないクズ能力だな〜。




 次に出現した悪夢の能力。

 まだ自分ですら把握しきれていないこの能力を上手く説明できる気がしないが取りあえず僕の知っている事を話すと、


 1.夢には事件発生前から始まる前半と事の顛末の後半がある。

 2.対象は自分ではなく他人で現状女性のみ。

 3.夢の内容はすべて視点となる者にとって不幸な事で死又はそれに準じる物である。

 4.夢の内容は現実では前半の夢を見てから近日中に行われる。

 5.夢の主を助けた?場合後半の夢は見なくて済む。


 こんな所だろうか。

 他にも名前が出たりとか、事件までの前置きが長かったりとか、場面が早送りになったりと夢によって違いがあるがそれがどういった法則で行われているのかこの5回だけでは情報が足りないので余計な情報は言わず夢によって差異があると言って締めた。


 唯一僕が転生者であるという事。

 その一点だけは話す事はしなかった。


 今回話す必要がなかったという事もあるがこれだけは外部に知られない方がいいと思っている。


 話が終わると暫く無言の沈黙が続いた。


 いきなりの事で情報を整理しているのだろう。

 お父様に能力があることを聞いただけで頭がいっぱいになったから僕がユリの立場なら頭が混乱する自信がある。



 程なくして整理し終わったユリは口を開いた。


「よく分からない事や信じられない事が多くて理解が追い付かないですが……本当の事なのでしょう。辻褄の合う事もあります」


 ユリは僕の話を信じてくれるようだ。

 辻褄というのはアジトで出会った事の事だろう。

 偶々景色を見に行ったら見つけたと言い張ったがあれはタイミングが良すぎたもんな。


「ただ一つだけ聞いておきたいことがあります」

「……何でしょうか」

「私をその……護衛にと言ったのは……その……夢で見たからですか?

 悪夢を見ない為に私が欲しかったのですか!!」


 ユリの身体が前のめりになる。

 顔が触れるそうなほど近づいている。

 ユリにしては珍しい程の声が上擦っていてハッキリしない言動だが表情は真剣そのもので威圧感もあった。


 これは怒ってる?

 自分の雇用が夢が原因じゃないかと疑ってる?!


「ご、誤解だ!ユリの夢を見たのはユリと山であった日の夜でその前の二回の勧誘は僕個人の判断だ。夢は関係ない。あの勧誘は紛れもなく僕の本心だよ。

 盗賊団の傭兵だったのには驚いたけどね」

「……そうですかっ!」

「っ!?」


 僕の返答を聞いたユリが表情が晴れやかになった。

 普段表情が真剣な顔からあまり変化しないユリが今までにない程表情を表に出している。

 それも怒ってないのがこれでもかと伝わってくるとても可愛らしい表情で自身の返答にホッとした。

 もし話さなかったら今の疑問をユリは抱え続けただろうから解決出来て良かった。


 しかし落ち着いたと思ったのもつかの間ユリがいきなり跪いた。

 前置きもなくいきなりだ。

 跪くと同時に表情もいつもの表情に戻ってしまった。

 少し勿体ないと思ってしまうがそれよりも何故跪いたかだ。

 訳が分からずアタフタしているとユリは顔を下げたまま喋り出した。


「既に私のすべてを捧げている身ですが改めて揺るぎない忠誠を捧げます」


 堂に入ったユリに臣下の礼にウィレムは無意識に息を呑み喉が音を立てた。

 漂う緊張と重い空気。

 ユリはウィレムの言葉を待っている。

 だが―――


―――どうすればいいのか分からない。


 お父様が配下の者からされていた時どうしていたかを記憶の奥から引っ張り出して行動に移そうとする。


「……面を上げよ」


 僕の言葉にユリが顔を上げる。

 本当に顔を上げてこちらに顔を向けるまでだけでも様になっていてどこかで覚えて来たのかと問いたくなる。


 だがそれよりも続きだ。

 面を上げさせたが続きを言わなければ。


「えっと……これからも一層僕の元で励んでくれ」

「ハッ、ありがたき幸せです」


 何とか上手く言えた。

 慣れていないんだからいきなりしないで欲しい。


 だがまだ終わっていなかった。


「しかし先程私は主君の事を疑ってしまいました。少しでも疑ってしまった私にどうか罰をお与えください」

「えっと疑うって何を疑ったの?話が見えてこないんだけど……」

「いいですから何かしらの罰を!でなければ自分が納得しませんので!」


 意味が分からない。


 忠誠の次は罰って……。


 僕は悪夢についてユリに話しただけだよな。

 なぜユリが謝る状況になってるの?!

 ここは異能について驚いたり追及してきたりするところじゃないの?!


「えっと……」

「罰を!」


 どうしてこうなった。


 ・

 ・

 ・


 その後いろいろと説得しようとしたがユリの主張は変わらず結局罰については保留となった。


 悪夢については他の者には他言無用。


 意外にも結構話をした割に起きた時間は随分早かったようで話が終わってもまだ起床時間ではなかったらしくすぐに通常生活に戻れた。


「まず何をしたらいいですか?」

「えっ!?……あぁ……取りあえず待機?」


 その日の朝食の席でユリは非常に落ち込ませてしまった。

 終始俯かせてしまってリア達に何かあったのかと疑られたが何とか誤魔化せた。

 これから大丈夫だろうか……。




 ◆




 やりました!


 もう笑みが止まりません。


 ウィレム様の秘密。

 それも私だけしか知らない秘密を教えてくれました。


 リアやリエラだけでなくマユキ様ですら教えてもらっていないという秘密です。

 いずれ3人にも話す事になるだろうとは思いますが初めて明かしてくれたのが私と言う事には変わりありません。偶々とはいえウィレム様に信頼されているように感じました。


 それにです。


 その秘密であるウィレム様が言うには『悪夢』という能力で私が窮地になったのを知ったからあの森に来てくれたんです。


 偶然ではなく自主的に!


 危険だと知っていて私を助けるために!


 本人は後半の悪夢が見たくないからと言いますが悪夢は確かに辛い物のようですが命まで落とすと言う物では無いようなので態々命を落とす危険のある場所になんて赴いたりしないと思うんです。


 命の恩人として忠誠を捧げていましたがより一層自分の命に代えてもご主人様を守らなくては!


 更に嬉しかったのがその後の私の疑いへの返答です。

 夢に出る前から私の事を欲しかったと言ってくれました。


 命まで落としそうになりながらも私の事が欲しかった。

 嬉しくない訳がありません。


 だからこそほんの少しでもウィレム様が私を誘ったのが夢があったからだと疑った自分自身が許せません。

 罰は後日何か考えてくれるそうですが早く罰を貰ってこの罪悪感を拭ってもらいたい。


 早くウィレム様の役に立って忠義を形で示さないと!!

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