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29.先輩派閥

 休み明けの学園。


 先週同様アリッサはウィレムの元に訪れていた。


 ただ今日は先週とは違い側に一人付き添いを連れてきていた。


 同級生ではない。

 こちらより年上の女子生徒で身体的に見て中・大学年だと思われる。


 どう見てもアリッサより立場が上の雰囲気であった。


「はじめましてウィレム王子。私はナタリア・イルミライドと申します」


 イルミライド?……アリッサの家の本家に当たる家の名前じゃないか。


 ……ちょっとアリッサさん。


 先週の僕への接触はこのための布石だったのか?

 見事に一杯食わされたぞ。


 チラリとアリッサの方を見ると少し申し訳なさそうな表情をしているように思えた。


 ……あぁ、この表情、もしかしてアリッサも利用された側か。


 偶々貰った名刺が上司の事業拡大に必要だったから使われたって感じ?


 イルミライド家は本家ってだけじゃなくて爵位の上でも侯爵で格上だからな。

 頼まれたら普通は断れない。


 この表情も僕を油断させるためかもしれないからアリッサへの警戒は強くするが、それよりまず目の前のナタリアの相手が先だな。


 僕は席を立ち上がった。


「ウィレムです。此方こそ初めまして」

「へぇ、アレク様からは世間知らずだって聞かされたけど意外と素直じゃない」


 真面目に対応したら態度が強くなった。

 この威圧感、人の上に立つのが慣れた人間って感じだな。


 実際侯爵は領土のトップ隣地の貴族も纏める立場。

 王都にでも来ない限り命令されることがない。


「それで何の御用です?態々校舎の違う僕なんかに会いに来るなんて」

「要件は簡単よ。あなた達の学年の派閥を一つにして欲しいの」

「………」


 笑顔は引き攣ってないか?

 身体も動じていないはず、相手に無反応を貫いたよな?


 それにしてもいきなり何を言っているんだこの女!

 本当に簡単な事だという様に言っているがそんな簡単な事じゃないからな。思わず口が開いて仮面が剥がれて本心が表に出る所だったぞ!


 派閥を一つにしろって僕の学園の派閥は男子生徒は派閥がない。

 男性は家の派閥がそのまま反映されるから改まって作る必要がないのだ。


 そして女性の派閥も小さな集団ならそれなりにはあるが派閥となるとこの学年には二つだけしか存在しない。

 一つは知っての通りマユキの派閥ともう一つがアリッサの派閥である。


 二つを一つにする。

 確かに言葉にすると簡単だよ。


 だがそれをなぜ僕に言う。

 いや分かっている。彼女はこう言いたいんだ。


『マユキの派閥をアリッサの派閥の傘下に加えなさいと』


 マユキの派閥はマユキがリーダーだがマユキの家は僕の勢力に属している。

 マユキは僕の意見を無視する事ができないからこうしてお願いに来ているのだ。


 だが無理があり過ぎる。


 そもそもの間違いとして僕がフランク家を傘下にしたのではなくフランク家が僕を支援してくれている立場なので君たちの思っているような関係ではない。


 仮に僕が言ったとしてもマユキがそれを承諾するなど万に一つもないと思うし、これまた仮に承諾したとしたらマユキがアレク兄様の勢力圏内に入ることになり僕の後ろ盾は意味を成さなくなる。


 どう考えても無理だろう。


 二回も仮がついている時点でありえない提案だね。

 問題はこれを考えたのがこの先輩さんか、それともアレク兄様か、もしくは第三者の入れ知恵か。

 少なくとも僕に攻撃をしてきた人間がいるという事は確かだ。


「マユキさんの派閥って一年だけでしょ?アリッサと併合したら私達上級生とも関係が持てて学園で肩身が狭くなる事はないわ」


(そして先輩たちの手となり足となり……か)


「悪いですがお断りします」


 そう言った瞬間、ナタリアの眉間が下がった。


 まさか断られないと思っていたのか?

 いや、さっきの挨拶一つでも認識を改めるような事を言っていたし僕の評価が低いのだろう。

 だから言えば聞くとでも思っていた方があり得そうだ。


 しかし幾ら夏休み前の僕でも了承は……なぜだろう、否定できない。


「知っているでしょうけど、アリッサは私の分家で妹のようなものですの。その妹がいる学年に同等の勢力がいるのは姉として心配でして、最悪実力行使で一つにしようとも思っていますのよ」


 断ったからってすぐに脅しに掛かってきたよ……。


「ナタリアさんが妹を思う気持ちは分かりました。しかしそもそも私にマユキの派閥を動かすだけの発言権はありませんよ」

「そうかしら?あなたもリーダーは任せていて裏で操っていたりするんじゃないの?」

「私がマユキを操る?ありえないですよ!もし言いに行ったら承諾されるどころか鼻で笑われて断られた後、実家にこの事を伝えて見限られるでしょうね」

「流石にそれはないでしょう」


 いいえ、たぶんそれが最も正解に近いと本気で思っています。

 寧ろそれ以外考えられません。

 でもそれを態々言う必要はないだろう。


 それよりナタリアの派閥はアレク兄様に実権を握られているのか。他の派閥の内情なんて知らないけど楽しくはなさそうだな。


「本当ですよ。なので僕では力になれそうにありませんのでそういった話はマユキ本人にして下さい。彼女の派閥ですし彼女が快く承諾するなら何も言いませんので」

「……そう、分かりました。話に応じて下さってありがとうございました。そろそろ時間もアレですので失礼させてもらいます」


 そう言ってナタリアはさっさと教室から出て行った。

 一緒にアリッサも出て行ったか。


 結果として僕はナタリアさんの提案を蹴った。


 そのおかげでマユキの派閥をアレク兄様、または発言力のある者が狙っているという事が分かったんだからな。

 この事はマユキにも伝えておくべきか。

 それにしても……不快な時間だったな。


「ウィレム様、よろしいでしょうか?」


 はい?アリッサ戻ってきたの?まだ何か用なのかな。


「構わないよ。それで要件は何かな?」

「此度はナタリア様が失礼しました。断れる立場ではなかったとはいえ私が話しかけた為に不快な思いをさせてしまって」

「いったい何のことです?派閥争いを心配して平和的に解決しようと思ういいお義姉さんじゃないですか。寧ろ無駄足にしてしまって申し訳なかったですね」

「……いい義姉なんかじゃないです。それに今回の話が通るとは向こうも思っていなかったから大丈夫だと思います」

「そう、ならよかった」


 なんか途中よく聞こえなかったけどアリッサは納得してくれたみたいだ。

 僕の答えを聞くと今度こそアリッサは去って行った。





 それからアリッサが僕の所に訪れる事はなかった。


 それが役目を終えたからか、今朝の件で遠慮しているのかは判断できないが彼女が来ないとなるとこれ以上ナタリア達の行動を聞く事ができない。

 ユリ経由でマユキには大まかな内容は伝えてある。


 マユキの見解は、『正面から潰しに来ることはまずありえません。搦め手の方面の警戒は此方で行うのでウィレム様は自分の身の回りにだけ気を配っていてください』だそうだ。


「…………レム様」


 仮に正面からの戦いになったらリアとリエラを借りたいと言っているので僕の方にも知らせが来るだろう。


「ウィレム様!」

「え?あっ、どうしたリア?」

「マルカさんが食事の時間を過ぎているのに来ないから見てきてくれって」

「あぁ……ごめんちょっと考え事をしていて」

「今朝の事ですね。私も気になりますけど今はマユキ様にに任せておくしかないと思います」

「そうなんだけど。マユキの派閥の人数は一年のほんの一部、対して相手はナタリアの派閥だけでも倍以上。敵対する事自体避けておきたかったと思って」


 僕がアリッサと話してこんなに早く接触してきたという事は何か思惑があるのだろう。

 それが何なのか。

 今回の件が宣戦布告なのか威嚇なのか。

 派閥の吸収が目的なのか、それとも僕やマユキを狙った物か。

 アリッサとはこれからどう接するべきか。


「ウィレム様、確かにそれも大事な事ですが急がないとマルカさんが食事を下げてしまいますよ」


 また思考に耽っているとリアに注意されてしまった。

 確かに今思考した所で分からないことが多すぎて何もできないのだから深く考えすぎない方がいいか。

 考えることを止めると腹が減るのを感じた。


「そうだね。早くいこうか」


 リアを連れて食事に向かう。


 この時の僕はまだこの出来事がただのついでだったのだとは知る由もなかった。




 

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