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27.伯爵令嬢

 食堂騒ぎは初の小校舎の事件の一つとしてホームルームで生徒達に報告された。


 僕達が関わった事は一切触れられていなかったが既に一部の生徒には噂になっている様で何人かがこちらを盗み見ている。


―――見るのはいいからそんな引き攣った顔をしないで欲しい。


 昨日の事件、偶々発生前から暴れた男子生徒の様子を見る事ができたが僕の目には異常に見えた。


 暴れ出したのは男子生徒からだった。

 しかし切っ掛けが分からない。


 普通あの場で起こる事と言ったら周りの言動に切れた男子生徒が暴れて収拾がつかなくなったというのを考えるが男子生徒はそもそも周りの話を聞いてはいなかった。

 うわの空から突然起動して暴れた感じだ。

 行動が突発的過ぎる。


 それに感情も怒っての行動ではなく怯えた様子だった。


 他の校舎で起こった暴行事件も同様であるのか?


 もしそうだとして学園側はこの件を只の生徒のストレスや体調不良だと捉えているのか、それとも生徒に不安を与えないために隠しているのか、どちらの対応をしているのかによって状況が変わってくる。

 もし前者だった場合僕らも危険になるかもしれない。


 学校内(小校舎内)の雰囲気も変わった。


 自分達の周りでも起こり始めたという事で昨日まで大会本選出場者についての話題で持ちきりだった生徒の会話が今日は食堂の件の話で持ち切りだ。


 事件を抑えた僕ら(抑えたのはリアだけだが)は休み時間になると遠巻きから鑑賞され始め出した。中には他のクラスや他学年の生徒まで態々来てみてくる始末だ。


 まるで動物園のパンダにでもなったみたいで嫌気がさす。


 こういった周囲の反応は注意した所で止めないだろう。

 多分その反応すら面白がるだけだ。

 諦めて興味が無くなるまで耐えるしかないがさっさと終わってほしい物だ。


 僕は頬杖をついて溜息を吐いた。



 そんな僕らの様子を見ていた別のクラスの気の強そうな女の子が突然教室内へ入ってくるとウィレムを一瞥しフンッと鼻で笑った。


「そうやって平民の女性を侍らせてみんなから注目されて王様にでもなったつもり?」

「どういう意味です?」

「お兄様方より劣っているからってこういう形で注目されて優越感にでも浸っているんでしょう」

「確かに僕は兄様達と比べて劣っているのは認めるがこの状況に優越感を感じているのは認められないな。彼らは全員僕ではなく昨日の事件に注目してるに過ぎず僕は云わば酒のつまみの様なものでしかない。それに直接話しかけてくる訳でもなく休み時間になる度に周りを囲まれては迷惑なだけだ。替われるものなら誰かに替わってもらいたいな」


 女の子からの挑戦的な物言いに、ウィレムは鬱陶しくても追い払えないストレスの所為で思わず八つ当たりで強い口調で言ってしまった。


 子供相手に何を大人げなく反応しているんだ僕は……。


 周りで事の成り行きを眺めていた連中はバツの悪い顔になって廊下の連中は蜘蛛の子を散らすように自分のクラスに戻っていきクラスメイトは総じて視線を背けた。


 苦言を言いに来た女の子もその流れに乗ってクラスから出て行ってしまった。


「何だったんだアイツ?」


 クラスメイトすら真面に把握しきれていないのに他のクラスの子の事など分かる訳がなく、今の子が誰なのか見当もつかない。


「あの人は伯爵家のご令嬢でアリッサ・エクスライズです。エクスライズ家は本家のイルミライド家の分家で広い人脈のある家系ですね」


 リエラが親切丁寧に説明してくれた。


 なんでまだ日の浅い二人が知っていたのかというと2人が派閥に加入したからだ。

 二人の所属するマユキの派閥は1年で最大派閥だが一番ではない。

 同等の人数が所属する派閥が存在し、そのリーダーが今来た彼女であるらしい。


 ただし組織としての構造は違う。


 マユキの派閥は独立した組織であるのに対しアリッサの派閥は子分派閥だ。

 貴族の家柄同士の関係がそのまま反映されたと思ってもらえばいい。


 アリッサの実家の上司に当たる家のご息女が上級生におり、その組織の下についている。


 派閥の総数が公爵家であるマユキと伯爵家の彼女で同等に集まっているのもその辺が関係しているのだろう。


 それでもこうして間近で感じた限り、彼女自身も人を従わせるだけのカリスマ性はあるのだと彼女を評価した。

 こうしてパンダ状態から脱したし感謝したいぐらいだ。





 しかし話はこれで終わらなかった。


 それからアリッサは何かと絡んでくるようになった。

 休み時間、昼食、放課後と絶え間なくやってくるアリッサに僕もつき合う様に会話をしている。


 お蔭でリア達は話に入って行けず三人になったのはその日は下校時間になってからだった。


 ウィレムは兎も角リア達はアリッサの行動に困惑していた。


 アリッサのいる間、リアとリエラは必ずどちらかがウィレムの傍に控えていて絶対に二人っきりの状態を心掛けてウィレムに危害を加えるのを警戒したがそれ以上にウィレムの心情が気になった。


 自分達の主であるウィレムは他者との接点を持ちたがらずこうやって絡んで来られるのをひどく嫌っている節がある。

 その為不満を抱いているのではという認識をしていて、それがいつ爆発しないかと心配しているのだ。


 だがアリッサがいくら話しかけてきてもウィレムの態度に不満感は見られる事はなく二人は不思議に思っていた。


 ようやく三人になったのを機に思い切ってリエラはそのことについて聞いた。


「追い払わなくてもよろしいのですか?」

「エクスライズさんのこと?構わないよ」

「ウィレム様にしては珍しいですね」

「だってエクスライズさんのこと割と好きだし」


「「 ! ! ? 」」


 リアとリエラの足が止まり、この世の終わりのような表情で何か言いたそうにしているが口が上手く回らず魚の様に口をパクパクさせるだけになってしまう。

 そんな二人の様子に気づかずウィレムは理由を説明し出す。


「二人は気にせずは付き合ってくれてるけど僕って王族だけど継承権は七位で有力貴族との繋がりはフランク家だけ、旨味はないし教師陣にはブラックリスト入りの問題児だから仲良くなってもいい事がない。友達付き合いも下手だし」

「そ、そんな事ないですよ!」

「ありがとうな」

「でもそれとエクスライズ様が好きな事にどう関係が?」

「だってエクスライズさんは僕に何かを求めてきたわけじゃないから。一対一で向き合ってきて自分の考えや疑問を話に来ているだけで対話の中に媚びを売ったり、嫌みや蔑んできたりしない。そう言う相手を嫌うほど僕は人嫌いではないよ」


 そもそも僕は人と話すこと自体は嫌いではない。


 近寄ってくる連中は王家と繋がりを持ちたい輩やそういった親に言われて渋々仲良く振る舞う子どもか、兄様方の派閥の者で七男の僕を蔑む者ばかりだったから話す気が起きないだけだ。


 そうじゃない連中がいるのも理解している。

 ただしそういう人は決まって問題の多い。


 そういった人間とは自分の方から話そうとは思わないから自然と孤立していっただけだ。

 ……孤立している理由は他にも思い至るが今は関係ない。


 二人が気づいているか分からないけどエクスライズさんは彼女の派閥の取り巻きの子がついて行こうとしていたのだがそれを拒絶して一人で来ていたのだ。


 僕の事を思っての配慮だろう。


 結果として断られた取り巻きの子は信じられないと言った感じの表情になって、遠巻きにこちらを恨めしそうに睨んできていたがこちらは我慢できる。


 それ以上に他のクラスメイトや別のクラスの奴らなどの遠巻きに見ている連中も僕が話をしているのを信じられないものを見る目で見ていたからな。

 こっちの反応のが悲しい。


 みんなして僕を何だと思っているんだ。


「あっ……好きってそっちの事ですか」

「ウィレム様心臓に悪いよ~」


 なんか会話がかみ合っていないけど二人とも納得しているみたいだしいいか。


 その後何の事は無い授業や離れている間のお互いの話を続けていきながら寮(という名の家)に近づいていく。


「ウィレム様」


 僕の寮の敷地内に入ったところでいつの間にか斜め後ろの位置に人が控えていた。


「ユリ、お疲れ様」

「いえ、私が望んだことですので」


 学園生活に入ってからまるで忘れられたように登場頻度の減った僕の三人目の従者にして最強の獣人メイド『ユリ』である。

 音を立てずに突然現れているが僕は驚きもせずに返事を返した。


「今、良からぬことを考えましたね」

「……僕は普通に返事をしただけだけど」


 完璧に普段通りの表情のはずなのにユリは疑り深い目で見てくる。

 これが野生の勘ってやつか!?


「やっぱり良からぬ事を考えてますね」


 ……訂正、女の勘だな。


「今日はいつから付いていたんですか?」

「学校を出る前からです」

「今日もまったく気づきませんでした」


 リアとリエラも会話に加わる。


 再度確認するが現在ユリはウィレムとはクラスが別々になっている。

 クラスはマユキと同じ5組である。


 マユキから聞いたユリの評判は協和性のないいつも一人でいる目立たない子。


 これだけ聞くとクラスで浮いているように思えるが獣人は学園の生徒数も少なく人々の認識も厳しく差別されることも少なくない。なので獣人が一人で生活しているのは普通の事として捉えられることが多い。

 獣人のユリにとってこの評判は当たり障りのない無難なものと言えた。


 ただし問題になるかならないかの微妙な立ち位置だが。


 これを前世の状況に置き換えると親がいないや太っているなどの生徒がそれを理由に苛められる寸前と一緒である。


 小学生の低学年では自分達と違かったり、弱い存在だったり、反応が面白かったりすれば自分の欲求のままに行動する物でそこに深い考えなんて持ち込む事はない。

 善悪の区別はなくただ面白いからの一点のみが行動原理だ。


 獣人に対して大人でも差別する者がいる分そういった行為に移行する可能性が非常に高い。

 ほんの少しのきっかけで寸前から被害に合う様になる。


 聞いてはいないがユリはこういった事を回避する為に周囲に気を配っているはずである。

 少なくとも戦闘力の高さは隠している。


 マユキにはああは言ったが大きな後ろ盾は必要だな。

 自分が慣れればいいのだが今の僕では逆の結果になる可能性があるからなぁ……。


「それでクラスの方はどうだ?」

「私ですか?……変わったことはありません。強いて言えばマユキ様の視線を向けて来る回数が増えた事ぐらいです」

「マユキ様は知っていますもんね」

「そうなりますよ。誰もユリがウィレム様の従者(ごえい)だなんて知られていませんもん」


 リエラが言ったように生徒にはユリが僕の従者(ごえい)だという事を知らされていない。

 先に述べたようにユリは何かのきっかけで周囲から狙われるか分かったものではない。そこでユリは登校から下校まで僕との接触を避けて陰に徹すると言い出した。

 傍にいるのはリアとリエラに任せて自分は遠巻きに控えて護衛をするそうだ。


 相手がただの一般学生であったので出てこなかったがあの食堂の一件の時にも近くで控えていた。


「それはそうとウィレム様。マユキ様がウィレム様に少々苛立っておられました」

「え!?なんで!?」

「ウィレム様、それ本気で言ってますか?」

「少し考えればわかる事ですよ」


 今日どころかここ数日は全く会っていないのに苛立っていると言われても理由が思いつく訳がない。


 三人が同じ目でこちらを見てくる。


 何故分からないのかという目だ。


 三人の反応から見て答えは簡単に導け出せる類の物であると読み解ける。

 しかし僕には心当たりが全く思いつかない……あっ!


 これってもしかしてアニメや小説でよくある分かっていないのは本人だけ状態ってやつか!?

 なんで主人公分かんないのって馬鹿にしていた!?


 ……くっ、なんだ、何が答えなんだ!


 いざ自分の番になると全く見当がつかない。


 その後もいくら考えても分からないので三人に答えを教えてもらおうと頼んだが却下された。


 冷めた目で見られて主としての評価が100は下がったな。


 そして次マユキと会うのが今から怖い。


「……それで遠巻きに見ていた連中はどうだった?」

「アリッサの取り巻きの事ですか?こちらを睨んでましたがウィレム様に害を出せるだけの勇気がある様には見えませんし問題ないと思います」


 この質問に対して的確な情報を返してくれた。

 全員同意見か。


 取り巻き連中は予想していた通り僕の事をよく思っていないようだ。

 ただしアリッサの方から話しかけているので止めさせられないと。


 もし取り巻きが危害を加えてきそうならアリッサとは関わらないようにするしかなかったが少なくともアリッサから話しかけてくる分には大丈夫そうかな。


「でも余り関わらない方がいい」

「それは勘か?」

「嫌な気配がする」


 ユリは何か感じているのかもな。


「気に留めておく」


 そう返すとユリはコクリと頷くだけだった。




 アリッサの本家であるイルミライド家がアレク兄様を支持していると知ったのは家についてからであった。


 本当に気を付けた方がいいかもしれん。

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この学園と現実の学校との違いとして


1、鉄拳制裁は容認されています。

2、モンスターペアレントが少ないです


が今のところあります。


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