24.始業式
アツェールに着いた翌日。
この日、ウィレムは学園―――イシュガル天冥学園に登校していた。
イシュガル天冥学園は小4年、中4年、大4年の12学年、総勢生徒数は10000人を優に超えるマンモス校である。
4年区切りなのはその年になると入試が再び行われ人が急激に増えると同時に学び舎も移動になるからだ。
小中大は身体や年齢ではなく学んでいる建物の大きさを表している。
クラス分けは基本ランダムに振り分けられている。
昔は成績でクラスを分けていたのだが成績上位のクラスが下位のクラスを見下して問題行動を起こす生徒が続出した事と学年が上がってもクラスの顔触れが変わらない事が多いので交流面でもあまり良くなかったからだ。(基本ランダムという言い回しなのは従者は主と同じクラスに振り分けられるからである)
制服は僕が着ている学園からの支給品であるブレザー(女子はスカート)以外に従者達が執事服やメイド服を着ていたり、普段着で来ている者もいる。
従者はその姿が正装なので構わないのだが学園に普段着は可笑しいだろと思う。
だがこの学園では援助金の支払いをすれば好きな服装で通学が許されているので全く問題はない。
僕にとってはどうでもいい校則だがここでも一番上の兄の様に下々と同じ服装なぞ有り得ないと言う者達が利用している。
「ほら!いつまでも喋ってないでさっさと座れ!いつまでも休み気分でいるんじゃないぞ」
教室の前方の扉が開くと男性教師が席から離れて喋っている連中に着席を促しながら教卓?の様な机の前まで歩いて行く。
促された生徒達は無駄に元気な返事をしながら自分達の席へと座っていく。
その全員が座ったのを確認すると教師は喋り出した。
「おはようございますっ!
皆、いい休みは送れたか。俺は付き合っていた彼女にまた逃げられました。
別れの言葉は『あなたとは合わないわ』だそうだ。本当に女心というのは全く理解できん。
皆はお互いに理解できる相手を見つけられるように、気を付けてくれ」
この7歳児相手に話す内容ではない話をしてる教師は担任のカツラ先生だ。
実技の教師で元騎士団の所属で35歳に転職後5年目になる。
カツラという名前だが40歳になっても髪の毛の発育は良好のようでまだ禿げるのはだいぶ先だろう。
……というかまだ1年の子供に初っ端から失恋話はないだろう。
「突然だが今日からこのクラスに新しい仲間が加わる」
この瞬間クラスの男女が騒ぎ出した。
男か女か、どこの家の出か、顔は、年齢はと立て続けに質問が飛ぶ。
当然だがこれはリアとリエラの事である。
知っているウィレムは騒ぐクラスメイトを退屈そうに見ていた。
「人数は二人で二人とも女の子だ。出は平民、年齢は少し上で9歳。顔は……俺のストライクゾーンとはかけ離れているが可愛いんじゃないか」
先生の答えに何人かが落胆して肩を落としている。
特に男子の方が多いのはまだ女子の事を異性として見ていないからだろう。
出生が平民と聞いて鼻で笑った奴ら、チェックしたからな。
「それでは二人とも入ってこい!」
扉が開き二人が入ってくる。
その姿は制服ではなく従者の服装である。
それを見ただけでクラスメイトはこの二人が誰かの使用人なのだと理解した。
皆の視線が二人に集まる。
「ではまずは自己紹介をしてくれ」
「はい。初めまして。私の名前はリエラ。ウィレム様の従者をさせてもらっています。どうぞよろしくお願いします」
「あ、あの、初めまして。リ、リアでしゅ。あうあ、私もウィレム様の従者をさせていただいてます。これから……よろしくお願いします」
挨拶が終わると拍手が鳴った。
いつも通りというべきかリアは相変わらず嚙んでいたがリアらしいのでいいだろう。
僕の方にも視線が来ているがすべて無視する。
自己紹介が終わるとカツラ先生が再び教卓の前へと戻った。
「それじゃあ二人はウィレムの左右の席に座ってくれ。今日はこの後始業式を行ったら終わりだ。午前中に終わるからウィレムは二人の案内をしてくれ。それじゃあ呼ばれるまで各自自習だ。静かにしてるんだぞ」
そう言ってカツラ先生は教室を出て行った。
扉が閉じて先生の足音が聞こえなくなっていくとクラスメイト達はまるで図ったかのように立ち上がってリアとリエラの周りへと集まり出した。
皆、自分の欲望に忠実でリアとリエラがいきなりの事に戸惑っているのもお構いなしで喋り出す。
その光景は小学校の転校生質問タイムと変わらない。
ただ違うとすれば、
「よく平民が試験に受かりましたわね」
「平民にはこの学校は荷が重いよ」
「王子様の従者ってどうやってなったの?」
「そうそう。我儘王子の従者ってどんな感じ?」
「それより姓は?名前だけなの?」
「君可愛いね。良かったら僕の愛人にならない?」
こういう時って好きな物、趣味、どうしてきたのかなんかが定番だが御覧の通り平民の従者という事に興味を持つ者が多い。
それから誰だ!1年の分際で口説くどころか愛人とか言っている奴は!!
それと平民を従者にしたことに対して僕の方にも何か言ってくるかと思ったが誰一人質問してこない。
来たらきたで面倒くさいから構わないけど僕って嫌われてるなぁ。
騒がしくはあるが特に問題が起きるような事もなさそうなのでウィレムはその後、始業式で呼ばれるまで机に突っ伏しながら寝たのだった。
◆
…………そして始業式は何事もなく終わった。
流石はマンモス校、見渡す限り人で埋め尽くされていた。
以上
手抜きだって?
始業式にこれ以上何を言えっていうんだ。
あったのは生徒会長や学年主任、校長なんかの立場の人達の無駄に長い話を聞くだけだぞ。
後ろを向けば舟を漕いでいる生徒がかなり目につくほど退屈なんだ。そんなもんさっさと飛ばすに限る。
という訳で始業式が終わればもう今日の課程は終了である。
普段ならこのまま帰宅している所だがホームルームで先生に言われたように二人の学園案内をしないといけない。
やたらと広い学園だから毎年迷子になる新入生は少なくないのだ。
余裕のある内に自分の足で歩いて確認した方がいいだろう。
「なので学園を見て回りますが見たいところで何か候補はありますか」
「私、食堂が見たいです」
「室内演習場が凄いそうなのでそこを」
前がリア、後がリエラである。
これがAランクとGランクの違いなんだろうな。
「あ~!今、絶対私の事食いしん坊とか思いましたね!いいじゃないですか学園の食堂のご飯は美味しいって言われてて気になるんですから!」
「いや、食堂と室内演習場って場所が真逆なんでどっちから回って行こうかなって思っただけだよ」
リアが食いしん坊なのはもう限りなく事実に近いから今更だよ、という本音はひた隠しにする。
「それじゃあ食堂を先に行きましょう」
「リエラはそれでいいの?」
「はい。それにまだお昼を食べていないので私も少々お腹が……」
「そうだった。それじゃあ食堂に行こうか」
向かう場所が決まったので歩き出した。
という訳でまずは食堂……ではなく、その道中にある医療室、この学園の医療室はかなり広い。
ベッドが10つ並んでる部屋と治療室があり、総面積は教室より広いと思う。
生徒数が生徒数なので毎日訪れる生徒が後を絶たない。
僕らも実技の授業はあるのでお世話になる事だろう。
次が隣の職員室。
ここは特に説明はいらないだろう。
職員室内では会議をしていた。
結構な人数の先生がいるのにカツラ先生目立つな。
他に用務員や応接室などが続く。
ここまでの案内で分かると思うが一階は殆ど先生の為の部屋が多いな。
それから校舎を出て隣の建物に向かう。
お目当ての食堂に到着だ。
まだ建物の玄関だがもう食堂だ。
この学園の食堂は独立した建物で二階建てすべて食堂である。
体育館並みに広いうえに二階もある食堂だけどこれでも昼時は生徒で満員になる。
中に入ると食べ物のいい香りがした。
僕ら同様に食堂で食べる人達を見て急にお腹が空きだす。
リアはもう我慢の限界みたい。
「それじゃあ食べようか」
僕がそう言うとリアがコクコクと全力で頷く。
やっぱり食いしん坊じゃないか。
購入は食券を先に買うタイプ。
後払いでは食い逃げ防止や会計が追い付かないなど問題が多いからという元の世界とさして変わらない理由で前払いとなっている。
今日はもう授業がない事もあって生徒が少ないので並ぶ事無くすぐに買えた。
普段は校内にある購買、使用人に用意してもらっている(それ以外もある)弁当、校外などで食べている人もいるが食堂は毎日大盛況だからな。
「凄いです。……こんなに種類があると目移りしちゃいます」
「そうだね。毎日通っても全部食べるのにも時間が掛かりそう」
食券を買い終えたので二人を待っていると二人は食券売り場の上部分に掛けられているメニューが書かれた看板を見ながら驚いていた。
各方面の国境すら飛び越えて集められた食事が揃っているからな。
中にはその地域でしか食べないようなゲテモノ料理も紛れているので全部を食べるのはお勧めしない。
リアとリエラは悩んだ末『オムレツ』と『リゾット』を選んだ。食いしん坊のリアは抜け目なくデザートも頼んでいる。
因みに僕が頼んだのは『焼き魚定食』だ。
名前だけなら和食のように聞こえるが残念ながら見た目は洋食である。
食事も決まったので食券をおばちゃんに渡して食事をもらって空いている席へと座る。
二人とも席に着くと美味しそうに自分の頼んだ料理を頬張って食べ出した。
相変わらず二人ともおいしそうに食べるなぁ。
「で、だ。まだ初日だけどクラスの方は馴染めそうか?」
「うーん、どうでしょう。質問はしてきた人達は友達になりたいというより私達の事を探っているような感じですし」
「あからさまに見下して話をしてくる方もいましたので全員とは仲良くできないと思います」
二人とも厳しい意見だが大丈夫ですと自信をもって言われるよりは安心する。
「なにか嫌なことがあったら言ってね。身分とか関係なしに二人は僕にとって大事なんだから」
「ウィレム様心配し過ぎですよ」
「でもそう言って貰えると嬉しいです」
マユキが気を利かせて派閥に入れてくれたがそれで全部脅威がなくなるって訳じゃないからな心配するのは当然の事だ。
三人の事は僕が守ってやるんだ。
「それから今、案内しているけど僕が案内できない場所もあるから後で自分でも確認してね」
年齢制限のある部屋や研究室・部活関連、そして男子禁制の更衣室は案内のしようがない。
二人も理解してくれたようで頷いて返事をする。
と、その時である。
「「キャー」」
入り口の方から何やらやかましい声が木霊した。
急な事で身体がビクンと震える。
最初は悲鳴かとも思ったがどうやらそうではなく黄色い声で騒いでいるだけの様だ。
食事の場で騒がないで欲しいものだ。
しかしその黄色い声は徐々にこちらへと近付いてくる。
―――いったい何の用だ。
そしてその騒いでいる集団の姿がウィレムの席からも確認できる場所まで来た。
この姿はウィレムの予想した内の一人である。
「アレク様―――」
「こっち向いてぇ―――」
「アレク様、食事なら席をご一緒してもいいですか?」
そこには女性に囲まれているイケメンの色男だった。
「悪いが今は食事ではないんだ。また機会があったら誘ってくれたまえ」
「うう、残念です」
「悪いな。君達もそろそろ家族水入らずで話したいからね。少し離れて見ているようにしてくれ」
その女性陣の中心でイケメンスマイルを振り撒いているのは、僕の兄であるアレク兄様だった。
女性陣はアレクの言葉に従って一斉にその場から離れた。
女性陣がいなくなるとさっきまで見えなかったアレクの取り巻きもいるのに気づく。
そして困ったことにそのアレク兄様の目指しているのがどうやら僕であるという事だ。
面倒だから逃げたかったがお互いに認識しているこの状況ではもう避けることは出来ないので仕方なく二人を隠すように席を立った。
「アレク兄様。どうしたのこんな所まで」
アレク兄様とは学び舎も違うから用もなく来る事はない。
予想は出来るけど。
「なに、お前に少し忠告を、と思ってきただけだ」
「一体何でしょう」
するとアレク兄様は僕の後ろに控えている二人の方に視線を向けた。
さっきまでのイケメンスマイルから一気に視線が厳しくなり不愉快そうな顔に変わっていく。
「お前平民なんかを従者にしたらしいな」
「何か問題でも」
「……問題だと?問題しかないだろう。平民なんて連れていたら王族としての品質が落ちる」
「僕はそうは思いませんが」
「お前は昔っから変わり者だったがまさかここまでうつけだったとは」
アレク兄様は言うだけ言って吐き捨てるともう話す事はないともう一度僕を一瞥した後踵を返した。
―――ただ僕の従者の文句を言うためだけに来たのか。
アレク兄様が離れると今度はその他の取り巻き衆がこちらに視線を送ってくる。
「平民が神聖な王族の従者とは世も末だな」
「それより二人の服装あってなくね。馬子にも衣裳って感じ」
「いってやるな。あれは王子の気まぐれで迷い込んでしまった哀れな子猫なんだから」
振り向きざまに批難する声を態々二人の耳に聞こえるように言ってくる。
上司が上司なら部下も部下でいい性格をしている。
もう用が済んだのだと分かったのだろう。
また女性陣がアレク兄様とその他の周りを囲みだした。
姿が見えなくなってから暫く経ってようやく食堂にさっきまでの静けさが戻る。
振り向くと二人が気まずそうに肩を落としてしまっていた。
まったくいい雰囲気で食事を楽しんでいたのにとんだ疫病神が来たものだ。
僕は落ち込む二人を励ましながら残っている食事を食べるのだった。
設定
ローグレイ兄弟のイケメン度(アイドルグループで比較)
まずアレクの容姿はAR〇SI
エリックはTOK〇O
双子王子はSM〇P
ロクガはH〇y! S〇y! J〇MP
越えられない壁
ウィレム街でスカウトはされるが売れる事はない
奈落の底
まだ登場していない六男
この世界では平均が高い(乙女ゲームの影響?)。
ウィレムの顔は前世ならイケメンの部類だけどこちらでは平凡である。




