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23.ウィレムの寮

「見えてきましたよ、ウィレム様」

「そうか」


 アファネから二日掛けた馬車から顔を出すと確かに建物が前方に見え始めていた。


―――ようやく着いたか。


 いい加減馬車の揺れに耐えている尻が痛くなってきたところだ。


 周りの連中も旅の疲れからか、それとも慣れか、アツェールが見えてきたというのに馬車内は静かである。

 普通こういう時は街見てを見て燥ぐのが子供として当たり前の反応なはずなのに実に冷めたものだ。

 ……というのも、


「……うぇぇぇ」

「もう少しですよ、リア。袋替えますね」

「リエラさん、背中を摩るので少し前屈みになって下さい」

「……うぅ、二人ともありがとう」


 リアは車酔いならぬ馬車酔いになってグロッキー状態、後の二人はそんなリアの看護をしていてそれどころではない感じだ。


 この世界の馬車は車と比べるとかなり揺れる。

 それに道もアスファルトで補強なんてされていないから凸凹だ。

 当然ながら酔い止めなんて便利な物は無い。


 酔いに弱いリアにとっては笑い事じゃない程苦痛である。


 一方、僕はというと気落ちしていた。


 リアの表情が優れないのを気付いて僕も看護を手伝おうとしたのだがきっぱりと断られてしまった。

 それも三人に一斉に……僕ってもしかして嫌われているのではないだろうか?


 そんな訳でアツェールが見えてきても門を通過して馬車を下りるまでこのテンションが続いた。


「ハァァ―――。もう馬車はこりごりですぅ」


 馬車に下りるとリアはさっきまでのが嘘のように顔色が元に戻って気分も良くなっている。


「馬車での移動は必須なんだから慣れなさいよ」

「ええー無理だよ」

「そんなこと言ってるとこれからウィレム様のお供から外されるよ」

「それはもっとヤダー!……うぅ、頑張るよ」


 もう普段通りの会話になっている。

 この世界の人達の回復力ってやっぱり元の世界より高いんだろうか?



 脱線はここまでにしてそろそろアツェールの感想に入ろうか。


 アファネの王城に住んでるから驚くことが少ないとか前世の記憶が戻る前に入学はしているんだから知っているだろというのは抜きにして説明に入る。


 まず僕達の通う学園である建物は前世では考えられないほどでかい。

 宮殿やテーマパークの城かっていう建物だ。


 前世の記憶だけならここって本当に学園?と首を傾げていた事だろう。


 だがこの建物は正真正銘学園である。


 国中の貴族だけでなく護衛、使用人、成績優秀な一般人に他国からも大勢の子供達が在学している学園なのでその生徒数に合わせて必然的に大きな学校になったのだが前世の常識から考えると何とも異常な学校だなぁ、と思うのであった。


「では”寮”の方へと向かいましょうか」


 シルバの先導の元、僕らは寮へと向かった。


 え?手ぶらで荷物はどうしたかって?

 フフフ……自分はこれでも(・・・・)王子なので異世界に飛ばされて流れで学園に通うようになるのとは違って別の馬車が先に荷物を寮まで届けているのだよ。


 ついでに三人の分も一緒に運んでもらったから三人も手ぶらだ。


 唯一シルバだけが荷物を持っているのは馬車に入んなかったからであって決して朝食の食べ忘れた際に受けた説教の腹いせではない。


 そんなことを考えているともう完全に回復したリアが話しかけてきた。


「ウィレム様、寮ってどういう所なんですか?」

「え~と、まずここから見えるあの茶色の建物は分かる?」


 そう言って指した方には二階建ての同じ建物が大量に密集していた。

 その建物の色は茶色い色をしているのを確認しリアが頷く。


「あの建物は一般人や下級貴族の人達が住まう寮で一部屋に生徒二人で住んでいて朝と夜に一度ずつ食事の用意をしてくれる」

「二人部屋ですか」

「食事がついているのは嬉しいですね」

「私はその寮に住んでいます」


 リエラとユリも加わり僕の説明に返事を返してくれる。

 予想はしてたけどやっぱりユリは一般寮だったか。


「それで次にあっちの青い建物」


 今度は距離が遠くて寮が小さくあると認識できるぐらいしか見えないが指を指した方向に青色の一般寮より立派な建物が立っているはずだ。

 左右が二階建てで真ん中が高くなっていて三階建てになっている。


「あの青い建物ですね!」

「こっちの寮に比べると凄く豪華ですね」

「あっちは上級貴族の寮だから豪華なのは当たり前」

「……三人とも見えてるんだ」

「?普通に見えますよ」

「僕には青い建物があるなとしか見えない」

「……ウィレム様って目がお悪いんですね」


 三人から同情の眼差しが突き刺さる。


 一応弁護させてもらうと僕の視力は前世の基準で言えば2.0以上はあるのだ。……三人には見えて僕には見えない時点で反論は出来ないけど。


 それとユリの言う通りあの青い建物は上級貴族の住まう寮だ。


 僕の説明まで取られてしまった。


「で、最後の寮が僕らが今向かっている所だよ」

「王族の方たちが住む寮ですか……上級貴族でも凄いのにそれ以上って想像できないよ」

「私にしたら最初の一般寮でも立派だからね」

「私も少し楽しみです」

「まあ、あれが寮と言えるのかは疑問なんだけどね」


 僕の言っている意味が分からない様で三人とも首を傾げている。


 生徒であるユリも知らなかったか。


 でもすぐに分かる事なので説明せずに進んでいく。


 進むにつれて建物以外に巨大な池やら、噴水、花壇と風景が変化していく。

 そして自然が増えていくにつれて建物同士の間隔がどんどんと開いて行った。


 ちょっと広すぎるな。


 自分達の目指す建物が見えたのに着くまでに5分は歩かないといけないのは長すぎる。

 取りあえずついたので三人の反応を見ると三人は建物の大きさに驚いているようであった。


「なんて言うか……思っていたよりも小さいですね」

「うん。普通に一軒家だね」

「豪華ではありますが……」


 三人の言っている事は正しい。


 目の前に立っている建物は豪邸である。

 敢えて説明するなら別荘の家というのが一番ぴったりであろうか。


 だが大きさは先に紹介した寮と比べると小さい。

 向こうは何人収容できるのか分からないほど大きいがこちらは精々15人ぐらいである。

 

 その間にシルバが建物中に入っていく。


「それなんだけどここ寮であって寮ではないから」


 自分で言っていて意味が分からないと思ってしまう。


「さっきの寮は寮の中の一室を借りて住んでいるのは分かるよね?」

「はい」

「それ以外に何かあるんですか?」

「あるんだよ。僕達王族や有力貴族、他国からの留学生は寮の一室を借りるんじゃなくて領内の一軒家を借りるんだ。だからこの屋敷に暮らす生徒は僕達だけで半数以上の部屋は使用人の部屋になってるよ」


 それはもう寮と言えないだろ!、と思うが学園側はここら一帯の領土そのものが寮なので寮だと言っている。

 僕としては普通の寮でいいのだが一番上の兄の様に気に入っている者は確実にいる。

 無理に規則に逆らってまで一般寮に入りたいとも思わないので気にするのを止めた。


 今は三人の驚愕している顔が見れたので良しとしよう。



「「「「「「お帰りなさいませ」」」」」」


 入り口の扉を開くとズラリと並んだ侍女(メイド)さんと執事が出迎えてくれた。


 当然だが執事はシルバだ。


 どうやったか知らんが荷物は既に視界に見える範囲にはなくなっている。

 まさかこの短時間で自室に置いてきたのか?


 三人がいきなりの事に呆然としている。


 そうこうしている間にも状況は進んでいき侍女の中から少し年配の者が前に歩み出す。 


「お久しぶりです。ウィレム様。先の届いた荷物は部屋の方に運ばせましたので紐解きの際にはお呼びください。

 そして初めまして。ウィレム様の専属の従者のリア様とリエラ様、護衛のユリ様ですね。私はこの家の家政婦でシルバを除けば使用人の筆頭を務めているマルカと申します。三人とも使用人として分からないところがあれば気軽にご相談下さい」


 マルカさんは一礼入れるとまた元の列へと戻っていく。


「ウィレム様、シルバさん以外に使用人がいるなんて聞いていないんですけど」

「この家をシルバだけで切り盛りできる訳ないだろ?」

「いや、シルバさんならできても可笑しくないかなって。そもそも一軒家に住むことだってここに来て知りましたし」


 確かにシルバならできないと否定できない。


「……部下はシルバだけって聞いてました」

「えっと、此処の使用人はシルバの家の者とその関係者だよ」

「じゃあマルカさんも?」

「シルバの従姉だよ」

「………似てませんね」

「それには同感するよ」


 誰が見てもこの二人に血の繋がりがあるとは思わないな。


 いつまでも経たせている訳にもいかないので解散させると使用人達は自分の仕事に戻るため散り散りに去って行った。


 それじゃあ僕も部屋に戻って荷物を……とその前に、


「二階の部屋は空いているから好きな所を決めて使ってくれていいよ。食堂は一階の左側、入浴は小さいのが部屋に一つと大浴場が右側にあるから。もし足りない物とか困ったことがあったらマルカに聞くといいよ」


 部屋は7つぐらい空いていたはずだから気に入った部屋を好きに使ってもらえばいいよな。


 食堂の使用時間と大浴場の時間割なんかを説明しながら空いている部屋に案内した。


 その結果、僕の隣がユリ、反対側の二部屋をリアとリエラが並ぶように選んだ。


 男女なんだからもう少し離れた方がいい気がするんだが……好きな所を選んでいいと言った手前何も言えなかった。


 ようやく自分の部屋につくとマルカの言う通り部屋には荷物が置かれていた。


 こういうのは最初に片づけないといつまで経っても終わらないものなので早速取り掛かることにした。


 使用人?呼ばないよ。


 あいつらと一緒になんてやったら効率のいい整理整頓とか強制させられたり趣味で持って来たものを没収されかねない。


 実際入学前に手伝ってもらったら僕の意見も何もなく勝手に整頓されていったからな。


 では早速、


「ウィレム様」


 ノックと同時にリア達とは違う男性の声。

 実にタイミングの悪い使用人である。


 僕は荷物を開けようとしている態勢のまま部屋に入って来た使用人に何だという視線を向ける。

 使用人はまだ若く新人なのか僕の態度が明らかに不機嫌なのを感じて委縮していた。


 シルバやマルカやそれなりに歳を重ねられている者達はこのぐらいでは平然と無視してくるからちょっと新鮮だ。


 ただその所為で一向に報告してこない。

 仕方ないので不機嫌さを収めてやるとやっと口を開く。


「お客様がお見えになりました」


 客?

 今さっき着いたばかりだというのに一体誰だ?


 学園が始まるのが明日なので多くの生徒はもう戻ってきているだろうが僕に会いに来るような酔狂人なんて思い浮かばなかった。


「フランク家と伺っております」

「なんでそれを早く言わないんだ!」

「あ、いや、すいません」


 使用人が青褪めた顔になっているがそんなこと関係ない。僕はすぐに部屋から出て行くとリアとリエラ、ユリにも声を掛けて客室に向かった。


「お久しぶりですね、ウィレム様。お元気そうで何よりですわ」


 部屋に入ると椅子に座って紅茶を飲んでいるマユキが優雅に挨拶をしてきた。


「そちらもお元気そうですね。それで今回は何の用です?」

「単刀直入ね。もう少し会話を楽しまないと女性に嫌われますわよ?」

「僕の知っている女性は本題に入らず無駄な話で時間を費やすのが嫌いな女性ですので別に構いませんよ」

「ウフフ、相変わらずね」

「そういうマユキもその令嬢スタイルは相変わらずだな」


 マユキの口調が崩れたのを確認して僕も口調を崩すと席へと座った。席に着くと僕の前にも飲み物が置かれたので口を付ける。


 一息入れるとマユキ以外にも視線をやる余裕が生まれる。さっきまで気づかなかったがシルバの奴が後ろで既に控えていた。


「もう一度言うけど何しに来たの?」

「また取り巻きの子が増えたっていうから見に来たのよ」

「……そうか」

「何、邪魔だった?」

「いや、もう呼んでいるから構わないよ……僕もマユキには紹介するつもりでいたし」


 だからそんな睨む様な目で見ないでくれ。


 佇まいや言動に貫禄というのが感じられて本当に7歳だという事を疑いたくなる。

 もしかしたら僕みたいに前世持ちではないだろうか。


「そうよね。もし邪魔なんて言っていたらお父様に言いつけているところだったわ」

「そうなったら明日には路頭に迷いそうだな」

「そうならない様にしっかりと手綱を握ってないとね」


 暴れ馬の御者をしろとは無茶を言う、と言い返そうと思ったがその前に扉が開いて遮られた。

 危なく失言するところだったと思いながらお互いに扉の方へと視線を移す。


 入室したのは三人。

 リア、リエラ、ユリである。

 その三人の中で最初に反応したのは面識のあるリエラであった。


「これはマユキ様、御久し振りで御座います」

「あら、リエラはちょっと見ない間に随分と口調が変わったのね」

「随分と扱かれたので」

「私は前の口調、好きだったけどな」

「それだとウィレム様の傍に居れませんのでご容赦下さい」


 僕は別に前の口調のリエラでも傍に置いたけど周りが五月蠅いからな。

 主に後ろに控えてる奴とか。


「なにか?」

「いや何も」


 こうやってほんの少しの変化も見逃さないのが余計に面倒くさい。

 完璧過ぎる部下が嫌われるのが分かるな。


 そろそろ後の二人も紹介しようか。


「マユキ」

「えっ何?」

「そろそろほかの二人にも挨拶させてやってくれ」

「あ、あぁごめんごめん。リエラの変わり様にびっくりしちゃって忘れてたわ」


 べヒモスの討伐中にも思ったけどマユキってリエラの事気に入ってるよね。リエラと話している時は七歳児って感じで大人びた雰囲気は皆無だし。


 リエラも名残惜しそうに後ろに下がるとリアが入れ替わるように前に出た。


「リエラと同期で従者になったリアです。よろしくお願いします」

「うん。リアね。覚えたわ」


 リアはちょっと緊張しているのか言葉が固い。

 そんなリアにマユキは普通の返しをした。


 次はユリだが……ユリは一向に挨拶をする様子がなかった。

 ずっとマユキを見たまま黙ってしまっている。

 リア同様緊張しているのかというとそんな様子には見えない。


 どっちかというと嫌な相手に会った……かな?


 僕はマユキの反応を伺うとこちらも予想外と言った顔をしていた。


「まさかあなたとこんなところで遭うとは思わなかったわ」

「……お互い様」

「もしかして二人とも知り合いだった?」


 場が緊迫した雰囲気になってしまっている。


 取り敢えず状況を僕らにも分かる様に説明して欲しい。


 ユリよりもマユキの方が喋ってくれそうなので僕はマユキの方を向いて説明を求めた。

 リアとリエラも同じ結論に至った様でマユキの方を向いて説明を求めている。


 マユキはそんな僕らの視線に気づいてユリから視線を外し溜息を一つ吐いた。


「別に何か因縁があるとかではないのよ。ただ彼女とは同じクラスのクラスメイトだってだけ」

「クラスメイト?」


 そうだった。


 ユリは入学式から生徒として通っているんだから誰かしらと面識があってもおかしくない。


 マユキも僕と同級生なんだからユリと同じクラスになる可能性はあるよな。


「そうね……。私の印象だけど、クラスにはいるけどいい意味でも悪い意味でも目立たなかった。

 彼女、今はフード被っているけど獣人でしょ?目立ったらよく思わない連中に狙われるからかひっそり過ごしているのは分かるけどクラスの手伝いとか一切手伝わないしクラスの学級目標を決める時はいつの間にかいなくなっていたりと協調性が全くない。

 友達も一切いないでまさに孤独に生きてますって感じだったからこうやって誰かの下についてるのを見るとなんだか変な感じなのよね」


 マユキの言い分にユリは否定をしない。


「ユリちゃんは悪い子ではないですよ」

「そうです。ちょっと感情表現が下手なだけです」


 二人の言う通りユリはちょっと不器用で運が悪いだけの子だ。


「……何やら非常に納得いかないのですが」

「全員ユリの事を信頼してるんだよ。だからマユキも仲良くしてやってくれ」

「了解。よろしくね、ユリ」

「……よろしくお願いします」


 まだ渋々感はあるけどその内普通に話せる様になるだろう。


 三人とも挨拶が終わったところでマユキは体勢を僕へと戻し呆れたような視線が突き刺さった。


「しかし物の見事に貴族とは縁遠い出生の者ばかりね」

「僕は別に気にしない」

「でも世間はそうは思わないわよ?」

「余所は余所。僕は僕で従者を決めただけだ」


 今更平民だから不適合なんて言われて三人を手放す気はないという意味を込めて言い放つ。

 しかしその答えはマユキの求めていた答えではなかったらしい。


「やっぱり来て正解だったわ」

「どういう意味だ」

「ウィレム様には悪いけど今のままだとユリは兎も角リアとリエラは危ないと言わざるを得ないわ」


 僕はマユキの言っている意味を考えたが答えが出なかった。


「ウィレム様が思っている以上に貴族っていうのは格下だと思っていた存在が自分より高く評価されるのを嫌うのよ。特に貴族にはない平民なら尚更ね」

「その事なら理解している」

「いいえ、してないわ。このままじゃあ苛めの対象確定ね」

「リエラはAランクの冒険者だった。そこらの貴族じゃあ逆に返り討ちだぞ」

「それは男の子の苛めでしょ。女の子はもっと姑息でずる賢くて決して男の子の知る事の出来る表には顔を出さない様に行うのよ」

「………」


 マユキの言い分に僕は押し黙った。


 自分では彼女達を守れないと言われてイラッときて反論したが確かに男女の苛めの違いまでは考えていなかった。


 前世でも女子の苛めは後から他の人に聞いて気付くことはあっても自分で気づけることはなかったからな。


 そう言われると不安になってくる。


「少しは理解できたみたいね。それで本題だけど三人を私の派閥に入れないかしら」

「マユキの派閥?」

「ええ、そうよ。これでも公爵家の令嬢なんだから派閥ができるのは普通の事よ。まだ取り巻きの子は少ないけど同学年で私より爵位の高い女子はいないから容易に手は出せなくなるわよ?」


 なるほど目には目を歯には歯を、女子には女子で対応した方が問題が起きても対抗できる気がする。


「別に貴方の傍から離れる訳ではないわよ。普段は自由に過ごしてもらって構わないわ」

「願ってもない事だがそれじゃあそっちにはメリットがないんじゃないのか?」

「貴方の取り巻きを抱えていること自体がメリットだから問題ないわよ」

「それってメリットか?」

「少なくとも私にとってはとても魅力的よ」


 マユキが嘘を言っているとは思えないが淡々と言ってのけるので自分がそこまでメリットになるという実感が今一湧かない。


 少々納得しにくいがそれでもマユキの提案はこちらにとって願ったりであるため承諾することにした。

 それを聞いてマユキは嬉しそうに微笑むと腕を組んで背もたれに体重を預けた。


「ウィレム様」

「どうした、ユリ」

「申し訳ありませんが私は派閥へは加入するのを断りたく思います」

「ちょっと、折角纏まり掛けていたのに何が不満なのよ」


 ユリは顔を近づけて話しているが声を控えて喋ってはいないので全てマユキにも聞こえていた。

 マユキは不満気にユリを睨んだ。


「不満はありません。しかし私には必要もありません」

「獣人は平民以上に狙われるわよ」

「問題ない。そもそも休みに入る前も問題は何も起きていない。

 それにもう主君以外に使われる気はないので」


 淡々と、しかしはっきりと強い意志の感じられる言葉にマユキは返答できずにいる。


 そして僕はユリの忠義に嬉しくもあり怖くもあった。


 自分は前世の記憶があっても夢に振り回される様なただの凡人でしかないのでいつユリの期待を裏切ってしまわないかとても不安にさせられる。


「……そう、ならいいわ。まだ(・・)学校で問題は起こしていないみたいだし信用してあげる。それでウィレム様、リアとリエラは入団させてもいいわよね」

「あぁ、リアとリエラは問題ないか?」

「はい」

「大丈夫です」


 リアとリエラは派閥に入るのに問題はないようなので加入させることに決まって今度こそ話は終わった。


 実はこの話はマユキが婚約者候補としての外堀を埋める為の行動であったのだが最後までウィレムはそのことに気づく事はなかった。

 




 因みに部屋の荷物は部屋に来た新人君の善意によって片づけられていたのだった。


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シルバは学園には通いません。

送り迎えで同行することはあります。

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