22.出発
―――――――――――。
「……ム様、朝ですよ。起きて下さい」
「うーん……」
「今日はアツェールへの出発の日です。早く起きないと集合時間に遅刻しますよ」
「……あぁ、そういやそうだった」
ウィレムは今日が何の日であるかを聞かされるとさっきまで重たかった瞼を上げて意識を現実へと覚醒させる。
掛かっていた薄い絹布団から出てベッドの横に座って目を擦った。
「……おはよう、ユリ」
「おはよう……ございます」
「無理しないでいいよ」
「……(コクっ)」
ユリは頷くと僕をベッドの上から退かせてテキパキとベッドのシーツ類の片づけを行っていく。
そんなユリを尻目に僕は洗顔をするために洗面台へと向かうのだった。
バガンリュース達盗賊の捕縛が発表されてから日も経って城内の物資不足は改善された。
城下の者の値段の高騰も元に戻ってすっかり騒動前の生活である。
バガンリュースは死刑、あとの者も死刑または鉱山の危険区域の強制労働行き。
今は城の牢獄に居るのでこれでもう顔を合わせる事はない。
それで本題のユリだが正式に僕の下につく事が決まった。
僕が認めても周りの人達が異議の申し立てをしてくるかと思ったが意外とすんなり受け入れられた。
彼女を勧誘した事よりも寧ろ僕の行動を問題視する声のが多く飛び交った。
なぜあんな所にいたのか。
なぜ護衛もつけずに行ったのか。
なぜ盗賊達と鉢合わせたのか。
なぜなぜなぜなぜ……、と色々な人から質問攻めにあった。
僕はその殆どを偶然だと返したが信じてくれるものは少なかった。
ただ信じてくれる者ほど身近な者達(主に親族と第三騎士団)で質問は終わっても今度は説教が始まり僕の行動の愚かさを正論を持って延々と聞かされ、途中から体罰も混じりながら行われた。
弁解してくれる援軍なんてくる訳もなくまさに四面楚歌。
僕がいくらできると思っていようが無事に帰ってこようが怒る人にとっては関係ないらしく心配した分だけ当たりが強い。
特に参ったのはお母様だった。
第三騎士団を動かす事を許可したお父様の隣にいたらしく誰よりも心配をしていたそうで何もない事を祈る様に待っていた。
なのに届いた報告はまさかの盗賊の捕縛の報告。
その時の僕の行動が詳細に報告されて真っ青になり(お父様談)いつもは初めに抱き付いてくるお母様がその時ばかりは平手が飛んできて、僕は驚く間もなくガッチリと身体を拘束されたと思ったら泣きながら説教されるものだからこちらはどうしたらいいのか分からずただオドオドするしかできなかった。
あれには弱いとその後のお父様の説教中に同情する様に聞かされた。
……と、僕の事はいいのだ。
兎も角ユリは僕の護衛としてつくことになった。
リアやリエラの従者とは違い僕の護衛が専門。
護衛対象さえ守れればあとは何もしないでもいい職だ。
求められるのは敵が現れても対処できるだけの力量なので申し分ない。
護衛専門なのに身の回りのお世話もしているのについては本人の自由意思に任せた結果であり、こちらが無理矢理やらしていないので契約違反とかではないです。
……なんか色々あった気がするのに全部説教な気がするな。
取りあえず盗賊の捕縛後とユリの説明はしたからいいか。
「おはようです」
「おはようございます」
洗面所を出たところで扉の開く音と共にリアとリエラが元気よく挨拶をして部屋へと入ってきた。
リアは僕の姿を確認すると勢いよく胸に飛び込んでくる。
「ウィレム様、会いたかったです」
「よしよし、本当にお疲れ様、頑張ったね」
「サランダ先生の勉強強化が行われてから編入試験終了まで色々と大変で精神的にきつかったですからね。……結果は残せたので報われはしましたけど」
リエラの言う結果とは編入試験の事で二人とも見事に合格通知が届けられた。
「でも酷いですよね。サランダ先生、試験前までは『これでは試験に落ちてしまいますよ』とか『それではウィレム様に顔向けできません』とか厳しい事をさんざん言っていたのに全部嘘だったんですから。
いざ試験を受けてみたら問題が物凄く簡単で私何度も見直しちゃいました」
全て事実である。
二人とも高得点を取っている。
その原因はサランダ先生が行った勉強漬けの本当の目的は編入試験に合格するではなく王族の従者として編入しても恥のない学力を身に付けさせるだったらしく二人が精神磨り減って行った日数のうち3/4
は余分であったのだ。
試験が簡単すぎて疑問に思った二人はサランダ先生から聞きに行って認めたそうだから間違いない。
「ウィレム様に合わせてもらえなかったのもそれを気付かせない為だったんですから酷いですよね……でも、もういい加減にしなさい」
「ほえ?」
「あれから何日経ったと思っているの!もうとっくに回復してるくせに!」
「はーい。じゃあ交代だね」
「え?」
リアが離れていき交代という言葉にリエラは飛び込んでいいのかといった顔をこちらに向けてきたので頷いてやると嬉しそうに抱き付いてきた。
「リエラもお疲れ様。よくやったよ」
「えへへ」
撫でてやると気持ち良さそうに笑うから凄く可愛い。
「……満足です」
「では二人とも癒された処で出発の準備をしましょう」
いつの間にか背後に立っていたユリの四人で出発の準備をする。
今回のアツェールへの旅はただの観光ではなく夏季休みの終了間近なので学生寮に戻るための物である。
アツェールは東方にある五大都市の一つ。
地図上では隣の街で近いのだが湖を迂回しながら進む必要があるので途中に野宿が必要になる。
リア達は自分の準備の他にそのための旅支度も含めて準備させている。
お前も手伝えよと思うだろう。
……初日に手伝ってみたが何をしていいのか分からずシルバから邪魔なので大人しくしていなさいと叱られてしまっている。
まさに無能。
それからはまかせっきりである。
「実際僕がいない方が効率がいいんだからしょうがないよなぁ」
若干自分が情けなくなってくるけど人生経験の違いなんだろうなと思っておく。
いても邪魔なだけなので僕は自分の荷物だけを持って先に馬車の所に向かう事にした。
「しかし三人とも仲良くなったよな」
特にユリは部下に加わった期間も短いうえにこれまでずっと一匹狼(ネコ科だけど)でいて対人とのコミュニケーションはかなり乏しくリアとリエラが戻ってくるまで僕としか話をしないような状態であったのが二人が帰ってきたら次の日にはそれなりに話をする仲になっていた。
女の子は本当に仲良くなるのが早いと思う。
「随分楽しそうだなウィレム」
「うぁ!!ロ……ロク兄も今日出発だったんですか!?……おはようございます」
「おはよう。相変わらず自由気ままなようだな」
突然は肩に手を当てて来たのは僕と同じお母様の息子で継承権4位の兄ロクガである。
「で……でもどうしたんです?随分機嫌が悪そうですが」
「どうして(・・・・)?」
あ……なんかまずいこと言った?
「情報を集めていないのも相変わらず見たいだな。ここの所動き出したって聞いたから少しはマシになったかと思えば……お前にお父様からの依頼があったようにな俺も国の為に動いているんだ。
……だがその際に少し失敗して仕事に汚点がついたばかりなんだよ。…………女に現を抜かしているお前には分からないだろうけどな?」
「……すいません」
僕が素直に謝るとロク兄はすぐに身を引いた。
「で、そっちは三人女の従者を増やしたそうだが三人とも学園には行けるのか?(二人までは合格しているのは掴んでいるけど)」
「あ、はい。それなら大丈夫です」
「……そうか、ならいい。それから学園ではそのロク兄はやめろよ」
「え!?あ!!ロクガ兄様ですね」
僕の言った言い方に満足してロク兄は自分の馬車に入っていった。
そういえばユリについてでまだあったな。
それはリアとリエラの合格は通知が来た時。
「これで学園にいけますね」
「ウィレム様と一緒ですね」
二人は喜んだ後少し落ち込んだ。
申し訳なさそうにユリを見る。
「……でもこれだとユリと一緒になれませんね」
「……そうね」
僕もこの時はユリは一緒に学園には行けないと思っていた。
学園への編入試験には間に合いそうになく連れていってもシルバ同様、寮や学園外を任せることになるだろうと……。
それでちょっとシリアスムードだった中でユリは一言。
「え?一緒に行けますよ」
「「「え!?」」」
三人が一斉にユリへと振り返って理由を求めた。
「な……何言ってんですか。ユリは編入試験受けてないじゃないですか」
「アルマーレ院ではないんですよ?あんなお金が掛かる学園に入ってるわけ」
「……僕も聞いてないんだが」
「そういえば……言っていませんでしたね。私、一般入試で合格してるんですよ」
三人とも一瞬時が止まった。
「それに獣人の推薦枠で学費は無料ですし」
チ―――――――――ン
ユリの学費無料でリアとリエラは床へと沈んでしまった。
その時傍らで私は知ってましたよという顔のシルバが無性に腹立たしかったのであった。
……と二度目の回想終わり。
まぁ、三人仲良く学園に通えるに越したことはない。
荷物を持ったリア達も来ていよいよ出発だ。
夏季休み前は苦痛だったけど新学期からは楽しめそうで楽しみだなぁ~。
「ウィレム様」
「あっ、シルバも支度が終わった」
「はい。今回は人手もありましたので楽ができました」
それはもっと早く使用人を増やせという抗議ですか。
「そんな事よりウィレム様。少々よろしいでしょうか」
「なんだ」
「……給仕の者から朝食を召し上がっていないとの報告が来ているのですが」
「…………あっ!?」
その日僕の所為で出発が遅れたのだった。
◆
おまけ
時間を巻き戻して盗賊を捕まえた当日。
「……馬鹿な」
城内のとある一室で男は部下からの報告を聞いて頭を抱えていた。
アファネは今、盗賊団の捕縛の報告で喜びに満ちている。
それなのに男が頭を抱えて悩む理由は、一つしかなかった。
男を愕然とさせている理由。
それが盗賊団の捕縛された事だからだ。
「……なぜバガンリュース達が……捕まっているのだ!?」
そして何故捕縛されて愕然としているかも簡単で、盗賊団を裏で操っていた黒幕がこの男だったのだ。
盗賊が捕縛されたという報告は既にアファネ中に広まっており、これが偽報であるという可能性は低い。
ほぼ間違いない情報だと部下から念を押された。
部下にそう言われてようやく自分が平常な状態ではないのだと気づきいて男は一旦頭を抱えるのを止めた。
深呼吸をして思考を落ち着かせる、
盗賊団との繋がりがあったとなれば自分の身が危うくなる。
しかしその盗賊と自分との繋がりを証明する物は一切存在しない。
書面の様に証拠として残る物は残していない。
バガンリュースも部下を通じて操っていたので誰が自分のバックにいたのかは知らないはずだ。
それに盗賊団が死刑になれば裏に誰かいた事を知られる心配すらする必要が無くなる。
「私に行き渡る事はまずないか。しかしだ。そもそもバガンリュースはなぜ捕まっているのだ!そもそもどこの部隊がどうやって捕縛をしたのだ」
男が盗賊団……バガンリュースとの繋がりを持ったのはこの夏季に入る少し前である。
男は自分の計画に役立ちそうな手駒を探していた。
その情報網に偶々引っかかったのがバガンリュースである。
口説くのは簡単だった。
元々野心の強い男で王都に恨みもあったので寧ろ喜んでこちらの手を握って来た。
資金を与え人員を集めさせると盗賊団を作らせた。
本人達は義賊と謳っていたようだが。
そしてアファネに呼び寄せて警備の目が薄い所に住まわせた。
人気のない隠れ家には絶好の場所だ。
まず普通の奴、騎士連中では見つけられないはずだ。
その後すぐに行動を起こそうと思っていたが誕生パーティーにべヒモスの出現と予想外の催しや事件が重なってしまった。
特にべヒモス騒ぎは街の警戒を強める結果となり警備が通常より厳重だったため行動を起こすタイミングが更に遅れた。
結局行動を開始したのはギルドの不正騒ぎで兵達が忙しくなった後となった。
その間にバガンリュースは余った資金で用心棒を雇ったりしていたようだ。
行動を起こしてからは男の期待通りの働きをしてくれていた。
城内では物資不足になり、商人達は恐れを抱き、街では一向に捕まえられる兆しすらないと兵士への不満を抱いていた。
ギルドの不正もあってか最後の方は予想以上に恐怖が伝わっていた。
守備兵を撃退してその強さを証明すると城でも警戒し出す。
その段階でもう男の望む状況になった。
だから後は甘く熟した果実を収穫する為に準備させていた討伐兵を出撃させるだけであった。
だが何がどうなってか、先に果実を掠め取られるという無様な形で終わってしまった。
功績に一切関われずに終わっただけではなく男の今までつぎ込んだ資金はすべて水の泡になり、出撃を中止にした事で兵達からは不満の声が上がているという。
「バガンリュースの奴め。あれだけ大見得切っておきながら最後の最後に捕まりおって……!」
自分の手の者を貸そうかと提案を送った際に返ってきた返答を思い出し怒りに震える男。
その男の元に事件の詳細が届くと更に怒りが燃え上がる。
「よりにもよって騎士団の膿の集まりである第三騎士団なんぞに功績を与えるとは!」
それも盗賊団を捕まえる為に動いたのではなく我儘王子がまた城から脱走したのでそれを捕まえる為に動いていた時に偶々遭遇したという何とも笑えないものだ。
あの変態集団は全く自分達の力の及ばない勢力の一つでさっさと潰したいのに実力だけは本物なだけに潰せずにいる。
それに我儘王子。
少し前まで無視してもいい存在だという認識だったのにべヒモス、ギルド、そして今回と立て続けに好評を得ている。
「忌々しい。たかが第七王子如きが今まで通り無能のままでいればいいものを」
その後恨み辛みを吐き出す。
だが男は不意にクツクツと何かを思い出して忍び笑いをし出した。
「こちらではうまくいかない事ばかりだがあちらが良ければ支障はないのだ。クククッ……ハッハッハッハッ―――!!」
設定21(というより今回の補足説明)
ユリに対して「無理しないでいいよ」と言ったのはぎこちない言葉遣いではなくメイドの礼をしたことに対して言っています。
リアとリエラは出来て(叩き込まれて)いるので私も、と真似をしようとしたけどちょっとぎこちない感じを想像して下さい。
次回から新章に入ります。
舞台は学園。




