21.VS盗賊団2
盗賊のアジトに出向いたら運よく一人でいる女の子と遭遇できた。
このまま騎士達による殲滅が行われるまでの間アジトから引き離そうと考えて女の子を誘ったウィレムであったが女の子に頑なに拒否され続け、結局時間を掛け過ぎた事によって盗賊達に見つかってしまった。
目の前には盗賊の頭であるバガンリュースの他、部下が二人姿を現している。
更にその周囲には隠れてこちらを取り囲んでいる人の気配が無数に感じられる。
夢で見た数を考えると相当な数が隠れていて逃げるのは無理そう。かといってこのままでは捕まるだけある。
幸か不幸か、なぜか盗賊の人達は獣人の女の子が僕と組んで自分達と裏切ると思っている様で女の子に対して言い合いを始めていた。
これで女の子は盗賊の仲間から追放、いや仲間ではなくて雇われ関係だからクビ又は解雇されたという事で一緒に逃げても問題なくなった。
しかし盗賊の僕への扱いが雑だ。
どうも僕の事は貴族の使いかなんかだと思われている。
僕ってそんなに王族に見えないのかな……。
しかしどうしようかな?
Aコース:無理矢理突っ込んで逃げる。
女の子はともかく僕が無理。絶対その前に捕まるか殺される。
Bコース:女の子頼りで守ってもらいながら逃げる。
Aコース同様にいくら守ってもらっても僕の力不足で余計危険が増しそうである。それに女の子頼りで守ってもらうのは男としてどうかとも思う。
そもそも守ってくれるかも怪しいな。
Cコース:その場に留まって応戦する。
うん、間違いなく僕が真っ先に死亡する。
どうしよう。詰んでいる。
それも全部僕の足手まといだ……。
降伏してこの場は捕まって時間を稼げればまだ希望は……あるかな?
けどなんかその選択は死亡フラグな気がするんだよな。
嫌な予感がビンビンに感じる。
バガンリュースって見た感じ短気そうだし。
そうしている間にもバガンリュースの会話の中でどこを切って殺すかなんて話になっている。
これ以上時間を稼ぐのは彼女の読心術では期待できない。
幾ら実力がAランク冒険者以上あって言葉遣いが子供っぽくないと言っても話術は年相応である。
と思いきやこの子は地雷を踏み抜いた。
ちょっと待った!
何バガンリュース煽ってるの!?
もう明らかに切れちゃってんじゃん!
そのちょっとやっちゃったみたいな顔してても可愛いだけで事態は良くならないからね!
「そういうことならさっさと殺してやるよ。全員、かかれ」
時間切れだ。
タイムアップだ。
バガンリュースと姿を見せていた二人に隠れていた盗賊連中も含めて、殆どが女の子の方を狙って動いたが当然少なくない数が僕の元にも迫ってくる。
腰の剣を抜いて受け止めたが力差があり過ぎる。
身体は悲鳴を上げて筋肉が軋む。
その痛みに声が漏れる。
夢では雑魚役だったけど今の僕には中ボスくらいには強敵で守ってるだけでも数合であの世に行けそうだ。
ちょっとどころではないくらいやばい。
この満足に鍛えていない身体は体力面はめっきり駄目なのだ。
何とか耐えてもすぐに息切れし出す。
そう言ってる間にももう限界間近である。
「おい。まずその貴族の使いらしい奴をさっさと仕留めろ」
それなのにバガンリュースは無慈悲にも僕の事を狙ってきた。
人殺し!人でなし!女誑し!
うわっ、三人一遍とか無理、無理、無理!
女の子が僕を助ける為かこちらに来ようとしているけど道を塞がれて進めずにいる。
その表情は僕がどれだけ絶望的なのかを物語っていた。
……………。
あ、あ~これ無理ぽい?
僕も実力じゃあ避けられないよな。
「ぎゃああああ」
血飛沫が舞った。
悲鳴も木霊する。
鉄臭い香りが嗅覚を刺激してくる。
地面にドサリと倒れる音がする。
「遅いよ」
僕は目の前に立つ男に文句を言った。
まるで知っていたかのように……というか知っていた。
いつ気がついたかというとあの選択肢を挙げている前ぐらいでしっかりと周囲には隠れてこちらを取り囲んでいる人の気配の中にシルバ達も含まれていたのだ。
分かったのは僕に分かる様に合図をくれたからなのだがこの際いいだろう。
ただ着いたばかりで状況も読み込めておらず、まだ盗賊を捕まえるには準備はできていない様だった。 だからすぐに襲われたらシルバ達が間に合わなかったのでいつ襲われるかドキドキしたが思いのほかバガンリュースは話し込んでいたので助かった。
それでも危ない目には合っているので文句は当然言ってやる。
「あれだけ余裕そうにふざけた思想に耽っていて怖がる仕草の一つもしていなかったのに何を言っておりますか。
それにまず文句を言うのは私の方ではありませんか?」
それに対して返り血が少しかかった執事服で振り返るシルバは怒りよりも呆れの方が勝った疲れた声音で返事をした。
三人を瞬殺とは本当に執事か疑いたくなる。
『囲め―――!!一人として逃がすな―――!!』
周りではシルバ以外にも騎士達が出てきて盗賊を取り囲んでいく。
バガンリュース達はもう女の子の処罰より自分の事にしか手が回らなくなっていた。
「お、お頭――!」
「おい……ふざけんなよ。なんでよりにもよってお前らがここに来ているんだよ!?第三騎士団が!」
「第三騎士団って頭が昔所属してたって隊じゃねえか!」
「に、逃げろ……!全員頭と同格の連中なんかに勝てる筈がねえ!」
いち早くやってきた騎士達の身元を言い当てたバガンリュースだったがそれは下策であった。
バガンリュースが元第三騎士団だったのは仲間達に話している。
そもそもその肩書で部下になった者がほとんどだ。
第三騎士団と言えばエリート中のエリート。
相手の正体を知った部下達は余りの相手の悪さに絶望して既に戦意喪失して無抵抗で捕まるか、逃げ出すかのどちらかしかいない状態になっていた。
混乱して各自で思い思いに逃げ出すが既に包囲を完了している。
次々と姿を現す第三騎士団の面々に次々と捕縛されていく。
仲間達が簡単に捕まっていく光景にバガンリュースは勝敗を悟りウィレムに向かって吼えた。
「くっ、貴様ただの貴族の使いじゃなかったのか!」
「さあね。第三騎士団とは知人は多いけど別に自由に動かせる立場って訳でもないから。……解釈は自分で勝手にするといいんじゃない」
「このガキが―――!?」
怒声を上げるバガンリュース。
今にもこっちに迫りくる勢いであったが急にブレーキが掛かったように慌てて後ろに下がった。
そんなバガンリュースと僕の間に変態は立った。
「なんだ。突っ込むんじゃなかったのか?お前がいると聞いて態々私が出向いてやったというのに逃げられるとは心外だな」
僕とバガンリュースの間を遮られバガンリュースの表情が見えなくなる。
騎士団の服を着ている事から前に立っているのは味方だ。
筋肉ダルマの多い第三騎士団の中でさえ映える筋骨隆々の大男が立っていた。
「………団長」
遮られた視線の先でバガンリュースは震えた声でそう零す。
すると目の前の大男は筋肉を強調する様にポーズを決めて(後ろからなので前がどうなっているか分からないが)ニッと白い歯を見せる。
……周りに星のマークが見えるのはたぶん幻影だろう。
「いかにも!私は王直属の第三騎士団の長!つまりアファネで最も筋肉の輝く男、ガルレニオン・ゲイオス・ストロンガーである!!」
そう名乗りを上げると今度は両腕を広げて上腕二頭筋を強調した。
もはやボディービルダー顔負けの盛り上がりだ。
周りの(特に筋肉ダルマ連中の)男達からは黄色い声援が木霊する。
ガルレニオンの筋肉が声援に合わせてドクンドクンと動いている。
そんなガルレニオンには悪いと思いつつもこれはもうツッコまずにはいられないので言わせてもらった。
「―――――――なんで上半身裸なんだあああああああ!!」
さっき騎士団の服を着ていると言ったが着ているのは下半身だけ上半身は何にも来ていないのだ!
つかここ一応戦場で相手は武器持っているのに上半身裸なうえに武器を所持してないってどういうことだよ!
本当に変態しかいなさ過ぎだろ!?
対峙しているバガンリュースはガルレニオンの登場に完全に尻込みしてしまっていた。
僕でももう逃げる事しか考えていないのが分かる。
周りは騎士団に囲まれているから逃げるチャンスを窺っているのだろう。
そんな中でガルレニオンが最初に取った行動はまさかの捕縛ではなく僕への質問の返事であった。
「まだまだ若いな君は、このような皆が力を求める場でこの筋肉を服の下に隠すなんて選択肢が存在するわけがないではないか!!」
振り返って親指立てて宣言するようにいっているが明らかに変態の発言であった。
これが変態集団の長なのだと思うと……至極納得せざる負えなかった。
ついでに後ろからバガンリュースがもう攻めてきているのだが……。
「戦闘中に余所見するとはそのそっ首叩き落してやる」
「ん?……そんな覇気のない剣では私の筋肉は切れはしないぞ」
不意を突かれているはずなのにガルレニオンはのんびりと振り返る。
防がないのか!?
無防備になった身体に剣が当たる。
僕は血飛沫を連想した。
だが、
「こ、この化け物が……」
悲痛な声を上げるバガンリュース。
バガンリュースの放った全力の突きをガルレニオンはもろに受け、もとい筋肉で受け止めていた。
バガンリュースの腕前で傷つかない筋肉ってどんな筋肉だよ!?
もう見ているだけの僕も訳が分からない。
渾身の奇襲が相手に全く効いていない事実にバガンリュースの表情は恐怖一色になる。
「では今度はこちらからゆくぞ」
キラリと効果音がつくようなポーズを決めながら振り上げた腕、もとい筋肉は振り下ろされるとまるでバガンリュースに吸い込まれるように向かっていき、「ゲバブっ」、一撃でノックアウトさせていた。
人が紙のように飛ぶのを始めて見た……。
「何だ一撃で終わりか。つまらんな」
最後にまたポーズを決めているが僕はもう突っ込む気もなくなっていた。
……もう何を突っ込めばいいのか分からん。
「ガルレニオン団長、盗賊団すべて捕縛完了しました」
「ふむ、そうか。ならば一人先行してこの事を城に知らせておけ。あとの者は私と共に盗賊団を連れて戻る」
「はっ」
バガンリュースもお縄になると各自逃げていた盗賊の一味もすべて捕まったようだ。
「それでシルバ殿、王子にお怪我は?」
「無事ですよ。ガルン殿助かりました」
「うむ、それは何よりですな。国王様の下知に従って動いたのに何かあっては第三騎士団の名折れでしたからな。ハハハッ、間に合ってよかった」
「あの数相手でしたからもう少し遅かったらあの世でした。……本当にありがとうございます」
「構わんよ。若干の相手に対しての物足りなさはあったが久しぶりに使われて筋肉も喜んでおるからな」
物足りないってどんだけこの変態強いんだよ。
「それでウィレム様は目的を果たせましたかな?」
ああ!そうだった。あまりにショッキングな物を見せられて忘れる所だったよ。
「……いた」
「………」
僕は辺りを見回すと女の子は盗賊とは別に騎士達に捕まえられていた。
大人しくしていて抵抗もしなかったようでずっと下を向いて無言でいる。
僕は騎士たちを下がらせて女の子の前へと歩を進めた。
僕が近づくと女の子も俯いた顔を上げる。
「無事でよかった。……怪我はしてない?」
「……(コクッ)」
「よかったよ。そっちにたくさん行っていたから心配だったんだ」
「………あの、」
女の子が声を上げたのでなに、と聞いたがなかなか続きがこない。
緊張しているのか頻りに尻尾が揺れている。
「……まだ私を雇うつもりですか」
「うん。僕の護衛として雇うよ。獣人だっていうのは僕が何とかするから僕と一緒に歩いてくれないかな」
「……私は……私は盗賊に雇われていました。他にも貴族に迷惑をかけた事に関わったことも多くあります。だから、だから私は貴方に仕える資格なんてないんです」
「……知ってたよ」
「……えっ」
「君が盗賊に雇われていたってことは知っていた。知っていても君を雇いたいと思う気持ちは薄れる事はなかった」
「……なんで」
なんでか……その質問はちょっと困る質問だな。
すごく恥ずかしいし周りに人が見てるし、でも言わなければたぶん納得してくれないだろうな。
「僕は変わり者だからね。周りの常識なんて気にしないし獣人の君を雇うのにも抵抗はない。……寧ろ獣人で実力のある君となら僕と一緒にみんなの常識を覆せるとそう思ったんだ」
「……………」
「……あー……もしかして迷惑かな?」
「違います!違うんです……。どこに行っても認められなかった私がここまで求められるなんて思っていなかったので」
「そのおかげで僕の元に来てくれることになったのなら僕としては嬉しい事だな」
「……(コクッ)」
笑みを浮かべて頷く女の子はさっきまでの後ろめたい思いから縮こまっていた姿勢を正してこちらの視線を向いて口を開いた。
「貴方様はウィレム・ローグレイ様で在らせられる」
「うん、ウィレムって呼んで」
「ウィレム様……王族の七男で今までは場内から出る事はありませんでしたがここ最近では上級冒険者の救出やギルドの取締として顔を見せるようになった」
「自称王子とか言われていたからてっきり知らないと思っていたけどそこまで知っていたんだ」
「知ったのは街であった後ですよ。今言ったのも調べればすぐに分かるような事です」
「お互いに知っていて黙っていたんだ」
「そういう事になりますね」
お互いにもうそこには緊張も疑念もなくなっていた。
「……それじゃあ再三だけど僕と一緒に来てくれるかい?」
「…………私の身も心もあなたに預けます。
我が名はユリ。……ウィレム様に我が才のすべてを捧げます」
「いや……それはちょっと、重い」
「今回の件は雇い主を裏切ったと私の経歴には汚点がつきました。実質の廃業です。ウィレム様に捨てられればもう生きていく術がないようなものですからね。……あぁ、でもウィレム様が私を必要としなくなれば私は生きていく意味が無くなったも同然ですから気にしなくてもいいですよ?」
「いや、だからね……」
「王子様よ、ここは主として預かるとだけ言うのが良い主と言う者ですぞ」
そうだそうだ、と周りの第三騎士団達からも野次が飛んでくる。
「お、お前ら笑うな!」
「そんな嬢ちゃん捕まえたんだその位我慢しろ!」
「いって!なんで!?」
「ウィレム様、残念ながらここは皆さんの方が正しいと進言いたします」
「シルバまで!?」
その後僕がどんな反応になっても第三騎士団(+シルバ)の揶揄うのは城まで続いたのだった。
裏設定20
この世界の名前と家名について
例えば主人公の場合はウィレム・ローグレイ、国王の場合がバルロクニス・グーザ・ローグレイと二つだけの者と三つある者が出てきますがまず一番前に来るのは名前です。
次に後ろのローグレイの部分が出生した家の家名に当たり国王の息子たちは皆ローグレイになります。
ではある者とない者のいる真ん中は何かというとこれは婚姻後の所属する家を表します。各家には婚姻以外で与える家名と婚姻後に与える家名の二つがあるという事です。
つまり真ん中に家名が入っている者は既に婚姻済みという事で変態のガルレニオンも結婚済みなのである。
次回この章の締めくくりをして序章を終了。ようやく学園に行きます




