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20.VS盗賊団

 例の夢を見た。


 しかし今回は魘されるという事も無ければ起きた後にくる嫌悪感や気怠さと言う者も感じない。

 身体に少しだけ運動後の様に熱くなっているだけであった。


 やっぱりというかいつも重く感じるのはどうやら夢の視点となっている人の体験が影響しているのだと考えられる。

 絶体絶命で走って逃げたり、切羽詰まったりして精神すり潰したりするような出来事はなく覚めたから身体的にも精神的にも負担が少なかったのだろう。

 人が死んだりしているのはちょっとグロくって気持ち悪かったけど前世のR物の作品ってあのくらいの演出はするからまだ耐性がある分ダメージが少ない。

 普段通りに洗顔から着替えまでをさっさと済ませてしまう。


 といった感じで割とすんなり夢についてに思い返す事ができた。



 しかしもう4回目ではあるけど毎度のことながら難題を突き付けてくれる。


 今回の被害者(?)がちょうど調査していたバガンリュースの盗賊団である事もさることながらまさか二度に渡って勧誘していた獣人の女の子が噂になっていた凄腕の用心棒だったなんて。

 僕、盗賊を捕まえるとか言いながらその一味を口説いてたんだ……。


 本来なら盗賊が捕まっただけだと放置一択で盗賊壊滅の報告を後から聞いて終了だったんだけどな。

 正直にあの子を見捨てるという選択肢は持てない。

 今回の夢で彼女の戦闘を体験して尚更その思いは強くなった。


―――――助けたい。


 そう思うのはいいと思うんだがだからどうした方がいいのだろうか?


 また正攻法をするには人数がいる。

 騎士団を別に動かして盗賊団を壊滅ついでに女の子も助けるという単純な方法でクリアできればよかったんだがべヒモスの時みたいにタイミングよく人員が転がってくるような事は望めない。

 助けるだけなら襲撃をばらして逃げてもらうでもいいのだけどその方法を取ってしまうと盗賊も一緒に逃がしてしまうからこれはなるべく避けたい。

 ここで逃がして被害を増やしてたら目も当てられないもんな。

 一番望ましいのは彼女を掻っ攫ってその間に盗賊を壊滅させるだ。

 

 …………そうか、彼女だけ掻っ攫えばいいじゃないか!


 盗賊団のアジトの場所はもう分かっている。

 伊達に今まで人気のない所をウロウロしていただけにあの窪みになっている場所にも見当があった。

 あとは日時か。

 夢の中でそれが分かりそうなのっていうと……。


「シルバ!今日、城に運びに来る商人の中にお酒の類を運んでくる商人はいる?」

「それなら今日パーティー用のワインの備蓄の補充をしに来られる商人がおりますよ」


 シルバなら知っているかな感覚で聞いて知らなかったら調べてもらおうとしたのだが、まさか即答で返って来るとは思わなかった。

 予想はしていたけど時間的余裕が無いのも変わらずか……。


「それじゃあその商人が襲われる可能性は高いね」

「その根拠は?」

「昨日酒場を運営している商人に話を聞いたんだけど二月前に大量の酒を購入していった団体客がいたらしいんだけどガラも頭も悪そうな感じで今思えばあれが盗賊だったのかもって話になってね。大量といっても盗賊の数から無くなる頃合いみたいだからまた街で購入してくるか酒を扱う商人を襲うと思うんだ」

「なるほど、街で酒を大量に購入するのは目立ちますし丁度そういった商人が来るなら盗賊としてはそちらを狙うのが心情と言うものですな」


 シルバは今言った事を警備担当の者にも話して参りますと言って部屋から出て行く。

 その姿を見送るとウィレムは鬼の居ぬ間にとまた城から抜け出したのだった。


「はぁ、いつもの事ですがもう少しでいいので行動力を抑えてもらいたいものですな」


 城に抜け出したウィレムの後姿を見てシルバは溜息をついてウィレムの向かった方向を確認した。







「おい!今日の得物は逃すんじゃねえぞ。何としてでも奪い取るんだ。準備は万端にしとけよ」


 バガンリュースの掛け声に一味の者は気合の良い返事をする。

 その返事は普段と比べて気合の入りようが違かった。

 今日の商人の荷台には高級ワインがあるというのが伝えられてから襲撃直前と変わらないテンションになっていて、いつもはだらけて行う準備作業中なのに座っている者の姿が見られない。

 まだ子供の私には分からない感情だがいつもの飲んだくれた姿を見ているといい物のようには思えない。

 それよりバガンリュースがどこで運んでる商品まで調べてきているのかの方が気になった。


「武器が欠けてっぞ。研ぎ直しとけよ」

「こっちは縄作ってて忙しいんだ。自分でやれよ」

「んだと」

「やんのか」


 そのまま止める者も現れずにまた始まった。

 やる気があるのはいいことだと思うのだが元気の有り過ぎで逆にトラブルが増えていて作業は一向に進んでない。

 物がどこに置いてあるのか知らない奴が多すぎるのが一番の原因でいつもさぼっている奴とそうでない奴が誰なのかがよくわかる。

 私の準備はもう終わっているから座って準備が終わるのを待っていたがいつまでたっても終わらなくて飽きてきた。絡まれる事はないけどうるさくって堪らない。

 私はその場で立ち上がった。


「トイレでも行くのか」

「うるさいから席を外すだけ」


 バガンリュースに止められなかったのでそのまま盗賊の集団から離れていく。

 どうせ準備が終わっても時間になるまでは出発しないので別に姿が見えなくても時間に間に合えば問題ないだろう。

 高台を昇っていき木々を少し抜けると峠を越えて景色が見えてくる。


 正面には他国でも知られているアファネの街並み。

 そこから少し視線を変えるだけで膨大な面積を誇る湖が水平線まで見る事ができる。


 もっと街に近い丘の上で見る景色の方が街も湖も更によく見える絶景スポットだったけど私はこの景色も悪くないと思っている。


「確かにここも見晴らしがよくていい場所だな」

「っ!?」


 私は突然上がったその声に身体が跳ねそうになるほど驚いた。








 少し前

 城から抜け出した後、盗賊のアジトに近づいて女の子を掻っ攫おうと息巻いていたが捕らえるとしても僕とあの子では実力行使でいっても返り討ちに合うだけだしそもそもどうやって盗賊から離れた女の子に近づくのかを考えていなかったため近くまで来たはいいものの次どうしようと悩んでいた。


 やたらと近付いて盗賊にまで見つかったらアウト、だからといってこのままじゃ会えそうにない。

 どうしようと歩いていた所で木々の間から太陽の光に照らされた銀色の髪が視界に映った。


「……いた!」


 目をこすってもう一度見るが見間違いではない。

 さっきまでこのままじゃ会えなくて悩んでたんだろ!なんだよその幸運!と文句を言われそうだが確かに彼女がそこに居た。


―――なぜ彼女がこんな所に?


 疑問は尽きないが兎に角これは絶好の大チャンスだ。


 僕は急いで斜面を登っていく。

 上り坂がやけにきつくてなかなか前に進めない。


 何とか女の子がこちらに気づく前に登りきって息を整える。


 女の子はこの場所から見えるアファネの街の景色を眺めているようであった。

 僕も良く丘の上で景色を見に行って物思いに耽ったり季節の移り変わりを楽しんだりするので親近感が湧いた。

 それに僕のオススメは丘の上だけど、


「確かにここも見晴らしがよくていい場所だな」


 思わず感想が口に出てしまった。


 当然女の子の方は突然の僕の声に勢いよく振り向く。


 その視線には警戒の色があった。


 声を掛けるつもりではあったがもっとこう自然を装って挨拶して近づきたかった訳でこんな驚かせる形で話す事になると思わなかった。

 巻き戻しができないだろうかと本気で思いながらも時間は待ってくれない。


 もうなるようになれだ。

 

「また会ったね」

「……次会うときは盗賊を捕まえてからって言ってたけど盗賊は捕まった?それとも諦めたの?自称王子様」

「盗賊はまだ捕まえていないけど時期に捕まりそうだよ」


 そういえば前にあった時盗賊を捕まえたら会いに行くって宣言して別れたんだった。


 大見得を切っておいて実行できずに会うってすごく恥ずかしい。


 でもさ、あの時は盗賊の用心棒だって知らなかった訳で仕方がないよね。

 普通に盗賊捕まえたら結局彼女は手に入んないんだし。


「それより君の方こそこんな所で何をしているの?」

「それは……ちょっと風景を見に来ただけで」

「風景なら丘の方が街にも近くていいと思うけど」

「うぅ……どうしてもこっちが見たくなったのよ。別に何を見に行こうと私の勝手よ」

「そういう訳にはいかない」

「な、なんでよ」

「追っている盗賊団のアジトがこの辺りにあると思うんだ。だからそんな危ない場所に居させる訳にはいかないだろ?」

「……………」


 あぁ、やっぱりこの近くにあるんだね。


 目が泳いじゃってるよ。


 こういう時の誤魔化すのは子供らしくて分かりやすいなぁ…。


「危ないし僕と一緒に街に戻ろうか」

「そ、それは出来ない」

「どうして?もう景色は見たしここに留まってもいい事ないよ」

「う……裏に商人が待ってて、だから街とは反対側なんだ……」

「ここの下に?街から街道にそのまま入れるのになんでわざわざここに止めてるの?」

「そういう商人だっただけでしょう」

「じゃあ僕も行くよ。その商人さんたちにここは盗賊が出るから危険だって注意しときたいし」

「そ……それは私がやるからいい。いうだけなら私にもできる」


 どうにか僕が盗賊だと知らないと思っているうちに連れていきたいのになかなかいう事を聞いてくれない。


「でも君じゃあ盗賊の情報が少なくって相手にされないかもしれない」

「そ、そんなことは……ない」

「そんな息の詰まったように言われても説得力がないよ」

「……………」


 女の子は返事に困り下を向いた。もう反論する言葉が見つからないのだろう。


「それじゃあ行こうか。ぐずぐずしていて盗賊に会ったら元も子もないからね」

「…………すみません。本当は商人なんて待っていません」


 やっと折れてくれたか。


「なら街に戻ろう」

「ごめんなさい。それは出来ないんです。どうか一人で帰って下さい」

「いや、でも危ないし……」

「………」


 うっ、その涙目は反則だ。


 そんな表情されたら無理矢理連れていけないじゃないか。……かと言ってこの絶好の機会を逃したらもう盗賊から離す事はたぶん無理だ。


「……」

「……」


 どちらも次の言葉が思い浮かばずにお互いに見つめ合いながらも黙ったままの時間が続いた。


 鳥の囀りが頭上で響く。

 このまま二人は時間が止まったかのように思えたが、


「おうおう、まさかてめえが貴族共とつるんでるとは思わなかったぜぇ」


 第三者から放たれる怒りとも悔恨とも取れる声が上がった。


 女の子から視線を外すとそこには屈強の男が左右に一人ずつ連れて近づいて来ていた。


 いや、その他にも憎悪と軽蔑も含まれた視線を三人以外からも感じる。

 恐らく木々の影に隠れて僕達を囲っているのだろう。


 「バガンリュース」と女の子は呟いている事から男達は十中八九盗賊(シルエット的にそうだと思ったけど)のようだが逃げることは出来そうにない。


 ……というか最悪の状況じゃね?







「おうおう、まさかてめえが貴族共とつるんでるとは思わなかったぜぇ」

「……バガンリュース」


 王子様の返答にアタフタしていた頭が一気に冷めていく。

 声の主は予想した通りであったがどうやらバガンリュース一人という訳ではないらしい。


「こんな大それた事をしでかすとはお前の種族と腕前にすっかり警戒心が薄らいでいた。まさかこんな恥知らずな裏切り者が紛れることになるとはな」

「何を言っているの私は……」

「分かっているんだよ。お前がそいつから勧誘を受けていたのを部下の奴が偶然聞いていてな。その時は振り払って断っていたようだから泳がしていたんだが今またこうして俺達に隠れて密談をしていた。大方俺達を売って自分を売り込むつもりだったんだろ?」


 バガンリュースは既に私の事を裏切り者と判断して周囲に仲間たちを忍ばせているのが分かる。

 周囲の視線も私の事を敵としてみる視線ばかりもうどれだけ弁解をしようと疑いが生まれた私を逃す気はない様だ。


 これでもう契約は破棄された状況だ。


 そして同時に裏切り者のレッテルもついてしまったという事だ。

 結局こうなってしまうんなら迷っていたのが馬鹿らしくなる……。


「それでこの囲いですか。もう少し殺気は抑えて隠れないとバレバレですよ」

「お前じゃなくてその後ろの御チビちゃんが怖くて逃げてでもしてくれりゃあと思っただけだからな」

「その御チビちゃんにも見破られているのですからどれだけ今まで私に頼り切っていたかが伺えますね」


 周囲の殺気が更に濃くなる。こんな単純な挑発で頭に血が上ったのか。


「そうだな。確かにお前にはいろいろと助けられたよ。だからな、盗賊の頭としての敬意を払ってお前には腹を切って死ぬか、それとも首を切って死ぬかを選ばしてやるよ。さあ好きな方を選びな」

「選ぶ?」

「ああ、選ばしてやるよ。死に方を選ばせる俺は優しいだろ?」

「それは私を殺せると取っていいのか。そちらが優位と思っていると」

「あぁ、確かにお前は強いよ。俺様よりも強い腕前がある。だが勝てねえほどじゃあない」

「なるほど、私がどちらも選ばない場合の選択肢もあると」


 私の言葉に左右に控えていた者が抜刀する。

 周りから武器を抜いた音がしないのは既に抜いていたからか。


 何とかまだ戦闘にはなっていないとはいえバガンリュースの言う通り戦いになればたぶん接戦になる。

 周りの連中はともかくバガンリュースだけは油断ができない。


 それに私の後ろには王子様がいるのだ。

 守りながら戦えば不利になるのが分かっていても守らないといけない。


 連中は貴族の使いの者とか思っているみたいだけど確実に雑魚の何人かはそっちに向かうだろう。

 それを私が守ればバガンリュースは絶対に其処をついてくる。


 彼が王子だという?

 駄目、絶対に更に事態が悪化するだけ、バガンリュース達には王子様は貴族の使いだと誤解させたままの方がいい。


「まぁ待て。その前になんで俺達を裏切ったのかだけは聞いといてやる。ここに来る前には確かに身元は洗ったが貴族との接点なんて何もなかったからな」

「義賊と名乗っていながらやりたい放題な部下にそれを黙認して、自らもそういった行いをするあなたに嫌気がさしたから。私は契約の際、無益な殺生は控える様に言っていたのにあなたはそれを守る気はなかったでしょう?」

「はっはっはっ、それならすぐに言えば直してやったのに」

「それは無理でしょう。……そもそも自分の快楽の為に動くような人間は抑制が効かない。貴方の過去がそれを物語っているでしょう?」


 そう言うと明らかにバガンリュースの顔に変化が見られた。


 調子に乗って少し言い過ぎてしまった。

 左右の人達の方がビビッて顔色を悪くしている。


 彼の経歴を調べた時に一番の汚点を突いたが効き過ぎた。


 どうやらバガンリュース本人も気にしていた事だったようでもう喋ってくるような雰囲気ではない。

 時間を稼いで王子を逃がすチャンスを待っていたのにこれでは今すぐ戦闘になってもおかしくない状態になってしまった。


「はぁ、そうかそうか。そういうことならさっさと殺してやるよ。全員、かかれ」

「「「おうっ」」」


「くっ……!」


 バガンリュースに合わせて隠れていたのも出てきて襲い掛かってくる。

 バガンリュースとは真っ向から打ち合いたくないので慌てて後ろに跳んで回避し近づいてくるその他の下っ端達の足元目掛けて投擲をして行動を阻害する。

 それでもさすがに人数が多く、懐まで来た者は切り捨てる。

 やっぱりというか私だけならこの人数でもなんとかなるかもしれないという手ごたえがあった。

 しかし―――


「ぐっ」


 私の後ろでそんなその他の連中の剣を止めてくぐもった声を上げている王子様がいた。

 やっぱり貴族は軟弱なのが多いと言われているけど王族もやっぱり弱いようだ。


 この分じゃあ二人も相手は出来ない。

 殆どがこっちに向いているとはいえそのうち、


「おい。まずその使いらしい奴をさっさと仕留めろ」


 バガンリュースは私に集中するために先に王子様を狙ってくる。


 今度は一気に三人が王子の方へ向かっていってしまった。


 王子様一人で助かる見込みはない。

 すぐに助けに行こうにもバガンリュースが立ちはだかって邪魔をしてくる。

 あぁもう駄目……。


 一本目は何とか防いだが二本目を防ぐ術はない

 迫りくる盗賊の剣が身体に向かって吸い込まれるように進んでいく。


 そして血飛沫がその場に舞った。


裏設定

魔道具の機能を付けた武器の事を魔剣や魔槍といい、高い攻撃力を持っていて高価な武器として存在する。

ただし組み込んだ魔石の効果が切れるとただの武器に戻り、そのタイミングは予期する事ができない為乱用は出来ない。

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