第9話 目指せ、薬草採取……?
翌る日の朝、リックたちは早速、冒険者ギルドの掲示板を眺めていた。
使い古された古木の板には、ところ狭しと様々な内容の依頼書が貼られている。
『迷い従魔の捜索』
『希少鉱石の採掘』
『害魔獣駆除』
──etc
リックは眉を寄せて掲示板を睨みつけた。
その中から、Fランクの新人でも受けられる依頼を探す。
「お!あったぞ、薬草採取!」
リックは「薬草」と書かれた依頼書を見つけ、それを掲示板から剥ぎ取った。
二人で中身を確認するため、ナイアに声をかけようとリックは振り返る。
すると──
ナイアの横には見知らぬ男が立っていた。
大柄でむさ苦しいその男は、ナイアをまじまじと凝視している。
「お嬢ちゃん、綺麗な髪してるなぁ……
しかも超べっぴんじゃねえか!ちょーっと俺様と遊びにいかねえか?」
「いや、あの……」
困った様子のナイアを見て、リックは溜め息をついた。
大柄なその男は、分かりやすくイヤらしい顔つきをしている。
しかしまあ、男の気持ちも分からなくはない。
リックが選んだ、簡素ながらも気品のある服と防具に身を包んだナイアは、お世辞抜きで超可愛いのだ。
「わかるなぁ、その気持ち……うんうん」
助けることもなく頷くリック。
「ね、ねえ!リック!?」
ナイアはわけも分からず、慌ててリックに声をかける。
だが、リックは目を閉じて頷くばかりで、まるで聞こえていない様子だった。
「もうっ!!」
ナイアがムッとした、その時──
リックとナイアの頭に、レーヴァの声が響いてきた。
『こやつ、むさ苦しいな……ちょっと気合込めて吹っ飛ばしても構わんか?』
それを聞いたリックは目を輝かせた。
そんなことができるなら、ぜひ見てみたい。
「いいね!見せてくれ!」
「ダ、ダメだよ!!」
ナイアが思わず叫ぶ。
だが、遅かった──
ナイアが腰に下げたレーヴァが、一瞬だけ眩い翡翠の光を放った。
ギルドの中にいた冒険者たちは、その眩しさに目を覆う。
──ドガンッ!!──
「ぬがあああっ!?」
野太い男の声が響いた。
「「な、なんだ!?」」
他の冒険者たちが一斉に音の方へ振り向く。
すると、そこには石壁に叩きつけられ、もたれかかるように倒れた男の姿があった。
「ちょっとレーヴァ……!?」
ナイアは小声でレーヴァを叱る。
だが、レーヴァは何がいけないのか分からない様子だった。
『何を怒っている?我は主を助けたのだぞ?』
「そ、それはありがとうなんだけど……んんぅ……もう!リックのバカ!!」
ナイアは言葉が見つからず、今度はリックに向かって怒る。
しかし、怒られた当のリックは、レーヴァ同様に鈍感さを発揮した。
「ええ……?俺が悪いのか?」
そうこうしていると、慌てた様子でレリアが飛んできた。
その表情は明らかに怒っている。
そして、ギルド受付の奥からは、物凄い形相のゼルドアがこちらに鋭い眼光を向けていた。
「あー……もしかして、やっちゃった……?」
リックは色々と察し、頭を掻いた。
ナイアは困り果てた様子でうなだれている。
レーヴァは──とりあえず光っていた。
「あなたたち!目立つなって言ったでしょ!?」
レリアは眉間にしわを寄せて叫ぶ。
彼女は急いで他の職員に声をかけ、壁際で倒れている男を担架で運ばせた。
「それ貸して!すぐ受理してあげるからさっさと行ってきて!!」
怒りながら依頼書を受け取ったレリアは、壁に押し当てて許可印を押す。
それをすぐさまリックに突き返すと、二人の背を押してギルドから追い出した。
「お、おい……今のなんだ?」
「剣が光ったのか……?」
「女の子が、デカいおっさん吹っ飛ばしたぞ?」
ざわめきの収まらない冒険者たち。
目が眩んではっきりとは見えていなかったようだが、男が気絶していることに驚きを隠せずにいた。
「あ、あなたちは気にしないで!
ほら!あの子たち新人だから、まだ武具の扱いに慣れてないのよ!あはは……」
レリアは必死に誤魔化した。
奥で睨んでいたゼルドアは、額を押さえて深い溜め息をついていた。
◆◆◆
冒険者ギルドを追い出されたリックたちは、早速、薬草採取へと向かった。
依頼書によれば、目的の薬草は希少なものらしく、街から北に向かった険しい山に生えているという。
「へえー、街の北にこんな山があるのか」
「ねえ、ここって結構険しいみたいだけど……
私たちみたいな新人用の依頼にしては難易度高くない?」
リックは目的地について、あまり気にしていない様子だった。
一方、辺境伯領の街から出たことがなかったナイアは、微かに不安を覚えていた。
「我がおるのだ。主は何も心配せんでよいぞ」
レーヴァが自慢げに告げる。
リックもまた、力強くナイアに声をかけた。
「そうそう。俺もいるし、何が出てきてもぶっ飛ばしてやるから大丈夫だって。な?」
そう言って笑うリックと、鼻息荒く意気込むレーヴァ。
だが、ナイアの心配はそこではなかった。
「また目立っちゃわないかなぁ……」
ナイアは小さく呟いた。
ただ、彼女の胸も高鳴っていた。
つい数日前まで考えもしなかった冒険が、今は目の前にある。
リックの背を見つめたナイアは、そっと楽しげに微笑んだ。
◆◆◆
その頃、冒険者ギルドでは──
「あいつら、早速やらかしやがって……」
ギルド受付の奥にある控え室に、椅子に腰掛けてうなだれるゼルドアがいた。
同じく休憩していたレリアも、気が抜けたように深く息を吐く。
「ああ……先が思いやられるわね……」
「ところで……」
ふと、ゼルドアがレリアに尋ねた。
「あの掲示板に、あいつらが行けそうな初級依頼なんて貼ってあったか?」
その問いに、レリアは首を傾げた。
しかし、すぐにハッとした彼女は、慌てて受理した依頼書の控えを確認する。
「あああ……!やばいわよこれ……!!」
みるみる青ざめるレリア。
ゼルドアも彼女に駆け寄り、その控えを確認した。
「おい!お前これ……!!」
ゼルドアは絶句した。
控えに書かれていた依頼内容は──
【薬草採取依頼】
竜哭山にしか生えない薬草、竜の灯火の採取。
報酬額100万ディール※一本につき。
なお、原生地は禁山に指定される危険区域につき注意されたし。
主な出現魔獣、ワイバーン、その他亜竜種。
【指定冒険者ランクA以上】
当然、こんなものは新人が受けるような依頼ではない。
だが──
ゼルドアとレリアが慌てふためく中、当のリックたちは、すでに竜哭山へと足を踏み入れていた。




