第8話 謎の神剣、レーヴァテイン
ナイアは突然のことに言葉を失った。
同じくリックも驚いていたが、彼はむしろワクワクが勝っているようだった。
「ええ!お前、話せるのか!?」
リックは目を輝かせ、レーヴァテインを凝視する。
そんな彼に、レーヴァテインは偉そうに言葉を返した。
「お前とはなんだ!?我は神剣だぞ!もっと敬え、小僧!」
ずいぶんと不遜な物言いをするレーヴァテイン。
神剣という割には、器が小さいらしい。
リックは少しムッとした様子で、レーヴァテインに手を伸ばした。
「ふーん……じゃあ装備しちゃおっかな?」
「やめろ、小僧!!!我が破壊されれば、世界中の教会にあるレーヴァテインが崩れ去るぞ!?」
レーヴァテインは思わず声を張り上げた。
怒っているというより、リックに対して怯えているようにも見える。
「今言ったことは本当か?」
ゼルドアが問いかけた。
一つが壊れればすべてが壊れるなんて話は聞いたことがない。
そもそも神話級の、しかも創世神話に関わる武具が壊れるものなのか──
この疑問を抱いたのは、恐らくゼルドアだけではないはずだ。
「もちろんだ。というより……
我が世界に散らばるレーヴァテインの本体なのでな。他の剣は分身のようなものだ」
「な、なんですって!?そんな話聞いたことないわ……」
レリアも険しい表情を浮かべた。
ヒュームに比べれば長寿であるエルフ。
そんな彼女でも、レーヴァテインの語る話は初めて聞く内容だった。
「レリアも知らないとなると、とりあえず周辺の街で知ってる奴はいねえな……」
リックと出会ってから驚きの連続だ。
ゼルドアは額を押さえ、溜め息をついてうなだれた。
武具を装備できない少年。
ミシッククラスに選ばれた少女。
そして今度は、しゃべる神剣──
ゼルドアもレリアも頭を抱えるしかなかった。
「それで、あなたはなぜ話せるの?
武具が会話するなんて話も聞いたことないんだけど……」
レリアは呆れたように尋ねた。
彼女も立て続けに聞かされた、耳を疑うような話に戸惑っていた。
「それは……」
「「それは……?」」
四人が息を呑む。
「我にも分からん」
「っんなことだろうと思ったよ……」
ゼルドアはあからさまに落胆した。
正直、予想はしていた。
それでも、もしかしたらと期待してしまった自分に苛立ちを覚える。
「そこで相談なのだが、我を各地のレーヴァテインの元へ連れて行ってくれぬか?」
「ん?なんでだ?」
リックは興味津々だった。
剣が話すという不思議なことが起きたなら、自分の体の秘密についても何か分かるかもしれない。
そう考えたリックは、レーヴァテインに根拠のない親近感を覚えていた。
「なぜ、我に突然自我が芽生えたのか確かめたいのだ」
「はは!いいねそれ!ナイアもいいかな?」
「うん!私はリックについてくよ!」
ナイアは迷うことなく頷いた。
リックと一緒に冒険できることが、彼女にとっては何より嬉しい。
二人の答えにレーヴァテインは歓喜した。
自分では身動きのできない彼にとって、ナイアは大切な手足のような存在といえる。
「そうと決まれば早速──」
レーヴァテインがそう言いかけた時。
「それは無理だな」
ゼルドアから冷ややかな言葉が投げかけられた。
太い腕を組み、リックとナイアを見据えた彼は、冒険者ギルドの仕組みについて話し始めた。
「新人はある程度までランクを上げなきゃ、登録した街から移動はできん。
冒険者登録だけして実績のねえ奴は、他の街のギルドも欲しがらんからな」
「なんだと!?それでは教会に赴けんではないか!」
説明を聞いたレーヴァテインは怒りをあらわにした。
しかし、それがこの国の定めるルールである以上、従うほかはない。
「まあまあ、焦らず実績を積めばいいんじゃない?どうせ、他にもやることないんでしょ?」
レリアはレーヴァテインをなだめるように優しく言った。
彼女としても、こんな危なっかしい二人をそのまま他の街へ行かせるわけにはいかない。
気づけば、二人に対する保護者にも似た思いが、レリアの中に芽生えていた。
「仕方ないさ、レーヴァテ──長いからレーヴァでいいかな?
とりあえず、冒険者の依頼をこなしてランク上げだな!レーヴァ!」
「お前、我を敬う気ないな……?
まあいい。お前たちの冒険に我も付き合うとしよう」
「よろしくね!レーヴァ!」
ナイアはレーヴァを手に取って微笑んだ。
見た目では分からないが、レーヴァは少し照れているようにも感じられた。
「お前ら、もう一回言っとくが……決して目立つんじゃねえぞ?」
「私がしーっかり見張ってますからね!」
ゼルドアとレリアはそう言って、ふんっと鼻を鳴らした。
また一つ問題の増えた三人──いや、二人と一振り。
これ以上何か起きないようにと、ゼルドアとレリアは気を引き締めていた。
「我がおるのだ。万事問題ない」
「お前が一番目立つと困るんだよ……」
レーヴァの言葉に、ゼルドアは溜め息を漏らす。
しかし、彼もレーヴァの存在には微かな興味を抱いていた。
「俺たちもできる範囲で調べてみる。お前たちも何かわかったら知らせてくれ」
「りょーかい!」
「はーい!」
リックとナイアの声は晴れやかだった。
こうして、今度こそ二人の冒険者としての日々が幕を開けた。
「よし!早速、魔獣退治に行こう!」
「え!いきなり!?」
「いいな!我もちょうど暴れたいところだ!」
「バカやろう。お前たちはまず、最低ランクの薬草集めだ」
「ええええええ!?」
「なぬうううう!?」
部屋にはリックとレーヴァの悲鳴が響き渡る。
その横では、そんな二人の様子に肩を震わせるナイアとレリアの姿があった。




