第6話 雷神手甲ヤルグレイヴ
真剣な眼差しを向けるゼルドア。
隣にいるレリアは、二人を心配している様子だった。
そんな二人に、リックはこれまでの出来事をかいつまんで語った。
「俺はリック。元はグランジェット家の末弟ですが、今はただのリックです。
実は、俺は前代未聞の武具不適合者なんです。そして、こっちのナイアはミシッククラスの武具の使い手です」
「は……?」
「え……?」
突きつけられた情報量に、ゼルドアとレリアは混乱した。
そんな二人をよそに、リックは軽い口調で話を続ける。
「貴族から不適合者なんて、家の名誉に関わるでしょ?だから……
俺は家を出るからナイアを養子にすればいいって言ったんですけど、ナイアが自分も旅に出るって言い出して父と揉めちゃって……あはは」
苦笑いを浮かべているが、リックはとんでもないことを言っている。
ゼルドアは頭を抱え、レリアは天井を見上げて眉間にしわを寄せた。
「揉めたって……どうなったんだ?」
ゼルドアは呆れ気味に尋ねた。
リックは特に悪びれる素振りもなく答える。
「えっと……デュランダルを抜かれたので、素手で受け止めて、取り上げて──」
「まてまてまて……!」
「ん?なんですか?」
衝撃の発言に、思わず話を止めるゼルドア。
レリアも目を丸くして固まっていた。
二人の反応を見たナイアは、あからさまに慌てている。
「えっと……嘘はよくないわよ……?」
素手でレジェンダリークラスの武具を止めるなど、当然信じられるはずもない。
リックが嘘をつくような人間には見えないが、レリアはつい疑惑の目を向けてしまう。
「いやー、やっぱそうなりますよね!でも、本当のことだからなぁ……」
「ほ、本当です!リックは私を……守ってくれました!」
それまで縮こまっていたナイアが声を上げた。
レリアは困り果てた様子で、額を押さえてうなだれる。
「なら、証明する方法は一つだな」
ゼルドアが二人に向けて言った。
彼の表情は、疑うというよりも確かめようとしているようだった。
「え、まさか……!」
レリアは驚いてゼルドアへ顔を向けた。
どうやら、穏やかな方法ではないらしい。
「リック。お前は俺と勝負しろ。冒険者として認めるかはその結果次第だ」
「はは。分かりやすくていいですね!」
リックは満面の笑みを浮かべた。
そこには恐れなどまったくない。
ただ純粋に、この状況を楽しんでいた。
「あの……私は……?」
ナイアが恐る恐る手を上げる。
そんな彼女に、レリアが優しい声で告げた。
「ナイアちゃんは、こっちの水晶で武具適性の確認よ。
本当にミシッククラスなら、あなたはいきなりAランク冒険者ってことになるわ」
「え!?そんな……いきなりAランクなんて無理だよ!」
「ははは。すっげーな、ナイア!」
突然の話に戸惑うナイア。
なぜか、リックの方がそれを無邪気に喜んでいた。
「まあ……それもリックの力を見てからだな」
ゼルドアは眉を寄せて告げた。
ナイアに関しても、仮に真実なら慎重に扱う必要がある。
「早速だが、俺について来い」
そう言ったゼルドアは、ゆっくりと立ち上がる。
リックもそれに続き、二人は部屋を後にした。
「リック……!」
ナイアが不安げにリックの背を見つめる。
それを見たレリアは、彼女に言った。
「私たちも行こっか!リックくんの力には、私も興味あるし!」
「うん!」
こうして、突然始まったリックの試練。
それを見届けるべく、レリアとナイアも二人の後を追った。
◆◆◆
ここはギルドの地下にある闘技場。
頑丈な鉱石で造られた壁に囲まれ、さらに防御魔法陣が刻まれている。
壁際には、木でできた様々な模擬戦用の武具が並べられていた。
「おい、これ持ってみろ」
ゼルドアが手に取った木剣を投げる。
「わっ、とっと……!」
リックは思わずそれを受け取った。
だが、すぐに持ち手を指で摘んでぶら下げる。
「ねえ、これ崩れますよ……?」
「構わねえから握ってみろ」
リックは眉を寄せ、渋々木剣を構えた。
その瞬間──木剣は濃い紫の魔力に包まれ、ボロボロと崩れ落ちる。
「っ!!」
それを見たゼルドアは冷や汗を浮かべた。
レリアもその光景に驚き、開いた口を手で押さえる。
「ちょっと……なによあれ……」
「私も、あれは初めて見た……」
ナイアはその時、リックの行動を思い出した。
この街に来るまでの道中、リックは絶対にレーヴァテインに触れなかった。
「ただ、装備できないだけじゃなかったんだ……」
「どういうこと……?」
リックを見つめるナイアに、レリアは尋ねた。
「私の剣に、リックは絶対触らなかったの……
装備できないだけなら、触るくらいはいいはずでしょ?でも、あんな風になるから触らなかったんだ……」
それでも、ナイアには不思議に思うことがあった。
グランジェット家の倉庫で防具を漁っていた時には、何も問題なかったはずだ。
「もしかして、ちゃんと装備する意思を見せると壊れちゃうのかも……」
「なによそれ……そんなの聞いたことない。なんか、呪いみたいな力ね……」
ナイアとレリアは息を呑んだ。
リックの力の正体はなんなのか──
そんな疑問が、二人の中に湧き上がる。
「どうやら武具不適合は本当のようだな。なら次は──」
そう言ったゼルドアは、足元に置いた大きな銀のカバンへ魔力を込めた。
すると、カバンはバカリと音を立てて開く。
その中には、ミスリルに金細工の施されたガントレットが収められていた。
「これでお前を殴る。死にたくなかったら全力で防いでみせろ」
「ちょっ!?マスター、それ本気!?」
レリアは驚愕した。
ゼルドアが持ち出したのは、雷神手甲ヤルグレイヴ。
創世神の子である雷神が、俗世で振るったとされる伝説のガントレット。
紛れもない、レジェンダリークラスの武具だ。
「殺す気なの!?」
ゼルドアは貴族顔負けの武勇を持つ、元Sクラスの冒険者。
そんな彼がヤルグレイヴで殴れば、生身の少年などひとたまりもない。
だが、ゼルドアの瞳は、その覚悟が本物だと告げていた。
「どのみちこれに耐えられないなら、生身で冒険者になっても死ぬだけだ。
なら、外で魔獣に殺されて無様を晒す前に、ここで俺が引導を渡してやる」
ゼルドアはガントレットを装備する。
すると、彼の体は金の光に包まれ、凄まじい威圧感とともに拳へ魔力が収束した。
そのままゼルドアはぐっと低く構え、リックに殺意を込めた視線を向ける。
「……いくぞ」
ゼルドアの眼光に神聖力が宿る。
しかし、リックは彼に不敵な笑みを返した。
「いいね!受けて立つ!!」
同じく低く身構えたリック。
闘技場に静寂が落ちる──
次の瞬間、ゼルドアは目にも止まらぬ速さでリックに向けて飛び出した。




