第5話 冒険者の洗礼
二日ほど街道を歩いたリックとナイア。
途中、魔獣に出くわしながらも、旅は順調に進んでいた。
そしてついに、二人の視線の先に大きな街が見えてきた。
「おっ!あそこがラトーダかな?」
「うん!きっとそうだよ!」
屋敷から持ち出した地図を確認しながら、目的地に辿り着いた二人。
そこは、この国の中心部と辺境を結ぶ中継地点となる街。
様々な人々が出入りし、多くの冒険者が拠点を置く交易都市、ラトーダ。
「うっわぁ!賑やかだな!」
「うんうん!すっごいね!」
辺境領の田舎に住んでいたリックとナイアにとって、目の前の光景は夢のようだった。
石造りの角ばった家屋が隙間なく建ち並び、街路には露店が立ち並んでいる。
窓から窓へと吊るされた紐には、服や敷物などの様々な布製品が干されていた。
「あれって洗濯物なのかな?」
ナイアは珍しそうに上を見上げた。
その様子に、リックはクスクスと肩を震わせる。
「そんなにキョロキョロしてると、田舎者丸出しだぞ?」
「ひっどーい!リックだって、今はただの田舎者なんだからね!」
「あはは。そりゃそうだ」
二人は顔を見合わせて笑った。
突然始まった平民としての第一歩。
まさかそれが、こんなに楽しい旅になるとは思いもしなかった。
「さて、当面のお金は屋敷から持ち出した分でなんとかなるけど、早く仕事を探さないとな」
「そうだね。リックはすぐに戦えるけど、私は剣の扱い方も知らないし……」
「まあ、ゆっくり慣れてけばいいさ!」
「うん!」
そんな会話を交わしながら、二人は街の中心部へと向かう。
賑やかな露店街を抜けて進んでいくと、少し荒々しい雰囲気の場所に辿り着いた。
「この辺りかな?」
「なんか、緊張してきた……」
こんな場所でも普段どおりのリック。
対して、ナイアは少しビクビクしながら歩いていた。
「おっ!あったぞ!」
「うわっ!おっきいね!」
そこには、石造りの大きな建物が佇んでいた。
中央には石組みのアーチがあり、その内側には古木の扉がはめ込まれている。
リックとナイアは扉に手をかけ、そっと開いた。
建物の中へ一歩踏み入れると、賑やかな冒険者たちの声が響いてきた。
「おーい!弓使いはいねえかー?」
「なぁ、今日の依頼なんだけどよ──」
「あたし、探し物なんてごめんよ?」
ここは冒険者ギルド。
無骨な戦士風の男に、身軽そうな斥候らしき女。
他にも魔術師や聖職者など、様々な風貌の者たちが自慢の武具を携えてひしめいていた。
「おお!みんな強そうだなぁ!」
「そ、そうだね……」
リックは興奮気味に声を上げた。
その横では、ナイアが微かに震えながら寄り添っている。
「早速、受付に行こう!ナイア!」
「う、うん……」
そう言って、リックはナイアの手を引いた。
二人はそのまま、ギルドの受付へと向かう。
ただ、二人は悪い意味で目を引いていた。
「……なぁ、やけに小綺麗なガキどもだな」
「あ?女剣士って珍しくないか?」
「男は……なんだよ、丸腰か?」
「あの子綺麗な顔してるじゃない?あたしたちが可愛がってあげようかしら」
リックには、貴族として過ごしてきた気品がまだ残っていた。
グランジェット家から持ち出した武具を身につけるナイアも、とても貧民には見えない。
「あのー。俺たち冒険者登録をしたいんですけど、ここで合ってますか?」
リックが受付にいた女性に声をかけた。
金糸の髪に淡い緑の瞳。
そして、特徴的な尖った耳が、彼女がエルフであることを示している。
するとその女性は、二人を見て眉間にしわを寄せた。
「えっと……まだ子ども、ですよね?」
「いえ!二人とも成人の儀は済ませました!」
「いつ……?」
「二日前です!」
その瞬間、ギルド内がざわめく。
しかし、その全てが嘲笑だった。
無理もない──
成人の儀は、あくまでスタートライン。
そこから数年の訓練を経て、ようやく一人前と認められるのが常識だ。
「成人して三日目……しかもその身形……
あなたたち、どこぞの貴族のご子息、ご令嬢ですか?」
受付の女性は冷やかしだと思ったらしい。
その言葉には少し棘があった。
「いやいや!二日前に諸事情で家を出ましたので、今は皆さんと同じ一般市民です!」
驚愕の事実を、リックはまったく躊躇せずに告げる。
それを聞いた受付の女性は見るからに驚き、憐れむような表情を二人に向けた。
「そんな……!追い出されたんですか!?と、とりあえず別室に来てください!」
「あ、いや──」
リックが言葉を返す暇もなく、二人はギルドの奥へと連れていかれた。
前代未聞の出来事にその場は騒然となる。
しかし少し間を空け、すぐに先ほどと変わらない嘲笑がギルド中を埋め尽くした。
◆◆◆
「ちょっとここで待っててね!」
そう言って、受付の女性はさらに奥へと駆けていく。
別室に通された二人は、古びて少しほつれた布製のソファに座らされた。
ナイアは突然の出来事ばかりで、あからさまにうろたえている。
「リック……私たち、大丈夫かな?」
「大丈夫だろ。まあ、いざとなったら俺が壁をぶち破って脱出すればいいしな!」
「そ、そんなぁ……!」
とんでもないことを当然のように言うリック。
ナイアは呆れ果てた様子で眉を寄せた。
すると、パタパタと足音を響かせてさっきの女性が戻ってきた。
「お待たせー!」
その手には、何やら水晶らしきものが抱えられている。
そして、彼女の横には2メートルはあろうかという大男が立っていた。
「……お前たちが、冒険者登録をしたいっていうガキどもか?」
短髪の白髪に鋭い隻眼。
左まぶたには、額から顎までかけて刻まれた大きな傷がある。
男は机を挟んだ反対側のソファにドカリと腰を下ろした。
その隣に、受付の女性がそっと腰をかける。
「私はレリア。こっちのイカついおっさんはギルドマスターのゼルドアよ」
「誰がイカついおっさんだ……」
軽妙なやりとりを交わす二人。
しかし、すぐに表情を引き締めたゼルドアは、リックとナイアに率直に尋ねた。
「何をやらかした?何でお前たちみたいな小綺麗なガキが、冒険者になんてなりたがる?」
貴族家からの追放。
よほどの罪を犯したか、コモンやアンコモンと言い渡されたか。
どちらにしても、普通なら冒険者が務まるはずはない。
「話を聞かせてもらおうか」
ゼルドアは二人を問いただす。
レリアもまた、険しい表情で二人を見つめていた。




