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第4話 旅の幕開け

 たったの一歩──


 瞬時にリックの元へ飛び込んだダイナス。

 武具の神聖力によって身体能力が上昇した彼は、歳を感じさせない俊敏さを発揮した。


「ははは!これが武具至上主義である所以のひとつ……!

 伝説級ともなれば、適性者の身体能力は大幅に底上げされる!

 いくら非凡とはいえ、生まれつき力が強い程度でこの世界は覆らんぞ!!」


 武具固有の能力を除いても、基本的な身体能力はその神聖力によって大きく向上する。

 ただ体が丈夫で力が強い程度では、高位の武具による恩恵に比べれば無に等しい。


 しかし、それは──

 あくまで一般的な話に他ならない。


 ──ゴギンッ!!──


「なっ!?」


 振り下ろされたデュランダルの刃を受け止めたのは、なんと生身の腕だった。

 リックはそれが当たり前のように、腕の隙間からダイナスを見据えている。


「貴様……!デュランダルを生身で受けるなど正気ではないぞ!?」


「いや……なんか、できると思ったらできちゃいました……あはは」


 驚愕するダイナスに対し、リックは苦笑いを浮かべた。

 そばにいた神官長は腰を抜かす。

 レーヴァテインを握りしめるナイアも、目を丸くしてその光景を見つめていた。


「成人の儀を受けてから、どんどん調子が良くなってる……

 たぶん今の俺は、レジェンダリークラスの武器なんかじゃ斬れません」


 平然ととんでもないことを言うリック。

 だが、それを裏づける光景が目の前にある。

 ダイナスは大きく顔を歪め、再び聖剣を振りかぶった。


「その余裕……私がこの場で貴様ごと叩き斬ってやる!!

 そこまで言い切るならば、この一撃……避けずにその身で受け止めてみよ!!」


 そう言ったダイナスは、デュランダルに全神経を集中した。

 彼の体を取り巻く魔力が剣身へと収束する。

 金色の眩い光を強めたデュランダルは、まるで生き物のように脈動し始めた。


 ──ギュオオオオッ!!──


 凄まじい音と嵐のような風圧。

 周囲の椅子や講壇を吹き飛ばし、聖剣は光の剣と化す。


「ダイナス様!?教会が壊れてしまいます!!」


 神官長が慌てて叫んだ。

 しかし、ダイナスの耳には届かない。

 諦めた神官長は、身を低くして祭壇から這って逃げる。


「その娘の力、手に入らぬのなら……

 貴様ともどもこのまま消し去ってくれるわ!!」


 ダイナスの瞳に光がほとばしる。

 彼は呪文を叫び、聖剣の内なる力を解放した。


「我が前に立つすべてを斬り伏せよ……!

 聖剣技……ドゥミナグランディアスッ!!」


 それは、統べる者の剣と称される最高峰の聖剣技。

 全てを斬り裂くとされる光の刃が、再びリックめがけて振り下ろされた。


 ──ズゴオオオオンッ!!!──


 けたたましい轟音が響き渡る。

 そして、霧のごとく舞い上がる土煙。

 並べられた長椅子は吹き飛び、周囲の石壁にはひびが刻まれた。


 大きく裂けた天井と壁──


 頭上からステンドグラスの残骸が降り注ぎ、隙間から差す陽光が反射する。

 大きく斬り裂かれた建物の隙間からは、地面に刻まれた凄まじい斬撃の痕がのぞく。


「ふはははは。跡形もなく消え失せ──なにっ!?」


 しかし、リックは立っていた。

 デュランダルの剣身を両手で挟み、微動だにせずダイナスを見据えている。


 さらには、後方にいたナイアもバリアのような光の膜で守られていた。

 それは恐らく、レーヴァテインの意志によるものだろう。


「バ、バカな!?」


 ダイナス渾身の一撃。

 それは、この国でも最高峰の一撃だった。

 リックはそれを、なんと生身で受け止めたのだ。


「言ったでしょ?無駄なんです。これ以上続けるというなら……

 俺は、デュランダルをこのまま折ります。それでもまだ続けますか?」


 ダイナスがどんなに力を込めてもデュランダルはまったく動かない。

 リックの言葉がハッタリではないことを、ダイナスはその時やっと理解した。

 彼はデュランダルから震える手を離し、膝から崩れ落ちてうなだれた。


「そ、そんな……聖剣デュランダルを有するこの私が……!」


 ダイナスの瞳からは光が消えた。

 生気を失って青ざめた彼は、裂けた地面を呆然と見つめ続けていた。

 そんなダイナスを見下ろし、リックはデュランダルを置く。


「さあ、行こうか。ナイア。」


「は、はい!」


 振り返ったリックはナイアに声をかけた。

 レーヴァテインを抱えたナイアは、笑みを浮かべてリックに駆け寄る。

 ナイアの手を取ったリックは、嬉しそうに微笑んだ。


「これからよろしくね!」


「こちらこそ!リック様!」


「ははは。リックでいいよ」


「わかった。よろしくね、リック!」


 本当は一人で出ていくはずだった。

 そんな自分の前に現れた一人の少女。

 ナイアの存在は、孤独になるはずだったリックの胸を高鳴らせた。


「さてっと、まずはどこ行こっか?」


「とりあえず、冒険者ギルドを探したらいいんじゃないかな?」


「よし、じゃあまずは旅の準備だ!」


 そう言って、リックとナイアは教会を後にする。

 二人の背後には、惨めに座り込むダイナスと、戦いの衝撃で気絶した兄たちの無様な姿が残されていた。


 ◆◆◆


 教会を後にしたリックとナイアは、グランジェット家の屋敷に寄った。

 まだことの顛末を何も知らない執事たちは、突然帰ってきたリックに戸惑っていた。


「リック様!?成人の儀は終わられたのですか?

 ダイナス様たちのお姿が見えませんが……。それに、そのお嬢さんは……?」


 そんな彼らをよそに、リックとナイアは廊下を進む。

 そのまま、装備類や衣服が保管された倉庫へと向かった。


「ああ。父様たちはしばらく教会で祈りを捧げるらしいよ。

 俺はこの子と騎士団入りの準備をしようと思ってね。気にせず、自分たちの仕事を続けてくれ」


「さ、左様ですか……」


 適当なことを言って執事たちを言いくるめたリックは、自分とナイアの装備品を見繕う。

 戸惑うナイアに構わず、次々と衣服や装備品を当てがっていく。


「さあ、あっちでそれに着替えて!父様たちが帰ってくる前にここを出よう!」


「う、うん。わかった……」


 ナイアは渡された服と装備品を手に、奥の個室へと向かった。

 その間に、リックは適当な鎧を試しに身につけてみる。


 すると──


 ──ズッ!ガタガタッ!!ズサァッ……──


 リックの全身から例の魔力がにじみ出た。

 すると、身につけた鎧は鈍い音を立てて震え、やがて砕けながら砂のように崩れ去った。


「うわぁ……なんか自分でも引くな、これ……」


 あまりの光景に、リックは顔を引きつらせた。

 万が一、売り物の武具などを粉砕してしまったら、どんなトラブルに巻き込まれるか分かったものではない。


「気をつけよ……」


 そんな中、個室からナイアが戻ってきた。

 その姿を見たリックは息を呑む。


「うわ……!」


 白を基調としたワンピース型の冒険服。

 足元は落ち着いたブラウンのレザーブーツ。

 そして簡素ではあるが、胸当てと籠手、膝当ても身につけさせた。


「かわいいよ!やっぱ俺の目に狂いはなかったな!」


「そ、そうかな……?ふふ。ありがとう」


 ナイアは思わず照れ笑いを浮かべる。

 その表情には、出会った頃の怯えた様子はもうなかった。


「よし、さっさとここを出よう!

 父様たちが帰ってきちゃうと色々と面倒だしね!」


 そう言って倉庫を後にしたリックとナイア。

 二人は廊下を走りながら、執事たちに元気よく別れを告げた。


「みんな、今日までありがとう!達者でね!」


「「えっ!?」」


 突然のことに目を丸くする執事たち。

 そんな彼らをよそに、二人は屋敷から飛び出した。


「よーし、競争だ!」


 そう言ってリックは走り出す。

 ナイアもレーヴァテインの力を借り、慌てて彼の後を追いかけた。


「ま、まってよ!」


 そのままリックは門壁を飛び越える。

 その下には、何も知らないクロイツの姿があった。


「ええ!?リック様!?」


 驚き、リックを見上げたクロイツ。

 すると、その後ろからは見知らぬ少女が飛び出してきた。


「え!!それ誰!?」


 そんな彼の驚きの声もむなしく、リックとナイアは走り去る。

 振り返ったリックは、クロイツに感謝と別れの言葉を投げかけた。


「クロイツーっ!今まで世話になった!体に気をつけてなーっ!」


「えええ!?」


 驚くクロイツに見送られ、リックとナイアは辺境の街から飛び出した。

 胸を躍らせながら二人が向かうのは、冒険者が集う国の中心に近い街。


「冒険者の街、楽しみだな!」


「うん!」


 街道を進むリックとナイアには笑みが溢れた。

 その先には、辺境で育った二人の知らない、冒険者としての生活が待っていた。


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