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第24話 異例にして特例の報酬

 冒険者ギルドに戻ったリックたちは、早速受付へと向かった。

 精算の際に起きた騒動の影響か、彼らの姿を見た冒険者たちは一斉にざわめいていた。


「あれって、例のヤバい連中か?」

「ワイバーンを倒したっていう……?」

「あんな美少女が、ナンパ野郎の腕を折ったって本当かよ?」

「そっちの大人しそうな子も、変な力で大男を吹っ飛ばしたらしいぞ?」


 彼らから向けられるのは、羨望や畏怖の入り混じった眼差しだった。

 いつの間にか、貴族のボンボンが冷やかしにきたという侮蔑や嘲りは消え去っていた。


「はは。なんか噂になってるなぁ」


「そりゃそうだよ……」


「わははは。強者は常に注目される宿命なのじゃ」


「我だけ何も言われておらんぞ!?」


 三人と一振りはそんなやりとりを交わしながら、受付にいるレリアに声をかけた。


「レリアさーん!ただいま!」


 リックの声に気づいたレリアは、こちらを振り返ると慌てた様子で駆け寄ってきた。

 どれほどリックたちが強くても、やはり心配は尽きないらしい。

 その表情には、帰ってきたリックたちへの労いと安堵が浮かんでいる。


「おかえり!山頂はどうだった?」


 すると、珍しくリックがバツの悪そうな表情を浮かべ、腕をさすりながら苦笑した。

 それを見たレリアは、初めて見るリックの姿に少し戸惑った様子を見せる。


「どうしたの?何かあったの……?」


「いや、実はさぁ……」


「リックがね……腕を斬られちゃって」


 言いづらそうにするリックの代わりに、ナイアが遠慮がちに口を開いた。

 それを聞いたレリアは、驚きのあまり大きな声を上げる。

 ナイアならまだしも、あのリックがケガを負うなどとは思ってもみなかった。


「リックが腕を斬られた!?え、でも何ともなさそうだけど……詳しく聞かせてくれる……?」


 その声を聞きつけたゼルドアも、受付の奥から顔を出した。


「おい、レリア。竜の灯火の件もある。奥の部屋でゆっくり話を聞こう」


「そ、そうね」


 ゼルドアの言葉に従い、リックたちはいつもの別室へと移動した。

 全員が席に着くと早速、竜哭山の山頂で起きた出来事について話し始める。


「それで……リックがケガをしたらしいが、何があったんだ?」


 ゼルドアは険しい顔で問いかけた。

 渾身のトールハンマーを受けても無傷だったリックが、ケガを負うとはとても信じられない。

 そこには心配だけでなく、興味や畏怖も入り混じっていた。


「えっと、ウシュガルが東方の神剣を持っててさ。それを腕で防いだんだけど……

 骨までは斬れなくて助かったんだよ。いやぁ、もし骨まで斬れてたら首が飛んで死んでたなぁ。あはは」


 笑いながら衝撃的な話をするリックに、ゼルドアは目を見開いて聞き返した。

 隣ではレリアも目を丸くし、口を開けたまま固まっている。


「ミシッククラスか!?しかも東方の……?

 いや、それより神剣を生身の腕で防いだって言ったのか……?」


「そうそう。痛かったなぁ……」


「わははは。“痛かった”で済むのは旦那様くらいじゃがのぉ」


「もう……私の方が怖かったよ……」


「生身の腕で防がれるなど、神剣の面目丸潰れだぞ……」


 驚くゼルドアとレリアに対し、リックは呑気な言葉を返す。

 その横には楽しげに笑うティアと、呆れ果てるナイアとレーヴァの姿があった。


「お前と関わっていると、心臓がいくつあっても保たんな……」


「ほんと……寿命が縮むわよ……」


 ゼルドアとレリアは呆れつつも、リックならばあり得るだろうと納得していた。

 ただ、問題なのは山頂にいる竜王が、リックを脅かすほどの存在だったという点だ。


「それで……竜王ウシュガルとは話がついたのか?」


 ゼルドアは険しい顔でリックに尋ねた。

 彼がそこまで苦戦し、しかも神剣を携えている相手。

 当然、ゼルドアたちでは交渉の機会すら与えられないだろう。


「ああ。えっと、半年に一度なら採りにきていいってさ。

 ただ、採りすぎると咲かなくなるらしいから、期間を守らないと斬って捨てるって言ってたかな」


「はは……そりゃまた、恐ろしい話だな。

 しかし、よくやった。あの花の希少性を考えれば、半年に一度でも十分だ」


「そうね。これで命を落とす冒険者を確実に減らせるわ」


 半年に一度とはいえ、希少な薬草を大量に確保できるという約束。

 これまで、竜の灯火を採取するために払ってきた犠牲や労力を考えれば、まさに破格の条件といえる。


 ゼルドアとレリアは互いに笑みを交わした。

 そして、そんな二人の様子を見たナイアは、嬉しそうに微笑んでいた。


「ふふ。よかった。二人に恩返しができたみたいで嬉しい」


「ああ。色々迷惑かけちゃってるしなぁ」


 ナイアとリックも互いに笑みを交わし、ティアとレーヴァにも礼を言った。


「ありがとな、ティア」


「わっちは何もしておらんのじゃ。旦那様とナイアが頑張った成果じゃしのぉ」


「レーヴァも、色々助けてくれてありがとね」


「ふむ。主を守るのは武具の務めだからな」


 三人と一振りは、互いを称え合うように笑みを交わした。

 すると、それを見ていたゼルドアが、少しかしこまった様子で口を開いた。


「よし、俺たちからも礼がある。これを受け取ってくれ」


 そう言って、ゼルドアは銀のブレスレットを三つ取り出した。

 そこにはイストラルダ帝国の意匠である双子の獅子と、リック、ナイア、そしてティアの名前が刻まれていた。


「これは?」


「わあ!綺麗なブレスレットだね!」


「お?わっちの分もあるのか?」


 リックとナイアは物珍しそうに手に取り、ティアは不思議そうに見つめた。

 すると、少し寂しそうな表情を浮かべたレリアが彼らに告げる。


「これは、街を出てもいいと判断した冒険者に送る一人前の証よ。

 魔力を込めれば、あなたたちの冒険者ランクが表示されるようになってるの」


「ティアは特例で、お前たちのパーティメンバーということにしてある。

 これから先、他の街に立ち寄るなら身分がないと何かと不便だろうからな」


 ゼルドアはそう説明すると、突然立ち上がって姿勢を正した。

 レリアもそれに合わせて立ち上がり、ゼルドア同様に襟を正す。


「この度は、ラトーダギルドへの多大な尽力に感謝する。

 そしてぜひ、新しい街でもその力を存分に振るっていただきたい。

 よって、リック、ナイア、ティアの三名を特例としてAランク昇格とする」


「みんな、ありがとう。そしておめでとう。

 これであなたたちは、立派な高ランク冒険者よ」


「ええ!?」

「ええ!?」


 異例の速さでのAランク昇格──

 あまりにも突然の計らいに、リックとナイアは思わず声を裏返した。


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