第20話 ひとときの休息
ティアの戯れの翌日、そこには街の市場を歩くリックたちの姿があった。
帝国が誇る冒険者の街というだけあり、武具やアクセサリーなど、様々な品が露店に並んでいる。
「わあ!あの服、可愛い!」
「ふふ。ナイアに似合いそうね」
ナイアはレリアに寄り添い、まるで姉妹のように店先に並ぶ品物を眺めていた。
物心ついた時から肉親のいなかったナイアにとって、レリアはまさに姉のような存在だった。
「んー、かっこいい武具がいっぱいだけど、どうせ装備できないからなぁ……」
リックは両手を頭の後ろに回し、少し不貞腐れながら歩いていた。
それを見たティアが、なにやら満足そうな笑みを浮かべて彼に言う。
「ふむ。旦那様は武具の天敵じゃからのぉ」
《ほー!拗ねる旦那様もたまらんのぉ!》
そんなことを考えながら歩くティアに、リックがふと露店を指差して言った。
「なぁ、ティア。あれ、ティアに似合うんじゃないか?」
そこには、銀の土台に金で牡丹の花をあしらった綺麗な髪飾りが置かれていた。
帝国周辺では珍しい細工で、どこかティアの纏う着物に似た雰囲気をしている。
「ふむ。確かに綺麗じゃのぉ。
むかーし、東方の島国で見た装飾品に似ておるのじゃ」
それを聞いたリックは露店に駆け寄り、店主と短く話を済ませて戻ってきた。
そして、ティアの髪に髪飾りを挿し、無邪気な笑顔を彼女に向ける。
「うん!やっぱ似合うな!」
贈り物などいつぶりだろうか。
突然のことに、ティアは驚きながら尋ねた。
「な、なんじゃ?わっちにくれるのか?」
目を丸くするティアに、リックはきょとんとした様子で首を傾げる。
「ん?いらなかったか?」
「とんでもない!とても嬉しいのじゃ!ふふふ」
そう言ってティアは髪飾りにそっと触れた。
そして、リックを見つめながら満面の笑みを浮かべる。
そんな二人の前を歩くナイアは、後ろから聞こえる楽しそうなやりとりを耳で拾う。
ナイアはチラリと後ろを振り返り、少し羨ましそうに視線を落としていた。
すると──
リックは次に、ナイアの元へと駆け寄った。
「ほら!これはナイアに!」
リックが手にしていたのは、ライラックがあしらわれた髪飾りだった。
ティアと同じくナイアの髪にもそれを挿し、リックは優しい笑顔を向ける。
「うんうん!ナイアにはこっちだと思ったんだよなぁ!」
ナイアは、まさかのことに目を丸くした。
リックを見つめる彼女の顔は、少しずつ赤く染まっていく。
「え……わ、私に!?」
「ああ!ティアだけじゃ不公平だろ?」
「え、えっと……ありがとう」
髪飾りに触れ、ナイアは慌てて目を逸らした。
そんな微笑ましい二人の様子に、レリアはニヤニヤとからかうように笑みを浮かべる。
「ふふふ。やるわねえ、リック」
「ん?なにが?」
「なんでもないわよー」
レリアは楽しげに笑い、リックは首を傾げていた。
「ふむ。これが女ったらしというやつか」
レーヴァが呆れた声で呟いた。
恐らく、何も深く考えていないであろうリックの行動に、呆れた様子で溜め息をつく。
そんなやりとりをしながら、四人と一振りは街の観光を楽しんだ。
そしてしばらくすると、レリアはリックたちを街の中央にある広場へと案内した。
「そろそろ休憩しましょうか」
「そうだなー」
「うん!」
「わっちはもう少し、屋台の串焼きなるものを堪能してくるのじゃ!」
リックたちが芝生に腰かけると、ティアは一人で屋台へと駆けていった。
「あははは。古竜の食欲はやばいなぁ」
その姿を見てリックは笑っていた。
隣に座るナイアも口元を押さえ、クスクスと肩を震わせる。
「ねえ、あなたたち、次はどこに行くか決めてるの?」
レリアはふと二人に問いかけた。
「ん?ああ。そういえば、各地の教会を回るって話だっけ?」
「小僧!まさか忘れておったのか!?」
完全に忘れていたであろうリックに、レーヴァが驚いた様子で声を上げた。
確かに、そんな重要なことを忘れているあたり、さすがはリックといったところだ。
「ふふ。色々あったし、私も忘れてたかも」
「なにぃ!?主まで……」
レーヴァは落胆したように声を震わせた。
そんなレーヴァの様子に、レリアも思わず笑みをこぼす。
「あははは。思い出してくれてよかったわね」
「うぬぅ……!」
楽しげにからかうレリアに、レーヴァは悔しそうに唸っていた。
そして、日が落ち始める頃──
街の案内を終えたレリアは、リックたちを宿まで見送った。
「じゃあね。あんまり問題起こすんじゃないわよー?」
「善処しまーす」
「レリアさん、今日はありがとー!」
「我は問題なぞ起こさんぞ?」
「わっちが見張っていてやるから安心するがよいぞ!」
無邪気なリックたちの姿に、レリアは苦笑しながら溜め息を漏らした。
そのまま彼らに手を振ったレリアは、今日の出来事を思い返しながら帰路についた。
「はあーあ。あの子たちとこんな風に過ごすのも、今日が最初で最後かしらねぇ」
そんなことを呟きながら、レリアは石畳の街道を歩く。
彼女はリックたちに関われたことを誇らしく思いながらも、その背中にはどこか寂しさも滲ませていた。
◆◆◆
翌日──
「よっし!じゃあ早速、竜王を倒しにいくかー!」
朝からハイテンションのリック。
これまで手応えのある相手といえばティアだけだった。
しかし、ティアが留守を任せるほどの相手となれば話は別だ。
「なんか張り切ってるね……」
「こやつ、常に力が有り余っているからな……」
「わははは。さすが旦那様じゃ!ウシュガルならば不足はないはずじゃぞ!」
「うん!楽しみだなぁ!」
竜哭山の頂上で待つウシュガル──
“竜王”という響きに無邪気にはしゃぐリックは、これまでにないほどの期待に胸を高鳴らせていた。




