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第16話 騒然、依頼清算

 ティアから告げられた打倒ウシュガル。

 突然の提案に、さすがのリックも戸惑っているかに見えた。


「さすがの小僧も、竜王相手は荷が重いか!?ふははははは!」


 レーヴァはここぞとばかりに笑う。

 日頃、リックに驚かされてばかりで鬱憤が溜まっているらしい。


「ちょ、ちょっとやめなよ!レーヴァ!」


 ナイアは慌ててレーヴァを掴んだ。

 しかしレーヴァは、剣身をカタカタと震わせて笑い続けた。


 だが──


「いやぁ……ラトーダに来てから、観光とか全然できてないんだよなぁ」


 リックは呑気に言った。

 どうやら、竜王のことはさほど気にしていないらしい。


「おい、気にするのはそこなのか……?」


 ついさっきまで嘲笑っていたレーヴァだったが、相変わらずのリックに唖然とした。

 珍しくリックが怖気づいているのかと期待したが、どうやら当てが外れたらしい。


「お前、どういう神経を……

 いや、そんなこと考えるだけ無駄であったな……」


 レーヴァは諦めた。

 それを聞いていたゼルドアとレリアも苦笑いを浮かべる。

 二人も、レーヴァの諦めに共感した様子で大きく頷いていた。


「まあ、無理に急ぐ必要もない。とりあえずは今回の報酬を精算してこい。

 そのあとは少し街でゆっくりしたらどうだ?竜王とやらも、どうせ頂上から動かんのだろう?」


 ゼルドアはリックたちに提案する。

 それには、ティアも快く同意した。


「そうじゃな。あやつはわっちの寝床を守ることに注力しておるし、貴様らの寿命が尽きても動かんじゃろうよ。わはははは」


 ティアは豪快に笑った。

 長命種を超える古の存在は、時間感覚が大雑把なようだ。


「だそうだ。レリア、あとは頼めるか?」


「わかったわ。じゃあ、ひとまず受付で依頼の精算をしましょうか」


「りょーかい!」


「うん!」


 返事をしたリックとナイアは、レリアの後に続いて受付へと向かった。

 すると、なぜかティアはその場に残り、立ち上がったゼルドアに尋ねた。


「のお。一つ聞きたいことがあるんじゃが?」


「ん、なんだ?騒ぎを起こさない秘訣でも聞きたいのか?」


「わははは。そんなもん知ったところで無駄なことじゃ。聞きたいのはリックのことじゃ」


 ティアから笑顔が消え、表情が引き締まる。

 威圧感というほどではないが、周囲の空気が微かにヒリつく。


「旦那様は何者じゃ?寝覚めだったとはいえ……

 このわっちを殴り倒す人間なぞ、悠久の時を生きる中でも初めてのことじゃぞ」


 その問いに、ゼルドアは溜め息まじりに言葉を返した。


「はあ……それがわかりゃ苦労しねえさ。

 なんなら、始祖竜様が解き明かしてくれても構わんぞ?」


 ティアはきょとんとした。

 不遜だが不快ではない彼の態度に、呆気にとられているようだった。


「ふむ。このわっちを使いっ走りにすると申すか?やはり、貴様も面白い男じゃ。

 よかろう。これも何かの縁じゃしのぉ。わっちが旦那様の行く末を、この眼でしかと見届けてやるとしよう」


「ああ。よろしく頼む」


 ゼルドアは片眉を吊り上げながら微笑んだ。

 出会ってから間もなく驚きの連続ではあるが、彼の笑みには親心のようなものが滲んでいた。


 ◆◆◆


 受付に戻ったリックたちは、早速持ち帰った竜の灯火の清算を始めていた。

 一本につき100万ディール──

 それは、一般的な冒険者の三ヶ月分ほどの稼ぎに相当する額だ。


「一本……二本……三本……」


 レリアは一本ずつ丁寧に数えていく。

 数が進むたび、彼女の額には冷や汗が滲んだ。


「えっと……ひゃ、百本あるわね……」


 レリアはうなだれた。

 たび重なる衝撃の連続は、慣れたと思ってもそれを許してくれない。


「と、とりあえず、すぐにそんな大金は用意できないから500万ディール渡しておくわ。

 あとは、必要になったら他の街のギルドでもその都度受け取ることができるから、それでもいいかしら?」


「うん。それでいいよ」


「はい。ありがとうございます」


 リックとナイアはレリアの提案を快諾した。

 どうせ、そんな大金を常に持ち歩いたところで特に使い道はない。


「あ、そうだ」


 リックはあることを思い出した。

 自身のバッグには入れていなかったため、すっかり忘れていた。


「レリアさん、倒した魔獣ってどうすればいいの?」


「え?魔獣?」


 言われてみれば、始祖竜ティアや竜王ウシュガルの話題で曖昧になっていた。

 二人は竜哭山を踏破したのだから、魔獣を狩っていても不思議ではない。


「でも……初心者に配る収納バッグは、魔獣一体まるごとは入らないはずよね……?」


「えっと……実は……」


 ナイアが遠慮気味に口を開いたその時──

 彼女の腰に下げられたレーヴァから、得意げな声が響いた。


「ふははは!我の万能っぷりを見るがよいぞ、レリアよ!」


 その瞬間、レリアに悪寒が走る。


「あ!ちょ、まっ──」


 レリアが制止しようと手を伸ばしたが、間に合わなかった。

 レーヴァが光り、亜空間にしまっていた魔獣の亡骸を解き放つ。


 ──ブワッ!ドズズウンッ!!──


 ワイバーンが一体とレッサードラゴンが二体。

 放り出された三体の亡骸が、受付周辺の書類を巻き上げる。

 そばにいた冒険者たちも押しのけられ、突然の出来事に悲鳴を上げた。


「んなぁ!?」

「おい!なんっだこれ!!」

「ワ、ワイバーン!?」


 近くにいた冒険者たちはざわめき、戦慄する。

 離れた場所にいる冒険者たちも、一斉にリックたちへと視線を向けた。


「ああ……またやった……」


 レリアは頭を抱えてうなだれた。

 これでは、さすがにもう誤魔化せない。

 青ざめ、その表情に諦めを浮かべたレリアは、すがるように天を仰いだ。


 すると──


「おいおいおぉい!ちょっと、それは見過ごせねえなー!?」


 不躾で、そして不快な声が響き渡る。

 少し離れた所からズカズカと足音を立て、一人の冒険者がリックたちに近づいてきた。

 それは、以前ナイアにうざ絡みし、レーヴァによって吹き飛ばされたナンパ男だった。


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