第12話 底より現れた何か
轟く雄叫び。
燃え盛る炎。
完全に勝ち誇ったワイバーンは、ゆっくりと地面に降り立った。
焼いた獲物を喰らうため、その大きな翼で突風を起こして残炎をかき消す。
だが──
「グオ……ア……!?」
なぜかワイバーンは動きを止めた。
その鋭い金の眼光の先には──
「あっつつ!うわ!?服が燃えた!!」
「はははは。我の神聖力の前では、トカゲの炎など児戯に等しいぞ!」
「すごい!レーヴァかっこいい!!」
服は焦げ、髪が少しチリチリになったものの、平然と立っているリック。
その隣には、ダイナスの聖剣技を防いだ時と同様の、淡い翡翠色の光に包まれたナイアの姿もあった。
二人の姿を見たワイバーンはたじろいだ。
鉄をも溶かすはずの渾身の火球が、二人にはまるで効いていない。
「グ、グオオオッ!!」
焦ったワイバーンは身をひるがえし、すぐさま飛び立とうと翼を広げた。
だが、そんな絶好のチャンスをリックが見逃すはずはない。
「グウッ!?」
「よっし!捕まえたぞ!!」
浮き上がろうとしたワイバーンは、顔から地面に落下した。
その後ろには、不敵な笑みを浮かべながら尻尾を抱えるリックの姿がある。
「うおおおりゃっ!!」
リックは自分を支点に、抱えたワイバーンを振り回し始める。
グルグルと回転を増していき、凄まじい勢いでワイバーンの巨体を岩壁へと叩きつけた。
──ドガゴオオオンッ!!──
岩壁が大きく抉れ、瓦礫に埋まるワイバーンは白目を剥いた。
そのまま、気絶したワイバーンはうなだれて動きを止める。
「よっしゃー!ドラゴン撃破だ!」
そう言ってリックは振り返った。
その時──
──ズンッ!!──
リックの背に、ワイバーンの尾の棘が突き立てられた。
しかし、やはりリックの体には通らない。
「おお?さすが、ドラゴンはしぶといな!」
リックは再びワイバーンを振り返ると、尾の棘を掴んで引き剥がした。
「グオオアアアアアアッ!?」
「悪く思うなよ?」
リックは剥がした棘を手に取ると、ワイバーンの頭上へと振り下ろす。
──ドスッ!!──
「グア!?……ヴゥ……!ゥ…………」
今度こそ、ワイバーンは絶命した。
竜哭山に静寂が戻る。
「ふむ。やはり小僧は人外だな」
レーヴァはリックにそう言うと、再びあの光を放ち、ワイバーンの亡骸を亜空間へと呑み込んだ。
「そんな、化け物にみたいに言わないでくれよ」
レーヴァの言葉に、溜め息混じりにリックは言い返す。
下がって見ていたナイアは、上半身裸になったリックに戸惑いつつ彼の元へと駆け寄った。
「うう……これからは、替えの服も用意しとかなきゃ……!」
ひと段落したリックたちは、そのまま山の頂上を目指した。
道中、レッサードラゴンなどの魔獣に何体か遭遇したが、三人は順調に山道を進んでいった。
「ここが頂上か?案外あっけなかったなぁ」
「普通はもっとかかると思う……」
相変わらず自分の異常さを自覚しないリックに、ナイアは溜め息を漏らす。
レーヴァも最初は驚いていたものの、今では何も言わなくなってしまった。
「お!あれって湖じゃないか!?」
なんと、山頂には大きな湖があった。
永らく噴火する様子のない火口に、雨水などが長い年月をかけて溜まったものだろう。
「まさか、こんなとこに湖があるなんてなー!」
「ほんとだ!綺麗なとこだね!」
湖の周囲には、これまでの殺伐とした山道が嘘のように様々な草花が生えていた。
そして、そのほとんどが目的の薬草のようだった。
ほんのり赤く染まる提灯型の花。
袋状の花びらの中には、不思議な光が宿っている。
「これかな?竜の灯火」
ナイアが花に触れると、手には不思議な温もりが伝わってくる。
するとなぜか、ナイアは少し疲れが和らいだような気がした。
どうやら、この花自体に癒しの魔力が宿っているらしい。
「なあ、ナイア!この湖、なんかしょっぱいぞ?」
「え?」
リックが湖の方からナイアに声をかけた。
駆け寄ったナイアも、湖の水を少しなめてみる。
確かに塩気がある。
しかし山頂にある湖に、海のような塩気があるなんて聞いたことがない。
「なんで……塩水がこんなとこに……?」
ナイアは首を傾げた。
すると、リックが突然服を脱ぎ始める。
「ええ!?ちょ、ちょっとリック!!」
「なんだ?頭でも打ったか?」
恥ずかしがるナイアと、小馬鹿にした様子でからかうレーヴァ。
だが、そんなことはお構いなしに、下着だけになったリックは湖の方を向いた。
「ちょっと行ってくる!」
「え!?」
「は!?」
驚く二人をよそに、リックは塩湖に飛び込んだ。
彼はあっという間に、湖の底へ向けて沈んでいく。
「ちょっとリック!?」
「あんの小僧……!頭の中は好奇心しか詰まっておらんのか!?」
追いかけるわけにもいかないナイアとレーヴァは、とりあえずリックの帰りを待つことにした。
念のために光の盾を張ったレーヴァと、その中で座るナイアは、息を合わせたように溜め息をつく。
10分──
20分──
リックは一向に上がってこない。
時間だけがどんどん過ぎていく。
「リック、大丈夫かな……」
「心配するだけ無駄だと思うぞ?」
二人がそんなやりとりをしていると、塩湖の水面からリックが顔を出した。
「おおーい!!」
「あ!戻ってきた!!」
「ほらな」
喜ぶナイアと呆れるレーヴァ。
しかし、リックからは驚きの言葉が投げかけられた。
「湖底になんかいたぞ!とりあえず軽く殴ってみたんだけど、起きないからもう一回行ってくるな!」
「ええ……!?危ないからやめようよ!」
「あいつ、やっぱりバカだろう?」
湖底に眠る何か。
絶対ろくなものではない。
その時──
──ゴゴゴゴゴッ!──
竜哭山全体が揺れ始めた。
塩湖を囲む岩壁から、ガラガラと欠片が落ち始める。
「ねえ……!早く湖から上がって!!」
「ええ!?底のやつ気になるのに!」
「いいから!早く!」
ナイアに叱られ、ムッとしながらリックは湖から上がった。
彼は渋々ズボンを履き、残念そうに塩湖を見つめる。
すると、塩湖の水面が大きく盛り上がり始めた。
湖底にいたであろう何かが、ゆっくりと浮かび上がってくる。
そして、リックたちの目の前には、流れ落ちる湖の水を纏った巨大な何かが現れた。




