宝物
第九章【 カタコユリの心 】
最終章です
ゴールデンウィークも終わろうとしている最終日の午睡時。
田島さんが校内を十分に堪能し、一行がカタコユリ荘に戻ると、懐かしい香りが鼻をくすぐった。
玄関に田島さんのお孫さんが出て来て、先程と同じように簡易スロープで建物内へ誘う。
扉を開くと
押し寄せるカレーの匂い。
「おかえりなさい!」
三角巾に前掛けをした果々子とみかんが、お玉を持って出迎えた。
梨華と別れたあと、二人、生協でカレーの材料を揃えて急いで寮へ帰った。最初マナスルとコッヘルで外で作ろうとしたのだが、寮で留守番をしていた田島さんのお孫さんが便宜をはかってくれて、厨房を使わせて貰えた。
小さいルウ一箱分だから少しずつだし、ご飯はパックご飯だけれど、雰囲気は満たせただろうか?
「さすが十五分カレーの果々子やな」
「もうちょっと掛かりましたよ、箱裏のレシピ通り作りましたから」
「由緒正しい五人衆カレー!」
「みかんも手伝ってくれました」
「なんやと!?」
「えへん」
「玉ねぎの皮を剥いてくれました」
「えへん!」
「…………」
「おばあちゃん……」
お孫さんの声に振り向くと、田島さんは食堂の入り口から厨房の方を向いて、心一杯な表情で目を煌めかせている。
「おかえりなさい、田島さん」
タマ先輩が言った。
「ただいま・・」
「おかえりなさい」
「おかえりなさい」
その日皆でカレーを囲んだ風景も、果々子の胸の奥にしまった大切な宝石の一つだ。
本当に、こんなに目一杯、最後までぎっしり詰めこまれたゴールデンウィークなんて、果々子の人生で初めてで、そして一生の宝物だ。
ずっと思っている。この年にカタコユリ荘の寮生をやれて、なんと幸運だったのか。
前にずれても後ろにずれても駄目だった。本当に一番最良なタイミングで、ここで過ごせたのだと。




