アナーキーなお茶会・Ⅱ
梨華の置かれた、思っていたよりも切羽詰まった状況に、果々子は目を見開く。
みかんも表情を止めて、頬杖から顔を上げている。
白樺寮の寮監はお花畑な思想があって、合わない人間同士でも同じ部屋に閉じ込めておけば仲良くなれると信じ込んでいる……なんて悪評は、ちらほらと聞こえていた。
まさかそこまでだったのか。犬猫じゃあるまいし。いや、野犬だったら殺し合うわ。そして生き残った野犬の檻に、新寮生を放り込むって?
「藤田さんたちは寮を変わるって……」
「あの二人は上手くやったわよ。人気のある寮が空いた時、すぐに教えて貰えて滑り込めたの」
「白鳥さんだって……」
「だからカタコユリ荘に行こうとしたの! 人数問題があるから楽勝だと思っていたのに!」
「…………」
だったら、カタコユリ荘がまだ受け入れる姿勢な時に、何で甘えを炸裂させちゃったのか……いや、もう後の祭りだ。
さすがのみかんも、キャパを越えたのか黙ってしまっている。
果々子は己の運の良さにひたすら慄いた。自分だって最初からそんなに『良い子』ではなかったのだ。
「学生ランドリー、あるでしょ」
「?」
唐突な果々子の言葉に、立とうとしていた梨華が止まった。
「あそこ、ランドリーの左奥がトイレだけれど、右奥の扉は物置だと思うじゃない。でも、開けると細い廊下があって、奥にまた扉があって、三畳ぐらいの和室になってる」
「え……」
「昔、ランドリーが違う施設だった時の宿直室か何かだと思う、電球は切れてるし窓も無い。けど、隅に毛布が積まれていて内から鍵が掛けられるから、寝るだけなら出来ると思う」
「何でそんなのを知ってるの?」
「入学した最初……ノイローゼ気味な時期があって……一人になれる場所をキープしておくと安心じゃない」
「果々子……?」
みかんが不安そうに覗き込む。
「今はぜんぜんそんな事ないよ」
「うん……」
「だから、白鳥さんが、怖い寮の部屋よりそっちの方が安心して寝られるなら、今日はそこで寝てしまえばいいと思う」
「寮が大騒ぎにならへん?」
「うちの寮は、多分、ならないと思う」
梨華が半笑いで言った。
「私がカタコユリ荘に泊まった時も、居ない事を誰も気にしなかったもの」
「終わってんな、白樺寮」
「それでね、朝一番、学生課に駆け込むの。明日はもう平日で、八時半には人がいるから」
「ガクセイカ?」
「思うより、色んな事に対処してくれるらしいよ」
「それホント? 学校側ってそんな個人的な事は取り合ってくれないでしょ? うちの寮監だって、自分たちで話し合えでガラガラピシャンよ?」
「だからちゃんと、相手の胸に届くように説明するの。『同室者が恐ろしくて夜も眠れません』って」
「…………」
「寮に帰るのが怖くて、酩酊したふりをして他の寮になし崩しに居座ろうとしたけれど、上手く行かなくて、仕方がないから生協のランドリーで夜を明かしましたって」
「……!」
「休み明けの朝一番なら、もしかしたらタチバナ先輩が事務処理を手伝いに行っているかもしれない。あの人なら、そういう話、ちゃんと聞いてくれるよ」
「タチバナ先輩って……さっきの、怖いオバサン?」
「だからぁ! 相手の胸に訴えるのに、挑発的な言葉でマウントを取りに行くやり方は、悪手だって。
顔イイんだから、持てる武器を有効に生かす事を考えなよ」
「う、うん……」
頭を振りながら去っていく梨華を眺めて、みかんがボソッと言った。
「果々子、思ったよりアナーキーな奴なんやな……」




