生協前の攻防・Ⅱ
学生生協前で大騒ぎ。
グラウンドからの帰り道に通り掛かったみかんとれもんは、果々子が捕まえていた女子が逃げるのを目撃して、咄嗟に追い掛けてキャッチした。
後で聞いたら、置き引きの現行犯くらいに思った、との事。
流石の校内No.1、2のスプリント。
神聖な能力をしようもない事に使わせてごめんなさいごめんなさい。
「何よあんたたち、離しなさいよ!」
暴れた梨華の足がみかんの太股に当たった。
鮮やかなオレンジ色のスパッツに汚ならしい泥。
「あああっ」
冷静を貫こうとしていた果々子のタガが外れた。
「みかんを蹴った、みかんを蹴った! 許せない!」
「ええから落ち着けっ」
梨華に掴みかかろうとする果々子を、今度はれもんが後ろから捕えて、左右の頬っぺたを横に引っ張った。
「ぶにぃっ」
ついでにまだ暴れる梨華も、同じように頬を掴んで顔を広げられた。美少女台無し。
「ふんがっ」
「ほんまに、何やっとるんやっ!」
「…………」
「…………」
果々子も梨華も停止して、一同の熱が下がった所で……
「みかんって、あの風輪みかん?」
ギャラリーからのコソコソ声。
「この間の記録会で道内レコードを二つも更新した?」
そうだったんですか、みかんさん!?
だってファンファーレも何も無いんだもん、ポケッと見てるだけの素人には分かりませんよっ。
「風輪みかんを蹴ったの?」
「うわ、ドン引き~~」
たちまち立場が悪くなる白鳥梨華。
とは言え、今のは偶然が重なりすぎて、ほんの少し気の毒ではある。でも蹴ったのはやっぱり許せん。
「みかん、みかん、大丈夫!?」
「大丈夫やから落ち着き。こんなん屁みたいなもんや」
「頼むから危ない真似しないで。相手が刃物とか持ってたらどうするの」
「相変わらず果々子はおかんみたいやな」
「そんで遠山、今度は何やらかしたん?」
そんな、私が常に何かをやらかしているみたいな……
「お嬢さん」
柔らかい声に振り向くと、
「田島さん……」
空色車椅子の田島さんと、タチバナ先輩や、寮にいた七、八人の先輩がたが、目を丸くしてそこに居た。車椅子のハンドルは、福祉学科の先輩が握っている。お孫さんのパートさんは寮でお留守番みたいだ。
タマ先輩が横に来て説明してくれる。
「田島さんが、資料館の方へ行きたいっておっしゃったので、皆でお話を聞きながらお散歩する事にしたの。丁度ライラックも咲き始めで、陽気もいいし」
そうか、良かった。
田島さんはニコニコしている。
「資料館の建物が昔の学生会館だったと聞いて、急に行ってみたくなったの。寮の中を見るとどんどん思い出が甦って欲が出てしまって。
皆様に親切にして頂けて、本当に嬉しい嬉しい」
それを聞いて、梨華が性懲りもなく息を吹き替えした。
「なによ、そんなおばあちゃんの散歩にみんなして付き合って。そんなのより今の学生を優先してよ。私の主張をちゃんと話し合ってよ!」
いいかげん白樺寮の者に迎えに来て欲しいのだが、セキニンシャって肝心な時はナメクジのようにのろい。
「あ、田島さん! タジマファーム創始者の、あの田島 橙子さんでいらっしゃいますか」
瀬戸先輩が、紫メッシュの横髪をファサリとかき上げ額を出して、梨華を無視して挨拶を始めた。
「お会い出来て光栄です。カタコユリ荘の差配補佐を務めさせて頂いております瀬戸と申します」
えっ、だれっ!?
「地元の発展に尽力された卒業生の筆頭でいらっしゃると、学校年鑑で拝見しました。我が寮生が胸を張って暮らせるのは田島さんのような誇れるOGの皆様がたのお陰です。みかん、ご挨拶しなさい」
だからこれ誰よっ? 関西弁どこいった? 瀬戸先輩っ!
みかんも困惑しながら「こんちはっす」と頭を下げた。
果々子が横で小声で「日曜カレー始めた人だよ」と教えると、そっちの方が衝撃だったようで、「うおおっ、超レジェンド!」と飛び上がった。
それだけで、この場のヒエラルキー・・田島さんが一番上って構図が出来上がってしまった。
瀬戸先輩、ただ者ではない。




