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カタコユリ荘 春の選抜カレー大会  作者: しらら
ゴールデンウイーク最終日
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55/65

めちゃくちゃアウト

    

 果々子は食堂の入り口に呆然と立ち尽くす。

 状況が分からない。

 タマ先輩が断ったのではなかったのか。

 そもそも何で今ここにいるのか。

 まさか寮部屋のどこかに潜んでいた訳でもあるまい。


(待って待って)

 とにかく状況を把握しよう。

 今この場にいる方々は、どういう感情?

 ポットを持った先輩は、動きを止めてお茶を淹れるのをやめている。

 皆一様にじっと黙って、笑顔は見えない。


 田島さんは?

 人生経験豊富な田島さんなら、梨華の事もまた違った視点で受け入れ……


「イヤだあ! おばあちゃん、老害~~」


 うん、アウトだ。


「そんな大昔のこと言われたってつまんないです。そんな事より私の話を聞いて下さぁい。ジンケンをシンガイされたんでぇす。寮を選ぶケンリがあるんですよ、学生には。皆さん集まってるみたいだから丁度良かった、ハナシアイしましょ」


 めちゃくちゃアウトだ。そういえば麻美子も同じような事を言っていた。パターンって言葉を思い出した。


 上級生たちは、田島さんの前で過激な事は出来なくて、お互いに様子を伺っている。

 田島さんは困惑した顔で小首を傾げている。パートのおかあさんは、今すぐに連れて帰りたいような素振りだ。


 やっと来られたのに。

 もう来られないかもしれないのに。


 タチバナ先輩が口を開こうとしている。また一人で憎まれ役を引き受けるつもりだ。

 タマ先輩が動こうとしている。また一人で目の下に隈を作って疲れるつもりだ。


「みんな、私にチュウモ――ク、これから私の……」


 うるさい口が一瞬止まってくれた。

 果々子が肩を掴んだからだ。


「何よ……」

「白鳥さん、お願い、助けて欲しいの!」

 いきなりそんな事を言い出す果々子に、一同が呆気に取られた。


「はあ?」

「白鳥さんでなきゃ駄目なの、お願い、お願い!」

「何であんたの……」


「カタコユリ寮生は、お友だちは必ず助けてあげる物だわ」

 田島さんの言葉に梨華は怯んだ。さすがにちょっとは効くのか。


「何よ、早く済ませてよ、私いま忙し……」

「こっち、こっちに来て」

「何でよ!」

「先輩に聞かれたくない、白鳥さんにしか話したくない、だから来て!」


 勢いで引っ張ったら梨華は腰を浮かせてくれた。

 よし今だ! グイグイ、グイグイ、考える隙を与えない。

 そのまま肘と手首を掴んで玄関まで引っ張って行った。


 食堂出口の扉が閉まる時、タマ先輩たちと目が合った。

 心配と安堵の入り交じった顔だ。


 ――任せておいて下さい。

 アイコンタクトしたつもりだが、分かって貰えただろうか。



 ***



「ちょ、止まりなさいよ、どこまで行くの!」


 靴を履いて外に出て、迷ったけれど東側に向かった。

 果々子は梨華の手を引いて、ただひたすらにグイグイ歩く。

 梨華は口で文句を言うばかりで、大して力を使わないので、果々子は止まる事なく歩き続ける事が出来た。


「いい加減にして!」

 生協前の人通りのある場所で、梨華は初めて踏ん張って、哀れを装ってアピールを始めた。周囲の注目が集まる。

 なるほど、上手い。


 通行人が立ち止まってこちらを見る。だがまだ動かない。

 果々子が男性なら有無を言わさず引き離されただろうが、事情が分からない上に両方とも女性、しかも果々子の方が小柄で顔色が悪い。そもそも関わるべきかどうか、判断に迷っているのだろう。


「どうしたの、とにかく落ち着いて」

「事情を話して、きみらどこの寮生?」

 声だけ掛けてくれる者がいるが、梨華は、とにかく自分が被害者だ、かわいそうだと喚くばかりで、肝心の事は喋らない。自分の寮の寮監に来られたら困るのだろうか。

(寮の名前を聞いておけばよかった)


 対して果々子は無言。振りほどこうとする(大して本気ではない、振りだけ)梨華の腕を両手で握り、腰を落として重石のように、ただひたすらに堪えている。

 そう、果々子の目的は、『田島さんと先輩がたのひととき』を守りたいだけ。妨害する邪魔者を物理的にここへ繋ぎ止めておくだけだ。

 だって果々子にはそれしかない。この異次元ヒロインと言葉を通じ合わせる自信なんか無いのだ。


 梨華はますます被害者ムーブを振りかざすが、対した果々子が静かにただ手を握っているだけなので、周囲は本当に躊躇しているしかない。

 だがその内、ビジュアルパワーが勝って梨華に軍配が上がるだろう。

 それまでの間、果々子は一秒でも長く守り抜く。田島さんの大切な時間を。

 この場の誰にも分かって貰えなくていい、卒業まで変なレッテルを貼られてもいい。



「あれぇ、白鳥じゃん、何やってんの」

 聞いた声がして、藤田麻美子と柏岡久恵が現れた。

 まだつるんでいたのか、この二人。

 っていうのか知り合いだったのか。類友だな。


「なぁに? サークルでもハブられて、とうとう『そんなの』とつるんでるの?」


 ――違ったみたいだ……





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