ジェネリックじゃなくて純正!
カタコユリの花咲く土手の上。
空色車椅子の田島のおばあちゃんとお孫さん、タチバナ先輩とタマ先輩、そして果々子。
「さ、おばあちゃん、冷えるからそろそろ帰りましょ」
「そうね……」
田島さんはチラッとだけ、寮の建物を見た。
この後施設に帰るのだろうか。
また来られる事はあるのだろうか。
「あの、食堂、寮に入って中もゆっくりご覧になって下さい。お茶、暖かいお茶を淹れます」
果々子は思わず口走った。
「でも……」
田島さんと孫のパートさんは、寮の玄関を見やる。
二段ばかりの石段があるのだ。
「待ってて下さい」
果々子は最速で走って(みかん程ではないけれど)、自転車置き場から、荷物搬入に使っているコンパネと端材を抱えて来た。
端材を階段の段差に埋めて補強し、コンパネを敷く。米などを台車で運ぶ時に使っている、仮のスロープだ。
「あっ、手伝う」
食堂にいた他の先輩たちが来てくれた。福祉学科で実習経験の豊富な頼もしい先輩もいる。
皆で車椅子を後ろ向きにゆっくり引っ張る。荷物用のスロープだから慎重に。果々子は車椅子の前側に陣取り、両側の手すりのフレームをガッシリ握って押し上げた。こうすると投げ出され防止になるのを知っている。
玄関に上がると、今度は走って雑巾を持って来た。
「タイヤ拭きますね」
「遠山さん、慣れてるね」
福祉学科の先輩方も手伝ってくれた。
果々子はまた猪突猛進で周囲を見ていなかった事に気が付いて、不安になって見回した。が、皆一丸になって導線や場所を作ってくれている。
田島さんも食堂を見回して、目をしばたいて笑顔になってくれた。
「女が大学なんてと田舎じゃまだ陰口を叩かれるような時代で、教室で差別されてもあの頃は訴える場所もなかったわ。
そんなだからかここへ帰るとホッとして。カレーの匂いと友達の笑顔。あの頃はカレーって、ちょっと特別感のあるハイカラな御馳走だった。懐かしい、今でもまぶたの裏に見えて来る」
お茶を淹れて落ち着くと、田島さんは目を閉じて本当に嬉しそうにポツポツ語ってくれた。
「ね、遠山さん、お願いがあるのだけれど」
茶話会の場をしつらえながら、タチバナ先輩が申し訳なさそうに言って来た。
「部屋にいる寮生に知らせて来て欲しいの。『カタコユリ カレー五人衆』の田島さんが見えられているって」
――?!?
果々子は口をあんぐりと開けて、目をパチパチと瞬いた。ジェネリックじゃなくて純正の、本物の、日曜カレーを始めた仲良し五人組の一人なんですか? 田島さん!
慌てて食堂を飛び出す。
そりゃそうだ、寮に居たのに後で「元祖五人衆の一人が来てたよ~」なんて言われたらガックリ来る。「何で教えてくれなかったの!」って絶対恨む、果々子なら。
「日曜カレー創始者の、五人衆の方が一階食堂にみえています」
四階から廊下を歩きながら二、三回ずつ叫んだ。
すぐに部屋を飛び出て「ありがとね――」と言いながら駆け下りて行く上級生もいる。やっぱりお知らせは正解だった。タチバナ先輩凄い。
茶話会ならお菓子も必要だろう。
果々子は自分の部屋に戻って、昨日マスターに貰った『ミルクケーキ』をポケットにねじ込んで階下へ降りた。
早く自分も田島さんのお話を聞きたい。
――しかし
「なんで!??」
田島さんを中心に集った輪の中に、本当に何でか?
白鳥梨華が、・・いた。




