ゲームヒロインみたいな子・Ⅱ
遠くへ行ってしまいそうな意識を必死に繋ぎ止める果々子の前で、タマ先輩はいつもの調子でのんびりと続けた。
「部屋も空いているし、こちらとしてはいつでもOKなんだけれど、祝日で寮母さんも学生課もお休みだし、今日の所は下見で、って」
「はい……」
頭の中で警報が鳴るが、果々子にはどうする事も出来ない。
「早く移って来たいです。こんなに優しい先輩ばかりで夢みたい、本当に素敵な寮だわ。ねえ、遠山さん」
「…………」
困った、『言葉が出て来ない病』がぶり返している。
「案内を断られて気後れしてしまったけれど、頑張って勇気を出して一人で訪ねて来て良かったわ。他の寮生の方々にはとても親切にして頂いて」
……なるほど、そう来るか。
麻美子を経てちょっとは図太くなった果々子だが、まだまだ対応能力は低い。とりあえず黙っている。
「さて、私たちはそろそろ出なきゃいけないんだけれど」
ビタミンカステラ先輩が腰を上げた。
「遠山ちゃん、いろいろ教えてあげてくれる?」
タマ先輩が投げて来た。逃げたい、でもタマ先輩の言う事は断れない。
「はぃ……」
「ええ? 皆さん何処へ行くんですかぁ?」
果々子が返事をする前に梨華が被せて来た。
「私ら、これから街へ飲みに行くの」
そうだ、今日は先輩がたが仲の良い顔ぶれで、街の居酒屋へ繰り出す日。最終学年は就活等で忙しくなるし今の内にと、前々から予定を合わせていた。未成年の果々子は勿論行かない。
「ええ~~私も行っていいですかぁ」
びっくりして果々子は梨華を二度見した。さすがに先輩たちも驚いたようだ。
「白鳥さん、えっと、現役生なら十八か九よね? 私たち、居酒屋を予約しているので……」
「この辺りの居酒屋なんて、田舎ルールで子供連れも来てるじゃないですか。私、サークルの先輩がたに誘われて行った事あるし。勿論お酒は飲みませんよ」
「はあ、まあ、そうなんだけれど」
「先輩がたともっと親陸を深めたいんですぅ、お願いしまぁす」
ここまで押しが強いのもある意味羨ましい。
先輩たちは顔を見合わせ、まあ特に断る理由もないしねぇ、という流れで承諾してしまった。
タマ先輩が一応果々子の顔を見たが、慌てて笑顔を作って首を横に振った。
頭が固いと自分でも思うが、本当に、未成年の内は飲みの席に行きたくないのだ。そも、先輩がたには先輩がたの付き合いがあるし、そこにいつでも自分が入って行っていいとは思わない。
じゃあ準備して来るから、と先輩たちが上階へ行き、果々子も部屋へ逃げようとした所で梨華に腕を引っ張られた。
「ねえ、皆が降りて来るまで、お部屋とか見せてよ」
「おへや……」
「遠山さんの隣が空いてるって言ってた」
「鍵が掛かってるよ」
「だったら遠山さんの部屋を見せて。同じ間取りなら雰囲気分かるでしょ」
ぇぇ……嫌だ……
「その食堂出口の扉からあっちは、寮生以外は立ち入り禁止なので」
「もう入寮が決まったような物だからいいでしょ。さっきのチビの先輩がいろいろ案内してあげてって言ったじゃない。聞いていなかったの?」
聞いてない、多分言っていないし。それにいいか悪いかは私が判断する事じゃない。
「ああ、もお、融通のきかない人ね、そんなだからこの寮でお山の大将をしているしかないのよ」
……??
食堂には丁度誰もいない。
梨華は、誰かが扉を開けて入って来てもすぐには聞こえない奥まで果々子を引っ張って行って、声を潜めた。
「貴女うまくやっているものね。上級生たちの弱味に付け込んでお姫様状態。そりゃ居心地いいでしょう。でも独り占めなんてズルいわよ」
え……? え……?
いろいろ分からない。上級生たちの弱味って?
「四十人がボーダーだっけ? これ以上寮生が減ると来期には何処かの寮と統合になるんでしょ? 建物もボロくて限界だし、食堂なんて予算食いのお荷物はあるし。
そもそもなんで人気が無いかって、『上級生が封建的で厳しい』なんて噂が出回っているからなのよね。今年は辛うじて新入生が入ってくれたのに、追い出すなんて馬鹿な真似をしているし」
「…………」
果々子は、柏岡久恵に残って貰いたがったタマ先輩の言葉を思い出した。
性分の悪い自分に我慢強く声を掛け続けてくれたのも、そういう…………
胸にシンと冷たい滲みが広がる。
「でも逆に、上手く懐に入り込めば、物凄く大事にして貰えるって事よね。何せ貴重な一回生。そうじゃなきゃ貴女みたいな陰気な子、誰が相手にしたいものですか。でもコミュ性の貴女なんかより、私の方が断然大事にして貰えるわ。友達を引っ張って来られそうだものね、ふふ」
「…………」
そうかもしれない……
「私、これから先輩にレポート貰い放題、試験対策教えて貰い放題の、勝ち組学生生活を送るから。邪魔をしないでね。大人しくしていてくれたらおこぼれ位はあげるから」




