ゲームヒロインみたいな子・Ⅰ
第五章【 年号の狭間で 】
一般教養の教室で一緒になる他の寮の一回生たちは、せっかくこの土地へ来たのだからと連れ立って旅行に出掛けたりしていた。
何の予定も組んでいない果々子は、暇なゴールデンウィークになると思っていたが、いざ始まってみるとそうでもない。
まず学校の講義の内容が思ったよりみっちりだったので、要領の悪い果々子は復習予習をしておかないと気が気じゃない。
その他にもマナスルの練習をしたり、一人で裏山登りを計画したり、みかんたちの陸上競技記録会の応援を約束したりと、自分でもびっくりする程の予定や、やりたい事で埋まっている。
こんなゴールデンウィーク、本当に生まれて初めてなんだ……
***
五月一日、水曜日、即位の日。
本日から新年号。令和元年。
と言っても、果々子に特別な変化はなく、目下の関心事は生物学の宿題。
この日は学校図書館が午前だけ開いたので、宿題の参考になりそうな本を借りた。
重い本を抱えてホールを出た所で…… 一人の女生徒に名前を呼ばれた。
「……えっと?」
「同じ一回生の白鳥よ。白鳥 梨華。選択の生物学で一緒でしょ」
ゴージャスな名前の通り、びっくりする程色白で、お人形みたいに可愛いらしい。服装も明るい暖色の、お手本みたいに綺麗なセットアップ。まるでスマホゲームから抜け出て来たような子だ。
「そうですか、すみません、人を覚えるのが下手で」
「ふうん、まあいいわ。それより貴女、西のカタコユリ寮でしょ。案内して欲しいの」
案内? と言っても迷うような場所でもない筈……
「この道をまっすぐ行ってT字路を左へ……」
「違う違う、連れて行ってって事よ」
「え」
果々子はこの後、生物学の講師に課題についての質問をしに行く予定だ。ゴールデンウィーク中だが、今日の昼からの数時間は在室しているから質問があるならその時に来いと告知されている。
「えっと、私、これからA棟の生物準備室へ質問に行くんだけれど、その後なら……っていうか、一緒に行きます?」
どうせ生物学を採っている子だ、一緒に解説を聞いて損はないだろう。
「マジメか」
「はい?」
「何を聞きに行くの?」
「生物の発生についてレポートを書けって宿題があったじゃないですか。そもそも『発生』って言葉の定義が……」
「ああ――、いい、そういうのはいい」
「…………」
「案内はしてくれないって事ね」
「……うん、今は出来ない」
「じゃあもういい」
梨華は踵を返して大股で去って行った。
・・・・・・
(こんなのだから私、友達出来ないんだろうな……)
質問に思いの外時間がかかってしまい(講師が何だか乗りに乗って、ハイハイと素直に聞いている内に余分な事まで話が逸れて)、ついでに東側のコンビニで買い物をしたら、寮に戻れたのは夕方近くだった。
扉を開いて入ると、食堂の西陽の入る場所で数人の上級生がお茶を飲んでお喋りをしている。和やかな笑い声。タマ先輩も見えた。
「ただいま戻りました」
最近は自分から帰寮の挨拶が出来るようになった。
「おかえり」
「おかえり、良い日よりだね」
「はい、過ごしやすくなりました」
天気の挨拶もつっかえずきちんと返せている。うん、自分、成長した。
「うわあ、本当に挨拶するんですね!」
甲高い不協和音に心臓をひっくり返されて振り向くと、先輩たちの中に、先程の白鳥梨華がチョコンと座っている。
「アットホームで憧れますぅ」
立ち止まり掛けた足が硬直する、早く、早く前に出さなきゃ、……久々の感覚だった。
だって限りなく嫌な予感がする。逃げろ逃げろ……!
「遠山ちゃん」
推進力をつける前にタマ先輩に声を掛けられ、あえなく停止。
「おいで。あのね、」
「はい……」
仕方なく近寄る。
梨華の他に座っているのは、ビタミンカステラ先輩や、普段ことさら良くしてくれる先輩たちだ。
「こちらの白鳥梨華さん、知っているよね」
「はい……」
さっき知ったんだけれど。
「カタコユリ荘に入寮を希望しているの」
「・・!」
縦線を顔に出さないよう必死に堪えた。
嫌な予感って、どうして当たってしまうのだろう。




