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カタコユリ荘 春の選抜カレー大会  作者: しらら
ゴールデンウイーク突入
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35/53

飛び入りの二人・Ⅰ

   


 引き続き、うららかな春の日差しの、裏カレー大会。

 ゴールデンウィーク三日目、果々子が昭和に対して深く反省した 昭和の日。


 れもん、みかんコンビは午後のトレーニングへと出掛けて行った。三日後の記録会に向けて、今からまた節制生活に入るとの事。


 二人が駆け去るのと入れ違いに、体育倉庫の方からリヤカーを引いた男子学生二人が歩いて来た。


「あ、(たちばな)さん、おひさ」

「これ何の集まり? めっちゃカレーの匂いする」


 彼らは春楡(ハルニレ)会(生徒会みたいな物)の役員で、学生課でバイトするタチバナ先輩や何人かの先輩と顔見知り。ポプラ寮の面々に比べるとやや落ち着いた雰囲気。

 今日の夕方から東寮広場で開催されるバーベキュー大会の準備中との事で、リヤカーには半分に切ったドラム缶などの大掛かりな道具が積まれている。


 女性ばかりの中で居心地が悪そうだった蜂矢涼介は少し安堵の顔。


「うわ、君、ハーレムじゃん」

「そんなんじゃありません」

「俺らにも何か食べさせてよ、腹ペコなんだ、朝から休む間もなくコキ使われてさ」

 切実そうな懇願に、先輩の一人が残っていたカレーをチャパティに挟んで渡してやると、嬉しそうにパクついた。


 知らない男性がまだ苦手な果々子は、離れたシートのポニテ先輩が手招きしてくれたので、席を譲りがてらそちらへ移動した。


「春楡会主催のバーベキュー? そんな届けありましたっけ?」

「いや、主催は幾つかのサークルの合同なんだけれど、急に、会の備品の貸し出しを申し込んで来てさ。こっちも人がいないから居残ってた俺らがてんやわんや。

 ホント、手際が悪いったらないよ。このくらい自分らで運べっての」

「ご、ご苦労様です……」

 佐原出先輩が、追加のチャパティとお茶を前に置いてあげた。


「あ、飛び入り参加歓迎って言ってたよ。お姉さんがた、食べに行けば?」


「お誘いありがとう、私は残念ながら予定があって」

「うちも。残念」

「残念ですわ」


 先輩たちはやんわりとシャット。確かに、開催前から香ばしさ漂うバーベキュー大会な気がする。


「えっと、蜂矢君だっけ、君はどう?」

「行けないです」

「うん?」

「参加サークルの名前を聞いて、あ、これ行ったらカノジョに怒られる奴だ、って思いました」


 苦笑いの男子上級生二人。

 首を捻る果々子に、隣のポニテ先輩が、「いわゆるウェイウェイ系の合コンサークル」と小さい声で教えてくれた。

 なるほろ……


「ちぇ――っ、賢いなぁ、みんな」

 男子学生二人は悪びれもせず、諦めた顔で伸びをした。

「本当は俺らも関わりたくないんだけどさ。やってやんないとあいつら、備品をトンでもない使い方するから。

 そんでこっちはヘロヘロになって働いてんのに、いい思いすんのは真ん中で目立つ奴ばっかりだぜ。春楡会なんか便利な雑用係り扱い、貧乏くじもいい所だ」

 普段からの本音がホロホロ。


「女性が最終的にパートナーとして求めるのは、貴方がたのような御仁ですよ」

「橘さん、それ慰めになってない、ちっとも嬉しくない」

「そうですか?」

「そんな将来なんか見据えなくたっていいから、今この時を楽しみたいの。俺らは気楽にピーチクパーチク青春を謳歌していたいのっ」


 あまりに正直そのまんまで、いっそ清々しくもあり。

 先輩がたも苦笑いながらウンウンと同意してあげている。彼らは彼らで大変なのだ。


 と、男子学生一人のスマホが鳴った。

「おっと、早くコンロ持って来いの催促かな? いいじゃないか、俺ら昼抜きで設営してんだぞ。お前らが買い出し行ったまま全然帰って来ないから」


 輪から離れてスマホ通話に出た彼、しばらく話して、怒りと呆れの混じった顔で戻って来た。


「信じらんねえ! 俺らに今から買い出し行けって!」


「サークル側の人たちが買い出しに行ったんじゃないんですか?」

「酒と肉しか買って来なかったんだと」

「はあ」


 聞けば、実際に買い物に行かされたのは、主催サークルの一、二回生(上級生は街で遊んでいたらしい)。

 で、買い出しの内容が、炭と缶ビール、焼き肉セットと書かれたでっかいパック肉。あと、予算が余ったからと日本酒一本。だけ。


「…………」

「ふ、、、ふ――ん……」


 隣のポニテ先輩が、「ね」という感じで果々子を見て、肩を上げた。

 糊カレーの買い出しもそんな流れだったのかな。


「遠山ちゃん、どう思う?」

「ヒュッ」

 いきなりタマ先輩に投げて来られて、果々子は変な音を出した。

 心臓に悪いから、投げるよと言ってから投げて欲しい。


「さ、参加するのは上級生ばかりなんですか?」

「いや、新年度だし、(何も知らない)一回生の女の子に広く声掛けをしているんじゃないかな」

「では、未成年は飲み物無し……なんですね?」

「だよな、成人だって飲まない奴は飲まないし。ビール飲み以外は干からびてろってか」

 ホンっとに、ウーロン茶すら買って来なかったらしい。


「飲み物無しで焼き肉はキツいから、その辺の自販機で各々買って来るようになるでしょうね」

 とポニテ先輩。

「それで参加費同じ?」


「だと思うよ。今風に習ってビョードーにサベツ無し、全員一律って言っていたから」

 あははは――と、乾いた笑いが場に流れた。


 笑い声の中、果々子が続ける。

「わ、私がその場にいたら、自分は来ちゃいけなかったんだと、凄く寂しく感じます。黙って早々に帰って、主催側に居た人たちには二度と近寄らないと思います。

 あと、買い出しに行かせたのが()()()()()()だったとしたら、そんな判断力さえ削ぐ程に圧を掛けているのかと、その集団に恐怖を抱きます」


 はは、と笑いに乗ろうとしていた男子学生は、口端をひきつらせて止まった。

「大袈裟だろ……」


 ああ、また口走り過ぎたと、果々子は耳まで熱くなる。

 でも、さっきから凄く気になっている事があるのだ。それを言うといつも周囲を白けさせて、『空気読めないマジメチャン』になってしまうので、言う事が出来ない。


「まぁでもこれが、我が寮の新入生の素直な感想だよン」

 タマ先輩が微笑みを浮かべながら言ってくれた。

「遠くから来て心細い子もいるのに、人間関係を築く初っぱなに、飲み物が無いなんて冷たい扱いをしていいのか? ってお話」


 男子学生二人は、別の意味で真顔になった。



 


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