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カタコユリ荘 春の選抜カレー大会  作者: しらら
ゴールデンウイーク突入
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飛び入りの二人・Ⅱ

   

「あの――」

 聞き役に徹していた蜂矢涼介が、ソロリと手を挙げた。

「俺も一応一回生なんで、意見を言ってもいいですか?」


「お、おぅ」


「買い出しの内容に怒ってダメ出ししたのって、女性の上級生じゃないですか?」

「ああ、そうそう。サークルの女子幹部たちが、買い出しの袋開いて激怒してるって。だからって、こっちに押し付けられても困るんだが」


「彼女たちが自分で行けばいいのにねぇ」

 カタコユリ荘の女子たちは、そうねそうねと同意した。


 コホンと咳払いひとつして、蜂矢は続ける。

「俺、先日、カノジョとジンギスカンホールへ行ったんです」


「何だって!?」

「何ですって!?」

 男子女子両方から驚愕の声が上がる。

 この場で一番年下の彼が、先輩を差し置いて、『異性と焼き肉デート』なんて高難易なイベントをサックリ履修済みだとは。


「席に着いて、メニューを開いて」

「うんうん」

「カノジョは『任せる』って言うから、ラム肉と飲み物頼んで」

「うん」

「で、注文終えたら、カノジョ、いきなり黙りこくっちゃって」

「何でっ??」

「ハッと気付いて、慌てて野菜の盛り合わせも追加注文しました。そしたらニッコニコに戻ってくれました」

「そ、そう……」


「女性って、野菜好きですよね」

「そうね。好き嫌いの『性差』ってあると思うよ」

 栄養学を学んでいる先輩が言った。


「男性の方が好き嫌いが激しいとかですか?」

「う~~ん、男の子の方が苦味酸味を感知しやすいって説もある。だから食育が大変だって。女の子と同じ感覚でやってたら失敗するとか」

「ほおお」

 果々子も皆と一緒に感嘆の声を出した。自分は弟妹を離乳食から世話したが、確かに難易度が全然違ったのだ。妹は軽い小麦アレルギーがあったからそれなりに大変だったが、アレ無しの弟の方が数段苦労を強いられた。祖母の助言が無ければ途方に暮れていただろう。


「女の子は身体の機能的に、土台をしっかり作らなきゃいけないからね。本能が、必要な栄養素を欲しがるようになっているらしい」

「男性が肉ばっかりに気が行くのは?」

「本能で言うと、筋肉つけて闘えるようになる必要があったんじゃない? 今の時代に要るかどうか分からないけれど」

「ふ~~ん」


 男子上級生二人も感心の返事をして締めくくった所で、脇道の栄養学講座終了、

 蜂矢が改まって、続きを話し出した。


「それでですね、メニューを開き直して、『このソーセージ美味しそうだね』『あっアイスクリームもあるよ、食後に注文しようか』などと話し掛けると、カノジョ、ますます上機嫌になって」

「よ、よかったね……」

「はい、胸を撫で下ろしました」

「結局何を言いたかったの」

「女性の『任せる』はそのまま受け取っちゃダメって事です」

「分かる訳ねーだろ、そんなの!」


「試し行動って奴ね」

 児童心理を学んでいるタマ先輩が言った。

「言わなくても分かってくれる事で、相手の愛情を感じて安心したいの」


「それを大人になってから同年代の者にやられても困るぞ」


「だからですね、先輩がた」

 蜂矢は(かしこ)まって、春楡(ハルニレ)会の男子二人に向き直った。

「僭越ながら助言します。今頼まれている買い出し、断固引き受けてはなりません」


「ええ? それはむしろそうしたいけれど……」

「いいの? その女子幹部たちって、『タメシコウドウ』って奴ををしているんだろ? 俺らが何を買って来るかを手ぐすね引いて」


「いいえ」

 きっぱりと言い切る蜂矢。

「試し行動は、自分たちのサークルの男性幹部に対してやっていると思われます。試されているのに、部外者に買い出しを押し付けるなんて、一番の悪手です」


「お、おう?」

 目を白黒させる先輩たち。


「さっきこの人が言ったように」

 また引き合いにされて、果々子はビクッとした。だからいきなり視線が集まるような言動はやめてっ。

「買い物の指示もまともに出来ず、平気で未成年に酒の買い出しをさせるような幹部たちでしょ。それってヤバいですよ、未成年って知らなくても、売った店に迷惑が掛かるのに」


 あっ! さっき言えなかった事、この人が言ってくれた!

 そう、実家が飲食業の果々子には他人事ではなかったのだ。これまでそういう事を口にしても陰口の材料にしかならなかったので、言えなくなっていた。言ってくれてありがとうありがとう。


「もしかしたら既に女性幹部たちにとっては、彼らは結構な崖っぷちに居るのかもしれませんよ。知らぬは本人たちばかりで」

「……」

「その彼らがどうなってもいいのなら、買い出しを引き受けてあげるのも一つの道かもしれません」


 自信たっぷりに語る蜂矢に、男子学生は元よりカタコユリ荘の女性陣も唾を飲み込んだ。



 その後、春楡会の二人は電話を折り返し、こっちの体力も無限じゃないんだから買い出しはそちらでやってくれと、結構強い目に断りを入れた。

 カタコユリ荘は関わりたくなかったが、無邪気に参加する新入生たちを(おもんぱか)って、手持ちの野菜……イモやカボチャや玉ねぎを、バーベキュー用に処理して二人に持たせた。

 連休中は食堂が休みなのもあって、皆さん結構、野菜のストックを持っていた。


「大根は喜ばれないよなぁ、タレかけて焼くと、存外に美味いんだが」

 と、ビタミンカステラ先輩がぼやいていた。



 あとで聞いた話では、幹部さんたちは学生生協で、紙コップとウーロン茶や果汁10%ジュースを買い込んで、波風は一応、収まったようだ(とりあえず今回は)。

 そして春楡会の二人の持ち込んだ野菜は大層喜ばれたが、彼らは、女性幹部に声を掛けられる前に全力で逃げたらしい。






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