裏カレー大会へようこそ
皆のカレーが出揃って、ピクニックテーブルにコッヘルやフライパンが並ぶ。
佐原手先輩が七輪でチャパティを焼いて配ってくれた。
おのおののシェラや紙皿を並べて、
「いただきま――す!」
「うまっ! 鶏肉パリパリでうまっ!」
「いいねえ、ネマガリ筍。春って感じがする」
「南原先輩のタコ大根カレーもイケるっス」
食べている所に、運営三人と、なんと寮母さんとパートさんの一人がやって来た(ゴールデンウィーク中に厨房メンテがあるので、立会い業務で何回かは出勤するらしい)。
皆立って、どうぞどうぞと真ん中の席を譲る。
「あらぁ、嬉しいねぇ、ちょっと味見したいだけのつもりで来たのに、全部美味しそう」
おかあさんがたはニコニコしながら、自分たちも時期が違えどカタコユリ寮の出身だと教えてくれた。『日曜カレー』の思い出もあるのだと。
「当時は街もあんなに栄えてなくて雑木林ばかりでさ」
「そうそう、日曜ったって遊びに行く場所もないし、冬も今ほど除雪されなくて雪に閉ざされたし」
「日が短くて一日中空が明るくならない時期なんて、食堂に下りて行ってカレーの湯気と匂いをかいだだけでホッコリしたわぁ」
「芋剥き名人がいたんよ。もうバ――と回してガ――って。いまだにあのスピードの上行く人知らんわ」
おかあさんがたはひとしきり楽しんで、ゆで卵をくれて業務に戻って行った。
果々子は口を横に結んで、寮が昭和の空気だ何だと心の中で揶揄していた事を、深く反省した。だって平成生まれの自分が昭和を知っている訳がないじゃないか。その時代を大切に生きた人になんと失礼だったことか・・
ちなみに果々子のカレーは今度は受け入れられたが、やはり絶賛というほどでは無かった。
「だから私にしか美味しくないって……」
言い掛けた所で、後ろからスプーンを持ったみかんがいきなり出現して、素早く奪ってパクっと食べた。
「うん、美味いで!」
エントリーNo.6は一票だけ票が入っていたが、最初のカレーを味見していたみかんの物で、正当な票だと記録に残された。
「なにやってるんですか……」
怯えたような声に一同振り向くと、鍋を携えた蜂矢涼介が突っ立っていた。
そういえば運営のタチバナ先輩たちに「カレーをご馳走する」って約束していたっけ。
「言われた時間に来たのですが……間違えましたか?」
「折角だからご招待しようと思いまして。裏カレー大会へようこそ」
タチバナ先輩が爽やかな声で立ち上がる。
「はぁ……?」
「蜂矢涼介カレー!!」
先輩の一人が失礼にも本人ではなく鍋の方に食い付いた。
「あのめっちゃ秀でていたってカレー?」
「私食べられなかったのよ」
「待って下さい、運営に作って来てくれたのです、私たちが優先です」
「権力横暴!」
ますますドン引く蜂矢を、タマ先輩が穏やかに席へ誘った。
「怖いんですが……」
「まあまあ。来てくれてありがとうねぇ、はいチャパティ、好きなカレーよそいますよ」
蜂矢は観念した感じで席に着いた。
「じゃあ……この人のカレー、ありますか?」
いきなり指名されて果々子は喉がヒュッと言った。待って勘弁して。
案の定、ポトフ風薬膳カレーに目を白黒させる蜂矢。
最高のカレーを作って来てくれたのにごめんなさいごめんなさい……
その後、他の先輩がたのカレーも一通り食べて、いや勉強になりました、いい経験させて貰いましたと礼を言う蜂矢。同じ一回生なのに大人だなあ。
その隣では年上の女子たちが蜂矢涼介カレー(カリスマシェフカレーみたいだ)を奪い合っているというのに。
「人のことイナゴとか言えますか……」
ボソッと言った声は果々子にだけ聞こえた。




