金額改訂
「ああ~~、あと、皆さんが揃った機会に多数決を取っちゃおうかな。ほらナツ先輩、例の件」
ビタミンカステラ先輩が言って、運営の方を見た。
タチバナ先輩は一瞬 怪訝な顔をして、タマ先輩に何かを耳打ちをされてから、姿勢を戻した。
「了解しました。お任せしても?」
「オッケ、オッケ。皆さ――ん、今決めちゃいたい事がありま――す、挙手でいいので多数決取らせて下さい――」
今度はいったい何をぶち込むの? 果々子はビクビクした。もうあんまり怒鳴り声や嫌みな言葉を聞きたくない。
「日曜カレーのカンパなんだけれど、今の四百円じゃ厳しくなって来たのよね。寮母さんに渡している厨房償却費とガス代も上がったし」
あ、お金の事か、それはキチンとしなくちゃね。ていうか寮側にもちゃんと使用料を払っていたんだ。
値上げするのかな? 四百五十円ぐらいかな、五百円だと痛いけれど物価も高騰しているし仕方がないよね。
「こちらからの提案は、『四年前と同じ三百五十円に戻す、そして一皿三百五十円にする』です」
・・??
あっそうか、五十人前のカレーを食べに来るのは五十人じゃなかったのか!
三テンポずれて、イナゴ軍団(人数は半分に減った)からまた抗議が上がった。
「ざっけんな!」
「オンナ細けえマジうっぜぇ!」
抗議っていうか、道理の通った言葉はもう出て来ない。
当たり前、『自分が腹一杯食う分を皆が負担してくれなくなるのが不満』って事だもんな。
「じゃあ賛成の方、挙手を……」
「があああ! フェミオンナうぜえうぜえうぜえっ!」
――フッ
いきなり明かりが消えた。
天井の照明も厨房も、飲料用冷蔵庫も全部だ。真っ暗。
なんだなんだ? 動揺したのは五秒程で、すぐに戻って明かりが着いた。冷蔵庫や電子機器の再始動のピーという音が、静まり返った食堂に響く。
隅で、背の高い瀬戸先輩がブレーカーを上げているのが見えた。
タチバナ先輩が冷静に言う。
「フェミニズムという言葉は、女性を庇護し優先しようという主に男性側からの思想を指しますが」
「ああナツ先輩、せっかく静かになったのにそこを突っつかないで。
あのですね、そんなにカタコユリ荘を敵視したいのなら、ポプラ寮の人だけで多数決を取ってもいいですよ。こっちはそれに従いますから」
え、
「え?」
果々子と同じにイナゴ集団が思考停止した隙に、
「ポプラ寮の皆さん限定で。一皿三百五十円に賛成の人~~」
ビタミンカステラ先輩は採決を始めてしまった。
そんな……ポプラ寮限定にしてしまうと、カタコユリ荘の言う事に賛成してくれる人なんか……
しかし真っ先にバッと手を挙げた男子がいた。蜂矢涼介だ。
と、周囲の彼の友人らと、あと、離れた所でもパラパラと挙手があり、いつの間にか男子ほとんどが手を挙げている。残るのは、周囲を見て驚愕しているイナゴ軍団の数人だ。
「俺、下戸だからさ。飲み会で他人の酒代ワリカンにされるのムカつくんだよね」
「あ、それな。俺も連想した」
「何でこっちが遠慮がちに別会計を進言しなきゃなんねえんだよ、多く食った奴から言い出せよ、ってな」
あらら、皆さん、思う所があったみたいで。
「では結果も出た事ですし、次回からの会計はそのように。大盛りも結構ですが常識の範囲内で。配膳台にスケールを置かねばならぬような恥ずかしい図にならない事を望みます」
タチバナ先輩が締め括って、波瀾万丈のイベントは、予定通り八時きっかりに閉会となった。




