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カタコユリ荘 春の選抜カレー大会  作者: しらら
カタコユリ荘 春の選抜カレー大会
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寸胴いっぱいのスライム(キャラ紹介5)


「何だよ、このカレー」

 声がする方を見ると、こちらではなく、厨房の№8のカレーを貰った面々だった。


 そもそも厨房の麻美子たちは、市販のルウを使っていた。カレーというのは市販ルウを使えばどう作ってもそこそこ美味しく出来上がる筈では?

 遠目に、米飯の上にお玉から、もったりしたかたまりがボトッと落とされるのが見えた。

 冷製……? いやいや、湯気も上がっているし、温かいカレー……だよね?


 先輩三人が受け付け机に戻ったタイミングで、果々子の前に、厨房から出て来た麻美子が幽鬼のような形相で立った。


「交代してよ」


「は?」

「はあ!?」

 果々子より大きな声でみかんが遮った。


「だって遠山さんのカレーよ、あれ。放棄して押し付けて、卑怯だわ」

「・・・・」

「どの辺が果々子のカレーよ」


 あ、風輪(ふわ)さんが名前で呼んでくれた嬉しいな、と果々子は現実逃避した。


「遠山さんが保温ボックスを占領して放ったらかしてたから私たちが続きをやってあげたんでしょ。だからアナタに責任があ・る・の! 言ってること分かる!?」


 声をわざと大きくして、事情を知らない奥の方の者にアピールしている。いつか思い直して恥ずかしくなる日は来るんだろうかと、果々子は疲れた頭でぼぉっと考えた。


「小さいポット鍋のカレーが何で寸胴一杯のスライムになるん? あんた何処の異世界から来たんや」

 闘ってくれるみかんちゃんありがとう、私も何か言わなくちゃ……


 と思っている間に、タチバナ先輩が間に立ってくれた。

「遠山果々子さんのカレーは、()()調()()()()()()()()()()()()()()()しました。一時は棄権を受理しましたが、思い直して残った材料で果敢に作って下さいました。審査対象にはなりませんが、運営からは感謝の意を示したいと思います」

 相変わらず簡潔な文章、美しく響く声。憧れるわぁ……ってか頭の中だけじゃなく、私も声にして出さなくちゃ。


「じ、十八㎝鍋のカレーを寸胴一杯まで増やせるなんて、凄い、錬金術、ですね」

 褒めているのに、麻美子の顔が般若のように歪む。

「こ、ここじゃない別の、違うコトワリの異世界、とかなら、喜ばれるんじゃ、ないかな・・ほら、聖女の炊き出し、とか・・・・」


 周囲が一瞬しぃんとなる。

 あれ、和やかになる事を言ったつもりだったんだけど……


「遠山、お前捻り過ぎてて(もと)分からんなってるんや」

 瀬戸先輩が言って、力の抜けた笑いがおこった。

 麻美子は「早く来てよね!」と捨て台詞を吐いて大股で厨房へ戻って行った。

 勿論行かない。


 一応審査しなければなので、果々子たち他の参加者も寸胴カレーを貰って来て分けあった。

(うわ)

 スプーンでつつくだけでプルプル感が凄い。しかも均一でなくダマになっている。

 そしてカレーの味はするがボヤけていて、でもたまに中途半端にピリピリする箇所があって、香辛料がまばらに鼻に付いて、口の中でネチャネチャといつまでも溶けない。果々子の所にはニンジンが入っていたが、噛むとゴリゴリと音がした。



「ほんまパターンやな」

 という瀬戸先輩の呟きが背後の受け付けから聞こえる。


 果々子たちのテーブルに、今度はビタミンカステラ先輩とその友人らしきポニーテールの女子、ドラゴンフライを貸してくれた前髪クルリンの先輩、あと二人ばかりの上級生が椅子を持って来て座り、食べながら小声で解説してくれた。

「ポプラ寮に毎年一組は現れるのよ、大量の糊カレーを生産しちゃうグループ」


「毎年……ですか? 同じ人じゃなくて?」

「そう。縁もゆかりもない違う人間なのに、毎回同じパターンを踏襲して同じような糊カレーを作る」


「カレーってそんな頻繁に糊になっちゃう物なん?」

 あまり料理をしないと言っていたみかんが素直な疑問を口にしたが、果々子だって聞きたい。

 料理の真似事を始めた子供の頃ですら、カレーを糊にした事なんか無い。


「あの人たち、片栗粉を使うのよ」

「はあ」

 そりゃとろみをつけるのに便利な食材だけれど……どんだけ入れたらこうなるの?


「カタクリコって、この寮と名前が似てる」

 呑気に言うみかんは、本当に料理に縁がないようだ。

「あは、確かに片栗粉って昔はカタコユリの根から採っていたから当たらずとも遠からずだけれど、今スーパーで売っているのは、大体馬鈴薯のデンプンよ」

「へえ――」

 先輩の親切な豆知識披露。


「何でまた片栗粉」

 果々子は渋い顔をした。自分ではカレーに絶対使わない。シャバシャバが好きだから。

「群さんの所、市販の固形ルウを使っていましたよね。片栗粉なんて必要ないのでは?」


「そうなのよねえ、まったくその通りなのよ。今年こそ大丈夫でありますようにと祈っていても、毎年見事に鍋一杯の糊カレーがそこにあるの。今年は寸胴にパワーアップしていたけれど」

「ちょっと、そんな適当な説明じゃ分からないでしょ。言い掛けたのなら最後まで解説してあげなさいよ。遠山さんは真面目に聞いているのに」


 ポニテ女子に叱られて、ビタミンカステラ先輩は姿勢をただしてコホンと改まった。





瀬戸 れもん: せと れもん

 和歌山県出身 四回生 410号室住人

 紫メッシュ先輩、瀬戸先輩、れもん先輩。

 オールマイティの陸上選手。空手も強い。

 好きなカレーはシーフードカレー


挿絵(By みてみん)




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