表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カタコユリ荘 春の選抜カレー大会  作者: しらら
カタコユリ荘 春の選抜カレー大会
PR
15/44

鶏肉の皮は外す


   


 カレー大会当日、金曜日。

 一、二限目の必須科目を終えて、果々子は全速で寮に戻った。

 タマ先輩に「出来る限り早い目に仕上げておいた方がいいよ~」のアドバイスを貰って、野菜などの下拵えは早朝に済ませて冷蔵庫に突っ込んである。鶏肉はスパイスとカレー粉をまぶしてヨーグルトに漬け込んだ。


 厨房へ入ると、調理台は野菜を刻む人たちで一杯だ。そう、講義の時間が決まっているんだから空く時間だって一斉。「今年は八組にもなって多いから~」と教えてくれたタマ先輩、ありがとう!


 フライパンを取ってまだ空いているコンロに滑り込む。

 共同調味料ボックスから油を貰い、素早く鶏肉に焼き目を付けて行く。ビニール袋の野菜を放り込んでジュワジュワと炒めていると、先輩がたからの視線を感じた。

 しまった、自分は何かをやり始めると他が見えなくなるから……


「お先にすみません、ここ、十五分で空けます」

 振り向いて言うと、空気がふっと和やかになった。


「そんなに気を使わなくていいさぁ、手際いいな~って見ていただけだから」

 明るく言ってくれたのは、前にビタミンカステラをくれた向かいの部屋の先輩だ。


「そういえば一回生の前期は必修が詰まって大変だものね。午後も講義?」

「は、はい。だから、早起きして刻んでおいて……」

「あがや――偉いねぇ」


 他の上級生にも明るい声を掛けて貰え、果々子はホッとした。

 この学校は人気観光地にある上、他の大学にない珍しい学部があるので、様々な地方の人間が集まって来ている。

 緊張が取れて落ち着いて聞くと、先輩がたは色んな土地のイントネーションで喋っていて、味わい深かった。


 炒めた具材を小さいポット鍋に移し、ひと煮立ちさせている間にフライパンとターナーを洗って、宣言通り十五分でコンロを開けた。

「おお、早いわね」

 という上級生たちに挨拶をして、鍋を持って談話室へ向かう。

 北側の談話室は今の季節だと日中でも冷蔵庫並みなので、本日のカレー置き場に定められている。

 しかし果々子の目的は冷ます為じゃない。前日に清潔に洗って乾かしておいた発砲スチロールボックスの出番だ。


「遠山さん――!」

 後ろから、風輪みかんが駆け寄って来た。瀨戸先輩に似て神出鬼没。

「出来た? 出来た? 見ていい?」


「だからそんな期待するような味じゃないって」

 言っている横からみかんは小皿とスプーンを差し出す。味見するからよそえって事だ。

「もお」

 蓋をずらすとスパイスがピリリと鼻をくすぐる。

「うわ、カレー屋さんの匂いがする。本格的なスパイス使ったの? 予算オーバーしちゃったんやない?」

「街のスーパーで『四人前本格カレーセット』って少しずつのスパイスが詰め合わせになったのを見付けたの。野菜が安かった分そっちに贅沢しちゃった」

 単純にカレーの食材だけなら学生生協で揃うのだが、街に降りた方が安くてニッチな食材が手に入る。

 果々子は素早くスープをよそってやった。


「うま――い!」

「そう? これから低温調理で野菜の出汁をじんわり馴染ませるの」

 言って、バスタオルを敷いたスチロールボックスに鍋を入れ、上からくるんで蓋を閉めた。


「それが昨日の謎ボックスの使い道?」

 楽しそうに聞くみかんに、果々子も楽しい気分になる。

「ナンチャッテ低温調理だよ。本当の低温調理とはかなり違う。でもこれで次帰って来るまで六十℃以上を保てるし、コンロの数が限られているからうってつけの調理法だと思って」


「今でも十分ウマイんだけど、楽しみ! うちが知ってるカレーとだいぶん違って……色んな味がする、……セロリとか、キノコ?」

「分かるの? 凄いね」

 果々子のカレーに使ったのは、玉ねぎ、人参、セロリ、ゴボウ、エリンギ、それとゴロンとした蕪に骨付き手羽元肉。味付けは『四人前本格カレーセット』と缶のカレー粉、ヨーグルトに塩コショウ。

「カレー風味のポトフって言った方が正解かも。あ、鶏肉は皮を外したから」

「えっ、うちの為?」


 そんな事をあっけらかんと口に出せるみかんを、果々子は素敵だと思った。

「風輪さんも含めて運動部の人たちに食べて貰えるようにだよ。おかあさんを見習ってみた」

「ひゃあ、感激」


 ますます出来上がりが楽しみだねと、みかんは午後のトレーニングに走って行った。万人ウケする味ではないけれど、彼女に喜ばれるならやりがいがあった。

 スチロールボックスに油性マジックで名前を書いて、果々子は午後からの講義に出掛けた。



 ***



「ない・・!!?」

 果々子は真っ青になった。

 談話室に置いていた黄色いポット鍋が、スチロールボックスごと消えている。箱に名前を書いておいた筈……

 悪意? いやそうは思いたくない。何かの手違いでちょっと移動しただけ…………と思いたい。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ