エントリーNo6(書影その3)
第三章【 カタコユリ荘 春の選抜カレー大会 】
やっとタイトル回
「カレー大会だからしばらく寮に泊まる」
玄関でキャリーバッグを抱えたタチバナ先輩が言った。意味が分からない。
そういえば『カタコユリ荘 春の選抜カレー大会』(大は一個消された)と書かれたポスターが先週から貼り出されている。
改めてちゃんと読んでみた。
小見出しに、『今年度のカレーの味を皆で選ぼう』『挑戦者絶賛募集中』とある。
やはりちょっと意味が分からない。
下の方に説明文で
【今年もカタコユリ荘『日曜カレー』の味を決める季節がやって参りました。
普段の食堂利用者はどしどし投票にご参加下さい。参加カンパ三百円、おやつも出ます。(食堂の通常営業は~5/7迄休み)
出品者も併せて募集中。我のカレーこそは至高という方、挑戦してみませんか? 当日朝までに下記名簿にエントリー下さい】
とある。
少しは意味が……分かった……かな?
エントリー表には既に『カタコユリ カレー五人衆』の他、数名の本名が書き込まれている。
カレー五人衆……? またちょっと分からなくなった。
「毎週日曜の夜はカレーだったでしょ。寮母さんが休みなので、学生が厨房を借りて作っているのよ」
浴室掃除で一緒になったタマ先輩が教えてくれた。
「そうだったんですか」
入寮してから日曜は四回あったが、果々子は日曜は食堂休みだと思い込んでいて、外出していたか部屋にこもっていた。だから日曜カレーと言われてもピンと来なかったのだ(新歓で説明はあったらしいが、やっぱり聞いていなかった)。
「でもカレーって好みの幅が凄く広いでしょ」
「そうですね」
「だから年に一回、『自分のカレーが一番美味しい』って面々が持ち寄って、大勢に審査して貰うの。優勝したカレーはその後一年間日曜カレーの味になるけれど、皆で決めた味だから文句を言うのはご法度だぞ、って感じ」
「へえ、それは合理的ですね。大昔からの伝統なんですか?」
果々子の質問に、タマ先輩はモップを止めて少し間を置いた。
「日曜カレーは寮創設以来続いているけれど……この大会は……え――と、四回目かな。第一回は私が入学した年の夏休み前だった」
そうなんだ、わりと歴史が浅いんだ。でも面白そう、色んな手作りカレーが味わえるなんて素敵。
先週はどうやって回避しようかと考えていた事を思い出して、果々子はムシのいい自分に肩をすくめた。
「遠山ちゃんはどんなカレーが好き?」
「私はサラサラ系です。自分で作るのは、もうカレーを名乗っていいか分からない程の、出汁の味メインのシャバシャバした奴」
「あら、自分で作っちゃうの?」
「私好みのカレーが中々無いので、自分で自分の為だけに作ります。多分他の人には美味しくないと思う。家族にも不評だし」
「へえ~、食べてみたいなぁ」
「いや美味しくないですよ」
「そんなん食べてみんと分からんやろ!」
またいきなり引き戸が開いて、紫メッシュの瀨戸先輩が現れた。
今日は後ろにタチバナ先輩もいる。
「私も食べてみたいです、遠山さんのカレー」
「ほ、本当に大したモンじゃ……」
「決定な」
瀨戸先輩がタチバナ先輩のクリアファイルから白い紙を引き抜いて、強引に渡して来た。
【カレー大会エントリー応募要項】
「ひっ」
「予定とかあった?」
「わ、私は食べる方専門で参加したく……そんな海〇雄山みたいな大それた自信がある訳でなく……」
三人の先輩は顔を見合わせてニコッと微笑んだ。
「エントリー表に書いといたるな」
「分からない事があったらいつでも部屋に聞きに来てねぇ」
「楽しみが増えました、ありがとう遠山さん」
結局エントリーNo.6にハート入りで名を書かれ、夜、部屋で一人で悶絶する果々子。
倒れ込んだベッドで応募要項に目を通す。
【◇厨房は当日十時より開放します。
備え付けの調理器具、調味料使用可。
十八時迄に八人前のカレーを完成させ、鍋を食堂の配膳台に運んで下さい。
保温プレート・食器・米飯は運営側で用意します。
◇厨房のコンロは三口ですので参加者で話し合って円滑にお使い下さい。
希望があればカセットコンロ(六台)を貸し出します。
◇冷蔵庫:前日の朝より、食堂の飲料販売用冷蔵庫の半分を開放。記名の上使用下さい。
◇材料費:レシート添付の上、請求書を提出して下さい。後日支給します。上限三千円、オーバー分は自己負担願います】
「八人前……」
なんだ、思ったより少なくていいんだ。でも限られた厨房で大勢で譲り合って調理するのは大変だな。
(早い内なら空いているかしら)
当日の金曜日、果々子の出る講義は、九時~十二時半と十四時半~十六時。お昼に寮に戻って調理をし、講義を済ませて十八時前に温め直せばいい。
心配なのは、自分の偏った味のカレーが大量に余って迷惑を掛けないかだ。まぁ、気持ち少ない目に作っておこう、どうせ人気はないんだから。




