知らない子に睨まれる
笑われながら果々子は浴室を出て、タマ先輩と談話室に向かった。
厨房横の談話室は四畳半の上がりかまちで、食堂で出来ない込み入った話や、学外の者との面会、たまにパートのおかあさんたちが休憩に使ったりもしている。
入ると柏岡久恵がいたが、卓袱台を囲んで何故かもう一人女子学生がいた。
(誰……?)
果々子には分からなかったが、向こうは「遠山さん、こんちは」と声を掛けて来た。
そして久恵は第一声に、「呼んだのは遠山さんだけだったのに」と口を尖らせた。
タマ先輩は流石に驚いた様子を見せたが、気を取り直したように話し始めた。
「私は柏岡さんが寮をどうするかを聞き取りに来ました。柏岡さんは決めた事を伝えに来たのではないの?」
あののんびりなタマ先輩の声が固い。
横の果々子はハラハラする。
「寮は移ります」
久恵はぶっきらぼうに言った。
「その前に遠山さんと風輪さんとだけで話したいんですけど」
空気がピリピリして、果々子は名指しされているにも関わらず逃げ出したい気分だった。
「そう。じゃあ、書類を持って来るから、その間にどうぞ」
タマ先輩と一緒に出て行きたかったが、肩をポンと叩かれてその場に止め置かれる。イヤだ、凄くイヤな予感がする……
先輩が出て行くと、久恵が馴れ馴れしく寄って来て肘に絡み付いた。
「おお、怖い怖い、いま脅して行ったよね、こんな封建的な所、早くおさらばしよう」
「へ?」
「遠山さんも出たいでしょ。出られるんだよ、一緒に白樺寮に入れる。私らが話ししといてあげたから」
「は?」
果々子は先輩を封建的と言った事も、寮を変わりたいと言った事もない。そもそも柏岡久恵とは挨拶程度しか交わした事がない。
「風輪さんも一緒に出るって。新入生が四人ともが四月中に出て行くなんて、この寮に問題があるって皆にアピールできるでしょ」
「ふ、ひほ??」
果々子は口をパクパクさせながら久恵から目を反らし、座っている女学生を見やった。
首だけ動かしてこちらを向く彼女は、真っ黒い短髪を外へ跳ねさせ、よく日に焼けていて活発そうだ。
そういえば同時期に入寮した中にいたような…… どこの学部かも知らないし、一般教養の教室でも寮でも見ないから話をした事もない。なのに、白目の部分が真っ白な迫力のある眼で、不機嫌そうにこちらを睨み上げている。




