【12】地産勇者はダンジョンに挑む
――――3日後
本日はダンジョン実習である。
集まった門下生は20人ほど。俺とBランクのリディアの2人の引率では少なすぎる可能性もあるので無事にAランク昇格を果たしたマリーとエルナ、あと何故か勝手に付いてきたロバートも一緒である。
「さーてみんな!何か異常が起きたらすぐに言う!ケガは放置せずにちゃんと伝える!あとはチームであることを忘れない!いいな?」
『はーい!』
元気な門下生たちと、緊張しながらも嬉しそうなサナ。それから。
「レンリ、お前もだぞ」
「は、はい。先生。今日はよろしくお願いします」
「ああ」
本来はとても真面目な子だ。だからこそ現役を退いたコーデリアも指南役を引き受けたんだろうな。
「今回挑むダンジョンは初級、セーフティーエリアを含めて3階層のみだ」
「そうそう、初心者で言えばここがいいね」
ロバートが頷く。
「その、先生」
「どうした?サナ。気になっていることがあるなら今のうちに言っていいぞ」
「ダンジョンと言うのは、ランクがみんな決まっているんですか?」
ふむ、いい質問だな。
「そうだな。新規でダンジョンが現れることもあるが高ランク冒険者が安全性を確かめランクを制定すればよほどのことがなければランクが変わることはない」
「よほどのこと……ですか?」
サナが首を傾げる。
「うんまぁ、階層が増えたり、何かしらの力でダンジョンが変容したりしない限りは」
そう言えばサナが緊張した面持ちになる。
「心配すんな。滅多なことじゃなきゃ起こらなし引率の俺らもいるからな」
「わ、分かりました」
サナが安心したように頷く。
「それじゃぁ進んでいくぞ。前衛担当はマリーとエルナに続いて魔物の討伐を。リディアは後方支援を教えてやってくれ」
「了解です、先生」
「よし。俺とロバートは後衛」
「後ろばかりはベテランの腕が問われるからねぇ」
「そうそ、後ろからの敵はなかなかな」
前よりも警戒しないといけない。
「その、先生。ぼくは……」
「レンリはそうだな……前衛の2人は魔法弓の名手だ。2人が剣で斬り込むタイミングを指示してくれるだろうし前衛で行くか?」
「は、はい!」
「だが魔物を相手取るのは平気か?」
異世界の勇者にとっての最初の関門はそこだ。
「……それなりには」
その目には迷いはあるものの、初めてではないようだな。
「ま、コーデリアが推薦してきたんだ。期待してるぞ」
「……その」
「ん?」
「コーデリア師匠と先生はどう言う関係なんですか?」
「そうだな……腐れ縁でもあり……恩人だ」
そう告げれば、レンリは不思議そうな表情を向けて来る。
「コーデリア師匠も同じ事を言ってましたよ」
「アイツが?ふぅん……」
腐れ縁はそうたが……恩人ね。アイツ、かつて境界を巡っていたようだからそのことだろうか。俺はたいしたことはしてないんだからな。
「コーデリアちゃんかぁ、懐かしいねぇ」
「懐かしいがロバート、未だにコーデリアにちゃん付けできるの何でなんだよ」
長年の友人の謎がミステリアス過ぎる。
※※※
「よし、いい感じ!レンリくん、そこよ!」
「はい、エルナさん!」
レンリも着々とコツを掴んでいるようだ。
「よーし、弓担当のみんな!順番に当てる練習!」
マリーの声に門下生たちが魔法弓やボウガンを構える。
「えっと、お怪我をした方は」
「サナちゃ〜〜ん、ちょっと擦りむいちゃった」
「はい、マリーさん」
サナがマリーの指に手をかざすとあっという間に傷が癒えていく。
「わぁ、すごいすごーい!」
マリーがきゃっきゃと喜ぶ。
「サナちゃんさすがね、でもMP消費量には気を付けて」
「はい、リディアさん!」
サナは周囲の弓の名手たちの戦い方を見ながらも着実に自分のやるべきことを実行している。
「あの子は賢い子だねぇ」
「そうだな、しっかりしてるよ」
後ろからロバートと感心していれば。
素早く刀を抜き去り後ろを薙ぎ払う。
「お見事」
俺が反応することを読んでいたのかロバートが拍手を送ってくる。
「おいおい、お前もやれよ?」
「任せて任せて〜〜、今日は久々にオジサンの銃口も魔法を吹くよ〜〜」
愛用の魔法銃を構えながら呑気な。
しかし不意打ちを仕掛ける魔物に見事に命中させていくさまはさすがである。
「正確な射撃、遠距離攻撃……弓に通ずるところもあるな」
「そうだねぇ。しかし火力は弓の方が出るんだよね」
「射程を定めるのに時間がいるから、ガンナーが撃ってくれた方が楽だよ」
「そう言えばそんな縛りクエストもやったねぇ」
「ああ、そうだった」
どれもこれも懐かしいものである。
「おーい、そろそろセーフティーエリアに入るぞ!」
そう声をかければ、マリーやリディアからオッケーとサインが来る。
階段を下ればそこには多くの冒険者が集まっている。
「セーフティーエリアって、敵が出てこないってこと?」
レンリの言葉にリディアが頷く。
「そうよ、だからみんなここでご飯にしたり休憩をするのよ。初級ダンジョンの場合は鍛えたい階層で集中して経験値を得た後、ここに戻って休憩、また鍛錬と繰り返すのよ」
「そっか……単に階層が少ないから何度も挑み直すのかと思ってた」
「ボスに挑みたいならそれもありだけど、こう言う初級ダンジョンは階層が少なすぎてダンジョンボスも湧かないわよ」
「ボスが湧くダンジョンもあるんだ」
「ええ、4階層以上ならね」
少なくともここは4階層以上になる予兆もない。
「よーし、みんな、メシにすんぞー」
『はーい!』
マジックバッグに入れてきた握り飯やスープを取り出しみなに分配していく。あとはお菓子と……。
「ロバート、どっか行くのか?」
ロバートは握り飯を食べると立ち上がり周囲を見渡す。
「物々交換もいいかなぁとね」
その手には自ら持ってきたのか強化ポーション瓶が。
「闇鍋交換じゃねーか」
俺らも若い頃によくやったが。ロバートはハッハッハと笑いながら他の冒険者の元へ向かう。
「先生、何それ。楽しそう」
リディアが興味津々にロバートの背中を見送る。
「いやその、中には粗悪品もあるから。気軽にやるもんじゃない」
「でも先生はやったんでしょ?」
自分もやりたいとばかりの視線。
「……いやあの頃は俺もロバートも若かったんだ」
「ロバートさんは今もやってますよ」
「真似するな、あれは熟練だから今もできるんだ」
「ええー、じゃぁこう言うのはどうです?」
リディアが鉱石を見せてくる。
「強化素材に使えるやつじゃん、これどこで?」
「狩った魔物がドロップしたんです」
「そらぁいい。だが闇鍋交換だとこれよりも粗悪な素材に変わるやもしれん」
「まるで賭け事……あ、先生、賭け事はダメですからね!?」
「いや、しないって」
そんなやり取りに門下生たちの和やかな笑いが響く。
「そうだ!闇鍋じゃなくて正々堂々交換」
「いいねー」
エルナとマリーが乗っかり、女子たちは入手した素材の交換を始めたようだ。
「やぁ、楽しそうだね」
「おう、お帰り。ロバート。いい素材は入ったのか?」
「激辛ポーションを手に入れたよ」
パーティーグッズじゃねえかよ。
「それより気になる噂を聞いたよ」
「気になる噂?」
「そうそう」
ロバートの顔色が真剣なものに変わる。
「近頃、簡単なダンジョンに強敵が出ることがあると言う不穏な噂がね」
「普通なら有り得ないんだけどな」
「もちろんだ。そんなことになれば君も私も調査に出ずっぱりだよ」
引率なんて出来やしない。
「活性化でも起きない限りは安全だと思うがな」
「活性化か……可能性はなくもないがね」
簡単なダンジョンでも活性化は起こることがある。新たな階層の出現、他ダンジョンの影響、人災色々な要因があるが、あれは魔物がダンジョンから飛び出してくるからたちが悪い。
「なぁ、もしかしてお前が付いてきたのは……」
「冒険者の勘かな。あとは……単なる興味。君のパーティーはますます賑やかになったようだし。君も来る?今度の敬老同期会」
「いや流石にそれは……」
「君の出自なんて今更誰も気にしないよ。むしろエルフもいるしね」
「それもそうだがな」
それでも俺は境界の血を色濃く引きすぎている。
「おい、大変だ!」
誰かの声が響く。
「怪我人がいる!ヒーラーは力を貸してくれ!」
その言葉にセーフティーエリアに緊張が走る。運び込まれて来る冒険者は酷い怪我である。
こんな初級ダンジョンで?人員にも限りがあんだろ!
「ひ……っ」
さすがのレンリも思わずたじろぐ。
無理もない。そんなのこの世界の人間だって初めてならそうなる。
しかもひとりじゃない。
「サナ!」
「はい、先生!」
サナが緊張した面持ちで答える。
「ヒーラーたちに習いながら魔法を!エルナも少し出来るな?」
「ええ、先生!」
エルナがサナの手を引き、他のヒーラーたちと治療に加わる。
「後方支援担当は回復素材を提供するように」
「はい、先生!」
門下生たちがエルナたちの支援に向かう。
「それで、何があった」
俺とロバート、リディアは知らせに来た冒険者の元に向かう。
「あ、あなたはロバートさん!」
おお、流石は顔パスのベテラン。
「それは後です。今は何があったのかを話してください」
「は、はい!その……どうしてか突然第4階層が発生して……そこに踏み込んだ冒険者たちが重傷を負いながら3階層に逃げて来て……」
「バカ!そんなところ、勝手に行ったら何があるか分からん!まずは戻ってギルドに報告すべきだった!第4階層のレベルが初級だとは限らないんだぞ!」
時にはさらに難易度が上がることもある。
「それは……」
冒険者が俯く。
「まぁまぁ、ロシュ。今は彼を責める時ではない」
「……すまん、熱くなった。とにかく怪我人はあれで全てか」
「い、いえ……何人か取り残されているかと」
「くそ……ロバート、行くしかない」
「ええ、もちろんです。行くならBランク以上です」
「なら私たちが!」
リディアがマリーとやって来る。
「こっちにはエルナもいますから!」
マリーが告げる。
「分かった、俺たちで」
「あの……ぼくは」
レンリが物言いたげに告げる。
「お前にはまだ早い」
「でも、勇者なのに。ここで待ってるしか……」
トーリもそんな目をしていたことがある。
「第3階層までだ」
「は、はい!」
レンリが真剣な面持ちを浮かべる。
「よし、Bランク以上は付いてこい!」
「いやでもアンタは……」
知らせに来た冒険者が戸惑う。
「問題ないですよ、彼は勇者ですから」
ロバートがニコリと笑う。
「違うっての!」
その言葉を振り切るように第3階層への階段を下る。
しかし異変はすぐに襲い掛かる。
「魔物の咆哮だ」




