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虹徹剣羽 ゼンライガー  作者: 雷然
虹の章
5/33

第5羽 兄様と兄貴と私とアイツ

「お兄様、あれと闘うのですか」

 上目遣いの少女はライガーの妹ではない。幼馴染であり友人であるガーベラの妹で、名をフクオカという。いつものようにライガーを()()と呼び、慕う少女。


「闘うのあれば、ウチの莫迦兄を是非お使い下さい。あれでも一文字流の正当後継者、一合程度ならば盾になります」

 兄とよく似た、真っ直ぐな髪を揺らして少女は言う。実の兄にはやけに厳しい。

 出来の悪いほうの()としては俺なんかより、実の兄(ガーベラ)に懐いたほうがよっぽど勉強になるのでは。そんなことをライガーは思う。

 フクオカはライガーの想いを知ってか知らずか、手を握り、ガーベラのところまで連れていく。


「ガーベラ、お前、フクオカには弱いよな」

「ああ、こんな時に出てきやがって、家でおとなしくしてろっての」

 可愛い妹の登場で、ガーベラは険が取れた様子だ。

「で? やんのかアヤカシと」

「頼めるか?」

「いやだね。この里の為に刀を振るうのはいい、狩りと同じだ。だがな、見てみろよ。ほら、大名に任せればいいじゃねーか、このままだとアイツ一人で勝ちそうだぜ」

「残念そうだな」

「べっつにぃ」


 ガーベラの考えていることはだいたい解る。大名とアヤカシが共倒れすればいい、およそ、そのようなことを考えているのだろうとライガーは判断し、そしてそれは正解であった。


「ガーベラ兄さん、ライガーお兄様が困っているじゃありませんか、こういう時に助け合うのが美しい友情というものですよ」

「別にやらないとは言ってない。だがな、へたに飛び込むとかえって邪魔になる。ここは機をみるべきだ」

「それは乙女の危機になるまで傍観(ぼうかん)するということかしら、それが則宗家跡取りにして、一文字流正当後継者の台詞なの?」


 いつものように年齢に不相応な言い回しで、兄に説教をする。

「それに機がないのならつくるのが一文字流、私達のやりかたでしょ」

 そう言ったフクオカが走りだす、残された男二人も顔を見合わせて追いかけた。


 哀れな騎士の亡骸を恐れることもなく、悪びれることもなく腰に残された剣を抜いた。この少女が、何かに怯むといったところをライガーは見たことがない。

 森の生き物のようには聴力が良くないのか、それとも余裕がないのか、背中を向けたアヤカシはこちらに注意を払う様子はない。

「やっぱり重いわ、これ」

 (はな)からそのつもりだったのだろう。追いかけてきたライガーに剣を手渡した。

「よいしょっ」

 かついだ大剣を地面に落として、騎士の剣を受け取る。当然大きな音がしたが依然として同じ様子のアヤカシ。ガーベラのことを妹には弱いと揶揄したが、せっかくかついだ剣を簡単に手放す程度には、ライガーも()に甘かった。


 片手で持った騎士の剣、見た目のままショートソードと呼ばれるその剣は、ライガーの大剣と形が近い。少なくとも片刃の曲剣である刀より、諸刃の直剣であるショートソードのほうが、親戚といえるだろう。祖先なのか、あるいは子孫なのか、それともなんの繋がりもないのか、刀剣の歴史にしばし想いを馳せる。そして想う、自分の剣も小さければいいのにと。

「へっ」

 素振りした剣はあきれるほど軽かった。鼻で笑ったライガーはショートソードをアヤカシ目掛けて――投げつけた。バニラの視線はバイザーで解らなかったが、何かを感じ取ったような雰囲気をライガーは信じた。キンッという頼りない音がして剣は落ちる。見た目には無傷。実際痛みすらなかっただろう。それでも気に障ったのかアヤカシは振り向いた。体も頭部も前を向いたまま、眼球だけが、顔の横を通って後頭部に移動したので、振り向いたという表現は適切ではないが、狙った効果としては成功だった。


 気色悪い眼球の移動よりも、先に動く者が居た。

 殺しの(わざ)と見えぬほど優美な身のこなし、細身で優雅な佇まいは自らが武器であることを拒絶したかのよう。

 業物、“則宗”を抜いた稀代の天才剣士、ガーベラであった。

 アヤカシの目がライガーを捕捉したとき、白刃はアヤカシの首にあった。


 ギャリンッという刃の悲鳴、熊の分厚い脂肪を切り裂くガーベラの技量をもってしても、アヤカシに傷はつかない。

「ちいィ」と短くガーベラが悔しがった。



 本命は結果を残した。


 アヤカシの身体が、浮き上がり折れる。


 重く重く入ったバニラの蹴りは、アヤカシの腹を砕いて裂いた、陥没部からは紫色の体液が吹き出る。


「キシュアアアッ!」


 怒り狂ったアヤカシが長い腕でガーベラを狙う。気づいたガーベラがいなすまでもなく、凶器はバニラに掴まれた。続けざまにもう片腕を振り下ろすアヤカシだったが、なんなくバニラにつかまれ、両の腕を封じられる。


「里の人たちを、傷つけはさせません」


 両腕をつかんだバニラが、常人を遥かに超える腕力をもって真上まで持ち上げ、その握力をもって腕を破壊した。

「私は、ヒーローなのだから!」


 自由落下。勝負は決していた。

 されど、これは勝ち負けを決めるためのものではない。

 命を奪うまでは終われぬ。

 蹴りによって出来た凹み、目掛けて突き出したるは――超鋼の貫手。


 散るは鮮血。


 化け物の悲鳴。


 唸るは鋼。光る鋼。

 

 腕に刺さったアカヤシを、全身のひねりをつかって、上空に投げ飛ばす。騎士とおそろいの穴。

 紫になったバニラの腕。その手の平。

 光の線が、あふれ出す。


 光を上空にむけ、もう片方の手で腕を支える。


 光の線はあふれ出す。


 放射状にあふれ出す!


 手から腕へ、腕から全身へ――――!!


「消し飛べ! ライトニングビーム!」


 天の太陽が地上に咲いたような、(まばゆ)い光。一筋が明々し、消えた。


 風と雲を切り裂き、アヤカシは影も残さなかった。


 

次回予告


解かれた変身。嵐のあと。

横たわる亡骸に手を合わせ、祈るは平和か殺戮か。

ライガーは力を欲し、バニラは迷う。


第6羽「へんげ」

その力、神か悪魔かヒーローか。

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