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21 新たな冒険への誘い

20話から更新しています

 アイリスの新たな精霊の愛歌は小さい。

 親指の大きさ程度の魚の姿はそのレベルが1であることを考えても小さいと言わざるを得ない。

 アイリスの最初の精霊であるひなたと比較すると、現在は二の腕程度の大きさだがレベル1の時は掌ほどの鳥の姿であった。

 また保有する精霊力の比較では愛歌はかつてのひなたの3分の1しか持っていなかった。

 そんな愛歌に対してアイリスは早く大きくなってと願い、深い愛情を注いでいた。


♪〜

 おさかな ぴょん

 ぴょん ぴょん ぴょん

 ことりが ちゅん

 ちゅん ちゅん ちゅん



 もし愛歌がその姿通りの魚の生き物であったならアイリスは魚用の餌を望む限り与えたであろう。

 しかし精霊は食事をしない。

 正確には食べようと思えば食べられるのだが、成長するため・生きていくために必要な行為ではなくただの嗜好でしかないのだ。

 だからアイリスは愛歌に歌を聴かせている。


♪〜

 ことりが おさかな たべちゃって

 おさかな いぶくろで おおあばれ

 


 愛歌はアイリスの歌が大好きで、大好きすぎてアイリスがひなた以外の精霊と契約できないレベルなのにアイリスに取り付いてしまうほどだったのだ。

 だからアイリスはクランホームで愛歌に歌を聴かせて、

 アイリスの頭に乗ったひなたも歌に合わせて囀りを添え、

 二人の歌の中で愛歌は喜びを表すように魚が水面から跳ね出すようにアイリスの体から飛び出ては戻りを繰り返すのだった。




「「羨ましい」」

 そんなアイリスたちを見ていた雪月花とヒロの口から奇しくも同時に同じ言葉がこぼれた。

 二人は別に自分の精霊に不満があるわけでもなければ、2体目の精霊と契約したアイリスが羨ましいわけでも、仲の良さに嫉妬しているわけでもなかった。


 アイリスが誰かに選ばれたことが羨ましいのだ。


「だから出会いクエストに行こうよ。グダグダ言ってる時間がもったいないよ。一刻も早く新しい精霊と契約してハッピーライフだよ」

 すかさずアイリスが2体目の精霊を手に入れるように勧誘してくる。

「出会いクエストに臨まなくても新たな精霊と出会えることがわかったのですから、お見合いのようなことを遠慮したい気持ちわからないのですか?」

「わかるよ。でもラブラブになった二人には出会ったきっかけなんてどうでもいいことだよ。一生添い遂げる人と出会うことの方が大事! 雪月花も本当はわかってるんでしょ」


 クランホームでのいつものお茶会に愛歌が新たなメンバーとして加わることになったのは昨晩のことだが、今日はゆっくりとお茶とお菓子を楽しんで、相手方の仕事が落ち着いた頃合いに領主に昨日の戦いの報告に伺う予定となっていた。

 そのお茶会で開口一番にアイリスが言い出したのが雪月花もヒロも2体目の精霊と契約しよう、そのために必要な出会いクエストを受けに行こうというものだった。

 キャラクターはゲーム開始時に1体の精霊と契約した状態で始めるが、以後20・40・60レベルで新たな精霊と契約できる仕様となっていて、3人は昨日の戦いで20レベルに達してアイリスはさらに新たな精霊と契約を済ませたのだった。

 そんなアイリスが雪月花とヒロも新たな精霊との契約をしようと勧めているのだが……

「どうして結婚相手探しみたいな話になってるんだ?」




「それはパートナー選びという意味で同じだからだよひろちゃん、結婚は出会いの形の1つでありそこに至るまで私たちは経験を積んで大人にならなくちゃいけないんだ」

「アイリスの言う通りです、精霊を選ぶ前に私たちは経験を積んで成長するべきなのです。自らを磨こうとせずに新たな出会いを求めるなど堕落です、現在契約している精霊に対する裏切りにほかなりません」

「話ずらしたよね、雪月花。2体目の精霊を手に入れるとどうして裏切りなの? もしかして浮気と混同してる? メモリーとはそういう関係なのかしら?」

「メモリーは私の家族ですわ。そして私が他の精霊を求め出したらメモリーが自分のことを役立たずだと思ったり、私に愛されていないのではないかと思ったりするのは容易に想像できますが、いかが?」


(いつものじゃれあいだった)

 そう結論を出したヒロは自分の精霊アンドリューと同じタイミングでクッキーをつまみ紅茶を一口飲んだ。

「それでヒロちゃんはどう思っているの?」

「出会いクエストに挑む気はあるのですか?」

 出会いクエストとは新たに精霊と契約できるようになったキャラクターが受けられるクエストで、これをクリアすると新たに精霊と契約できることからお見合いクエストとかかぐや姫クエストとも呼ばれていた。


「私はどっちでもいいよ、行くなら付き合うし行かなくても平気。そんなことよりも昨日の戦いでモンスターに体当たりされて吹っ飛ばされたのってタンクとしてどうなのよ、ってのが今頭を占めてることなの。だから新しい精霊が来て強くなるのもよし、この街でタンクとして鍛えるのもよしって思ってる」

 ヒロの回答にアイリスと雪月花は呆れた表情を見せた。

「どうしてこうヒロちゃんって」

「わかっていないのでしょうね」

「何がだよ」

「男女関係に絡めて言わなきゃダメじゃない」

「話の流れをなんだと思っているのですか」


(どうしてこんなことで責められる?)

 そう思わずにはいられないが、二人のそうした態度がついつい意固地になってしまう自分を解きほぐしてくれたこともヒロは覚えていた。

「……働いて金稼いでこい、話はそれからだ」






 昼過ぎに領主であるバーンシュタイン伯爵の館を訪ねた3人は以前訪れた時と同じく食堂に通され、そこで伯爵夫人から熱烈歓迎をうけた。

 即ち、

「ここはケーキバイキングですか!?」

「ヴァーチャルなのに胸焼けがしそうです」

「ヴァーチャルだからむしろ天国だよ」

「食べきれない分は収納に入れてお土産にしてね、キャラクターの皆さんの収納は腐ったりしないと聞いていますよ」

 回転テーブルの上に隙なく置かれたケーキの山が3人を待ち受けていたのだ。

 テーブルの上がケーキでいっぱいのせいなのか、メイドがキャスター付きワゴンで茶器を運び入れてお茶を淹れてくれる中、伯爵夫人が手ずからケーキを取り分けてくれた。

「伯爵が帰ってくるまでの間、夕べあなたたちに何があったのか私にも聞かせてくれるかしら。そうすれば伯爵と話すときは内容がより整理されて話せると思うの」


 伯爵夫人が話を聞くやり方に3人は驚いた。

 彼女は思い思いに話そうとする3人をたしなめ、時系列に沿って誰がどこで何をしていたかを丁寧に聞いてきたのだ。

 雪月花たちもリアルでの5W1Hという単語は聞いたことはあったが、それを

「どうしてそのようなことをなさったの? ……それは素晴らしい考えね」

 などと3人をうまく褒めながら会話を途切らせずにおこなうのだから、雪月花は社交術おそるべし、途中からだが会話の記録をとって後で勉強しようとまで思ったのだった。




 領主が帰宅したのは伯爵夫人からの事情聴取を終え、新たなお茶を楽しんでいる途中だった。

「遅くなって済まないね。話は一段落ついたのかな」

 バーンシュタイン伯爵が後ろに3人とも馴染みがある軍人のサンドラを連れて食堂に入ってきた。

「ええ、書記官が記録をとってくれましたので伯爵のお堅い話は無しでお願いしますね」

「ははは、女性相手にそのようなことをしてはいけないのは君からしっかり教えてもらったよ。だか彼女たちの活躍を称えるのは構わんのだろう? さあさあ君たちの活躍を聞かせておくれ」

 なお伯爵夫人にしたような5W1Hな話し方は伯爵のお気に召さなかった。




 バーンシュタイン伯爵への報告を終えた3人は次に予定していた兵士たちへのお礼参りを翌日に延期させられて引き続き屋敷で夕食をいただくことになった。

「普通のフランス料理?」

「さっきはケーキをいっぱい戴きましたからね、夕食はあっさりした方がいいでしょう」

 先日とは違い貴族の料理としては質素に思える晩餐を戴きながら話題は3人のこれからの話。

 お昼前に3人で話し合っていたおかげか、話は要点よくすることができた。


「私は愛歌のレベルアップできればそれでいいかなって思ってます。それ以外は二人にお任せです」

「今回みんなに協力してもらった分、今度はみんなの協力をするつもりなのかしら」

「はい」


「私は出会いクエスト以外での出会いの可能性を追い求めてみたいのですけれど」

「雪月花は将来男に騙されそうね」

「なんでですか?」

 伯爵夫人の指摘に声が上ずる雪月花。

「あなたは運命の出会いに気付けるの? 立派な人と立派に見せる人との差をあなたは見分けられるのかしら?」

「それはこれから経験を積んでみる目を養っていくつもりです」

「これからじゃダメよ、今すぐ見分けていきなさい。それが経験を積むということ」

 雪月花は絶句した。


「昨日の戦いでタンクなのに吹き飛ばされて戦線が崩壊したのは私の汚点です。私はまずタンクとして自分を鍛えたいと思っています」

 これに答えたのは伯爵の方だった。

「始まりの街の近辺で最もレベルの高いモンスターはエリアボスだ。それよりも強い敵に勝っているのだからここで技を磨くとしても限界があるぞ」


 伯爵はそう言って次に末席で夕食に呼ばれていたサンドラに話しかける。

「重戦士の中ではグレゴリーどのが名高いと聞いていたがどうなのだ?」

「はい、グレゴリー様は王都で行われる競技会に近年お出になられることはございませんが、競技会での重戦士部門1位は彼よりも数段落ちるとの評価です」

 伯爵はサンドラの回答に満足し、1つ頷いて再びヒロに向き合う。

「わかった、ご苦労。というわけだがどうするかね?」


 どうするとはどういうことだろう? グレゴリーという人が優秀なタンクだということはヒロにもわかったけれど。

「伯爵はグレゴリー殿への紹介状を書きましょうかと言っているのよ、あなたを鍛えてあげて欲しいとしたためてね」

 話の流れがつかめないヒロに伯爵夫人がわかりやすく翻訳してくれた。

「そうだ。私は人の才能とはやる気の有無だと考えている、やる気のないものが大成することはない。そしてそなたは今やる気に満ちているのだろう? ならば私は貴族としてそなたに道を紹介しよう」


 ヒロがアイリスと雪月花を見ると二人とも頷いてみせた。

「私はひなたと愛歌と一緒にヒロちゃんの選択に付き合うよ」

「私はそのグレゴリーという方がどのような男性なのか興味があります」

 急に訪れたヒロが強くなれるチャンスに仲間は後押ししてくれる。

 あんな失敗をしたにも関わらず今でもヒロを信頼してくれている。

 そこまで考えてヒロは信頼してくれているのは二人だけではないことに気づいた。

 この部屋にいる人たち全員がヒロのことを信頼し、期待してているのだ。

 だったらヒロがするべきことはその期待に応えることだろう。

 ヒロは席を立ち伯爵に向かって頭を下げた。

「ありがとうございます、是非紹介をお願いします」

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