第8話 丸太小屋1
ノームを尋ねての旅路の途中、中角が何やら人形のようなものを眺めていた。
手に納まるほどの小さな人形、というよりは石像だが、よく見ると陰陽師の装束を着ている。
例によって紙型の中の鳴狼がそれに気付いた。
「何だよ中角それは?」
「おお、これか。これはこの前、さらまんだーがくれたワシの石像じゃよ。
見てみろ、うまいもんじゃなァ」
よく見ると、手に符を持った中角がカッコよくポーズを決めているところが、見事な造形で再現されている。
戦闘中にでも見た姿なのであろうか?
細部までこだわったらしいそれは、髪の流れや服のしわまでもが一つ一つリアルに作りこまれていた。
「確かに上手いな。無駄にカッコいいぜ。
俺のはないのか?俺も欲しくなってきたぜ」
「なんじゃ、お主も欲しかったのか。なら今度頼んでみるか」
「オウ、感謝するぜ」
紙型の中でぺこりと頭を下げた後、鳴狼は辺りを見回した。
「それでノームの事だけどよ、シルフの言ってた森ってのは、やっぱりこの森の事じゃねーのか?」
つられて中角も周りを見渡す。
「ふむ、お嬢ちゃんの情報通りじゃな。確か森の近くに丸太小屋があるとか……」
「おいあれ見ろよ、なんか建物らしきものがあるぜ?」
近づいてみたところ、果たして森の入り口付近に丸太小屋があった。
丸太小屋の前には、圧倒的な巨躯の男がいて、斧で木を割っている。
「何じゃ、あの筋肉モリモリマッ……」
そう言いかけた中角を鳴狼が止める。
「待て、その表現はまずい気がする」
「気ーがーすーるー、と言わんか!」
「何だよその変なこだわりは……」
「まあ良い、では言い直すとするか、
何じゃあの『筋骨隆々、益荒男の狂人』は!?
あれが『のーむ』とやらかのう」
「……どう見てもあいつだろ。つか狂人とかいうんじゃない!」
「いや、単にでかいだけの人間かも知れんじゃろ」
「それはそれで問題だぜ……。どちらにせよ、気を付けて……って、おい!!」
鳴狼の注意にも構わず、中角はいつもの調子で気さくに声をかけようと、男の場所へ歩き出していた。
慌てて中角の行き先を追うように視線を向けた鳴狼だが、次の瞬間言葉を失った。
さっきまでそこにいたはずの男の姿が、煙のように消え失せていたのだ。
「えっ……!?あいつはどうした!?」
「おかしいのう、今の今までそこにいたはずなんじゃが……」
中角は辺りをキョロキョロと見まわしている。
その時、背後から低い声がかかった。
「何だお前らは。俺様に何か用か?」
中角は慌てて振り返る。
いつの間にか先程の大男が斧を持ってそこに立っていた。
(うおっ、全く気付かなかったぜ!やっぱりただもんじゃねーぜこいつ)
(わしもじゃ。静かに素早く移動してきたようじゃな)
中角は改めて男を観察すると、注意深く口を開いた。
「いきなり押しかけて申し訳ない。
ワシは役中角という召喚士(陰陽師を名乗るのは話がややこしくなるので止めた)じゃが、お主に一つお尋ねしたい、お主が『のうむ』か?」
男は意外と気さくな感じで答えた。
「オウ、確かに俺様はノームだが、えーと、役中角だったか?
お前ら、もしかして『魔王』の手下じゃないだろうな?」
中角と(紙型の中の)鳴狼は顔を見合わせた。
「魔王じゃと?」
「なんだそりゃ?」
だが、男にとっては容易ならざる事態のようだった。
「返答次第では……」
そう言いながら、ノームは手にしている斧を握りしめる。
ギリギリという音が響いてきそうなほどの、恐るべきパワーが込められているのが見て取れる。
使い込まれた刃が鈍く光った。
「待て待て、俺たちは怪しいもんじゃねーぜ!
……いや、あんたから見たら怪しいかもだけどよ」
危険を察した鳴狼が中角の懐から慌てて弁解する。
声だけなら精霊同士の領域侵犯には当たらないのだ。
「その通り、わしは旅の召喚士じゃ。魔王とやらとは全く関係ないぞ。
うんでぃーねたちからお主の事を聞いてやってきたんじゃ」
ウンディーネの名が出たことで、男の雰囲気がふっと緩んだ。
「なるほど、あいつらの紹介ってわけか。
どうやら本当にただの人間のようだな。疑ってすまん。
俺様はてっきり、魔王の奴が手下になれと言って使いをよこしてきたのだと思っちまったぜ」
そういうと、ノームは豪快に笑った。
「まあ魔王とやらの手下ではないが、わしらもお主の力を借りたいという意味では、似たようなものかも知れんがな」
誤解が解け、ほっと胸を撫で下ろした中角だが、その鼓動は別の期待感で高鳴り始めた。
「なんだ、結局そう言う事か。
俺様の力を借りたいなら、どうすればいいか分かるよな?
他の精霊の事を知ってるんだから、既にご存知なんだろう?」
ノームが不敵な笑みを浮かべ、斧を持つ手に再び力がこもり始める。
予想通りの展開に、中角も声を上げて笑った。
「ワハハハハ、話が早くて助かるわい。ついでに紹介しておこう。
こいつは鳴狼、わしの精霊じゃ!」
そう言いながら中角は素早く印を切り、鳴狼を顕現させる。
一目で分かるほどめんどくさそうな顔の鳴狼が現れた。
「げぇーー、結局この流れかよ……。
ノーム、頼むからおとなしくやられてくれ」
「そいつは……、お前ら次第だな!!」
どことなく嬉しそうな声色でそう言うと、ノームは斧を振り上げ、戦闘態勢に入った。




