第6話 森林1
前回の激闘を抜けた一行は、サラマンダーから聞いた情報を頼りに、風の精霊「シルフ」がいるとされる深い森へとたどり着いた。
他の領域で勝手に精霊を召喚すると余計なトラブルを招くため、雲泥濘も沙羅曼蛇も今は召喚されていない。
鳴狼も紙型の姿で、中角の懐に大人しく収まっている。
森に近づくと、入り口付近に何やら人影が見える。
目を凝らしてみると、古びた切り株に腰掛け、小さな声で歌を口ずさんでいる一人の女の子の姿があった。
「おい中角、こんな深い森の奥に子供が一人でいるなんて、どう考えても怪しすぎるだろ。何か罠かもしれねえぞ」
懐の鳴狼がひそひそ声で鋭く警戒する。
だが、中角はまったく気にする様子もなく、のんびりと近づいていった。
「なに、困っていそうなら声をかけるのが人の道じゃよ」
「この野郎……、だったら困っている俺も助けてくれ……」
ひょいと中角は女の子の前に歩み出ると、優しく声をかけた。
「おや、こんなところで一人とは珍しいのう。迷子かの?」
「……ブンブン……」
少女は無言で首を横に振る。
「そうか、何か困っていることは無いんじゃな?」
「……コクコク……」
今度は少女は首を縦に振った。
「そうか、なら良い。じゃあすまんが、一つお尋ねしたいことがあるんじゃ。実はわしらは『しるふ』という者を探しとるんじゃが、どこにいるか知らんかね?」
女の子はきょとんとした顔で中角を見上げ、それから小さく首を傾げた。
「……シルフの住処に行きたいの?……いいよ……案内してあげる……」
「おっ、優しい子じゃな。助かるぞ」
「おいおい、そんな簡単に信用して大丈夫なのかよ……!」
鳴狼の不安をよそに、女の子はトコトコと歩き出し、一行を先導し始めた。
歩きながら、中角と鳴狼は小声で話し合う。
「おい中角、サラマンダーの時みたいに、うっかり精霊を召喚して戦闘になるのはもう懲り懲りだぜ。
今回は絶対に、不用意に召喚するなよ?俺もここで見てるだけで、顕現しないからな!お前ひとりでやれよ?」
「うむ、わかっておるわい。
戦いを避けたいのはワシも同感じゃ。
火>風の相性があるとはいえ、風の領域に入ったら何が起こるか分からん。
今回は慎重にいこうぞ」
「おう、マジで頼むぞ……」
二人は固くそう誓い合い、警戒を強めた。
しばらく鬱蒼とした木々の間を抜けると、ふっと視界が開け、小さな広場のような場所に出た。
「あそこだよ……」
先導していた女の子が、その開けた中央に向かって駆け出そうとした瞬間――。
中角の背筋に、ピリリと冷たいものが走った。
「――っ! 待つんじゃ、そこは……!」
反射的に中角が制止しようと手を伸ばすが、時すでに遅い。
ガサガサッ!!
突如、静寂を切り裂いて地面から盛り上がったのは、無数の不気味な太い蔦だった。
「なっ……!?なんだこりゃあ、気を付けろ中角!」
「うわっ、こいつは初めて見るが、恐らく植物の化け物じゃな!」
蔦の魔物は恐ろしい勢いで暴れ回るが、中角は流れるような身のこなしでそれを躱していく。
しかし、そのうちの一本が、するすると不気味な軌道を描いて、少女めがけて一直線に伸びていった。
「むっ、いかん、あの子が!」
中角の叫びを尻目に、蔦は女の子の背後から猛然と踊り掛かった。




