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第5話 火山2

「ここで戦ってしまっては、作品が壊れてしまいます。表に出てください」


中角たちは、サラマンダーに促されるまま噴火口の外に向かって歩き始めた。


鳴狼が紙型の中から激しく詰め寄る。

「中角貴様わざとか!?」


中角はばつの悪そうな顔で頭を掻いた。

「いや本当の本当に忘れていたんじゃ。あまりに喉が渇いておったものでのう……。こういう乾燥した場所は老体には堪えるわい、ゴホゴホ……」

今度は咳までし始めた。


「さっきまで何ともなかっただろうが!それにまだそこまで高齢でもねーだろ……。つーか何やってんだよマジで……。結局戦う羽目になっちまったじゃねーか!」


鳴狼の憤慨はどこ吹く風とばかり、いつもの調子に戻ると中角は続けた。


「すまんすまん。まあなってしまったものは仕方があるまい。お主がパパっとやっつければいいだけじゃよ。」


「こいつ、他人ごとだと思って…」


「おや、自信が無いのかな?……あーあ、強い鳴狼様の活躍が見たかったのにのう、残念じゃー」


「馬鹿野郎、俺は無敵だわ!……いやそう言う事じゃなくてだな、さっきのあいつの恐ろしく収束された炎を見たろ?あれは普通にやべえぜ」


中角は急にまじめな顔に戻った。


「ふむ、確かに気を付けねばならんな。じゃが、今回はこちらに雲泥濘もおるから、楽勝じゃ!」


と思ったら相変わらずである。


「だといいけどよ……、どうもいやな予感がするんだよなァ」




やがて、火口の外に出た一人と一体は、一匹の精霊と向かい合って対峙した。

おもむろに中角は鳴狼と雲泥濘を召喚した。

霊気の霧の中から現れた二人は中角に並んで立つ。


その霊気の霧が晴れる間もなく、戦闘は静かに始まった。


ここは以前の森とは違い、周囲を遮るものが一切ない開けた場所だ。


サラマンダーは距離を詰めると、容赦なく高熱の炎の塊を次々と投げつけてきた。

鳴狼と雲泥濘が飛来刃とアクア・バレットを素早く撃ち返し、弾は空中で相殺される。


それを見たサラマンダーは口からすさまじい勢いの火炎を吐き出してくる。

とっさに身を翻してどうにか躱す中角と鳴狼。

雲泥濘は、意外というべきか予想通りというべきか、炎が当たってもダメージが無いようだ。


だが、鳴狼は霊体ゆえに多少の熱はやり過ごせるものの、生身の人間である中角は、直撃を免れても周囲を包む凄まじい放射熱だけで肌が焦げるようなダメージを受ける。


(くそっ、このままじゃまともに攻撃に集中できねえぜ!)


状況の不利を悟った鳴狼は、サラマンダーの猛烈な炎を防ぐため、雲泥濘を防御に回すことにした。


「頼むぜウンディーネ!」


「わかったわ!おじさまの体は私が抱きしめておいてあげるわ。

『アクア・アーマー!!』」


雲泥濘がそう叫ぶと、中角の体はみるみる雲泥濘本体の水に覆われていった。


「その表現は止せ!……まあ余裕があるのはいいけどよ、絶対あのバカ野郎を死なせないでくれよ?なんせ俺の命が掛かってるんだ」


そう言って鳴狼は飛び出そうとした。

その視界の隅に一瞬水の中で何やら大騒ぎしている中角が映る。


中角の方をちらっと確認した鳴狼は、信じられない光景を目にして、改めて二度見した。

「おい、あのバカ溺れてねーか!?」


「あら、そう言えばアクア・アーマーの中では呼吸が出来ないわね。

人間のオジサマは死んでしまうんじゃないの?」


他人事のように答える雲泥濘。


それを聞いた鳴狼は舌打ちをする。


そうだった、あの水で覆われる絶対防御は精霊のウンディーネだからこその技なのだ。


「おい、解除解除!!」

「はいはい、忙しいわね」


水の塊から、中角がプルンと飛び出た。

そのまま地面に膝をつき、全身びしょぬれになりながら激しく咳き込む中角。


「ゴホッ、ゴホゴホッ!ゴホホッ!……本気で死ぬところじゃったわい!

今度は演技じゃないぞ」


「てめぇ、やっぱりさっきのは演技だったのかよ!

つーか、そんなことに突っ込んでる暇はねえ!」


鳴狼たちが馬鹿なコントを繰り広げている間にも、サラマンダーからの攻撃は続いているのだ。


「しかたねえ、とりあえず遮蔽物(盾)になってあの炎を通さないでくれ」


「分かったわ。アクア・シールド!」


スライムが変形し、中角の前に盾となって立ちふさがった。

水の盾は炎の熱も一切通さない。

盾の内側は見通しも良く、周囲の乾いた熱い空気も冷やされ、結構快適な空間だった。


「後は俺が飛来刃で攻撃するぜ!」


鳴狼の叫びと共に、飛来刃の鋭い刃がサラマンダーに迫った。


だが、サラマンダーはそれを軽やかに見切り、反撃の火球を投げつけてくる。

お互いの遠距離攻撃をそれぞれ躱しながら、一進一退の攻防が続いた。


――やがて、業を煮やしたサラマンダーの目が鋭く光った。


「っ、来るぞ!」


先ほど隠れ家で見せたあの超高温のバーナー技術が、今度は戦闘用の殺傷兵器として牙を剥く。

工作の時と同じように、炎の幅が次第に狭くなり、速度と温度がどんどん上がっていく。


(やべぇ!1000度越えのあれだ!)


ついに炎の幅が極限まで絞られ、炎はもはやバーナーを通り過ぎて、眩しく輝く灼熱の光線へと変貌した。


アクア・シールドがすさまじい熱を受けて沸騰し、蒸発し始める。


「うおっ、何ちゅう炎だよ!?つーかこれ炎って言うのか!?」


「ちょっと、これ大変よ!

私はホットスパみたいで気持ちいいけど、このまま私が蒸発して消えちゃったら、あなたたち死んじゃうわよ!」


相変わらず他人事のような雲泥濘。


「(何だよホットスパって…、食いもんか?)」


一瞬別の疑問と突っ込みたい気持ちが鳴狼の頭をよぎったが、何とか意識を戦闘に集中させる。


「いや、それよりウンディーネ!これのどこが水>火なんだよ!

明らかにやべーじゃねーか!」


だがウンディーネは涼しげな顔のままだ。


「だってオジサマとワンコ君がいるじゃない。

あなた達あの攻撃が当たったらまずいんでしょう?

私一人だけだったら別になんてことないのよ?」


鳴狼は再び舌打ちした。

「くそっ、そう言う事かよ!とはいっても、他に遮蔽物もないし、何か手はないのかよ中角!?」


最早後がない一触即発の状況だというのに、中角は落ち着き払っている。

「なぁに、焦ることはない」


「馬鹿野郎、アクア・シールドがどんどん小さくなってるぞ!?

このままじゃ……!!」


焦る鳴狼を尻目に、中角は辺りを指さした。


「確かに雲泥濘の盾は蒸発して小さくなっておる。

じゃが水そのものが消えたわけではないぞ。

雲泥濘よ、お主の体は水蒸気となって、そこらに散っておるだけじゃ!?」


「あら、よく見ると確かにそうだわ。

言われないと、意外と気付かないものね」


「お前なあ……軽いんだよ!こんな命懸けの状況なのにおかしいだろ!?」


「だって私は別に危険じゃないもの。

それで、この水蒸気の体で次はどうするの?」


中角はニヤリと笑った。

「目に見えないのを活かして、奴の背後の空中で『水鏡』の形を採ってくれ。ワシの合図で奴の目の前に現れ、光線を反射するんじゃ」


「おい待てよ中角、あいつは火の精霊だぜ。

いくら奴の光線が高温とは言え、熱に耐性があるのに致命傷になるとは思えない」


中角はしたり顔で続ける。

「甘いのう鳴狼よ、雲泥濘も聞け、いいか、反射する先は『○○○○』じゃ!」


サラマンダーに聞かれぬよう、小声で伝えられた作戦を聞いた二人は合点がいった。

「……なるほど、そう言う作戦ね、つまり私が反射したところに……」

「俺が一撃を入れるってことか!……よし、やるぜお前ら!!」


随分と小さくなったアクア・シールドの影から中角がサラマンダーを煽った。水鏡を作る時間を稼ぐつもりなのだ。


「さぁさぁ、わしはここじゃぞ。

ほれ、もう一息で水の盾を貫通できるかもなあ」


サラマンダーの元々赤系の顔色がさらに赤くなる。

「おのれぇー、僕をバカにするなあーー!!」


サラマンダーの光線が一層強くなり、アクア・シールドがあっという間に小さくなる。

最早掌より小さくなったそれが全て消え去る直前に、中角は素早く懐から一枚の青い呪符を取り出し、空中に向かって放り投げた。


「――結界・極寒の型、『凝華水鏡(ぎょうかすいきょう)』ッ!」


結んだ印を一気に弾くと、投げられた呪符が青白い光を放って炸裂する。 瞬間、猛烈な熱気に包まれていた空間の温度が急激に低下した。


「今更温度を下げても僕には通じないよ!さあ、これで終わりだ!」


その時、サラマンダーの頭上から飛来刃が襲い掛かった。

とっさにサラマンダーは上空に光線を振り上げる。


「えっ!?」


サラマンダーの目の前にあったのは、巨大な鏡であった。

凝固された水によってできたその表面は、文字通り水面のように磨き上げられ、恐らく反射率は100%に近いものだと推測された。


「まさかさっきの冷却はこれを作るために……!?」


サラマンダーの光線が鏡で反射され、自らに襲い掛かる。


「……ふん、これ(反射)を狙っていたのかい?

少しは驚いたけど、でも僕が自分のビームでダメージを受けるわけないだろっ!」


サラマンダーの上空から自由落下しながら鳴狼が叫ぶ。

「確かにダメージは受けねーよなァ。だが、『目くらまし』にはなるぜ!

今だウンディーネっ!!」


水鏡の角度が変わり、反射された光線がまともにサラマンダーの目を直撃した。


「うっ!!」

自らの強力な光を目に受けたサラマンダーは一瞬何も見えなくなった。


だがその一瞬で十分だった。


狙いすました鳴狼の右腕が、サラマンダーに直撃した。




───戦闘後。


ウンディーネは元のスライムの体に戻るため、意識を集中させた。

しかし気体となって広がってしまった体はそのままだった。


先ほどの反射光の熱がまだ体にこもっているのか、全体に熱を帯びたまま一向に元のサイズに戻らない。


「ちょっとォ、私はいつまでこの姿なの?

軽くて面白いけど、風に流されて面倒なのよね」


「ふむ、元の姿で顕現させてやりたいが、あいにくワシの霊力も尽きてしもうての。先程の術はもう使えん。

この暑さで、思ったより体力の消耗が激しかったようじゃ」


すっかり地面にへたり込んだ中角が雲泥濘を見上げながらため息をついている。


雲泥濘は無理やり水蒸気の体を縮めようとしているようだが、やはりうまく行かないようだった。


それを見た中角は”あどばいす”をした。


「ううむ、やはり熱がこもっておるな。無理に急がず、ゆっくり元に戻すのがよかろう。何か冷たいものにその熱を移してみなさい」


「もー、しょうがないわねえ。それじゃあ、何か冷たいものを探してくるわ」


気体となったままのウンディーネの微かな気配は、熱を移せる対象を求めて、そのまま遠くへと移動していった。



やがて、鳴狼の一撃で霧散していたサラマンダーが、いつものトカゲの姿で地面に座り込んでいる中角たちのほうへと歩み寄ってきた。


恥ずかしそうに頭をポリポリと掻きながら感想を述べはじめる。


「いやはや、お見事でした……。それにしても、中角さんは本当にお強いですね」


「いやいや、お主のその見事な熱のコントロールに比べれば、わしなど足元にも及ばぬわい」


二人はお互いに健闘を称え合い、どこかの時代劇のワンシーンのように顔を見合わせてガハハと大笑いする。


(……悪代官と悪徳商人かよ)


呆れたようにその様子を眺めながら、鳴狼は心の中で盛大なため息をついた。


「いやあ、勉強になりました! それじゃあ僕の力をお貸しします。

ぜひ中角さんのお役に立ててください」


「おお、それはありがたいのう。それじゃあさっそく、顕現させてみるとするか」


「顕現とはなんですか? 」


「いわゆる、お主らの言うところの『召喚』というやつじゃ。

聞いた話によると、わしの『いめえじ』とやらが反映されるらしいぞ。

まあ期待しておれ。面白いことになりそうじゃ。

絶対お主も気に入るはずじゃぞ」


中角は普段よりもさらに大げさなポーズをとり、芝居のかかった口調で、仰々しく詠唱を開始した。


その様子を見た鳴狼は妙に嫌な予感がした。

(あいつ!!……いや、まさかな……)


「邪悪なる蛇の化身よ、その地獄の業火で全てを焼き尽くせ。

穢れた大地を浄化するため、闇より出し呪われた姿で、憐れな民草を救うのだ!!

……神仏照覧……!今こそ……顕現せよ……!


……『沙羅曼蛇』!!!」


ドォン!


霊気の煙から現れたその姿を見て、鳴狼は白目をむくしかなかった。


「……やっぱりやりやがった!!

いや、やると思ってたよ。妙に高揚してたし、口上に地獄やら神やら仏やら入ってたし……。全く関係ない上に、意味不明だけどな。

実際俺も一番にあれが思い浮かんだよ。そりゃあやるだろうぜ、正直カッコいいもんな。浪漫あるよ。お前ら好きだもんな浪漫……」


「でもな……、これはもうただの蛇なんよ!!」


そこにいたのは『4本の角が生え、全身が緑の鱗に覆わている巨大なコブラの姿』になったサラマンダーであった。


サラマンダーは自身の余りの変わりようを見て、両腕で自分を抱きしめながら(実際に両腕はないが、そんな気持ちで)ぶるぶると震えている。


鳴狼は再び嫌な予感がした。


「こ、これが僕の姿……!?な、何てこと………」


「……何て……、何て……、カッコいいんだァーーー!!」


予想通り過ぎる結末に、鳴狼はどこか清々しくなってきた。


「……ま、こうなるわな。多分こいつら似た者同士だと思ってたんだよ。

最初見た時から、何となく雰囲気が似てたからなァ。

そりゃあ蛇の字があれば引っ張られるとは思ってたけどよ…、あまりにもそのまま過ぎるだろっ……!!」


誰に聞かせるわけでもなく、鳴狼の突込みは冴え渡る。


ため息をすべて吐き出そうとしたその時、スライム状態になったウンディーネが戻ってきた。


直ぐに巨大緑コブラ状態のサラマンダーに気付く。


再び鳴狼の直感が反応した。

はたして───


「ええーー、何それ、いいじゃなーい!すっごいクールよ!!」


(ウンディーネ……、お前もか……)


鳴狼の突っ込みはいつまでも終わらなかった。



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