第13話 魔王城3
「ほう……これが、うぬの使役する精霊か。中々によい面構えではないか」
精霊たちや鳴狼と並び立つ中角を前に、信長はそう呟いた。
直後、圧倒的な覇気が玉座の間を支配する。
「佐吉、藤吉郎、竹千代よ、退がっておれ。
ここは我が相手をする。久々に楽しめそうだ」
そう言うと信長は一歩進み出て、腰の業物を抜き放った。
あれが世に聞く「へし切り長谷部」だろうか?
「あいつ、マジかよ、式神を下げやがった。自分で戦うってのか!?」
「どうやら信長自身も恐るべき使い手のようじゃな。
気を引き締めていくぞ、皆、準備は良いかの!?」
中角の言葉に精霊たちは頷く。
遂に、魔王信長との決戦の火ぶたが切って落とされた。
*
戦闘が始まると、信長の強さは文字通り「桁違い」だった。
長年、無数の世界を渡り歩いてきた百戦錬磨の剣技の前に、中角たちの攻撃は全く通用せず、精霊たちも瞬く間に追い詰められていく。
雲泥濘のアクア・ジェットは一刀両断され、沙羅曼蛇の炎はかき消され、死流婦の包丁は軽く流され、農務の怪力すら信長の鋭い気合と共に繰り出される体術の前に封じられてしまった。
鳴狼の飛来刃は片手で、中角の投げナイフなど、指一本で弾かれてしまった。
まさに絶望的な実力差。
すべての精霊と鳴狼、そして中角が地面に膝をついたその時、信長はフッと余裕の笑みを浮かべて言った。
「見事だが、そこまでだ。
……どうだ、うぬたち。
我が軍門に下り、共に無数の世界を渡り歩く気はないか?
優れた者には、相応の居場所を与えよう」
その言葉に、信長の足元にひれ伏していた精霊たちが、ピクリと反応した。
魔王であり、自分たち上位精霊をも圧倒する強烈なカリスマ。
それでも、普通ならここは誘いをはねのけるものだ。
だが――精霊たちの答えは斜め上を行っていた。
「あらあ、よく見るとイケメンオジサマじゃない。中角オジサマとはまた別のカッコよさがあるわ」
「あなたの式神の造形に惚れました。とてもカッコいい鎧ですね。近くで見せてもらってもいいですか?」
「……狸、モフモフ……」
「そのガタイで、俺様より力が強えとは恐れ入ったぜ。何かコツみたいなものがありそうだな。興味あるぜそう言うの!」
余りの出来事に、鳴狼の口から思わず情けない言葉が漏れる。
「お、おい、お前ら……マジかよ!?」
あっけにとられた鳴狼を尻目に4体の精霊は信長の側に回ってしまった。
「さあ、オジサマとワンコ君も、早くこちらにいらっしゃいな」
「そうですよ、無益な戦いをする必要はありません」
「……猿は、ちょっと苦手……」
「単なる力じゃなさそうだな。筋肉というより、全身の連動が重要なのか」
その様子を見ながら、鳴狼は歯噛みをした。
「あいつら……。今までの恩を忘れやがって……」
「いや、あいつらにそんなに恩は無かったはずじゃぞ」
「うるせぇ!こういう時はこのセリフなんだ!!
一度言ってみたかっただけだぜ!」
「お主、意外と余裕があるようじゃな……」
「ケッ、お前からそんな台詞が出るとはな。いつもの調子はどうした!?」
「あいにく、あの4体に同時に寝返られるとさすがにのう……」
その様子を見ていた信長は不敵に笑うと手を掲げ、命じる。
「新たなる僕、『 ウンディーネ』よ、その力できゃつらを始末せよ!」
すわ、絶体絶命か!?────
しかし、命令された雲泥濘( ウンディーネ)は、ぴくりとも動かない。
それどころか、冷ややかな目を信長に向けた。
「……お断りするわ。やっぱり、オジサマの『雲泥濘』じゃないと、全然やる気が出ないわね! なんというか、名前の泥臭さがないのよね!」
「僕も同感です!」
すかさず沙羅曼蛇が手、の代わりにしっぽを挙げた。
「僕だって、この角が生えた蛇の姿と、何よりあの『沙羅曼蛇』っていうカッコいい響きが気に入ってますからね!
それに、中角さんとまた人形会談がしたいですし!」
「……やっぱり、背が高い方がカッコいいから……」
死流婦も、貞子風の不気味な長身を揺らしながら淡々と同意する。
「俺様もだ!」
農務がサングラスを押し上げながら胸を張った。
「このアメリカンファームみたいなぶっ飛んだ格好が、すっかり気に入っちまったぜ!」
「……お前ら……!!」
鳴狼が絶叫した。
「つーか、アメリカンファームって言葉を出すな!!
俺は一応濁してただろ!!」
ここへきて信長は初めて面食らった。
「なんだと……? 我の誘いを、そんな理由で……?」
「あなたにとってはそんな理由でもね、結構大事なのよイメージって」
「僕たちは召喚されるときのイメージに引っ張られますからね」
「……イケメン君は、ちょっと好き……」
「いろいろ勉強になったぜ!ありがとよ!!」
「「「「と、いうことで、ばいばーい!!」」」」
精霊たちは一斉に立ち上がると、信長と式神たちに向けて渾身の力を込めた。「「「「くらえ、合体奥義・精霊砲ーーッ!!」」」」
ドガァァァァン!!
最強の魔王・信長に向かって、水、炎、風、土の魔力が混ざり合った強力な光の奔流が容赦なく直撃した。
「ぐっ……!? おのれ、小賢しい真似を……!」
「うおっ!やったぜ!いけっ、そのまま消滅しちまえ!!」
鳴狼がやたらと騒いでいる。
巨大なエネルギーの奔流の中、光に飲み込まれかけた信長は、しかし驚くことに不敵な笑みを崩さなかった。
むしろ、腹の底から楽しそうに高笑いを響かせる。
「まさかこのような展開になるとはな……。久々に楽しめた。
……だが最後に、我が刃、見事防いでみせよ!!」
そう言うと信長は手にしていた長刀を、中角に向かって投げつけた。
「しまっ……!!」
すっかり勝利を確信して気が抜けていた鳴狼の傍をかすめ、刀は中角に向かう。
もはや間に合わない……!!
その時中角と一瞬目が合った鳴狼は全てを察した。
タイミングを見計うために集中する。
次の瞬間───
「戻れ鳴狼!!」
式神を一気に紙型に戻すあの術だ。
鳴狼は中角の手に握られた紙型に、ものすごい勢いで引き寄せられながら、その途中で追い抜きざまに刀を弾き飛ばした。
信長の放った刃と鳴狼と中角がほぼ一直線上に並んでいたからこその奇跡、いや機転であった。
精霊砲に全身の大半をかき消されながら、その光景を目にした信長は、再び大きく笑う。
「ウワハハハハ!! 面白いぞ! 見事、実に見事だ!!
今宵は楽しかったぞ!!……役中角、それに鳴狼とやら!!」
猿の式神が、いつの間にか弾き飛ばされた刀を抱えていた。
それを見た信長は素早く印を結ぶ。
信長の式神たちが一瞬で消えた。
そしてその体から、精霊砲にも負けないほどの凄まじい光が溢れ出した。
「だが、今日のところはここまでだ!また会おうぞ、我が朋友よ――!」
「なにっ……!?いかん、鳴狼、奴を止めろっ!!」
「ちょっ!!俺は今紙型の中……!!」
「――『鳴狼転生』!!」
瞬間、世界が眩い光の奔流に飲み込まれ、視界のすべてが真っ白に染まった―――




