03 救出〜行先不明〜
「……!!」
聞きなれた言葉。直接頭を揺らされたわけじゃない。確かに今、耳を通った。深く、分厚い声。
今持っている情報を合わせると、だいたい彼は三十そこらだと推測できる。そして、とにかくこの男はガラが悪い。地球であればそそくさ距離をとっていたと思う人間だが、今はこの男に縋るほかない。
「何ぼさっとしとんのや、はよぉ来んかい。」
「あ、すいません...」
いつの間にか男は、黒い車に乗っていた。艶の良いその色は、高級感を漂わせるにはぴったりだ。僕は、緊張を抑え、すぐに車内に移動することにする。
「失礼します。」
エンジンが、ブロロロ、と音を立てて、動き出す。
「…………」
「………………」
「どうや、チョーシは。」
「大丈夫です。」
「...そうか、なら良かったわ。」
「ありがとうございます。」
「ええわ。」
「......................」
「あ、あの、なんであなたは、その、日本語が話せるんですか?」
僕が一番知りたいこと。もしかしたら、僕と同じところから来た同胞なのかもしれない。
「………………」
男は少しの沈黙の後、ゆっくり口を開いた。
「俺のことは天城って呼べ。」
「え…?あっ、僕は深山憂っていいます。憂鬱の憂です。深山は深層の深に山田の山です。」
「ああ、丁寧にどうも。そんで続き話すけどな、あんたらみたいなんは、漂着刻印者っちゅー呼ばれ方しとる。頻度は不定期やが、だいたい1,2年にいっぺんは流れ着く。俺達は、たまたまそいつらの共通言語をしっちょった。それだけや。」
口ぶりからして、やはり天城という男は組に所属している。そして僕の様な転生者は、一人じゃないようだ。
「僕を助けて、どうするつもりですか?」
「まだ、あんたは漂着したばかりや。知りたい事も山程あるやろ。ただ、それを教えれるかっちゅーのは、ウチの首が決める事じゃ。それもあんた次第やがな。」
「………………」
たぶん、天城さんは悪い人ではないことはわかる。事情があることも分かる。今は連いていくしかないということも、分かる。ただどうしても怖い。不安だ。僕の重たい気持ちを乗せて尚、黒い塊は、速度を変えずに走り続ける。
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「着いた、降りろ。」
「は、はい。」
先程より天城さんは、随分と顔が険しくなっていた。車を降りると、真っ先に目に入るのは、社用車と同じく、黒塗りのビルだった。50階はあるのだろうか、思い切り首を使わねば、ビルの半分すら見えない。
「ここは…」
その大きさと威圧感に圧倒されながら、ビルの中に震える足を押し込んでいく。
「うちの事務所や。全員日本語は使えるけー安心せぇ。」
後ろから、軽い足取りで僕を追い抜かした天城さんの表情にも、緊張が見える。
「憂、くれぐれも無礼働かんよぉに。死ぬで。もう3人はあんたの同胞が殺されとるわ。」
殺される。2回も臨死体験をした僕から言わせてもらうと、ただ、恐ろしい。
「何をすればいいんですか?」
唾をのむ。
「ただ、うちのボスと話すだけや。仁義や、仁義忘れんな。」
「仁義なんて、僕が知ってる訳ないじゃないですか!」
「ははっ」
天城さんは微笑みながら、40階のボタンを深く押し込んだ。
「………………」
無言の時間が続く。ぼくはただ、小さくなって行く地面を、じっと眺めていた。
チーン、と音を立ててエレベーターの扉が開いた。扉の先には、3m程の細い廊下と、重厚な扉がある。鮮やかに彩られたこの板は、扉というより、門と言った方が相応しいだろう。
廊下の両脇は、龍やら壺やら、とにかく高そうな物に装飾されている。湯田矢が窓ガラスを割ったとき、何故か一緒に校長室に謝りに行ったときの、あの気持ちに今はそっくりだ。仄かな高揚感に取り繕われた心音は、今にも溢れてしまいそうだ。
そんなことを思っていると、天城さんは、扉越しに誰かと話していた。あちら側の言語で、聞き取ることは叶わなかった。
「こい。」
「はい。」
扉の目の前に立つ。
「開けるぞ。」
「...........はい。」
ギギィィイ
扉の軋む音が、僕の視界を切り開く。そして目に入るより先に、声が聞こえた。
「お前が新人。あるいは、死人か....」




